ID:17BEUwA0氏:命の輪、満ち足りて

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「遅い」  腕を組んだかがみが、イラついたようにそう言った。 「なにやってんのよ、こなたは…式に間に合わないじゃない」 「あはは…こんな時まで、こなちゃんらしいね…あ、あれじゃないかな」  つかさが指差したほうを見ると、道の向こうから蒼い軽自動車がこちらに向かってきていた。そして、二人の前で停車し、その助手席からこなたが顔を出した。 「ごーめん、ちょっと遅れちゃった…さ、乗ってよ」  こなたに促されて、二人は後部座席に乗り込んだ。 「まったく、こんな時まで遅刻してるんじゃないわよ」 「いや、だからごめんってば…」 「あんた、普通に就職してたらとっくに首に…って、こなたが運転じゃないんだ?」  かがみは首を伸ばして、自分の前の運転席を覗き込んだ。 「やあ、おはよう」  一人の男性が軽く手を上げて、かがみに挨拶をする。 「…平日になにやってんのよ」 「車の運転はダーリンの方が上手だからねえ」 「いや、そうじゃなくて…」 「ま、とりあえず時間無いし、出発するよ」  運転席の男性…こなたの旦那はそう言ってアクセルを踏み込んだ。 - 命の輪、満ち足りて - 「かがみ、忙しいって言ってたのに、よく来れたね」  こなたが後部座席を覗き込みながら、かがみにそう言った。 「んー…実はちょっと無理言ったのよね…しばらくは小言が続きそうよ」 「かがみの旦那さん、真面目だからねえ」 「たまに自由業のあんたや、主婦のつかさが羨ましくなるわ…」 「でも、こなちゃんの旦那さんもお仕事じゃないの?」  それまで黙っていたつかさが、不意にそう聞いた。 「俺はちゃんと休み取ったよ。嫁の具合が悪いから、一日看病しとくって今朝会社に連絡を入れといた」 「…は?」  かがみが思わず間の抜けた声を出す。 「出産の時にあんなだったからな、割とすんなり信用してくれたよ」 「い、いいのかなそれ…」 「学生のズル休みかよ…」 「嫁の友達の結婚式に行くって理由じゃ、休み取れそうに無かったからなあ」  そう言って笑う旦那を見ながら、かがみは大きくため息をついた。 「でも、どうしてそうまでしてゆきちゃんの結婚式に行きたかったの?」 「あ、それわたしも聞きたかったよ」  つかさの質問にこなたが同意する。旦那はしばらく間を置いて、真剣な表情をして言い放った。 「みゆきさんのウエディングドレス姿が見たかった。以上」  窓を閉め切っているのにも関わらず、車内に風が吹きぬけたような気がした。 「こなた、こいつ殴っていいか?」 「運転中は危ないから、信号待ちのときにしてね」 「まさか、ホントに殴るとは…しかも三発も」  片手でハンドルを握り、空いた手で旦那は頭を擦っていた。 「こなたとつかさの分も追加しといたのよ」 「うん、ありがとうかがみ」 「わ、わたしの分は別にいいのに…」 「それにしても、みゆきはやっとって感じよね…」  殴った拳を擦りながら、かがみは感慨深げにそう呟いた。その言葉に、こなたが頷く。 「そうだね。付き合い始めたのはわたしの次ぐらいだったのに、結婚は一番遅かったねえ」 「ゆきちゃんち、お金持ちだから色々難しいことがあったんじゃないかなあ」 「副委員長、頑張ったってところだね」 「なんだ、副委員長って?」  こなたの言葉に、旦那がそう質問した。 「あ、みゆきさんのお相手のこと。高校三年の時のクラスの副委員長してた人なんだよ。ちなみみゆきさんが委員長」 「ふーん。それはまたロマンチックな」 「高校の時は、そんな素振り全然なかったのにね…やっぱり密かにゆきちゃんのこと想ってたのかな」 「単に意気地がなくて、言い出せなかっただけでしょ」 「かがみん、ひどいなー…って、ダーリンどうしたの?」  こなたは旦那が少し寂しげな表情をしてるのに気がついた。 「ん、いや…高校の時の話をしてるこなたって、ホントに楽しそうだなって思ってね」 「…うん、それで?」 「そこに俺が居れなかったのが、ちょっと寂しいなって、ね」  自分の言葉が恥ずかしかったのか、旦那は照れくさそうに鼻の頭をかいた。 「俺は高校の時はホントにつまらなかったからな…男子校だったし」  車内に少しだけ、しんみりした空気が流れた。 「…そ、そういや、こなた達は結局式挙げなかったわね」  その空気を変えようと、かがみは別の話題を持ち出した。 「うん。そういうのガラじゃないしね。ドレスも特に着たいと思ってなかったし」 「旦那さんはそれでよかったの?」  