ID:ZvTOLfs0氏:チョココロネは食べられない

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 ばれるわけが無い。そう自分に言い聞かせて、少女はそれに近づいた。  ばれてしまっても、ちょっとした悪戯で済むはずだ。そういった軽い気持ちで事を実行に移す。  それが、あの惨事への幕開けとも知らずに…。 - チョココロネは食べられない 出題編 - 「ふ~んふふ~ふふ~ふん♪」 「朝からえらくご機嫌ね」  ある日の登校時。かがみは先程から鼻歌を歌いながら歩くこなたにそう聞いた。 「そりゃあ、機嫌も最高潮になるよ…ほら、これ見てよ」  そう言ってこなたが鞄から取り出したのは、なにかの店の名前が書かれた紙袋だった。 「ベーカリーってことはパン?どこのお店の?」 「あ、こなちゃんそれって駅前のパン屋さんの!?買えたんだ、すっごーい」  それを見たつかさが歓声を上げた。 「ホントですか!?わたしもあのお店のパンは凄く好きなんですよ」  珍しいことにみゆきまでもが食いつく。 「えっ…二人とも知ってるんだ。どこのだろ…」 「おーっと。食いしん坊かがみんがこの情報を知らないなんて、槍が降るねこりゃ」 「うるさいなあ。わたしだって年がら年中食べ物のこと考えてるわけじゃないわよ…ってかそんなに食いしん坊って訳でもないわよ」  かがみが何時も通りこなたにからかわれようとしているのを察したつかさは、助け舟を出そうと二人の会話に口を挟んだ。 「ほら、お姉ちゃんアレ。この前まつりお姉ちゃんが買ってきたのだよ。お姉ちゃん、美味しいって五個くらい食べてたじゃない」  助けるどころか上から重しを落としていた。 「…五個て…」 「…あのパン屋さん、普通のところより全体的にパンが大きかったですよね…」  こなたどころか、みゆきまでもが一歩引いてかがみを見つめていた。 「…つかさ…後で覚えてなさいよ…」 「えーっと…あ、そうだこなちゃん!どんなパン買ったの!?見せてほしいな!」  見つめられている箇所がチリチリと熱いかがみの視線を受けたつかさは、冷や汗をたらしながら話題を変えようとした。 「つかさ、タゲ逸らし乙。ま、それはそれとして…聞いて驚け!なんと限定チョココロネをゲットできたんだよ!」  某ハイラルの勇者のごとく、高々と紙袋を掲げるこなた。それを見て、かがみが呆れた顔をした。 「チョココロネって、またあんたらしいな…ってかコロネ一つでそんな大層な…つかさ?」  かがみはつかさの様子がおかしいことに気がついた。魂が抜けたかのように、こなたの持つ紙袋を見つめている。 「つかさ?おーい、つかさー?」  かがみがつかさの顔の前でひらひらと手を振る。 「って、えええええええぇぇぇぇぇぇっ!?」 「うわあ!?びっくりした!」  それに反応したのか、つかさが突如大声を上げ、かがみは驚いて三歩ほど後ろに下がった。 「ど、どうしたのよ?急に…」 「だってチョココロネだよ!数量限定だよ!一番人気なんだよ!普通買えないよ!どうやって買ったのこなちゃん!?」  普段からは想像もつかないような勢いでまくしたてるつかさを、かがみは冷や汗をたらしながら見ていた。 「そ、そんなに凄いんだそのコロネ…みゆきは当然知ってるのよね?…って、みゆき?」  かがみが先程までいた場所からいなくなったみゆきを探すと、こなたが掲げる紙袋に今にも食いつかんとする位置にいた。 「ちょっとみゆき!なにやってんの!?」 「え?…って、うわあ!みゆきさん!?」  かがみの声でみゆきの接近に気がついたこなたが、慌てて紙袋を胸元に抱き込んだ。 「あっぶなー…かがみならともかく、みゆきさんは盲点だった…」 「どういう意味だ…ってか、ホントになにやってるのみゆき…」 「す、すいません…その紙袋を見てたら無意識に…」 「みゆきが理性を無くすほどなんだ…ねえ、こなた」 「一口もあげない」 「…まだ何も言ってないわよ…いや、当たってるんだけど…」  これ以上外に出しておくのは危険だと感じたこなたは、紙袋を鞄の中にしまい込んだ。 