ID:eDKbGas0氏:お姉ちゃんの失敗

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 警察の取調室。机をはさんで向かい合う男女。事情聴取。  刑事ドラマの取調シーンなんかでよくある光景だ。  よくある光景と違う点がひとつ。ここで向かい合っている男女はどちらも警察官だ。 「まさか、同僚の事情聴取をすることになるとは思わなかったぞ、俺は。」 「まさか、こんなことになっちゃうとはねぇ。いや~、お恥ずかしい。」 「事件性が無いとはいえ、いろんな人に迷惑かけたんだ。お叱りくらいは覚悟しとけよ。」 「そうだよねー。やっぱ、叱られちゃうよねー。はぁー。」 「しかし、成実。オマエ、いったい何やってこんな事になったんだよ。」 「いや、それがね。夕方にさー、従姉妹んトコに遊びにいったんだけどね・・・」  ☆ 「あっそびに来たよ~!!・・・って、あれ?」 「お、ゆいちゃん。こなたならまだ帰ってきてないぞ。」 「ゆたかはー?」 「んー、確か、友達の家に寄ってくるとか言ってたなぁ。」 「ありゃ。はずしたか。」 「まあ、こなたの方はすぐ帰ってくると思うよ。」 「ふむ。じゃあ、部屋で待ってようかなぁ・・・あ!?」  ぴこーん!お姉さんひらめいちゃったよ!  これは、前回失敗したこなたへのドッキリをリベンジするチャンスだね!!  こういうこともあろうかと、いろいろ用意してあるのだ。  作戦名は・・・“びっくり!こたつの中で血反吐を吐くお姉さん!”  『死んじゃうよー』と助けを求めながら、口から血をだらり。  これは成功しない訳がない!今度は前のようにはいかないよー、こなた!  前回の教訓を生かし、こたつの中に隠れるのは、こなたが帰ったのを確認してからとする。  さすがの私も、何十分もこたつの中に閉じこもるのはもうこりごりなのだ。  適当に漫画を読みながら待つこと20分。どうやら標的が帰ってきたようだ。 「お父さん、ただいまー。」  こなたの声を確認すると、すぐにコタツに潜る。  ふっふっふ。今日こそびっくりさせてあげるよ、こなた。  エンターテイナーゆいちゃんをなめてもらっては困るのだ!  こたつに潜んでから、5分・・・10分・・・なかなか来ないね。ふぅぅ、暑いよ~。  今か今かと待ちわびて、さらに5分程たった頃、部屋に人が入ってくる気配を感じた。  トタトタと近づいてくる足音を聞き、血糊を口に含む。準備万端だ。  トスンと腰を掛ける音に続いて、いつもこなたが座る側から足が伸びてきて・・・よし、今だ! 「ばぁ~。お姉さん、死んjy」 「ひゃあっ!」  バキッ!! 「うぎゅっ!!」 「きゃあっ!!」  ツインテールの少女はすばやくこたつから出ると、逃げるように部屋から出ていく。 「あ。・・・ま、待って・・・。」  ううう、作戦失敗だよ。い、今のは確か、こなたのお友達の・・・か・・・あ、世界が白くなって・・・がくっ。  反撃など予想していなかった私は、顔に一発いいのをもらい、こたつから這い出したところで力尽きた。  ☆  こなたの家を飛び出してから、無我夢中で走り続けた。  どれだけ走っただろう、気がつくと見慣れぬ公園まで来ていた。  体が走ることに疲れ、また、気持ちの方もだんだんと落ち着いてきたこともあって、足を止める。  とりあえず目に付いたベンチに体をあずけ、まずは息を整える。  そして、このような状況に陥る原因となった出来事を思い出してみる。  ・・・おそらく、あの人はドッキリのつもりでコタツに隠れていたのだろう。  言ってみれば、軽い冗談。私だって、幼い頃つかさに似たようなことをした。  私はそれを、思いっきり殴ってしまった。  それも、相手が血を吐くほど思いっきり。 「・・・どうしよう。こなたのお姉さんに、大変なコトしちゃった。」  そう。私が殴った相手は血を吐いて倒れてしまった。