ID:5F7Al6SO氏:忘れられないダークナイト

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 行わなければ良かった。  規則を守れば良かった。  誰でも良いから彼女を止めて下さい。  延々と襲い掛かる恐怖の渦が、彼女達を取り込んで行く……。  ――忘れられないダークナイト――  季節は秋。木枯らしが吹き荒れる前のこの季節になると、上級学生達には嬉しいイベントがやってきます。  修学旅行。日本の歴史ある名所を観光し、学習する旅行……と表向きはこんな感じに言われているますが、殆ど遊びに行く様なものですね。  友人と親睦を深めたり、いろんな思い出を作ったり、はたまたカップルが誕生したりと学生達にとって、なくてはならないイベントの一つです。  そして、修学旅行の一番のイベントと言えば夜。消灯時間を守らず他の部屋に遊びに行ったり、ホテルから出たり、見回りの先生に見つからぬ様コソコソとスリリングな体験は学生ならではが出来る貴重な体験。まさに修学旅行の醍醐味と言っても過言ではないでしょう。  さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回はそんな体験をしている、ある女学生達のお話です。  時刻は既に消灯時間、本来なら寝ていなければいけない時間帯なんですが……。  え? 私は誰か、ですか? ふふっ、そのうち分かりますよ。 「待ちに待った夜がやってきました。皆さんこんばんわ。こなたです」  お姉さんもびっくりな真っ暗な部屋の中、懐中電灯の明かりを首から上に向けて、いかにもな雰囲気を出しまくりな彼女……泉こなたさんはこれから始まるイベントの始まりの挨拶を告げていました。  この部屋には泉さんの他に、柊かがみさん、柊つかささん、高良みゆきさんの三人が居るようです。  布団を『×』の形で向かい合わせ、枕をクッションに皆布団から顔を出しています。  以上、状況説明終わり。 「これから恒例の夜イベントを始めたいと思います」 「恒例の……って、今日が初めてじゃないのか」 「そこ、水をささないの」 「へいへい」  小さなツッコミを軽くあしらって、泉さんは続けます。 「良い? 皆分かってると思うけど、今は消灯時間。先生に見つかったら……おしまいなんだよ」  顔を凄ませつつ『おしまい』を強調して言う泉さん。その顔に向かいに居た怖い物が嫌いそうなつかささんは案の定ビクついています。 「こなちゃんの顔、ビリケン様みたいで怖いよー」  それを聞いた高良さんは勢いよく顔を枕に沈めます。笑っているのかしら? 「みゆきどうした?」 「い、いえ……」 「そうそう、先生が来たらそんな感じで寝たふりをするんだよ」  ビリケン様、あまり聞かない単語ですが、物知りな高良さんは聞いた瞬間に頭に浮かんだんでしょうね。  とまぁ、今はそれは置いておきましょう。先生が来たら寝たふりをするのが泉さんの作戦のようです。 「なんかドキドキするね」 「それで? 今から何をするの?」 「ふっふっふっ」  泉さんは妖しく笑うと、布団の中からゴソゴソと何かを取り出します。 「これさ」 「これって……」 「トランプ、だよね?」  泉……分かりやすく皆名前に統一しましょう。  こなたが取り出したのは何の変哲もないトランプ。定番といえば定番なんですが、こなたにしては普通すぎる選択に少し期待ハズレな顔をする二人と私。  みゆきはまだ顔を埋めて……あ、ようやく顔を上げましたね。 「その反応、トランプなんてつまらないって言いたいんだね?」 「いや、別にそんなことは言ってないけど」 「安心しなよ、これはトランプじゃない」  「え?」と不思議がる三人。どっからどう見てもトランプにしか見えませんが……こなたは何をするつもりでしょうか? 「では今からルールを説明します」  手慣れた手つきでトランプを切り、山札を皆が手に取れるように真ん中に置きます。 「これから皆に怪談話をしてもらいます」 「階段話? よく階段に座って電話はするけど……」 「つかささん、その階段ではないかと」 「それとトランプとどんな関係があるのよ?」  