「今日はニ時間目の体育がマラソンだったから、かなーりブルーだったんだけどねー。これでばっちり乗り切れるよー」  これ以上はないくらい嬉しそうに鞄を抱きかかえて歩き出すこなた。 「こなちゃん、いいなー」 「はい。羨ましいです…」  そのこなたの後ろをつかさとみゆきがついていく。 「………ふーん」  その更に後ろを歩くかがみは、顎に手を当てて何かを考え込んでいた。  体育の時間。こなたは文字通り風となっていた。 「うりゃりゃりゃりゃー!!」 「…こ、こなちゃん…速すぎるよ…」 「…ぜ、全然追いつけませんね…」  つかさどころか、みゆきすらも周回遅れにしそうな勢いのこなたを、クラス全員が『こいつホントに人間かよ』みたいな目で見ていた。 「いやー、走った走った。これだけお腹空かせれば、お昼もより美味しくなるに違いないよ」 「…それで…あんなに、張り切ってらしたんですね…」  満足気に汗を拭くこなたの横で、みゆきが息も絶え絶えに座り込んでいた。 「ってかみゆきさん、わたしに合わせようとしなくても良かったのに」 「…周回遅れは…嫌でしたので…」 「うーん。みゆきさんは、変な所で負けず嫌いだなあ…タオル、濡らしてこようか?」 「…はい…お願いします…」  こなたはみゆきからタオルを受け取ると、水道の方へと駆け出した。 「…まだ…走れるんですね…」  呆れたようにこなたを見送ったみゆきは、自分と同じようにへたばっていたつかさが、立ち上がって校舎の方を見ているのに気がついた。つかさの目線を辿ってみると、どうやら自分達の教室の方を見ているようだった。 「…つかささん?どうかなさいましたか?」  みゆきがそう声をかけると、つかさはビクッと身体を震わせ慌てて視線を戻した。 「な、なんでもないよゆきちゃん…なんでもないから」 「…そうですか?」 「次乗り切れば、お昼だねー」  三時間目終了後の休み時間、こなたは嬉しそうにつぎの授業の準備をしていた。 「こなちゃんのコロネが気になってしょうがないよ…」 「そうですね…」  つかさとみゆきは授業の準備をしながらも、こなたの鞄を見つめていた。 「よし!準備完了!トイレでも行くか!」  そう高らかに宣言しながらこなたは席を立った。 「こ、こなちゃん…そんな事あんまり大きな声で………あ…こなちゃん、わたしもいくよ」  そう言いながら、こなたに続いてつかさも席を立つ。 「んじゃ、連れションといきますか!」 「こなちゃーん、やめてー」  教室にいる全員の視線を集めながら、二人は教室を出て行った。 「…つかささんも、大変ですね」  二人を見送ったみゆきは、次の授業の予習を始めようとした。しかし、ふと目に入ったこなたの鞄に視線が止まる。しばらく鞄を見つめていたみゆきは、何かを振り払うように首を振ると、自分の机に向かった。 「ただいまー」  しばらくして、こなたが一人で教室に入ってきた。 「お、おかえりなさい、泉さん…あ、あのつかささんは?」 「んー、それがね、わたしがトイレから出た時にはもういなかったんだよねー…どこ行ったのやら」 「そ、そうですか…」 「…みゆきさん?」 「は、はい?なんでしょう?」 「なんか顔色悪いよ?気分でも悪いの?」 「い、いえ!なんでもありません!何時も通りですよ、わたしは!」 「そう?…んー、まあいいけど」  二人が話していると、つかさが教室に入ってきた。 「あ、つかさー。どこ行ってたの?せっかく肩組んで帰ろうとでも思ってたのに」 「ごめんね、ちょっと喉が渇いたから自販機に行ってたの…っていうか、そんな恥ずかしいこと出来ないよ…こなちゃんと肩組むの大変そうだし」 「む、それは遠まわしにわたしの背の低さを非難しているのかね」 「そ、そうじゃないけど…って、あれ?ゆきちゃん?」 「…な、なんでしょう?」 「なんだか顔色悪いけど、大丈夫?」 「あ、つかさもやっぱそう思う?」 「うん…気分悪いんだったら、保健室行こうか?」 