つかさはこなたの一存で決まったことだと思い、旦那にそう聞いた。 「俺は、こなたがそうしたいって思ったのなら、それでよかったと思ってるよ」 「そうなんだ…でも、おじさんは残念がったんじゃないかな」 「あー、確かにあの人はこなたのドレス姿見たかったでしょうね」  つかさの言葉に、かがみが頷く。 「お父さんの事なら大丈夫。貸衣装屋で、写真だけは撮らせてあげたから」 「…抜かりない…って言っていいのかな、それは」 「新婚旅行は行ったんだっけ?」 「…一応」  旦那の方が、何故か眉間に皴を寄せて答えた。 「へー、何処に?」 「有明」  何故か、横からこなたが割り込んでそう答えた。 「有明って…おい、まさかコミケとか言わないだろうな」  そのこなたに、かがみがジト目でそう聞いた。 「…かがみちゃん」 「な、なに?」  今度はこなたでなく、旦那がかがみに向かって答えた。 「恒例行事になってるイベントに、珍しく泊りがけで出かけて、無事全日程を終えてフラフラなところに笑顔で、『あ、これ新婚旅行だから』って言われたときの衝撃が君には分かるだろうか?」 「いや、わかんないし、分かりたくも無いわ…ってか、流石のあんたもショックだったんだ…」 「いやーあの時はめっちゃ怒られたよー…三日間口聞いてくれなかった…」 「めっちゃ怒られてそれだけか」 「えー、わたしにとっては拷問だったよー」  そんな会話をしている三人を見ていたつかさは、ふと気になることがあってポケットに入れていた携帯を取り出し、時間を確かめた。 「ね、ねえ…時間やばくないかな…」  そのつかさの言葉を受けて、旦那が車内に取り付けられている時計を見た。 「…こりゃやばいな」 「ど、どうするの?」 「しょうがないなあ」  こなたはポリポリと頭をかくと、かがみ達の方を向いた。 「二人とも、ちょーっと我慢しててね。すぐ済むから」 「は?」 「え?」 「ダーリン!V-MAX発動!」 「レディ」  車がとてつもない急加速をし、かがみとつかさは背もたれに叩きつけられた。 「ちょ、ちょっと!危ないじゃないの!…ってーかこなた!コレやりたくて蒼い車買ったんじゃないだろうな!?」 「お、かがみ知ってるんだ」 「ま、前、旦那さん!前の信号赤だよ!?」 「蹴散らす!」 「蹴散らすなぁ!」 「そ~ら~に~♪あおいりゅう~せ~い~♪」 「こなた!のんきに歌うなー!!」 「間に合ったどころか、時間に余裕が出来たねー」 「ああ、自分でも少し驚いてるよ」  のんきに話をしながら、会場を歩くこなたと旦那。その後ろを、かがみとつかさがヨロヨロと付いてきていた。 「…つかさ…帰りは電車にしましょう…」 「…うん…それがいいと思うよ…」 「お、ゆーちゃーん!みなみちゃーん!」  前を歩いていたこなたが知り合いを見つけ、手を振りながらそちらに向かっていった。 「あ、こなたお姉ちゃん。それに皆さんも。おはようございます」 「…おはようございます」  ゆたかとみなみが、同時にお辞儀をする。 「ゆーちゃんも来てたんだ」 「うん、みなみちゃんの付き添いで…あ、そうだ。お姉ちゃん知ってた?今日の式のBGM、全部みなみちゃんがピアノで生演奏するんだよ」  全員の注目が、一斉にみなみに集まる。 「…マジで?」 「は、はい…」  急に自分に注目が集まり、みなみは体を小さくした。 「…み、みゆきさんには、色々お世話になってきましたから…何かしようと思って…そ、それくらいしか思いつかなくて…」  しどろもどろに話すみなみに、こなたの旦那がゆっくりと近づき、その手を取った。 「え?…あの…」 「そのピアノ…次は俺のために弾いてくれないか?」 「…は?…えっと…」  みなみが何か答えるより早く、こなたのムチのようにしなるローキックが、旦那の太腿の裏に炸裂していた。  四人が新婦の控え室に入ると、中ではみゆきが一人目を瞑って椅子に座っていた。 「…うわー…ゆきちゃん綺麗…」  ウェディングドレス姿のみゆきに、思わずつかさが感嘆の声を上げる。 「こなた…なんなのかしらね。この敗北感は」 「なんというか…神々しさすら感じるね」  みゆきが四人に気がつき、目を開けて椅子から立ち上がった。 「皆さん、来ていただけたんですね…ありがとうございます…えっと…大丈夫ですか?」  みゆきは、こなた達の後ろの方で足を引き摺っている旦那を見て、心配そうに声をかけた。 「ああ、それは自業自得だからほっといて」 「そ、そうですか…」 「みゆき、ちょっと緊張してる?」  みゆきの手が少し震えているのを見て、かがみがそう言った。 