勘違いしてる妹の頬を突きながら、かがみが問いかけます。  怪談話ですか……。 「うん、先ず怪談を話す人はカードを引くんだ」  そう言って山札からカードを一枚引き、それを見せるこなた。 「カードに描かれてる数字、この数字の大きさで怖い話のレベルを決めるってことさ」  話を要約しましょう。  先ず、怪談話をする人は手前のカードを引きます。そしてそのカードに記されている数字、1~13。この数字の大きさによって怖さレベルが上がるというものです。  中々面白い発想ですね。 「なるほどね……つまり、引いたカードの数字に見合った話をしろということか」 「そそ、面白みがあると思わない?」 「確かに、普通に語るよりは面白みが増しますね」 「ふぇぇ、私そんなに怖い話なんて思い付かないよ~」 「まぁまぁ、先ずは私がやってみるからさ」  こなたは持っていた懐中電灯を山札付近を照らす様にセットします。  どうやら引いたカードをここに置くみたいですね。数字をごまかすズルはダメって事でしょう。 「じゃあ行くよ?」  コホン、と咳ばらいをしてから山札に手を置くこなた。 「私のターン、ドロー」 「そう言わなきゃダメ?」 「いや、別に」  こなたは引いたカードを目視すると、ちょっと残念そうに山札の隣に置きました。そのカードの数字は果たして……。 「ダイヤの『5』ね」 「はぁ、もっと怖い話があったんだけどね~。まぁいっか」  そう言うとこなたは懐中電灯の明かりを消します。この部屋の僅かな明かりが消えたことで、つかさは「ひぇっ」と小さな悲鳴を漏らしました。 「これは去年の六月頃の話なんだ……」  そして、とうとう怪談話が始まりました。  六月頃にさ、凄い雨が降った日、覚えてる? あの日の夜の事なんだけどね?  あの日、私はいつも通り勉強もしないでゲームしてたんだ……。 「ふぃぃ~、やっと素ステが十万超えたよ~」  窓に当たる激しい雨粒が五月蝿かったんだよね。今思えば、あれは最後の警告だったのかな……。 「次はこの子のレベル上げだね」  一つの目的を果たした私は、調子に乗ってたんだよね。何かに集中すると他の物って見えなくなることあるよね?  だから奴の存在に気付かなかったんだ。てゆーかヘッドホンしてたし。 「む、もうこんな時間か。そろそろセーブしないと」  そう思った私は拠点に戻ってセーブしたんだ。でもさ、セーブってちょっと時間が掛かるって知ってる?  『セーブしています。絶対に電源を切らないで下さい』って出るからね。  まさにその時だったよ。 「……へ?」  テレビ画面が、部屋が真っ暗になったんだ。  何が起きたのか一瞬分からなかった。突然の事で恐怖もしたさ。  でも原因は直ぐに分かったんだ。ヘッドホンから聞こえてくる音が無くなった変わりに聞こえてくる音でね。  それは……『雷』だよ。  そう、この暗闇現象は雷による停電だったのさ。  なんだ、ただの停電か……と安心した私はあることに気付いた。  あれ……?  ゲーム……セーブしてる途中だったよね……?  嫌だ……。  嫌だよ……。  あれは二百時間も掛けて育てた愛すべきキャラなんだよ!  こんな、こんな事で……。  返して……。  返して二百時間。  私の二百時間を返してよ!! 「――あれ? 怖くない?」 「え、えーと……」  怪談を、これでもかっ! てな位に怖く話したつもりのこなたですが、皆はどう反応して良いのか分からないといった表情でした。  確かにこれはどう反応していいか難しいですね。 「なぁ、これって怪談なのか?」  そしてやっと出た第一の感想がこれです。 「レベルファイブなんてこんなもんだよ。ま、かがみ達には分からない恐さだろうけど」  そう悪態をつきながら、明かりを点けようと懐中電灯に手を伸ばすこなた。 「待ってくださいっ」  みゆきは小さく叫ぶと、こなたとつかさの頭を押さえ、そのまま枕に押し付けました。 「おっ!?」 「わっ」  それを見たかがみも異変に気付いたようで、身体を一回転。仰向けになり目を閉じます。