これはとても大変な事だ。   あまりに大変すぎて、裸足のまま逃げ出してきてしまったほどだ。 「・・・やっぱり、戻るべきよね。」  戻って謝るのが道理だ。それは理解している。しかし、戻るのが怖い。  ―もし、あの人が死にそうになっていたら。或いは、死んでいたら・・・。  もちろん、それがバカバカしい考えだというのはわかる。  私が拳で殴ったくらいで、人が死ぬなんてことはありえない。  さっきも考えたようにあれはたぶんドッキリ。単なる冗談なのだ。  ―でも、もし、ドッキリなんかじゃなかったら?  あの人は言おうとしていたはず。『死んじゃう』と。  よくよく思い出してみると、あの人が血を吐いたタイミングは私が殴るより前だ。  もしかして、助けを求めようとしていた?  でも、なんでこたつの中にいたんだろうか? 「・・・どっちにしろ戻らなきゃ、ね。」  戻ってみなければ何もわからない。何も解決しない。  意を決して立ち上がり、私は来た道をゆっくりと戻り始めた。  ☆ 「さっきの叫び声は、もしかしなくてもかがみだよねぇ・・・。」  悲鳴のようだったし騒がしかったけど、大丈夫だよね。もしかして“G”との遭遇?  すぐにでも確認して助けてあげたかったが、今は手も目も放せない。   日々の宿題のお礼としてかがみに振舞う、特製プリンの仕上げをしているからだ。  昨日の晩から準備をし、ついに今、製作工程は最終段階に入っていた。  こなた特製ソースが焦げてしまわないよう、火加減と真剣勝負の最中なのだ。  ま、何かあったらお父さんもいるしね。今は集中、集中っと。  コンロの火とにらめっこをしながら、ソースをぐいぐいとかき混ぜる。 「ただいまー。」  あ、ゆーちゃんが帰ってきた。  おっと、そろそろ火を止めなきゃ・・・  「きゃああああああああああっ!!」 「なっ!?ゆ、ゆーちゃん!?」  かがみだけでなく、ゆーちゃんまで悲鳴を!?これは、ただ事じゃない!!  私はすぐに居間へと飛び込む。お父さんも血相を変えてやってきた。 「・・・いったい、何が・・・!?」  そこで私が見たものは、血を吐き涙を流しながら、ゆたかを抱えるゆい姉さんの姿だった。  ☆ 「なんで・・・?なんで、救急車がいるのよ・・・。」  重い足取りでこなたの家まで戻ってくると、玄関の辺りには救急車と野次馬。  救急車が必要な事態といえば・・・いや、そんなまさか。  遠巻きに様子を窺っていると携帯が鳴った。こなたからだ。 「もしもし!!かがみ!?かがみだよね!?」 「な、何よ。えらい剣幕じゃない。」 「今どこにいるの!?大丈夫!?」 「べ、別に大丈夫よ。あんたの家の近くにいるわ。」 「そう、よかったぁ。何も言わずにいなくなってるから、心配したよぉ。」 「あ、・・・ごめん。」  こなたが私のことを心配してくれたのは嬉しかったが、今はそれどころではない。  とりあえず、さっきから気になっている事について尋ねてみる。 「ねえ、こなた。きゅ、救急車が来てるみたいだけど?」 「うん・・・そうなんだよ。実はさ、ちょっと今、大変な事になっててさ・・・。」  大変なこと?やはり、あの人が・・・。 「まぁ、救急車はもう必要ないんだけど・・・。かがみ、落ち着いて聞いてね?」  救急車が必要ない?それってまさか、あの人はもう・・・!?  最悪の考えが頭をよぎる。 「・・・さっき、ゆーちゃんが帰ってきて見つけちゃったんだよね。ゆーちゃん、ショックを受けて倒れちゃって・・・。」 「な、何を!?」 「えっ?かがみも見たんじゃないの?てっきり、それで出て行ったのかと・・・。」 「わ、私のことはいいから!ゆたかちゃんは、何を見つけたの!?」 「あ、うん・・・こたつの中でさ、ゆい姉さんが死んd」  聞きたくない単語が出てきた瞬間、思わず携帯を切ってしまった。  詳しい原因はわからないが、状況から察するに、どうやら私が殴ったあの人は死んでしまったようだ。  