「い、いえ…ご心配には及びません、はい…」 「そう?だったらいいんだけど…」  こなたとつかさは、なんとなく腑に落ちない表情で、顔を見合わせた。  そして昼休み。 「うにょわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」  それは、こなたの奇妙な悲鳴で幕を上げた。 「ど、どうしたのこなちゃん!?…ていうか今のって悲鳴でいいの?」 「つかさ!つかさー!なんで…なんでこんなことにー!」  こなたは近寄ってきたつかさの両肩をがっしり掴むと、力任せに前後に揺さぶった。 「お、お、お、お、落ちつい、落ち着いて、こな、こな、こなちゃ」 「あ、あの泉さん…つかささんが大変なことになってますんで…」  みゆきがこなたを止めようと声をかけたが、今のこなたに声は届かないようだった。 「なーんーでーだーよー!」 「…こ、こな…おねが…まって…」  さらに激しくこなたがつかさをシェイクしていると、教室のドアが開いてかがみが入ってきた。 「ねえ、さっきの悲鳴?で、いいの?は、こなたっぽかったんだけど、何かあったの…って何をやってるんだお前は」  かがみはこなた達に近づくと、意識が朦朧としてるのか力なくカクカク揺れてるつかさを、こなたから引き剥がした。 「大丈夫ですか?つかささん…」 「…大丈夫…地球が震えてるから大丈夫…」 「かがみー!かがみー!これ見てよー!」  みゆきがつかさを介抱してる傍で、こなたはかがみにコロネの入った紙袋の中を見せた。 「…え…こ、これって…」  それを見たかがみは絶句した。  紙袋の中にあったのは、無残にも踏み潰されたチョココロネだった。袋の内側にチョコが飛び散り、靴の跡も痛々しく、もはや食せる物ではなかった。 「…なんで?…どうして、こんなことに?…」 「そんなのわたしが聞きたいよ!」  少し顔を青ざめさせながら聞くかがみに、こなたは噛み付きそうな勢いで答えた。そしてしばらく考え込むと、つかさを介抱しているみゆきに顔を向けた。 「みゆきさん!」 「は、はい!?」 「犯人見つけてよ!この前の資料室の時みたいにパパッとさ!」 「…え…あ、わたしが…ですか?」 「みゆきさんがこういうとき一番頼りになるんだから!」  期待に満ちた目で見つめるこなたからみゆきは目を背けると、俯いて考え込み始めた。 「…みゆきさん?」 「…いえ…そうですよね…分かりました、放課後までには何とか…」  俯いたまま答えるみゆきに、こなたは違和感を感じた。 「みゆきさん、ホントに大丈夫?」 「大丈夫です…ご心配なく」 「…だったらいいんだけど…はい、これ」  こなたはみゆきに、コロネの入った紙袋を手渡した。 「何かのヒントになるかもしれないし、みゆきさんが持ってて」 「あ、はい…」  みゆきは紙袋の中を覗き込んだ。中に入ってるのは目を背けたくなるような惨状のチョココロネ。 「…あれ?」  それを見たみゆきは首を捻った。 「どうかしたの?みゆきさん」 「…これって…」  こなたの言葉が聞こえなかったのか、みゆきはコロネを見つめながら考え込んでしまった。  放課後。すっかり人の出払った教室に、みゆき以外の三人が集まっていた。 「…みゆき、遅いわね」  机の上に頬杖をついたかがみが呟いた。ホームルームが終わった直後にみゆきの姿が消えたため、三人はしかたなく教室で待機していた。 「うん…どうしたんだろ?」 「わたし、ちょっと見てくるよ」  こなたが立ち上がり、みゆきを探すために教室出ると、丁度廊下の向こう側から歩いてくるみゆきを見つけた。 「あ、みゆきさーん」 「…泉さん」 「どこ行ってたの?みんな待ってるよ」 「すいません、少し証拠固めに職員室と購買の方にいってました…あまり利用しないので知りませんでしたが、購買は朝から開いているんですね」 「うん、部活の朝連の人とか利用するみたい…それで、犯人は分かったの?」 「はい、一応は…行きましょう、泉さん…真実のその向こうまで…」 「…え?」  