ID:ezfdkeo0氏:ふったり、やんだり。

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「さっむいねぇ~」 「さむいねぇ~」 「でも電車の中に入ると、急にあったかくなるよねぇ~」 「なるねぇ~」 「この外と中の温度差が何ともいえないよねぇ~」 「そだねぇ~」 「さっきまで「あったまりたい」って死ぬほど思ってたのに、一瞬で団子詰めのサウナ状態になってる電車の中に閉じ込められて、窓から見える寒そ~~~な外の風景が急に恋しくなったりねぇ~」 「そうそう、それで窓ガラスを触ってみたらそこだけ冷たくて、気づかれないようにガラスに手を当ててずーっと涼んでたりとかねぇ~」 「つかさぁ~、その窓ガラス‥‥湿ってたりしなかったぁ~?」 「うん~、そういえば寒くなるといつも電車のガラスって湿ってるよねぇ~」 「それってさぁ~、誰かも分からない電車内の人たちの息が冷やされて出来る水滴なんだよぉ~?だからメチャクチャ汚いと思うよぉ~?」 「そうなんだぁ‥‥って、早く言ってよぉ~、こなちゃんのバカぁ~」 「まぁまぁ~、またつかさがやりそうになったら教えてあげるから。ね?」 「どうしよう~‥‥今朝、窓ガラスをなぞった指でガム取って食べちゃったのにぃ~‥‥」 「つかさが散々『ガラスでお絵かき』を堪能してから、その後にこっそり教えてあげる~」 「こなちゃんの鬼ぃ~、悪魔ぁ~」 冬。 女子高生らしいキャピキャピした会話も一瞬にしておじいおばあの井戸端会議に変えてしまう、そんな今日この頃。 懇談のため午前中授業になった3年生の生徒たちは、学校が終わるとそれぞれに散り始めた。 紅葉もすっかり終わって、枯葉の一つも残ってない並木道。 広くて閑散とした道路はよりいっそう肌寒さを感じさせる。 しかも、 「‥‥なんだってまた、雨なんだろうねぇ‥‥」 「‥‥なんだってまた、相合傘なんてしにゃーならんのだろうねぇ‥‥」 とぼとぼと家路を歩いている2人組は女の子だ。 当然2人が手にしている傘は男物の傘と比べれば小さく、1人入っただけでもカバンの端っこが定員オーバー。2人入ればぎゅうぎゅうにつめても身体の半分が飛び出てしまう始末。 「‥‥ごめんねこなちゃん、私が傘を忘れちゃったから‥‥」 「‥‥ううん、私も面白かったし。つかさって本当に天然記念物なんだな~ってつくづく再確認したといいますか‥‥  ‥‥どうやったら雨降ってるのに学校に傘を忘れるの?」 「ごめんねごめんねこなちゃん‥‥私考え事してたからいつの間にか濡れてるのに気づかなくて‥‥上履きを履き替えるのに精一杯だったから」 「うんうん、つかさはいつも一生懸命生きてるんだよね。あたしゃー見てて涙が出てくるよ‥‥んにゃっ」 くいくい、と袖を持ち上げて目じりに持っていき、涙を拭くジェスチャーをする。 しかし元々ずぶ濡れに近いくらい濡れていた右腕の袖は、顔に押し当てると待ってましたとばかりに含んでいた水分を吐き出して、結局涙を流したような後が顔に何本も何本も出来てしまった。 「うぉえええぇ~、こいつぁいつの間にこんなに成長しちまったんだぁ~!ぅうりゃあ~!」 コートを脱いで、水を含んでパンパンになった袖のあたりを思いっきり絞る。そのどこか懐かしい感触に「教室の掃除を真面目にやったのはいつが最後だったっけ?」と、どこかのんきなことを脳裏に浮かべて。 「‥‥で、何を考えてたの?進路のこととか?」 ぽた、ぽた、と傘に雨が落ちる音。 絞ったコートから残った雫が出てくるのを見ながら、少しずつ零すようにして話し始めた。 「‥‥もしかして私、『しすこん』なのかな‥‥?」 「うん、つかさは確実にシスコンな方だと思うよ」 よよよよよ、と壁に手を当てて涙ぐむ。ちなみにその壁に貼られている紙には「猛犬注意!」の四字熟語。どうやら民家を囲む塀だったらしい。 「いや、いきなりヘコまれても私困るんだけど・・・」 「‥‥うん、ごめんね。だから私、『しすこん』なんじゃないかなぁ~って」 「もちろんさぁ☆」 おろろんおろろん、と電信柱に手を当てて涙ぐむ。ちなみに電信柱に貼られている広告紙には「水のトラブルがございましたら何なりとご相談ください!」という宣伝文句。頼んだらこのわずらわしい雨と泪(なみだ)も止めてくれるんだろうか。 「‥‥最近ね、お姉ちゃんと一緒にいる機会がすごく少なくなってるなぁ・・・って思うの」 ふと、つかさがいる方とは反対側を向いてみる。やっぱり今日もかがみはいなかった。 「まぁ年の瀬だし、委員会やら何やらで忙しいんだろうねぇ。暇があれば学校の図書館で大学入試の勉強してるらしいし。まぁ~私もみゆきさんから聞いたんだけどね」 「うん、それもあるんだけど───」 どこか引っかかるような物言いだった。 「これからお姉ちゃんとは全然別の学校に行くわけでしょ?