ゆーちゃんが倒れてしまうほどショックを受けるのも当然だ。帰ってきたら、姉が死んでいたのだから。  やはりあの時、あの人は最期の力で私に助けを求めてきたのではないか。  それなのに私は、救いの手を差し伸べるどころかとどめをさしてしまった。 「・・・ごめん・・・ごめんなさい・・・さよなら、こなた。」  再びこなたからの電話を着信して鳴りはじめた携帯は、私の手をすりぬけて地面に落ちる。  そして私は、今の自分にふさわしい場所へと向かって、ふらふらと歩みを進めた。  ☆ 「こたつの中でさ、ゆい姉さんが死んだふりをし・・・って、あれ?もしもし?もしもーし?」  その後、何回電話してもかがみは出てくれなかった。  あまりの事態に呆れちゃったのかな?  ゆい姉さんの悪ふざけのせいで、ゆーちゃんは倒れるは、救急車は来るは・・・。  かがみが出て行ったのもゆい姉さんが原因なんだろうなぁ。  かがみ、やっぱ怒ってるのかな。  もしかして、これ以上関わりあいたくないとか思われてないよねぇ? 「ゆいちゃん、やっていい冗談と悪い冗談があってだね・・・。」 「ごめんなさい。」  居間ではお父さんがゆい姉さんを説教している。 「ほんとにびっくりしたんだからね!もう!」 「反省してます。」  ゆーちゃんもご立腹だ。びっくりし過ぎて気絶までしてしまったのだから当然だ。  ちなみに、救急車を呼んだのはゆい姉さんだった。  ゆーちゃんの悲鳴で目を覚ました姉さんは、目の前でゆーちゃんが泡を吹いて倒れているのを見つけた。  まさか自分のせいで倒れたのだとは思いもせず、悪い病気か何かで倒れたのではないかと考えたのだそうだ。 「心臓が止まっちゃうかと思ったよ!もう、しばらく口きいてあげないんだから!」 「悪気があったわけじゃないんだよー。許しておくれよー。」 「簡単には許せないヨ。私もゆい姉さんのせいでソース焦がしちゃったんだからね!かがみにも呆れられるし・・・。」 「ごめんってばー。頼むから、もう許しておくれよぅ。」 「ゆいちゃん、謝って済む事と済まない事があってだね・・・。」  ゆい姉さんへの総攻撃が1時間近く続いたところで電話が鳴り、お父さんが席をはずす。  説教が中断されたためか、ホッとした顔をするゆい姉さん。本当に反省してるのかなぁ? 「姉さん、後でかがみにもちゃんと謝ってよね。」 「ううぅ。わかってるよぅ。迷惑かけちゃったからね。」   ゆい姉さんに釘をさしていると、お父さんがバタバタと戻ってくる。 「ゆいちゃん、すぐに出かけるぞ!こなたもついて来なさい!」 「ふぇ?どったの?」 「かがみちゃんが、大変なことになってるらしい。」  ☆ 「まったく、恥ずかしいったらないわ。」 「まあまあ、かがみん。結果オーライってやつだよ。」 「どこが結果オーライだっ!携帯も失くすし、最悪よ・・・。」 「えー。でも、携帯は自分で捨てたんでしょ?」 「ああーもうっ!うるさいわねっ!!そうよ!だったらどうだっていうのよっ!?」 「ちょ。落ち着こうよ、かがみ。イタタ、痛いって。HA☆NA☆SE!」 「あ・・・悪かったわ。あんたにあたってもしょうがないのにね。」 「ふぅ~、やれやれ。ま、気持ちはわかるけどネ~。」  何をどう勘違いしたのか、かがみは警察に自首した。ゆい姉さん殺しの犯人として。  女子高生が警官を殺したと言ってきたわけだから、警察は一時騒然となったようだ。  もちろん、すぐにゆい姉さんは死んでいないとわかって、かがみも開放されたのだが。  今は、かがみの代わりにゆい姉さんが事情聴取をされている。  警察が関係者からも話を聞きたいと言ったので、お父さんが別室で事情を説明することになった。  それが終われば、かがみと一緒に帰る予定だ。  かがみは自動販売機で買ったジュースを飲み干し、大きな溜息を漏らす。 「はぁー。なんでこんな事になったのかしら。」 「うーん。