こなたとみゆきの二人が教室に入り、四人はいつもお昼ごはんを食べる時のように机を囲んで座った。 「さて、今回の事件の犯人ですが…」  切り出すみゆきに他の三人の視線が集まる。 「残念ながら、この四人の中の誰かです」 「…え」 「…うそ」 「…わたしも容疑者なの?」  みゆきの言葉に、かがみとつかさは唖然とし、こなたは自分を指差して困った顔をした。 「一応、前提としてはそうなります。被害者だからと言って犯人ではないということはありませんし…勿論、探偵役も特別ではありません」 「で、でもなんでわたしたちなの?」 「泉さんが、このチョココロネを持っているのを知っているのは、恐らくこの四人だけだからです。コロネの存在を知らなければ、わざわざ泉さんの鞄を漁ることはないでしょうから」  みゆきはいつになく緊張した声でそう言った。そして、心を落ち着かせるために深呼吸をして、犯人を指摘する為に口を開いた。 「チョココロネを踏み潰した犯人は…」 「はい、今回は出番の無かった小早川ゆたかです」 「…同じく岩崎みなみです」 「…みなみちゃんは前回も出てなかった気がするんだけど…」 「無残にも踏み潰されたチョココロネ。果たして犯人は四人の内の誰なのか?」 「え?あれ?みなみちゃん?」 「みなさんもみゆきさんと共に、正解率99%の暇つぶしに挑んでみてください。では、今回はこの辺で…」 「え?もしかして締めちゃった?わたしがここにいる意味は?」 「………」 「みなみちゃん、どこいくの!?みなみちゃーん!」  ※ここから解答編 「岩崎みなみです」 「………」 「さて、みなさんは真相に辿り着くことができましたか?」 「………」 「それでは、解答編の幕開けです………ゆたか?」 「………」 「…等身大ポップ…いつの間に…」 - チョココロネは食べられない 解答編 - 「チョココロネを踏み潰した犯人は…」  みゆきはそこで言葉を止めてしまった。やはり指摘するのを躊躇してしまう。だが、それでも言わなければいけない。みゆきは勇気を振り絞って、言葉の続きを口にした。 「犯人はわたしです」  そう、これは自分の罪なのだから。 「………みゆきが?」  実際には短かったのだろうが、異様に長く感じる沈黙の後、かがみがそう呟いた。 「はい、わたしです」 「いつ?」 「三時間目と四時間目の間の休み時間です。その時に、泉さんとつかささんが教室から出て、わたし一人になっていました」 「…どうしてそんなことをしたの?」 「…言い訳に聞こえるかもしれませんが、踏み潰すつもりはありませんでした。ただちょっとだけ見てみたい…そう思ったんです」  みゆきはそこで、自分の鞄の中からこなたから預かった紙袋を取り出した。 「紙袋からチョココロネを取り出したときに、手を滑らせて床に落としてしまったのです。そして、それを慌てて拾おうとして、足をもつれさせて…」  その時の惨状を思い出したのか、みゆきは目を瞑って身を震わせた。 「幸い…いえ、不幸にもその時、クラスの誰もわたしの方を見ておらず、気づいた人はいませんでした。わたしは何を思ったのか、潰れたチョココロネを紙袋入れて泉さんの鞄に戻し、床に付いたチョコをふき取って自分の席に戻ったのです…そして、戻ってきた泉さんに何も言えず、そのままお昼休みになってしまったと言うことです…本当に、申し訳ありませんでした」  みゆきはこなたに向かい深々と頭を下げた。 「…泉さん?」  しかし、こなたからの反応が何もない。みゆきは違和感を感じて、顔を上げてこなたの方を見た。こなたは俯いていて表情が読み取れない。 「とりあえずこれで、今回の事件は終りよね?後はこなたとみゆきの問題だし、わたし達は帰るわよ…行こう、つかさ」  そう言って、かがみが席を立った。 「待って下さい、かがみさん。まだ終わってはいません」  こなたからの反応が未だに無いのを気にしつつも、みゆきはかがみが帰るのを引き留めた。 