私、今までお姉ちゃんと毎日一緒に会うのが当たり前だったから‥‥」 「うーん、一応確認しとくけど、別に『毎日一緒に会わないと嫌だー!』とか、『毎日一緒じゃないと生きていけないー!』とか、『切ないんだかがみ!』とか、『メールの返信がなかったら20通でも平気でしちゃう!』とか、そーいうんじゃないんだよね?」 「うん、もちろんお姉ちゃんと私は双子なんだけど違う人間だから、いつまでも毎日顔を合わして・・・なんて無理なのは分かってるし、受け入れてるつもりなんだけど‥‥」 「こう・・・ぽっかり穴が開いちゃったみたい、っていうのかな?」 「そう!そんな感じ・・・なんか足りないなぁーっていうか、いつかそんな日がくるとか、そんな毎日を思うと少し怖くなるっていうか‥‥」 「それに付け加えて、近頃かがみと顔を合わせることが極端に少なくなってきてる、と」 「うん・・・」 しばらくの沈黙。 返答がないことに疑問を感じて隣を見ると、そこにはニマニマと目を細めてほくそ笑んでいるこなたの顔があった。 「かわぃいーぬぇ、つかさは♪」 「そ、そんなことないよぉ」 そこでこなたの顔は一瞬にして『喜』から『哀』へと変貌する。 「な、何言ってんのよこなた!!」と顔を真っ赤にして反応してくれる相手ではなかったのだ。 「ど、どうしたのこなちゃん?なんか10円ガムのハズレを引いた時みたいな顔してるよ~」 「べっ、べつに美味しくなんかないんだからねっ!」 自分がツンデレになってしまった。 冷たい雨と北風が容赦なく襲ってくる。 身体を締め付けるような感触に再び絞ったコートをかぶって、ういういと小さな身体を丸めて寒さに立ち向かう。 「‥‥私にとっては、それはつかさとかかがみに当てはまることなんだよね。大げさに言っちゃうと、死刑執行の日々が決められてて、それがどんどん迫ってくるー!みたいなさ」 卒業。 それぞれの進路。 みんながいない日。 ひとりだけの世界。 そんな生き地獄に落ちる、13の階段を登ってく自分。 ぞくぞくっ。 想像力豊かなつかさは、こなたが発した言葉の意味を寸分の違いもなく理解した。 そう、私が言いたかったのはこれだ。 確実にやってくる別れが怖い。十何年の月日を共に過ごした人が、少しずつ‥‥縄が千切れてくみたいに、やがては自分から離れていってしまう。 そんな感覚。 「‥‥私も怖いに決まってるじゃん。だってこんな私と3年も付き合ってくれた友達なんだよ?「中々会う機会がなくなる」なんてのは言葉の上だけで、少しずつ「会えなくなっちゃう」のはわかってるし」 そう言って、頭からかぶったコートをますます自分の身に巻きつける。 その姿はまるで、怯えている自分を必死に守っているようにも見えた。 「会おうと思えばいつでも会える」ではなく「不可能」になってしまう時なんて、これからいくらでも出てくるだろう。 普段とぼけてる癖に変なところで鋭い少女は、まだ見えぬ未知の部分を今の自分なりにしっかりと把握していた。 「‥‥あ」 青い傘が光にさらされる。 「雨、やんだみたいだね」 心なしか、冷たい空気も少し収まったような気がする。 「‥‥何となーく、この『雨』と似てると思わない?」 雨がやんだのを喜ぶように増えだした雑踏。 気づけば、駅はすぐそこにあった。 「『雨』っていうのはさ。  いつもは晴れ間ばっかりで中々降ってくれないけど、忘れた頃にたまに降り出してさ。  『雨』を降らせるために雨ごいをしたり、色んな努力をしたりして・・・  それで降ってくれる時もあれば、降らない時もあるんだ。きっと雨にも事情が色々あってさぁ」 普段、こなたがこんな遠まわしな表現をすることはあまりない。 それでも、遠まわしな表現を読み取るのが苦手なつかさには何故かしっかりと伝わっていた。 2人の脳裏に映し出されるのは、きっと数年後の自分たちの姿。 「‥‥でも、『雨』の方は‥‥こんな妹なんか必要じゃない!って思ってたりしないかなぁ‥‥?」 「う~~~ん、そんなことはないんじゃない?」 駅の入り口を指差す。 そこには、腰に手を当てて仁王立ちをしてる影。 その右手に、水玉模様の傘。左手には、ケロちゃん模様がプリントされている傘。 「かがみの‥‥『雨』にとっての『雨』は私たちなワケだから、お互いたまには補給しあわないと水分不足で倒れちゃうじゃん?生きてくのに水分は不可欠なんだから。  ってなわけでつかさー!とりあえずはあそこにいる『雨』までダーッシュ!!!」 「う───うんっ!!」 夕日を背に颯爽と仁王立ちしてるカッコ良すぎるツインテールの髪の少女に、2人して左右から思いっきり抱きついた。 「たまには一緒に帰りたかったから」なんて素直に言えない双子の姉は、そんな2人を嬉しく思うだろうか? 了

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