あの時、電話で私の話を最後まで聞かなかったからじゃない?」 「・・・そうね。というか、常識で考えたらありえない話なのよね。どうかしてたわ。」 「そんなに落ち込まなくても、いずれ笑い話になるって。」 「もう2度と思い出したくないわ、こんな大失態。誰にも話す気はないわよ。」 「えー。もったいない。こんなネタはなかなかないよ?」 「人の人生の汚点をネタ呼ばわりすんなっ!」 「まま、帰ったら約束どおり特製プリンをごちそうするからさ。元気だしてよ。」 「・・・その特製プリンに釣られて、あんたの家に行ったのが失敗の始まりなのよね。はぁー。」 「むふふ。ダイエット中なのに甘いものに釣られ、あげく騒動に巻き込まれるかがみん、萌え。」 「・・・もう、何とでも言うがいいわ。」  ☆  翌日、私は我慢しきれず、この極上のネタをつかさとみゆきさんにしゃべってしまった。  昨日の夜、かがみから誰にも話さないようにとお願いされ、了解していたにもかかわらずだ。  この2人になら話してしまっても許してくれるだろう。そんな甘い考えをもっていたのだ。  そして、そのことは大きな失敗だったと言わざるを得ない。 「ねえ、ゆきちゃん。さっきのお姉ちゃんすっごく怖かったね~。」 「ええ。近くで見ていただけですが・・・私も・・・気を失うかと・・・怖かったです。」 「・・・ガクガクブルブル・・・カガミサマ、ゴメンナサイ、カガミサマ、ゴメンナサイ・・・」 「どうしよう。こなちゃんが壊れちゃったよ~><」 「恐怖のあまりですね、わかります。」  結果として、私はリミッターを解除したかがみ様の真の怖ろしさを身をもって知る事となった。  後で知った事だが、この後うかつにちょっかいを出したみさきちも、大変な目にあったそうだ。  この日、陵桜学園には“柊狂暴伝説”が刻まれた。  ☆ 「あれ?こんだけいろんな人を騒動に巻き込んだんだから、私のドッキリって実は大成功じゃね?」 「成実。オマエ、長生きするよ・・・。とりあえず、顛末書はそのノリで書くなよ?」
 警察の取調室。机をはさんで向かい合う男女。事情聴取。  刑事ドラマの取調シーンなんかでよくある光景だ。  よくある光景と違う点がひとつ。ここで向かい合っている男女はどちらも警察官だ。 「まさか、同僚の事情聴取をすることになるとは思わなかったぞ、俺は」 「まさか、こんなことになっちゃうとはねぇ。いや~、お恥ずかしい」 「事件性が無いとはいえ、いろんな人に迷惑かけたんだ。お叱りくらいは覚悟しとけよ」 「そうだよねー。やっぱ、叱られちゃうよねー。はぁー」 「しかし、成実。オマエ、いったい何やってこんな事になったんだよ」 「いや、それがね。夕方にさー、従姉妹んトコに遊びにいったんだけどね・・・」  ☆ 「あっそびに来たよ~!!・・・って、あれ?」 「お、ゆいちゃん。こなたならまだ帰ってきてないぞ」 「ゆたかはー?」 「んー、確か、友達の家に寄ってくるとか言ってたなぁ」 「ありゃ。はずしたか」 「まあ、こなたの方はすぐ帰ってくると思うよ」 「ふむ。じゃあ、部屋で待ってようかなぁ・・・あ!?」  ぴこーん!お姉さんひらめいちゃったよ!  これは、前回失敗したこなたへのドッキリをリベンジするチャンスだね!!  こういうこともあろうかと、いろいろ用意してあるのだ。  作戦名は・・・“びっくり!こたつの中で血反吐を吐くお姉さん!”  『死んじゃうよー』と助けを求めながら、口から血をだらり。  これは成功しない訳がない!今度は前のようにはいかないよー、こなた!  前回の教訓を生かし、こたつの中に隠れるのは、こなたが帰ったのを確認してからとする。  さすがの私も、何十分もこたつの中に閉じこもるのはもうこりごりなのだ。  適当に漫画を読みながら待つこと20分。どうやら標的が帰ってきたようだ。 「お父さん、ただいまー」  こなたの声を確認すると、すぐにコタツに潜る。  