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突然だが、私はあのGという虫が好きではない。 その黒い体は嫌悪感をたっぷりと漂わせ、見る者全てを不快にさせる。 そしてうねうね動き回る姿は、死の恐怖をも忘れさせるほどにおぞましい。 私がこの世で最も嫌いなものである、それ。 しかしそんな奴も、時には役に立つことがあるらしい。 2日前の夜。 久々に宿題がたくさん出たその日、私はそれらを片付けるために 自分の机に向かい、問題たちと格闘していた。 普段なら既に済ませて寝ている時間だったが、その日はまだ終わりそうになく、 少し気が立っていた。 全く、後どのくらいで終わるのよ・・・と。 そんな時、隣の部屋から何やら話し声が聞こえてきた。 つかさが誰かと電話しているらしい。 「・・・・・・うん、それで、・・・・・・そうだね、いいね~・・・」 こんな遅い時間に、誰と話してるんだか。 勉強している時に、これはいらいらすることである。 私は暫く我慢していたが、段々大きくなる話し声に耐えられなくなり、 ついにつかさの部屋に続くドアを開けた。 「つかさ!・・・今、夜でしょ。もっと小さな声で話しなさい」 「あっ・・・ごめ~ん、気をつけるね・・・」 わかってくれた様子だったので、私は安心してドアを閉め、再び机に向かった。 話し声はまだ聞こえてきたが、とても小さくなっていたので良しとし、宿題に精を出していた。 ところがそれも束の間のこと、暫くすると 「そうだよね~、ところでそのお肉のことなんだけど、焼く時・・・」 またつかさの声が大きくなっていた。 私はまた我慢しよう、と自分に言い聞かせた。 しかし、部屋を厚い扉で隔たれているにもかかわらず、 話の内容を一語一句聞き取れるほどに声は大きくなっている。 「そうそう、美味しいよねー!昨日ね、それで作ってみたら、すごく柔らかくてねー、・・・」 私ははついに我慢できず、床を叩きつけるように歩いてドアに向かい、 乱暴にそれを開くとつかさの部屋の床に踏み入った。 「つかさ!!静かにしなさいって言ったでしょ!」 「うっ・・・ごめん、でも一応声落としてたんだけど・・・」 「落ちてないわよ!もう切りなさい!電話!」 「うぅ・・・」 私に思い切り怒鳴られ、少し涙目になったつかさは、 「・・・ごめん、切るね」 と話し相手に告げ、携帯の電源ボタンを押し、電話を切った。 まだ怒りを鎮めきれていなかった私は、多少落ち着きながらも、ため息とともに 「ほんと、いい加減にしてよね」 と言い残し、自分の部屋に戻ろうとした。 その時。 「お姉ちゃんの、バカ」 つかさの呟く声がした。 怒りでピンピンに張っていた私の耳アンテナには、 どんな小さな愚痴も届かないはずはなかった。 「は!?」 私は勢いよく振り返り、怒号した。 聞こえないように言ったつもりが聞こえていたからか、 つかさは驚きに目を見開き、口に平手を当てるとともに、 「あ・・・」 と漏らし、少し下を向いた。 俯瞰したその顔からは、気まずさに加えて、内面に孕んだ恨みという感情が伝わってきた。 私はつかさに背を向けつつ、横目でそいつを睨みながら自分の部屋に二歩足を踏み入れた所で、 ドアを荒々しく閉じた。 そして宿題の続きに取り掛かり、それを済ませると灯りも消してさっさと床に就いた。 つかさの部屋からは何も聞こえてこなかった。 次の日。 前の晩のこともあり、私はつかさと口を利かなかった。 つかさも、私と話したくなさそうにしていた。 お弁当は各自自分の物を用意し、学校へも姉妹ばらばらで行った。 昼休み、お弁当の時間になったときも、私はつかさのクラスには行かなかった。 その代わり、クラスメートの友人である日下部・峰岸と一緒に昼食をとった。 私が前日のことを話すと、峰岸と、意外にも日下部も真剣に耳を傾けてくれた。 そして私と一緒に解決策を考え、いくつか案も出してくれた。 何かプレゼントを買ってあげるとか、携帯でメールするとか。 しかし、結局有効そうな手段は見つからず、私は二人に中途半端な礼を言うだけだった。 学校が終わり家に帰っても、私達は各々の部屋に閉じ篭ったまま、 顔すら見せ合おうとしなかった。 二人の部屋を仕切っている一枚の扉が、まるで結界のように、とても分厚く感じられた。 こういう時私が、昨日は言いすぎた、とでも言って素直に謝れば、 つかさは元通りに接してくれるのかもしれない。 しかし、私はそんなに素直でもなければ、つかさも私の申し出を そんなにすんなり受け入れてくれるとも思えない。 ああでもない、こうでもないと思案にふけっていたが、名案はまるで浮かばない。 どうしよう、と宿題にも手を出さず、私は椅子に座って一人思い悩んでいた。 