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――思い出してみれば、つかさは小さな頃から色んな事で失敗してたわ。 普段はおっとりしてるから、どこかでボケーッと、気を抜いちゃうんでしょうね。 今思うと、可愛らしいミスが結構多かった気がするわ。例えばね……。 ――柊つかさ 4歳の秋 幼稚園に入園して半年が経ち、気の合う友達もでき、 ある程度の“ルール”の中で生活することに慣れてきたかもしれない――といった時期。 ある日、かがみ達の通っていた幼稚園で「お絵かき」の授業が行われた。 クレヨンで画用紙に描いていくのは普通すぎてつまらない、という園長の計らいで、絵の具を用いて絵を描くことになっていた。 幼稚園児が相手だから、先生も当然、それなりの注意を促さなければいけない。 常識を持った人間なら「そんなことわかってるよ」と一蹴されるようなことでも、だ。 「いいですか? 絵の具を溶かしたお水は絶対に飲んじゃいけませんからねー」 こんな具合に。 子供達は各々に返事をし、そしてそれぞれの作業に集中していくのである。 かがみとつかさも、お互い隣に座って筆を滑らせていった。 作業も中盤、徐々描きたいものが形どられてくる頃、つかさの絵を見ていたかがみが口を開いた。 「ここ、オレンジにした方がいいんじゃない?」 かがみが指差したのは、木に生っている果実。恐らく、ミカンだろう。 つかさがそこを黄色に塗っていたものだから、かがみは気になってしまったのだった。 「えー、でも、オレンジなんてないよぉ」 「こうやって、こうするのよ」 幼い頃から頭のよかったかがみは、筆で器用に赤色と黄色を混ぜ合わせた。 瞬く間に、オレンジ色の絵の具が完成する。 つかさは、その光景を目を輝かせながら見ていた。 「すごーい、お姉ちゃん。ありがとう」 つかさはかがみと同じように、オレンジ色を作ろうと、赤色の絵の具チューブを手に取った。 パレットに向かって、力を込めて絵の具を出そうとする。 次の瞬間、絵の具はチューブから思いっきり飛び出した。 そして、絵の具が飛び出した先は、かがみの絵。しかも、核となる人間の顔部分である。 つかさは大慌てで雑巾で拭き取ろうとするが、そんなことをすればどうなるか予想するには、4歳という年齢は幼すぎたのかもしれない。 雑巾をどけると、画用紙は赤色でぐちゃぐちゃになってしまっていた。 あらかじめ塗ってあった色とも混ざり合い、地獄絵図――とまでは行かないが、酷い色合いを生み出していた。 それでつかさは余計に慌ててしまい、あたふたしてる間に水の入った小さなバケツを蹴飛ばしてしまい、今度は自分の画用紙も、 その周囲にいた友達の画用紙までも駄目にしてしまったのである。 ――まぁ思い返してみると、つかさのドジはあの頃から全開だったわね。 でもつかさのドジは周知の事実だったからね。誰も責めなかったわよ。 というか、責めちゃうとつかさったらどんどん責任感感じちゃって、終いにゃ泣いちゃうんだから。 ……あぁ、他にも、こんなことがあったかしらね。 ――柊つかさ 7歳の夏 夏、小学生は近所のプールへ出かけることが多い。 それは柊家も例外ではなく、セミさえも暑さでうだってしまいそうな日、避暑がてらに市民プールへと出かけようという計画が立った。 長女いのりは当時所属していたバレーボール部の合宿へ、次女まつりは友達と出かけるということで、 母のみき、かがみ、そしてつかさの三人で出かけることとなった。 最初、みきは「たまにはいいわよね」と市外の大きな、 それこそレジャー施設の一角をなすような立派なプールへと連れて行こうとしていたが、かがみが断った。 子供には「出かける」という時点で十分イベントであり、「プールに入ること」はオマケでしかなく、 『プールがそれほど広くない』、『ウォータースライダーがない』、 さらには『遊具の最低ランクである滑り台すらない』という悪条件でもでもつかさたちにとってはどうでもよかったのであった。 プールに来て2時間は経過したであろうか。 パンパンに膨れたビニールのボールにしがみついていたかがみは、突然ハッとしてみきの元へ泳いでいった。 「お母さん、つかさがいない」 みきも大慌てで捜すが、見つからない。迷子の放送もされない。 