ふっふっふ。今日こそびっくりさせてあげるよ、こなた。  エンターテイナーゆいちゃんをなめてもらっては困るのだ!  こたつに潜んでから、5分・・・10分・・・なかなか来ないね。ふぅぅ、暑いよ~。  今か今かと待ちわびて、さらに5分程たった頃、部屋に人が入ってくる気配を感じた。  トタトタと近づいてくる足音を聞き、血糊を口に含む。準備万端だ。  トスンと腰を掛ける音に続いて、いつもこなたが座る側から足が伸びてきて・・・よし、今だ! 「ばぁ~。お姉さん、死んjy」 「ひゃあっ!」  バキッ!! 「うぎゅっ!!」 「きゃあっ!!」  ツインテールの少女はすばやくこたつから出ると、逃げるように部屋から出ていく。 「あ。・・・ま、待って・・・」  ううう、作戦失敗だよ。い、今のは確か、こなたのお友達の・・・か・・・あ、世界が白くなって・・・がくっ。  反撃など予想していなかった私は、顔に一発いいのをもらい、こたつから這い出したところで力尽きた。  ☆  こなたの家を飛び出してから、無我夢中で走り続けた。  どれだけ走っただろう、気がつくと見慣れぬ公園まで来ていた。  体が走ることに疲れ、また、気持ちの方もだんだんと落ち着いてきたこともあって、足を止める。  とりあえず目に付いたベンチに体をあずけ、まずは息を整える。  そして、このような状況に陥る原因となった出来事を思い出してみる。  ・・・おそらく、あの人はドッキリのつもりでコタツに隠れていたのだろう。  言ってみれば、軽い冗談。私だって、幼い頃つかさに似たようなことをした。  私はそれを、思いっきり殴ってしまった。  それも、相手が血を吐くほど思いっきり。 「・・・どうしよう。こなたのお姉さんに、大変なコトしちゃった」  そう。私が殴った相手は血を吐いて倒れてしまった。これはとても大変な事だ。   あまりに大変すぎて、裸足のまま逃げ出してきてしまったほどだ。 「・・・やっぱり、戻るべきよね」  戻って謝るのが道理だ。それは理解している。しかし、戻るのが怖い。  ―もし、あの人が死にそうになっていたら。或いは、死んでいたら・・・。  もちろん、それがバカバカしい考えだというのはわかる。  私が拳で殴ったくらいで、人が死ぬなんてことはありえない。  さっきも考えたようにあれはたぶんドッキリ。単なる冗談なのだ。  ―でも、もし、ドッキリなんかじゃなかったら?  あの人は言おうとしていたはず。『死んじゃう』と。  よくよく思い出してみると、あの人が血を吐いたタイミングは私が殴るより前だ。  もしかして、助けを求めようとしていた?  でも、なんでこたつの中にいたんだろうか? 「・・・どっちにしろ戻らなきゃ、ね」  戻ってみなければ何もわからない。何も解決しない。  意を決して立ち上がり、私は来た道をゆっくりと戻り始めた。  ☆ 「さっきの叫び声は、もしかしなくてもかがみだよねぇ・・・」  悲鳴のようだったし騒がしかったけど、大丈夫だよね。もしかして“G”との遭遇?  すぐにでも確認して助けてあげたかったが、今は手も目も放せない。   日々の宿題のお礼としてかがみに振舞う、特製プリンの仕上げをしているからだ。  昨日の晩から準備をし、ついに今、製作工程は最終段階に入っていた。  こなた特製ソースが焦げてしまわないよう、火加減と真剣勝負の最中なのだ。  ま、何かあったらお父さんもいるしね。今は集中、集中っと。  コンロの火とにらめっこをしながら、ソースをぐいぐいとかき混ぜる。 「ただいまー」  あ、ゆーちゃんが帰ってきた。  おっと、そろそろ火を止めなきゃ・・・  「きゃああああああああああっ!!」 「なっ!?ゆ、ゆーちゃん!?」  かがみだけでなく、ゆーちゃんまで悲鳴を!?これは、ただ事じゃない!!  私はすぐに居間へと飛び込む。お父さんも血相を変えてやってきた。 「・・・いったい、何が・・・!?」  