「はい…でも、嫌な感じではないんです…変かもしれませんが、心地よさすら感じるんです」  震える手を、みゆきは胸元に抱え込んだ。 「かがみさん達も、こんな気持ちだったのでしょうか?」 「え、いや…どうだったかしら…」 「お姉ちゃんは結構ふつうにしてたよね…わたしはガチガチだったけど…」 「つかさの緊張っぷりは凄かったからねー」  こなたがつかさの顔を見ながらニヤニヤと笑う。 「入場の時の新郎巻き込んで転んだ写真、まだ残ってるよ」 「こなちゃーん!それ消してって言ったじゃない!ってかもう忘れてよー!」 「はっはっは。あんな愉快なの忘れるわけ無いじゃない」  二人のやり取りを見ていたみゆきがクスリと笑った。 「本当に…皆さんと会えて、良かったと思っています」  そう言い出したみゆきに、四人の注目が集まる。 「あの時に皆さんと出会い、今まで繋がり続けてきたことが、この幸せに繋がっているのだと…」  みゆきは目を瞑り、こなた達に深々と頭を下げた。 「今まで、ありがとうございました」  そして顔を上げ、今度はニコリと笑った。 「そして、これからもよろしくお願いしますね」  そのみゆきに、こなた達三人はだまって頷いた。そして、その様子を少し後ろの方で見ていたこなたの旦那が、みゆきに近づいて、その手を取った。 「みゆきさん」 「は、はい?」 「今から、俺と一緒に逃げませんか?」  旦那が言い終わると同時に、こなたの雷のように鋭い裡門頂肘が、旦那の腰の辺りに炸裂していた。 「…軽いジョークのつもりだったんだけど…」  四人にあてがわれた、式場のテーブル。その上に旦那が腰を押さえて突っ伏していた。 「いや…流石にあの場面でアレは無いわ」  その旦那を、かがみがジト目で眺めていた。隣ではこなたが、腕を組んで頬を膨らませている。 「なにおっぱいに目が眩んでるんだよ。わたしのおっぱいじゃそんなに不満なの?まったく、嫁としてプンプンですよ」 「怒ってるのはわかるから、おっぱい連呼すな…」  そんな三人の様子を見て、つかさがクスクスと笑っている。それを見たこなたが不満げな顔をした。 「なんだよつかさー。何がおかしいんだよー」 「ご、ごめんこなちゃん。なんて言うか…変わってないなって」  つかさは少し俯き、もじもじと両手を合わせながら言葉を続けた。 「みんな全然違う道に行ってても、こうして会うとあの頃と変わってないなって…変わったところも、もちろんたくさんあるんだけど、大切なところは変わってないんだって…だから、わたし達の輪は繋がっていられるんだって…あ、そうだ」  急につかさが、旦那の方に顔を向けた。 「だから、旦那さんも居てるんだよ、わたし達のあの頃の中に」 「…え?」  旦那はつかさの言っていることがいまいち分からずに、首を傾げた。 「繋がり続けてたわたし達の輪に、旦那さんも繋がっているんだから、わたし達の大切なところはきっと旦那さんの中にも満ちてるよ」 「…でも、それで昔が変わるって訳じゃないよ」 「うん。昔は変えられないし、戻る事も出来ないよ…でも、引き摺る事はできるから」  つかさはニコリと旦那に向かって微笑んで見せた。 「今も引き摺ってる昔に、旦那さんもそのまま繋がっているんだよ、きっと」 「昔を引き摺るのを、そこまで誇らしげにしてる人をはじめて見たよ…」 「そ、そっかな…えへへ」  照れて頭をかくつかさを、旦那は優しげな微笑みで見つめた。 「なにいい雰囲気になってんだよーっ!!」  そして、叫びと共に放たれた、こなたの閃光のような右ストレートが旦那の横っ面に炸裂した。 「なんだよ、つかさ!狙ってるの!?ダーリン狙ってるの!?浮気!?不倫!?そっちの旦那が泣くよ!?」 「ええ!?そ、それは困るよ…って言うか、最初からそんな気なんかないよー」 「…今の…俺が殴られる要素が何処に…」  再びテーブルに突っ伏した旦那と、ギャアギャアと言い争っているこなたとつかさを呆れ顔で眺めながら、かがみはため息をついた。 「あんた達、いい加減にしないと…」 『あの、そろそろ式を始めてもよろしいでしょうか?』  司会者が困った顔で、マイクに向かいそう言っていた。 「ほら、言われた」  周りのテーブルから失笑が聞こえてくる。こなたとつかさは、真っ赤になって縮こまった。  みなみのピアノに迎えられ、みゆき達がゆっくりと歩いてくる。その姿に、会場の誰もが惜しみない祝福の拍手を送った。  新しく繋がるその輪が、幸せに満ち足りる事を願って。 - 終 -

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