そんなに広くないのに、なぜ迷子になるんだろう。二人の頭にそんな疑問がよぎった、その時だった。 「お姉ちゃーん、お母さーん」 声のするほうに振り向くと、そこには笑顔のつかさがいた。 両手に、大量の缶ジュースを抱えて。 「ちょっと、これどうしたの」 みきが目を最大に見開いて言う。つかさはえへへ、と頬をかいた。 「実はねー」 つかさによると、かがみとみきを捜している最中に見知らぬおじさんに声をかけられ、 千円札を渡されたのでそれでジュースを買ってきたのだという。 つかさが満面の笑みで満足そうに言うので大した問題にはならなかったが、みきは心底安心した顔をしていた。 だがしかし、3人はその日の夜のニュースを見て仰天することになる。 『市民プールそばで、幼い女の子にお金を渡して車で誘拐しようとしたとして男が逮捕された』 そういうニュースが流れ、容疑者の顔が映された瞬間につかさが「あ、あのときのおじさん」と呟いたのだった。 かがみとみきは、つかさの呟きを聞いて同じことを思った。 ――つかさは、一歩間違えたら誘拐されていた。 当の本人は、テレビ画面をぽかんとして見つめていた。 「逃げる」という選択肢が頭の中に入っていなかった……人を疑うことを知らないつかさらしい失敗だったが、 一歩間違えれば大事件、という事態につかさを除く二人は苦笑いしか浮かべることができなかった。 ――天然ボケなんてよく言われてるけどね、そんなレベルじゃないわ。 でもね、つかさって、自分が失敗することで誰かを助けてる、そんなときもあるのよ。 確か……中学3年生の頃、だったかしらね。こんなことがあったの。 ――柊つかさ 15歳の冬 受験生にとって一日一日が大切であるこの時期は、遊ぶ暇を惜しんで勉強しなければいけない。 しかし、勉強ばかりでは体も精神も持たない、ということで、あやのとみさおは終業式1週間前からクリスマスパーティをやろうと企画していた。 本来最も勉強に励まなくてはいけない人間(誰とは言わないが)が企画しているのは少々腑に落ちなかったが、かがみは参加することにした。 普段からあやのたちと絡みがないからたまには、ということで、つかさも参加させることにした。 そういうわけで、四人で本当に小規模なパーティを催すことになった。 それぞれプレゼントを一つずつ用意して、三角帽子をかぶって、クリスマスツリーも用意して、部屋も綺麗に飾り付けて。 いつも行かないからという理由で会場に決まったあやのの部屋は、みるみるうちに本格的なパーティ会場へと姿を変えていった。 歌を歌って、お菓子を食べて、プレゼントを交換して、パーティは順調に進んでいった。 各々が満足してきて、パーティももうすぐお開きかと思われた頃に、事件は起きた。 「ふあぁ……現実逃避の時間ももう終わりかぁ……」 「そうよ。今日これだけ遊んだんだから、本腰入れて勉強することね」 「みゅ~。あやのー、柊が現実的すぎて困るよぉ~。パーティ楽しんでなかったんじゃねぇのか」 「いつまでも甘えちゃ駄目よ、みさちゃん。私たちは受験生なんだからね」 「あやのまでそんなこと言うのかよ~」 実際、パーティの終わりを拒んでいるのはみさおだけではない。あやのも、かがみも同様だった。もちろん、つかさも。 「そーいや、柊妹は?」 「あぁ、最後にとっておきの物があるとかなんとかで、下に行ってるわよ」 「そっかぁ。なんだろなー」 みさおがゴロンとその場に寝転ぶ。 寝転んだ先に、ジュースが入ったコップがあることに気付かないまま。 ガタンと言う音と共に、コップは倒れた。ジュースが放射状に広がる。 甘い匂いが3人の鼻をつくと同時に、みさおが慌てて立ち上がった。 「うわぁっ、やっちゃった! あやの、ごめん! 何か拭くもの、拭くもの……」 「そんなに慌てなくていいわよ、みさちゃん。フキンがあるから」 あやのが笑顔でフキンを渡そうとする。 が、フキンはあやのの手から滑り落ち、テーブルの上に再び落ちた。 「……みさちゃん、どういうこと」 みさおの手に握られていたのは、リラッタヌのぬいぐるみ。 それは、あやののお気に入りだった。 慌てふためいていたみさおが手当たり次第に“布製のもの”を探し、手に取ったのが、それだったのだ。 みさおは自分の手に持っているぬいぐるみに視線を移す。そして、驚愕、絶望。 