「え、でも踏み潰したのがみゆきならこれ以上何が…」 「あるんです…見ててください」  みゆきは自分の鞄から、ビニール袋に入ったチョココロネを取り出した。 「これは先程購買で購入したものです」  そして今度は、紙袋から潰れたチョココロネを取り出して、手で出来るだけ元の形になるように整えた。 「それを、わたしが潰したチョココロネに重ねてみます」  みゆきが二つのチョココロネを重ね合わせる。それを見たかがみの顔色が変わった。 「このように、この二つのチョココロネは大きさが全く同じです…おかしいですよね?」  かがみに向かい、みゆきがそう言った。かがみが思わず視線を逸らしてしまう。 「な、なにがよ?」 「朝の会話を思い出してください。泉さんがチョココロネを買ったお店は、普通のお店よりパンが大きいんです。それはチョココロネも例外ではありません。にも拘らず、このチョココロネは購買で購入したものと大きさが同じ…そこから考えられることはただ一つ」  みゆきは一度言葉を切り、改めてかがみの方をしっかりと見据えた。 「わたしが踏み潰す前に、何者かがチョココロネをすり替えていた…ということです」 「な、なんでそれをわたしの方向いて言うのよ…」 「すり替えたのが貴女だからです、かがみさん」  少しばかり長い沈黙の後、かがみはみゆきを睨むような目つきで見据え、席に座りなおした。 「わたしが、いつチョココロネをすり替えたって言うの?昼休みまでのどの休み時間も、そっちのクラスには行ってないわ」 「そうですね。それに、休み時間に来たとしてもわたし達のうち誰かがいましたから、チョココロネをすり替えるのは不可能です」 「だったら…」 「休み時間以外ならどうでしょう?」 「い、以外って…そんなの…」 「かがみさんは、朝のわたし達の会話を聞いて、チョココロネをすり替える計画を思いついたのではないでしょうか…一時間目が始まる前に購買でチョココロネを購入しておき、二時間目の間に授業を抜け出して体育でクラス全員が出払ったわたし達のクラスに入り、チョココロネをすり替えた…違いますか?」 「…証拠は…あるの?」 「購買の方より、朝に髪をふたくくりにした女の子がチョココロネを買って行ったという証言と、かがみさんのクラスの二時間目を担当された教師の方より、授業中にお手洗いに出て行ったという証言をいただきました」 「…う」 「あとは…つかささん次第です」  そう言いながら、みゆきがつかさの方を見ると、つかさは咄嗟に顔を伏せてしまった。 「…ゆきちゃんは、分かってるんだよね?」  そして、顔を伏せたまま呟いた。 「つかささんの件に関しては、ほとんど推測ですが」 「…そっか…わたし次第…そうだよね…」 「つかさ!」  思わずつかさの方に詰め寄ろうとしたかがみに、つかさは顔を向けニコッと笑った。 「お姉ちゃん、もうやめよう?…ゆきちゃんには分かってるみたいだし、隠し通せるものじゃないよ…ううん、隠してちゃいけないんだよ。悪いことは悪いことなんだから…」  それを聞いたかがみが、力なく項垂れる。 「つかささんは、かがみさんの行動に気が付いていたんですね?」 「うん。体育の時にね、お姉ちゃんがわたし達のクラスからこっちを見てるのに気が付いてね、あんなところで何やってるんだろうって気になって…」 「それで、泉さんとお手洗いに行く振りをして、かがみさんに問い質しに行った…」 「うん…なんか凄くいやな予感がして、こなちゃん達には言わないほうがいいかなって思って…お姉ちゃんの所に行ったら、こなちゃんのコロネ食べようとしてて…半分あげるから黙っててって言われて…それで…」 「それでは、チョココロネはその時に…」 「うん、お姉ちゃんと食べちゃったの…ごめん…なさい…」  こなたに向かい頭を下げるつかさ。しかし、こなたからの反応はまたしても無かった。 「…最初はね、ちょっとした悪戯のつもりだったの…」  それに気づいてか気づかずか、かがみが項垂れたまま話し始めた。 