どうやら例の作戦が発動したようですね。  その瞬間、ガチャっと遠慮なく部屋のドアが開けられました。廊下の明かりの逆光で誰が来たのか分かりませんが、部屋の入口に立っています。 「今なんか叫び声が聞こえたような気がするんやが……」  のっしのっしと寝たふりをする彼女達に近付く足音。その音に、四人の心臓は激しく高鳴っている気がします。 「ほぉ~、仲良く寝とるやないか」  なんてどすの利いた声でしょうか。まぁ、布団の並べ方が明らかに不自然ですからね。  でも確かこの声は……。 「明日も早いんやから、早う寝ろよ~。えぇな?」  それだけ言うとその人は部屋を出ていきました。見逃してくれたみたいですね。  見回りご苦労様です。黒井先生。 「行った、わね」 「ぷはっ」 「ゆきちゃん酷いよぅ」 「すみません。急でしたもので」  しかし、みゆきの判断は正しい。そう思ったのか、こなたは特に気にすることもなく、明かりを点けました。 「ところでこなちゃん、さっきの話は結局どうなっちゃったの?」 「ん? セーブデータは無事だったよ」  あっけらかんと答えるこなた。彼女の話は本当に怪談話だったのでしょうか? 「でもさ、一時間弱のプレイデータはセーブされなかったんだよね……悲しいよね」  ここで「あるある」という返事があれば、こなたも救われたのでしょうが……生憎、他の三人はそういう経験は無いようで、苦笑していました。  私は分かりますよ。ゲームではありませんが……。 「語りは上手でしたよ」  そうですね、語りは良いセンスでしたよ。 「ありがとみゆきさん。じゃあ、再開しよっか。次は……」  じぃっと目の前を見つめるこなた。つかさが視線に気付くと、こなたは顔を今以上にニンマリとしてつかさを見据えます。 「じゃ、つかさね」 「わ、私そんなに怖い話出来ないよ~」  そして早速頼りになる姉に目配せをしてしまうつかさ。 「つかさっ」  そんなつかさにこなたは軽くデコピンをします。ちょっと痛そうです。 「いつまでもお姉さんに甘えていたら立派な大人になれないよっ」  拳を握りしめて力説。声は大きすぎず小さすぎずといった感じです。 「様々な苦難を乗り越えてこそ、人間は成長するもの……そこから逃げようとするつかさは正しくダメ人間。それで良いのかね?」  何か言い過ぎの様な気がしますが……。でもその言葉につかさはハッと何かに気付いたみたいですね。  目の色が変わりました。 「こなちゃんには言われたくないけど……そうだね、私間違ってたよ!」 「分かってくれたか、つかさ」 「何を熱くなってるんだか」  着いていけない、そう感じずにはいられないかがみなのでした。多分。 「よーし」  つかさは山札に手を置き神経を集中させます。これがアニメやゲームならオーラが出ているんでしょうね。 「えーい」  つかさが勢いよく引いたカードの数字は……! 「ハートの『10』か」 「およよ~!?」  ハートというのが可愛らしいのですが、数字が大変な事になってしまいましたね。 「数字が小さければ何とかなると思っていました……つかさです」 「気休めですが、頑張ってください」 「じゃ、明かり消すよ~」  再び暗くなる部屋。部屋が暗くなると静けさが増し、つかさに焦りが見えてきました。 「う~んと、えっと……じゃああれにしようかな。うん」  色々悩んだ結果、遂につかさが語り出しました。  この前の帰り道の事なんだけどね? お姉ちゃんは委員会だったし、こなちゃんは途中で別れて私一人だったんだ。  最近、変質者が多いっていう看板をよく見かけるし、一人の時はなるべく早く帰ろうと思って、ちょっと近道って事でいつもと違う道に入ったんだ。  そしたら曲がり角で男の人にぶつかっちゃって、適当に謝ってその場を直ぐに離れたんだけど、何か足音が聞こえて来て、後ろ振り向いたらさっきの男の人がこっちに走って来てたの。  変質者だと思って私も必死に逃げたんだけど「待てぇ」とか言ってきてね? 捕まったらヤられると思うと怖くなっちゃって私も無我夢中で走り続けたの。  