リラッタヌの愛くるしい顔が、ジュースの色に染まってしまっていた。 「ここここここれは、違うんだよ、あやの! わざとじゃ、わざとじゃないって!」 いくら弁解したところで、そこにはあるのは“死”という選択肢のみ。 あやのの髪の毛は広がって、ゆらゆらと動いていた――みさおにはそう見えたようだ――そして、“死”を確信した。 そのとき、部屋のドアがノックされた。 「誰か開けてー」 つかさの声だった。 一触即発ムードが漂う中、かがみがドアを開ける。 つかさは、両手で4人で食べるには大き目のケーキが載ったトレイを持っていた。 「うわぁ、美味しそう」 かがみが恐怖でひきつった顔で無理に笑顔を作って、後ろの二人に微笑みかけた。 みさおは涙目のまま、あやのは目をギラつかせたまま、つかさのケーキに視線を移した。 「えへへ、今日の為に頑張って作ってきたのー。今そこに持ってくね」 つかさが今にもスキップし出しそうな雰囲気で部屋に入ってくる。 足元への警戒は、皆無だった。 「あ、つかさ、危ないよ!」 かがみの静止が遅れた。つかさは、さっきみさおが倒したコップに足をとられた。 そして、トレイを持ったまま前に倒れこむ。ケーキだけは必死に護ろうとした。 そして、着地。つかさはケーキに顔からダイブした。 クリームが飛び散って、テーブルに白い斑点がついた。 静寂が流れる。つかさはケーキから顔を上げて、目をパチクリとさせた。 顔中、特に鼻の下と顎に、まるでサンタクロースの髭のようにクリームがべっとりとついていた。 「……ぷっ」 あやのが吹き出した。つられて、かがみも、みさおも笑う。 「あっははは……。つかさ、何やってんのよ。あはははは……」 「ほんっと妹はおっちょこちょいだなぁ。あー、苦しい」 「ケーキ、このままでもいいから食べちゃいましょうよ。うふふ」 つかさも、申し訳なさを交じえながらも、えへへ、と小さく笑った。 ぐちゃぐちゃになったケーキは、今まで食べたどのケーキよりもさぞ美味しかったことだろう。 こうして、受験生達の小さなクリスマス・パーティは、思いもよらない形でハッピーエンドを迎えたのであった。 ――本当に助かったわよ。あの時は。 もしかしたら、あれがあったからそれ以降の勉強に集中できたのかもしれない……と思うと、余計に、ね。 お陰で、私たち四人は一緒に陵桜に合格。ずっと仲良くやって来れたもの。 それでも、やっぱり人間、人生最大の失敗ってあるのよね。 それはつかさも一緒。高校卒業して、専門学校に入学して。そんなときに、つかさは人生最大の失敗をしたの。 ――柊つかさ 20歳の春 料理の専門学校に入学して、もうすぐ2年が経とうとしていた。 技術も、経験も順調に積み上げ、いわゆる“優等生”と呼ばれるほどのレベルにまでつかさは達していた。 そんな中、つかさは専門学校で出会ったある男性に興味を抱いていた。 優しい眼差しと、授業に対する直向な態度。教室で一緒になり、作業を共にする中で、徐々に彼への恋心が芽生えてきたのであった。 つかさは、彼と帰りを共にしたり、一緒に食事をしたり、彼と話す機会を沢山作った。 その中で見た、彼の、将来を語るときの希望に満ちた顔。 できることなら、彼と付き合いたい――。それが生まれて20年にしてようやくの“初恋”であった。 初めての恋だったから、頼れる姉達に電話で何度も相談をした。 3人はそれぞれ、自分の経験や知識を頼りにアドバイスをくれた。 そのお陰で、つかさと彼の関係はどんどん深まっていった。 しかし、どうしてもあと一歩が踏み出せなかった。 “友達以上恋人未満”とはよく言ったものだが、つかさはまさにそんな状況に陥っていたのだった。 もともと恋愛などしたことがないし、自分から誰かを好きになるという経験も初めてだった。 だから、「彼は本当は自分のこと何とも思っていないんじゃないか」「付き合いたいと思っているのは自分だけなんじゃないか」 という不安が彼女の胸の内で徐々に膨らんでいく。時が経てば彼は誰か別の女性と付き合ってしまうかもしれない。 そんなジレンマが渦を巻き、より一層つかさを焦らせていた。 ある日、つかさはその日の午前の授業を終え、一人で昼食に出かけていた。 当時つかさがお気に入りだったイタリアンの店。彼と初めて食事をした店でもあった。 いつもの椅子に座り、いつものようにカルボナーラを注文する。 