その時である。 「きゃああああああああああ!!」 隣の部屋から耳を劈くような金切り声が聞こえてきた。 つかさだ。 本能的につかさの身の危険を悟った私は、結界を突き破るように、急いでそのドアを開けた。 それが視界に映った途端、私も思わず叫び声を上げそうになった。 例の忌まわしい虫、Gの姿があったのだ。 それは触覚をひょろひょろさせながら、床をうねうね這い回っている。 つかさは、机の上にのぼってしゃがみ、体を縮みこませてそれを見ている。 その子の全身から、怯えという感情が伝わってきた。 私が部屋に入ってくると、つかさはちらりとこちらを見た後、その虫に視線を戻し、 もう一度私の方を見つめてきた。 その目には小さな涙が浮かんでいる。 つかさは口をこわばらせたまま、何も言わない。 しかし言わなくても分かる。私に助けを求めているのだ。 とはいえ、私もGが怖くないわけではない。 本当のところ、私はその時つかさに構わず、逃げ出したかった。 しかし、怯える妹を放っておけるほど私も薄情ではないし、 第一妹の前でそんな格好の悪いところを見せたくなどない。 やはり、私が目の前をうろちょろするそいつを懲らしめなければならないのだ。 さて、そうしようと思えば、そいつに何か攻撃を加えるのは必然だ。 そうだ、と私は思い立ち、 「ちょっと待ってて」 とつかさの部屋を後にし、そいつを始末するための武器を取りに急いだ。 暫くして私は、左手に殺虫スプレーと、右手に丸めた新聞紙を持って再び部屋に入った。 つかさは依然として、机の上で縮み上がっている。 敵はというと、それは気ままそうに、相変わらず床をうろちょろしている。 私はゆっくり腰を下ろし、右手を床に着いて戦闘態勢に入った。 左手の人差し指をスプレーのボタンに添え、いつでも発射できるように備えておく。 そして気持ち悪く動き回るそいつにスプレーの銃口を静かに向け、 なるべく気付かれないようにそっと近づけていった。 標的まであと50cm、40cm、30cm。いよいよだ。 (行けっ!) 私は心の中で号令をかけ、人差し指でスプレーのボタンを力いっぱい押した。 と同時に、すさまじい量の白い霧状の粉と鼻をつんと突く臭いが、あたりに充満した。 思わず咳き込みそうになった。 それでもボタンを押す指は放さず、およそ10秒間そいつにスプレー攻撃を食らわせ続けた。 私は攻撃を終えると、すぐさまそいつの挙動に注意を向けた。 そいつはしばし動きを止めていた。が、すぐにまた動き出した。 しかし、先ほどとは様子が違い、何やら慌てふためくように動き回っていた。 自らの生命に異状を感じているようだ。 必死なのは分かるが、やはりその様子が気持ち悪いことには変わりなく、同情の気は全く湧かない。 暫くすると、そいつは完全に沈黙した。 「・・・」 無言で新聞紙を一枚はがし、黒い死体を新聞紙越しにひょいとつまむ。 念のため少々指で潰してとどめを刺しておいた後、 そいつを包み込むようにして新聞紙をぐしゃぐしゃに丸め、 そこにあったゴミ箱へと捨て去った。 戦闘は無事終了した。 ふぅ、よかった。 私が一息つこうとしたとき、つかさが机から降りてきた。 「ありがとおぉ~・・・」 そう言いながら私の胸に顔をうずめた。 その表情はよく見えなかったが、頻繁に鼻を啜る音は聞こえた。 私は黄色いリボンをつけたその頭を撫でながら、 「よしよし・・・」 と、幼児の様に泣きつくその子をなだめていた。 そして、思い切って言い出した。 「ごめんね、昨日は」 「いいんだよぉ・・・グスッ悪いのは私だよぉ・・・ヒック」 つかさは泣きながらも、懸命に受け答えようとしていた。 「こっちも・・・ちょっと言い過ぎたわ」 「グスッ・・・ごめん、本当にヒグッ」 その子を抱きかかえながら、泣き止むまで静かに見守っていた。 私はいつの間にか微笑んでいた。 それ以来、私達のわだかまりはすっかり解け、いつも通りの日常を送っている。 お弁当も、いつも通りつかさのクラスで、皆と一緒にとるようになった。 つかさが私のG退治を初めて話題にしたとき、例のガキがニヤニヤしながら、 「かがみんはやっぱ凶暴だねー」 と私をからかってきたのも、相変わらずだった。 峰岸や日下部も、良かったね、おめでとうのようなことを言ってくれた。 日下部は少々ぶっきらぼうだったが、それも自然に許すことが出来た。 それにしても、あのGが。 Gはこの世で一番嫌い。これは事実。 しかし今回のことで、Gに救われたことも事実である。 ありがとう、の一言でも言うべきなのだろうか。 いや。 やはり、Gは嫌いだ。 fin

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