でも、私転んじゃって、男の人に肩を掴まれてもうダメだと思った時、男の人が「携帯、落としましたよ」って言って、何だ私の勘違いかぁ……。 「――っていうお話なんだけど……」 「それは優しいお方でしたね」 「つかさ、もう少し怖く伝えることって出来ない?」 「えぇー、これで精一杯だよぅ」 「まぁ、つかさにしては頑張ったんじゃない?」  どうやらつかさは思ってることをどんどん口に出しちゃうタイプみたいですね。これでは怪談も怖くありません。  というか、これも怪談話と言えるのでしょうか? 全くこの子達は……。 「ふぅ……」  とりあえず自分の順番が終わって安心したみたいですね。 「つかさ、言っとくけど三週くらいするからね?」  あらあら、残念でしたね。 「えぇっ!?」 「ば、声が大き、」 「こらー、まだ起きてるのかー? 早く寝ろよー」  そうめんどくさそうに言うと、ぺったん、ぺったんとスリッパの足音を立てて見回りの先生は去っていきました。  注意するならもっとちゃんとしないとダメですよ、もう。 「今の桜庭先生?」 「ちょうどつかさが大声出したときにそこに居たのね……なんにせよあの人で助かったわ」 「だね」  安心して明かりを点けるこなた。  はぁ、普段から気怠そうな態度してるか生徒に甘く見られるんですよ? 桜庭先生……。 「こなちゃん、もうやめようよ~」 「何言ってんのさ、今から本命二人が語ってくれるのに」 「本命?」 「そ、かがみとみゆきさんは何か凄い体験とかしてそうだし~」 「いえ、私はそんな……」 「勝手に期待されても困るけどな」  盛り上がってますねぇ。でも確かにこの二人なら期待しても良いかも知れません。  真面目そうな人ほど怪奇的な体験をしている可能性は決して低くありませんからね。 「そんな事言って、あるんでしょ? それなりに」 「まぁ……ね」 「ダイエットで失敗した話とか」 「そんな話ねぇよっ」  まったく、と溜息を吐いて山札からカードを引きます。  何だか見ていて飽きませんね、この子達は。 「ダイヤの『7』か」 「お、ラッキーセブンだね」 「泉さんよりも怖くて、つかささんより優しい話ですか……」 「ふむ、ならアレを話そうかな」  これで三人目。かがみの怪談が始まります。  さて、この子は一体どんな話をしてくれるのでしょうかね。わくわくします。  ――あれは修学旅行に行く前の日の夜、つまり昨日の事ね。 「さて、明日は早いし早めに寝るかな」  支度を済ませた私は、まだ九時だってのに寝る事にしたの。寝坊なんてしたくないからね。  でもね、早く寝ちゃったからかな? 夜中に目が覚めちゃったのよ。多分、三時位だったかな。  こんな時間に起きるなんて勿体ない。そう思った私は姿勢を変えて寝ようと思ったんだけど……。  身体が動かなかったの。  俗に言う金縛りって奴ね。突然の事に頭が真っ白になったわ。  でも変なのよね、普通、金縛りって言ったら全身が動かない筈なのに上半身は動くし、足の股から下も動くのよ。  問題なのは、お腹と腰の辺りだったわ。何かそこだけ妙に重みがあってね……。  何かあるのかしら? と思って恐る恐る首を上げてその場所を見たわ。そしたら……。  誰かが馬乗りで私のお腹に 座 っ て た の !  ビックリした私は思わず叫びそうになったけど、なんとか口を手で抑えて声を押し殺せたわ。  叫んだりしたらソイツに気付かれちゃうしね。  とにかく私は目をつぶったわ。朝になればコイツは消える。そう思って必死に寝ようとしたのに……。  今度は声が聞こえて来たのよ。それも何て言ってたと思う? 「かがみぃ……かがみぃ……」  ゾッとしたわよ。名前を呼ばれてこれほど怖いと思ったのは初めてね。  でもね、何か違和感を感じたの。この声、聞き覚えあるなーってね。  それでね? 段々と暗闇にも目が慣れてきて、うっすらと顔が見えるようになってきたのよ。  その正体は……。まぁ、姉さんだった訳だけどね。  なんか寝ぼけてたみたいだったから直ぐに起こしたわよ。 「は、はれ? カッコイイかがみ……は?」 「知らないわよ。