コップの中に注がれた水が、店に零れ落ちている日差しに反射し、輝いていた。 つかさは頬杖をつき、ぼやっと店の外を眺めた。この場所からは、外の景色が良く見える。 隣の喫茶店で、勉強する学生の姿が見える。頭を抱え、何やら必死に悩んでいるようだった。 彼との関係のことで、何回頭を抱えただろう。 それは本当に些細なことから、とても大事なことまで、様々だった。 そして今抱えている悩みは、これまでのそれより遥かに大きい悩みだった。 喫茶店の学生から視線をずらす。カップルも何組か確認できた。 「他人の顔を無闇に見つめるものじゃない」、そう父親に教わっていたが、つかさはカップルたちの顔をつい見ていった。 そして、つかさは見てしまった。 楽しそうに話をする女性。 そしてその隣に座る、彼の姿を。 衝撃が走った。目を塞ぎたかった。そして、自分の記憶を闇の中へ葬り去ってしまいたかった。 あぁ、そうか。 やっぱり彼には、彼女がいたんだな。 そう思うと、涙を堪えることができなくなってしまった。 逃げ出したい。この場から。 何事も無かったかのように、彼の前から姿を消してしまいたい。 つかさは立ち上がり、代金をテーブルに置き、店を後にした。 そのとき、彼と目が会ったような気がした。 だが、駆けた。逃げるように。家に着いた頃には、体中がきりきりと痛んでいた。 部屋の鍵を開け、ベッドに倒れこんだ。顔は涙でぐしゃぐしゃだった。 一時間泣いてもまだ泣きたりず、部屋にはつかさのすすり泣く声が染み付くように響いていた。 泣き疲れて、窓から外をぼんやりと眺める頃には、日はすっかり沈んでいた。 照明を点ける気など起きなかった。月明かりだけが部屋を照らしていた。 ジーンズのポケットに振動があった。 携帯電話に着信。ディスプレイには、彼の名前。一瞬悩んだが、つかさは通話ボタンを押した。 「もしもし」 「あ、つかさ? 俺だけど」 彼の声を聞いていると、普段であれば心が軽くなるような錯覚に陥る。でも、今の心はそれでも深く、沈んでいた。 彼の隣に座って、楽しそうに笑っていたあの女性の顔を思い出してしまう。 「今日隣に座っていた人……誰?」 「あ……やっぱり見てたんだ。でも心配しないで、俺の姉さんだから」 それを聞いて、一気に心の中が台風一過の空のように晴れ渡っていく。 なんだ。そうだったんだ。あの人はお姉さんで、ただ姉弟の他愛もない会話をしていただけだったのか。 しかし、口を突いて出た言葉は、お互いにとってあまりにも残酷だった。 「嘘」 その一言をきっかけに、彼を信じる心を辛うじて繋ぎとめていたものが外れた。 「嘘。そうやって誤魔化して。本当は彼女でしょ? あんなに笑って。私にあんな笑顔見せてくれたこと、無い」 「何を言ってんだよ。本当に姉さんなんだ」 「嫌。そんなの聞きたくない。もうたくさん。私の気持ちを弄んで、楽しかったでしょ? でももうおしまい。もう、あなたと私は、これでおしまい」 彼が何か喋っているのが聞こえたが、理解しようとする気にはなれなかった。 電話の向こうで何を考えているのか気になったが、その感情を振り払った。 「じゃ、彼女とお幸せに。さよなら」 乱暴に電話を切る。そして、携帯電話をベッドに放り投げた。 そして――激しく後悔した。 今まで彼を疑ってきたことなんて一度も無かったのに。 確信はないけど、あの人は彼の言うとおり、本当にお姉さんなのかもしれなかったのに。 それに、あんなに冷たく突き放すことも無かったのに。 しかし、後悔先に立たず、今度こそ、いくら悩んでも解決できるわけが無かった。 涙すら出ない。むしろ、自分の愚かさが可笑しく感じた。 「ははは……もう駄目だ、私……。誰も信じてあげられなくって……」 月明かりの中で、一人呟く。声は、微かに震えていた。 「何で……何で信じてあげられなかったの?」 徐々に震えが酷くなってくる。感情を抑えることができない。呼吸が苦しくなっていた。 「勝手に一人で思い込んで、最低だ、私……」 壁に寄りかかるようにして座りこみ、自分の膝に顔を埋めて、また泣いた。一人静かに、すすり泣いた。 目の前が真っ暗だった。月はつかさが今まで見たことの無いような美しさを誇っていたのに、それを見る余裕などもはや持ち合わせていなかった。 だから、突然の来訪者に、気付くわけもなかった。 