そこで私が見たものは、血を吐き涙を流しながら、ゆたかを抱えるゆい姉さんの姿だった。  ☆ 「なんで・・・?なんで、救急車がいるのよ・・・」  重い足取りでこなたの家まで戻ってくると、玄関の辺りには救急車と野次馬。  救急車が必要な事態といえば・・・いや、そんなまさか。  遠巻きに様子を窺っていると携帯が鳴った。こなたからだ。 「もしもし!!かがみ!?かがみだよね!?」 「な、何よ。えらい剣幕じゃない」 「今どこにいるの!?大丈夫!?」 「べ、別に大丈夫よ。あんたの家の近くにいるわ」 「そう、よかったぁ。何も言わずにいなくなってるから、心配したよぉ」 「あ、・・・ごめん」  こなたが私のことを心配してくれたのは嬉しかったが、今はそれどころではない。  とりあえず、さっきから気になっている事について尋ねてみる。 「ねえ、こなた。きゅ、救急車が来てるみたいだけど?」 「うん・・・そうなんだよ。実はさ、ちょっと今、大変な事になっててさ・・・」  大変なこと?やはり、あの人が・・・。 「まぁ、救急車はもう必要ないんだけど・・・。かがみ、落ち着いて聞いてね?」  救急車が必要ない?それってまさか、あの人はもう・・・!?  最悪の考えが頭をよぎる。 「・・・さっき、ゆーちゃんが帰ってきて見つけちゃったんだよね。ゆーちゃん、ショックを受けて倒れちゃって・・・」 「な、何を!?」 「えっ?かがみも見たんじゃないの?てっきり、それで出て行ったのかと・・・」 「わ、私のことはいいから!ゆたかちゃんは、何を見つけたの!?」 「あ、うん・・・こたつの中でさ、ゆい姉さんが死んd」  聞きたくない単語が出てきた瞬間、思わず携帯を切ってしまった。  詳しい原因はわからないが、状況から察するに、どうやら私が殴ったあの人は死んでしまったようだ。  ゆーちゃんが倒れてしまうほどショックを受けるのも当然だ。帰ってきたら、姉が死んでいたのだから。  やはりあの時、あの人は最期の力で私に助けを求めてきたのではないか。  それなのに私は、救いの手を差し伸べるどころかとどめをさしてしまった。 「・・・ごめん・・・ごめんなさい・・・さよなら、こなた」  再びこなたからの電話を着信して鳴りはじめた携帯は、私の手をすりぬけて地面に落ちる。  そして私は、今の自分にふさわしい場所へと向かって、ふらふらと歩みを進めた。  ☆ 「こたつの中でさ、ゆい姉さんが死んだふりをし・・・って、あれ?もしもし?もしもーし?」  その後、何回電話してもかがみは出てくれなかった。  あまりの事態に呆れちゃったのかな?  ゆい姉さんの悪ふざけのせいで、ゆーちゃんは倒れるは、救急車は来るは・・・。  かがみが出て行ったのもゆい姉さんが原因なんだろうなぁ。  かがみ、やっぱ怒ってるのかな。  もしかして、これ以上関わりあいたくないとか思われてないよねぇ? 「ゆいちゃん、やっていい冗談と悪い冗談があってだね・・・」 「ごめんなさい」  居間ではお父さんがゆい姉さんを説教している。 「ほんとにびっくりしたんだからね!もう!」 「反省してます」  ゆーちゃんもご立腹だ。びっくりし過ぎて気絶までしてしまったのだから当然だ。  ちなみに、救急車を呼んだのはゆい姉さんだった。  ゆーちゃんの悲鳴で目を覚ました姉さんは、目の前でゆーちゃんが泡を吹いて倒れているのを見つけた。  まさか自分のせいで倒れたのだとは思いもせず、悪い病気か何かで倒れたのではないかと考えたのだそうだ。 「心臓が止まっちゃうかと思ったよ!もう、しばらく口きいてあげないんだから!」 「悪気があったわけじゃないんだよー。許しておくれよー」 「簡単には許せないヨ。私もゆい姉さんのせいでソース焦がしちゃったんだからね!かがみにも呆れられるし・・・」 「ごめんってばー。頼むから、もう許しておくれよぅ」 「ゆいちゃん、謝って済む事と済まない事があってだね・・・」  ゆい姉さんへの総攻撃が1時間近く続いたところで電話が鳴り、お父さんが席をはずす。  