私、朝早いんだから早く自分の部屋に戻ってよ」 「――っていうオチ」 「えぇー、途中までドキドキしたのにそりゃないよーかがみー」  素っ気なく締めなくても良かったと思いますが。せっかく良い雰囲気でしたのに。そして予想はしていましたが、やっぱりそういうオチなんですね……。 「オチが無ければ怖いまま終われましたね」 「だってこなたより怖くてつかさよりも優しく、でしょ? ゲームのルールに従ったまでよ」 「それでお姉ちゃん、朝ちょっと寝不足気味だったのかぁ~。でも良いの?」 「何がっぁ……」  おや? どうしたのでしょうか? 何かに気付いたらしく、頭を抱えています。 「みんな……今の話は他言無用でお願い。オチを少し変えようとしてたのに……ごめん姉さん」  なるほど、今の話はそのお姉さんに口止めされていたのですね? それをありのままに話てしまい焦っている……ということですか。 「えぇ、分かりました」 「まぁ、貸し一つってことで」 「う、分かったわよ」 「いや、嘘だよ。もう、かがみんてば」 「ごめん、ありがと」  良い友人に恵まれていますね。しかし……この子達の話はとても怪談とは言えませんね。  本来怪談とは化け物や幽霊などの出てくる気味の悪い話。又は、真相がさだかでなく、納得のいかない出来事、という物の事を指すのですが……この子達の話にはそれらの要素が全くと言っていい程ありません。 「じゃあ次はみゆきさんだね。わくてか」 「あまり自信はないのですが……」  むむぅ、これは一体どうしたものでしょう? もう限界です。我慢の限界です。 「あ、スペードの『3』ですね。ほっ」 「う~ん、残念。次に期待っ」 「怖い話聞きたいんなら変なルール作るなよな」 「私は助かってるけど」  私だって教職員です。生徒の間違いは正さねばなりません。そうです。私がやらねば誰がやるというのですか? 「では、簡単なものですが、ご聴取お願いします」  誰も居ません。私しか居ないんですっ。 「ある日、階段で転んで眼鏡が割れた、」  よいしょ。 「ぐぇ」 「え? こなちゃんどうし……」 「つかさ? どうしたのよ」 「こ、こなちゃんの背中に……誰かが馬乗りで座ってる!」 「あ~な~た~た~ち~」 「「「「きゃあぁぁっ! お化け!?」」」」  お化けとは失礼ですね。それと、そんなに大きな声を出したら隣の部屋に迷惑でしょう?  まぁ、今はそれよりも。 「あなたたち、何をやっているんですかっ」 「ご、ごめんなさい」 「え、誰?」 「保健室の天原先生よ」 「あー、私保健室行ったことないからなぁー」  それは身体が健康って事ですね。でも身体測定等で会っているはずなんですが……少し寂しいです。 「そんなことより先生、降りてもらえませんか? そろそろやばいです」 「あ、ごめんなさい。大丈夫でしたか?」 「なんとか」  一先ず泉さんの隣に腰を降ろしましょう。ペースが乱れましたが、気を取り直して……。 「何をしていたんですか?」  念の為、確認を。私の勘違いかも知れませんし。 「怪談話を少々……先生はいつの間に部屋に入ったんですか?」 「それはどうでも良いんです」  最初から部屋に居た、なんて口が裂けても言えません。そしてやっぱりあれは怪談話だったんですね。  でも、ま、とりあえずは役割を果たしておきましょう。 「とっくに消灯時間は過ぎてるんですよ? それは分かっていますか?」 「「「「はい。ごめんなさい……」」」」  っと、少し口調がきつかったみたいですね。今回は私も半分参加していたようなものですし、この件についてはもう良いでしょう。 「今回の事は黙っておきますが、次からはこのような事がないようお願いしますよ?」  私が精一杯の笑顔でそう伝えると、皆さんも安心したみたいで心地良い返事が返ってきました。  良い子達です。  さて、今度は例の怪談話の件ですね。この子達は『怪談』というもの『恐怖体験』と勘違いしている様ですが……私的に見過ごせません。  正しい怪談というのを教えてあげませんと。先生として。 「話は変わりますが、先程、怪談話をしていたと言いましたね?」 「あ、もしかして先生もやりたいんですか? どうぞどうぞ」 「ふぇ?」  