ID:Ve.JVJA0氏:高良家の人々

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 放課後。 「日誌をお届けに参りました」  担任の黒井先生に日誌を手渡す。 「おつかれさん。いつもすまんな、高良」 「いえいえ。学級委員長の仕事ですから」  教室に戻り、かばんをとって、帰路に着く。  何もなければ友人と一緒に帰ることも少なくないのだが、今日は委員会があったので一人だ。  電車の中で本を読む。  つい本に夢中になってうっかり乗り過ごしたことも一度や二度ではないが、今日は大丈夫だった。  駅から徒歩で自宅にたどり着く。 「ただいま、戻りました」  リビングから声がする。 「まぁ、そうなんですか。すごいですね」  ゆかりが電話で話をしていた。  雰囲気からしてかなりの長電話のようだ。 「そうなんですのよ。ええ、では、この辺で」  ゆかりが電話の受話器を置き、 「あら、お帰りなさい」 「どちら様だったんですか? 会話が弾んでいたようですけど」 「勧誘のお電話よ」 「あのう……そういう電話はすぐに分かるようになっていたはずですが」  最近の電話は進歩しており、データベースに登録されている電話番号からの電話は、ナンバーディスプレイに企業名などが表示されるようになっている。 「うん、でもほら、ヒマだったからお話ししたくて。三時間以上も話しちゃった」 「はぁ……。では、ご夕飯の準備もまだなんですね?」 「あっ、ごめんなさい。全然してないの~」 「残っている材料で炒飯でも作りますね」 「ごめんなさいね」  冷蔵庫を開ける。 「あら? 同じヨーグルトがたくさんありますね」 「みなみちゃんの海外旅行のお土産なの。体にいいっていうからたくさんもらっちゃった」 「では、ご夕飯のあとのデザートにいたしましょう」  台所にたち、夕飯の準備にかかる。  スライサーでニンジンの皮をむいていたところ、 「痛っ」  指を切ってしまった。  とりあえず、水道の水で傷口を洗い流して、ティシュペーパーでふき、絆創膏を貼る。  このようなドジも、一回や二回ではない。 「しっかりしないといけませんね」  自分にそう言い聞かせる。  三人分の炒飯を作り、テーブルに並べる。  ちょうどそのとき、母が帰ってきた。 「ただいま戻りました」 「お帰りなさい。今日は遅かったわね、みゆき」 「少々残業がありまして、遅れてしまいました」  みゆきは精神科医である。残業は多い方ではないが、今日は少しばかり帰宅が遅かった。  娘のエプロン姿を見て、 「あら、ご夕飯を作ってくれたんですか?」 「はい。余った材料で作った炒飯ですが」  三人で食卓を囲む。  食事はこの三人の場合が多い。婿養子の父は単身赴任で、祖父は幼いころに亡くなってたから。 「ねえ、みゆき。男の子ほしいって思わない」 「どうしたんですか、急に」 「ご近所さんにも男の子っていないでしょ。いた方が楽しいかなぁって」 「そうですね。今度、夫と相談してみますね」  ゆかりが唐突にふってきた話題を、みゆきは受け流す。  ゆかりはこんな話をしたことすら明日には忘れているに違いない。みゆきもそれが分かっているから。  近い将来に、高良家の家族が増えることはないだろう。  こんな調子でおっとりとした会話が続く。  家族なのに三人のうち敬語が二人というのも傍から見ればどうかと思われるかもしれないが、この家では普通のことだ。  高良家の一人娘にとって、祖母の天然ボケは日常の光景だったし、母の話は知識欲を満たす有意義なものだった。  自然と母の話に聞き入ってしまう。  その姿は、外見も内面もみゆきにそっくりであった。違うのは眼鏡の有無ぐらいである。  ありとあらゆるところが抜けまくっている祖母ゆかりを反面教師とし、なんでもそつなくこなし知識も豊富な母みゆきを見習ってきた娘が、みゆきそっくりに育ったのは至極当然のことであろう。  しかし、天然とドジな習性は、まぎれもなくゆかり由来の遺伝的性質である。  みゆきですらそれを矯正することができず、ものの見事に娘にまで受け継がれてしまった。  それゆえ、高良家の人々が冷蔵庫に貯蔵されているヨーグルトの存在を忘れていることに気づいたのは、その数日後のことだった。 終わり

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