説教が中断されたためか、ホッとした顔をするゆい姉さん。本当に反省してるのかなぁ? 「姉さん、後でかがみにもちゃんと謝ってよね」 「ううぅ。わかってるよぅ。迷惑かけちゃったからね」   ゆい姉さんに釘をさしていると、お父さんがバタバタと戻ってくる。 「ゆいちゃん、すぐに出かけるぞ!こなたもついて来なさい!」 「ふぇ?どったの?」 「かがみちゃんが、大変なことになってるらしい」  ☆ 「まったく、恥ずかしいったらないわ」 「まあまあ、かがみん。結果オーライってやつだよ」 「どこが結果オーライだっ!携帯も失くすし、最悪よ・・・」 「えー。でも、携帯は自分で捨てたんでしょ?」 「ああーもうっ!うるさいわねっ!!そうよ!だったらどうだっていうのよっ!?」 「ちょ。落ち着こうよ、かがみ。イタタ、痛いって。HA☆NA☆SE!」 「あ・・・悪かったわ。あんたにあたってもしょうがないのにね」 「ふぅ~、やれやれ。ま、気持ちはわかるけどネ~」  何をどう勘違いしたのか、かがみは警察に自首した。ゆい姉さん殺しの犯人として。  女子高生が警官を殺したと言ってきたわけだから、警察は一時騒然となったようだ。  もちろん、すぐにゆい姉さんは死んでいないとわかって、かがみも開放されたのだが。  今は、かがみの代わりにゆい姉さんが事情聴取をされている。  警察が関係者からも話を聞きたいと言ったので、お父さんが別室で事情を説明することになった。  それが終われば、かがみと一緒に帰る予定だ。  かがみは自動販売機で買ったジュースを飲み干し、大きな溜息を漏らす。 「はぁー。なんでこんな事になったのかしら」 「うーん。あの時、電話で私の話を最後まで聞かなかったからじゃない?」 「・・・そうね。というか、常識で考えたらありえない話なのよね。どうかしてたわ」 「そんなに落ち込まなくても、いずれ笑い話になるって。」 「もう2度と思い出したくないわ、こんな大失態。誰にも話す気はないわよ」 「えー。もったいない。こんなネタはなかなかないよ?」 「人の人生の汚点をネタ呼ばわりすんなっ!」 「まま、帰ったら約束どおり特製プリンをごちそうするからさ。元気だしてよ」 「・・・その特製プリンに釣られて、あんたの家に行ったのが失敗の始まりなのよね。はぁー」 「むふふ。ダイエット中なのに甘いものに釣られ、あげく騒動に巻き込まれるかがみん、萌え」 「・・・もう、何とでも言うがいいわ」  ☆  翌日、私は我慢しきれず、この極上のネタをつかさとみゆきさんにしゃべってしまった。  昨日の夜、かがみから誰にも話さないようにとお願いされ、了解していたにもかかわらずだ。  この2人になら話してしまっても許してくれるだろう。そんな甘い考えをもっていたのだ。  そして、そのことは大きな失敗だったと言わざるを得ない。 「ねえ、ゆきちゃん。さっきのお姉ちゃんすっごく怖かったね~」 「ええ。近くで見ていただけですが・・・私も・・・気を失うかと・・・怖かったです」 「・・・ガクガクブルブル・・・カガミサマ、ゴメンナサイ、カガミサマ、ゴメンナサイ・・・」 「どうしよう。こなちゃんが壊れちゃったよ~><」 「恐怖のあまりですね、わかります」  結果として、私はリミッターを解除したかがみ様の真の怖ろしさを身をもって知る事となった。  後で知った事だが、この後うかつにちょっかいを出したみさきちも、大変な目にあったそうだ。  この日、陵桜学園には“柊狂暴伝説”が刻まれた。  ☆ 「あれ?こんだけいろんな人を騒動に巻き込んだんだから、私のドッキリって実は大成功じゃね?」 「成実。オマエ、長生きするよ・・・。とりあえず、顛末書はそのノリで書くなよ?」

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