とと、予想外の意見にちょっと驚いてしまいました。 「おい、こなた」 「だってまだ物足りないんだもん。夜はこれからサ」 「先生の目の前で言うか普通……」  ふむ、そうですね。確かに口で説明するよりは実際に聞いた方が早いですよね。 「ねぇ、良いでしょ先生? 先生の聞いたら寝ますから」  今さっき、夜はこれからと言ったのは誰でしたっけ? まぁ、良いでしょう。 「しょうがないですね~。一回だけですよ?」  何気にノリノリな自分に苦笑してしまいます。 「やたー」 「なんか怖そうだよぅ」 「どんな『恐怖体験』でしょうか?」 「流れ的にそんなに怖くはなさそうな気が……」  ……あらあら、聞き捨てならないことをサラっと言いましたね。  この子達はあまり私と面識が無いので知らないと思いますが……私、ホラーとかオカルトに関しては誰にも引けを取らない自信があるんデスヨ? 「じゃ、先生、先ずはこのトランプを――」  言い終わる前に引きます。 「あれ? ルール説明しましたっけ? まぁいいや、数字はな、」 「『ジョーカー』ですね。私に相応しいと思いませんか?」 「あれ~? ジョーカー、なんて入れたかなぁ……?」 「入れて無かったんですか? では何故ここにあるのでしょう……」  私には分かります。まともな怪談を語られなかったトランプ達の怨念が、私に救いを求めてきたのだと。なら、それに全力で応えましょう……取って置きのあのお話で。 「あの、先生?」 「あなた達が語っていたのは怪談ではありません。私が本当の怪談というものを教えてあげますね?」 「え……?」 「お、やっと帰って来たか。長い見回りだったな、ふゆき」 「学校では『先生』を付けてください桜庭先生」  そういえば見回りをしている事になっていたんですよね。うぅ、それにしても……。 「天原先生どないしたんですか? 顔が優れないようですが」  あら、顔に出ていましたか。折角ですから聞いてもらいましょう。黒井先生なら分かってくれそうですし。 「それが、『330号室』に居たんですが……」 「ん? そこって確か泉達の部屋やな。あいつらまだ起きてましたか」 「いえ、今はぐっすりと眠っていますよ。ただ……」 「ただ?」 「私のお話の最中に眠ってしまったんですよ、それも急に」 「急にですか?」 「はい、やっぱり大人の話すお話は長くてつまらないんですよね……そう思うとショックで」  私なりに飽きないよう完璧なまでの語りでしたのに、何がいけなかったんでしょうか……。 「なるほどなぁー、いやぁウチもそーゆー事よくあるから分かりますわー」  やはり、クラスを持つことだけあってそういう事は日常茶飯事なんですね。 「あいつらにはウチからキツ~く言っときますから、そう落ち込まんどいて下さいよ」 「……はぁ」  そうは言ってもやはり自信を失くします。取って置きのお話でしたのに……。 「あ~、そういえば天原先生はホラーとか好きなんですよね? 何かおもろい話があったら聞かせてもろてもえぇですか? まだ眠くないさかい」 「えっ!? 本当ですか? 調度今、誰かに話したくてうずうずしていた話があるんですよ?」 「そ、そうなんや……」  まさかこんなにも早く鬱憤が晴らせるなんて! 黒井先生には感謝しなくてはなりませんね。 「では早速、明かりを消して――あら? 桜庭先生、どちらへ?」 「ん、ちょっと確認したいことがあってな」 「そうですか。もう晩いですし、早めに帰って来て下さいよ?」 「分かってるさ。すぐ戻るよ」  折角だから一緒に聞いてほしかったんですけど……用があるなら仕方ありませんね。  さて、明かりを消してっと。 「――では黒井先生、始めますよ?」 「はは、お手柔らかに」  お手柔らかに? 手を抜いたら怪談になりませんよ? 冗談がうまいですね黒井先生。  では、語りましょうか……。 「これはとある館の――」 「……ふゆきよ、これは眠ってるんじゃない。気絶だ。どんな話をしたんだお前は」 完

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