「こなたがあんまり得意気だったから、すり替えられたときにどういう反応するかなって…気づかずに食べちゃったら、思い切りバカにしてやろうって思って…でも、実物見たらどうしても我慢できなくなって…どうせバレっこないって、つい…」 「みんなの言い分はそれで全部?」  急に聞こえたこなたの声に、三人がびくりと身体を震わせた。そして、いつの間にか顔を上げていたこなたの方に顔を向ける。 「つまり、わたし以外のみんながなにかしらやらかしていて、わたしに何一つ言い出せないでここまで来ちゃった、と」  表情の無い眼で三人を見渡しながら、抑揚の無い声でこなたはそう言った。 「あ、あの、泉さん…」  そのこなたに恐怖にも似た感情を覚えたみゆきが、何かしら言い繕おうとした。 「…見損なったよ」  こなたはその言葉を遮り、鞄を持って席を立った。 「こ、こなちゃん、どこに…」 「帰る」  一言だけ残して教室を出ようとするこなた。 「待って、こなた!」  そのこなたの肩を後ろからかがみが捕まえる。 「ごめんなさい…わたしが…わたしが悪かったから…」 「だから許せって?」  振り返りすらせずに、こなたがそう聞いた。 「…償いはするから…なんでも、するから…お願い…」 「…なんでも?」 「…うん…わたしに、出来ることなら…」 「おーけー…その言葉が聞きたかったよー」  そう言って振り向いたこなたの顔は、笑顔だった。なんというか、ニンマリといった擬音がぴったりの笑顔だった。 「え?あれ?」  呆気にとられるかがみの前で、いつもの調子でこなたが喋りだす。 「そうだねー。じゃあ決行は今度の日曜日って事で、土曜日にでもミーティングをしよっか。みゆきさんとつかさはどうする?」 「え?は、はい?…あ、いえ。わたしも償いはさせていただきます…結果的にはわたしが踏んだのは違うチョココロネでしたけど、そうじゃなかった可能性もあったわけですし…」 「わ、わたしも、お姉ちゃんを止められたのに、コロネに釣られて止めなかったから…」 「おーけーおーけー、いいねいいねー三人かー。こりゃ楽しくなりそうだねー。早速帰って準備しなきゃ…あ、みゆきさん。このチョココロネ貰っていい?お昼ご飯食べてなくて、ちょっとお腹空いた」 「あ、はい…どうぞ…」 「あんがとー。そいじゃみんな、土日はちゃんと空けといてねー」  チョココロネにかぶり付きながら、教室を出て行くこなた。それを唖然と見送る三人。 「…ねえ、みゆき」 「…なんでしょう、かがみさん?」 「こういう時は『ぎゃふん』でいいのかな…」 「適切かと、存じます…」  泉家の日曜日の朝は遅い。  休み前日には、いつも以上に夜更かしをするこなたは勿論だが、平日には徹夜明けでもこなたやゆたかと朝食を共にするそうじろうも、昼頃まで寝ていることが多い。  そんなふたりの生活パターンに引き摺られてか、最初の頃は日曜日も早く起きていたゆたかも、段々と昼近くまで寝ているようになっていた。  カーテンの開ける音と共に、眩しい光が部屋に満ちる。 「う、うーん?」  その光でゆたかは目を覚ました。 「こなたお姉ちゃん?」  ゆたかはこなたが起こしに来たのだと思った。しかし、まったく予想していなかった声がした。 「おはようございます。お嬢様」 「………え?」  上半身を起こしたゆたかが、寝ぼけ眼で見たのは、メイド姿で深々と頭を下げているみゆきだった。 「え?ええ!?高良先輩!?って、メイドさん!?なんか色々と、ええええ!?」 「えーっと…こういう罰ゲームだと思って、少し落ち着いて貰えますか?」  混乱するゆたかをなだめるみゆき。 「え、罰ゲーム?高良先輩が?」 「ええ、まあ。色々ありまして…では、お顔を洗いに参りましょうか?」  用意してあったタオルを手に取り、みゆきは部屋のドアを開け、ゆたかに出るように促した。 「どうぞ、お嬢様」 「あ、はい…ありがとうございます」 「そんなお気遣いは無用ですよ、お嬢様」 「…うぅ、なんだかわたしが罰ゲームを受けてるみたい…」  なんだか妙な気分を味わいながら、ゆたかが廊下に出た瞬間。 