つかさを抱きしめる両手の感触。つかさは涙で濡れた顔を上げた。 薄暗い月明かりの中でも、はっきりと見て取れた。 愛しい、彼の顔。 つかさは、目を大きく開き、彼の顔をじっと見つめた。 「ごめん……」 彼が、そっと言葉を漏らす。 「どうして、どうして謝るの……?」 「だって、つかさを不安にさせて、怒らせて、何もできなかったんだから……」 その言葉で、つかさの目から一気に涙があふれ出した。 「違う、違うよ。君が悪いんじゃないよ。悪いのは、全部、私。勝手に勘違いして、怒って、君を困らせて……最低だよね、私」 「俺だ。俺のせいだ……。ごめん、ごめんね、つかさ……!」 彼は、つかさを力いっぱい抱きしめた。つかさも、その腕の中に身を預けていた。 二人の視線が、一つに絡み合った。 そして、つかさは、そっと、目を閉じた。 ――失敗は成功の元、って言うけどね。つかさからこの話聞いたとき、本当にそれを実感したわよ。 だって、こうやって今、二人が結ばれてるんだもの。一人の姉として、妹の成功を心から喜ぶわ。 ――それじゃ、最後に一言よろしく、かがみん。 ――えっと……つかさ、結婚おめでとう。先手を取られて、ちょっと悔しいです。 姉さんたちも仰天してたからね。まぁ、お母さんは私たち姉妹の中でつかさが最初に結婚すると思ってたみたいだけど。 その……私ね、思うの。つかさは、失敗したとき、同時にみんなに幸せを振りまいてくれてるんだって。 失敗しても、笑ってるでしょ? それを見てると、つかさの失敗も、しょうがないなぁ、って思えるのよね。 もちろん、他人に被害があったときは一生懸命謝ってくれる。 つかさのそういうところ、私は見習いたいな、と思ってます。到底無理だとは思うけどね。 ――さすが、己を解っていらっしゃる。 ――うるさい。 まぁとにかく、ずーっと、ずーっとそのつかさでいてください。 別にね、失敗することが悪いことじゃないの。「失敗したくない」って、無駄な努力することないんだから。 失敗して、そこから何もしない人間が一番ダメ。失敗してもそれを糧にできることが、一番大事なんです。 失敗してもメゲないつかさが、みんな大好きなんです。 だから、旦那さんにも迷惑かけるかもしれないけど、怒ったり、へこんだり、泣いたりしないでね。 本当に、結婚おめでとう。そして、末永くお幸せに。 式場が、拍手で溢れかえる。 ウェディングドレスに身を包んだつかさは、姉の手を取り、そして抱きついて泣いた。 かがみも、その背中を叩きながら、泣いた。 「ありがとう、お姉ちゃん……私、私、絶対にずーっと幸せでいるから」 「うん。絶対よ。途中で悩んだりしたら、絶対私のとこに来なさい」 つかさは、またかがみに抱きついた。拍手がより一層大きくなる。 その傍で、こなたも、みゆきも涙を流していた。会場にいた全員が、目に涙を溜めていた。 式場の拍手は、暫く止むことはなかった。 それはもう、耳を劈くほどの拍手だった。 「まさかこんな大長編ドキュメンタリー映画になるとはねぇ」 「こなちゃんにはびっくりだよー」 「まぁ、あたしの放送作家としての技術がモノをいったわけよー」 かがみの提案で撮影することになったドラマ。 つかさの歴史を辿って、最後にメッセージを添える。そんなありきたりなものでも、かがみには、つかさに届けたかった思いがあった。 だから、放送作家として活躍するこなたに依頼して、映像を作ってもらいたかった。 この映画でつかさ役を演じる為に、伸ばしていた髪をショートカットにしたが、そのことに躊躇いはなかった。 それほど、つかさを祝ってあげたい、という気持ちが強かったのだ。 「さてと、そんじゃ二次会行こうかねー」 「そうですね。今日はとことん飲みましょう。それはもう、1年間アルコールを摂取しなくてもいいほどに」 「ちょ、みゆき、それ医者の言うセリフじゃない」 「とにかく行こうよ! いざ、二次会へ!」 4人の足取りは、軽やかだった。 もちろん、一番はりきっていたのは、つかさだった。 その後の二次会で、つかさがウィスキーの水割りを作ろうとした際に 水と間違えて焼酎を入れてしまい、飲んだ途端にひっくり返ってしまったのは、また別の話である。 Fin

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