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  と、悲鳴が上がった。 「い、今の声…」 「かがみさんですね。どうなされたのでしょうか?」 「…かがみ先輩も来てたんだ」 「ゆーちゃん、おっはよー。どうだったかね?今日のお目覚めは?」  ゆたかとみゆきが洗面所に向かっていると、こなたが声を掛けてきた。後ろには、やはりメイド姿のつかさを従えている。 「…こなたお姉ちゃん…訳がわからないよ…」 「まあ、折角のメイドさんなんだし、しっかり楽しまないと…ね、つかさ」 「…うぅ…こなちゃんの要求は恥ずかしいのが多くて…」 「ほら、つかさ。言葉遣い」 「あぅ…申し訳ありません、ご主人様…」  そんな二人を見ていたみゆきは、ふとさっきの悲鳴が気になり、こなたに聞いてみることにした。 「あの、ご主人様。先程かがみさんの悲鳴が聞こえたようでしたが…」 「ああ、あれ。わたしの予想通りだと、面白いことになってるよー」 「…おはよう…こなた、ゆーちゃん」  話してる後ろから、そうじろうが挨拶をしてきた。 「あ、おはよー。お父さ…うわーお」  こなたは挨拶を返そうとして、そうじろうの顔を見て思わず止まってしまった。そうじろうの右目に見事な青あざが出来ていたのだ。そのそうじろうの後ろには、顔を真っ赤にして俯いているメイド姿のかがみがいた。 「…頬に紅葉作ってくるくらいは、予想してたんだけどね…」  こなたは冷や汗を垂らしながらそう言った。 「お、おじさん…どうしたんですか?」 「いや…朝起きたらメイドさんに、グーパンチを顔面に貰ったんだが…訳がわからない…」 「流石はかがみ…容赦ないね…」  泉家の面々が話してる後ろで、つかさはかがみに小声で事情を聞いてみた。 「な、なにがあったの?お姉ちゃん…」 「…きのこの山がね…たけのこの里に…」 「お姉ちゃん…全然わかんないよ…」 「あー、それはねーつかさ。男性の朝の生理現象ってやつだよ」  いつの間にか二人の間に入り込んでいたこなたが、話に割り込んできた。 「お父さんのきのこの山がテント張って、たけのこの里みたく…」 「説明せんでいいっ!!」 「はい、かがみ。言葉遣い」 「…う…申し訳ありません、ご主人様…」 「さーて、次は何してもらおっかなー…お風呂で背中流すってのはどうかな?」 「ええええ!?それはダメだよこなちゃん!」 「で、出来るわけ無いでしょ!?」 「はい、二人とも。言葉遣い」 「あう…」 「もう、勘弁して…」  みゆきは、そんな光景を見ながら思っていた。  もしかしたら、こなたは四人のうちの誰かが犯人と聞いたときから、ずっとこういうことを考えていたのではないか、と。  友達の誰かが犯人。そう分かった時点で、こなたが考え始めた事は、誰が犯人ではなく、どうやってこれを笑い話に変えてしまおうか、だったのでではないか。  だから、なんでもするという台詞を引き出すために、あえて冷たい態度を取ったのではないか。  そして、罪にかこつけてわがまま放題をして自分にも非を作り、みんなの中の罪悪感を消していこうとしているのではないか。  すべては「あの時、こんなことがあったね」と、将来笑いながら話せるように。 「…とんでもない、被害者ですね」  みゆきはクスリと笑うと、未だなにかを言い合ってる三人に混ざりに行った。  自分もまた、その笑い話の一部として。 - おしまい - 471 名前:チョココロネは食べられない[saga] 投稿日:2009/01/25(日) 17:48:23.56 ID:SazeaJw0 以上です。 途中でシリアスになりかけたので、方向修正しようと思ったら、何故かメイドに。 以下、NG場面(校正時点で判明した誤植) 「…半分投げるから黙っててって言われて…」 「ぶふぅっ!」 「こらこなた、吹くんじゃない。NGになる」 「…吹かなくてもNGです」

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