ID:yIP48Co0氏:Two of us and a Two-toned coupe

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こんにちは。泉かなたです。 今日は皆さんに、昔話をしようと思います。娘が生まれるより、少し前の話を。 ---- Two of us and a Two-toned coupe ----  Ⅰ. 石川から駆け落ち、埼玉にやってきて3年目の8月。彼氏――なんてよそよそしい呼び方も何ですね。やっぱりいつも通りに呼びましょう――、そう君はいつものように、唐突に言い出しました。 「かなた、今週末にドライブ行かないか?」 今でこそ、そう君は幸手に豪邸を建てて、その大きな家を持て余しているのですが、当時はまだまだ駆け出しの作家でした。家賃数万円のオンボロアパートで同棲、クーラーもなければお金もない。貧乏だけれど幸せな毎日でした。 本題に戻りましょう。 ドライブですって?そう君、クルマなんて持ってないじゃない。 「大学の友達がクルマ貸してくれるって。原稿は一昨日に編集部に上げたから、しばらくはのんびりできるしな」 「へぇ……そう君、免許持ってた?」 「ああ。それも大学ン時に取った。身分証明書代わりにしかしてなかったけどな」 意外です。いくら違う学部だったからと言っても(そう君は教育学部、私はフランス語学部でした)、週に3~4日は顔を合わせていたのです。いつの間に免許なんて取ってたんでしょうか。 「で、どこに行くの?」 「そうだな……榛名山なんてどうだ?」 「群馬?」 「そう、群馬。夏こそ温泉とか」 私も暑い夏に騒がしい電気街へ行くよりは――どことは敢えて言いません――、落ち着いた場所に行く方が何倍も好きです。でも、20代半ばにして温泉旅行(しかも真夏に)というのはあまりにどうかと思いました。 「だからさ、一周回って温泉とか」 「まぁ、そう君から提案してくれるなんて珍しいしね。行きましょう」 「おお、そう言ってくれると嬉しいよ」 本当に、この頃のそう君には困っていました。ここで愚痴を言うつもりはありませんが、自分の趣味に私まで巻き込むんですからたまりません。 そんなそう君からのドライブのお誘いだなんて、受けないわけがないですよね。私もほんのちょっと意地悪しましたけど、榛名山までドライブすることに決めました。  Ⅱ. 週末。朝7時きっかりに、そう君は車を取りに出て行ってしまいました。私もすでに起きていて、お弁当の用意の真っ最中。久しぶりに腕によりをかけて作ってみたんです! 元々料理は好きでしたし、石川にいた頃から色々と作ってはいました。高校の頃はたまにそう君にお弁当作ってきたり。 もちろんそう君のお母さんとは申し合わせをしましたけどね。毎週木曜日は私がそう君のお弁当を作って行く日でした。 で、今日のお弁当は久々に、そう君の大好きな肉じゃがを入れたんです。私たちは2人とも和食党でしたから。 今日は私にしては珍しく、黒い服を着て行こうと思います。いつも白い服が多いのは私の趣味なんですけど、必要以上に子供っぽく見えるので悔しかったんです。 だから今日は黒いワンピース。デパートのセール品だったことは秘密です。 8時。そう君が戻ってきました。 私はすでに準備が出来ています。そう君も……別段変わったものは必要ないはずです。 アパートの階段を降りると、道路沿いに白黒のツートーンのクルマが停めてありました。目は閉じていて――ライトが点く時だけまぶたを開くから――、どことなくそれが、目覚めの悪いパンダのようにも見えました。その閉じた両目の間には“TRUENO”の文字。何と読むんでしょう? 運転席側のドアが開き、背の高いそう君がすっくと立ち上がります。私には到底真似できません。普段は情けないそう君がほんの少しだけカッコ良く見えたのは気のせいでしょうか。 「遅かったね。一体どこまで行ってたの?」 「春日部まで電車に乗って行って、帰りは運転して帰ってきた」 「けっこう大変だったでしょ?お茶飲む?」 「ああ、頼む。一服したら出発しよう」 私は自分の背丈ほどの小さな冷蔵庫から、烏龍茶の入ったケトルを取り出しました。湯呑みに冷茶は似合わないと常々思いますが、グラスよりはマシなように思いませんか?別に何だっていいんですけれど。 2人分の湯呑みにお茶を注いで、私たちは一休みしていました。 「んじゃ、そろそろ行くか?」 「そうね。お弁当は出来てるわよ」 「かなたの弁当なんて久々だな」 「6~7年は作ってなかったかしら」 「ああ、高校の頃を思い出すよ」 私たちは、決して多くはない荷物をトランクに積み込み出発しました。  Ⅲ. 久喜ICから渋川伊香保ICまで、高速道路を使うことも出来たんですが、そこはやはりお金がない以上、下から走らなくてはどうしようもありません。埼玉西北の山々を抜けないことには群馬に着かないのです。石川はむしろ海の印象が強いですが、埼玉や群馬と聞くと、どうしても山道を思い浮かべてしまいます。 「そう君」 「何だ?」 「次の新作、売れるかな?」 「どうだろうな……自分が満足行くかどうかとはあんまり関係ないからなー……」 「そういうものなの?」 「どうやらそうらしいんだ。俺もデビューしてから気付いたんだが……去年の頭に出した『消えゆく記憶の残滓』。俺は今ひとつ納得いかなかったけど、賞だってもらったし、それなりに売れもした。その前は自信作だったのに空振りした。小説なんてそんなもんさ。売れるかどうかは分からないよ」 「そうなの……」 「まあ今回はまだ売れるだろ。けっこう読者ウケするやつを書いたつもりだし」 「次も売れるといいね」 売れるといいね、と言うよりは、売れてくれないと食べて行けないんですけどね。いちおう私も内職で家計を助けてますけど、それでも生活はそう君にかかってるんです。 「もう群馬入ったけど、どうする?どっかで休むか?」 「いや、いいわ。渋川まで行っちゃいましょう」 「了解しましたッ!」 そう言って、そう君はアクセルをふかします。唸りをあげながら山道を走るツートーン。きっと奇妙な光景なんでしょうね。 しかもこのクルマ、借り物ですよね?人様のクルマで事故なんかしたら、私たち食べて行けなくなるの分かってますか? 「大丈夫だ!事故ってもお前だけは全力で守る!」 気持ちは嬉しいのですが……どうか無事に伊香保へ着きますように……。  Ⅳ. 結局、都会の真ん中を走ることなく、伊香保温泉街まで着いてしまいました。 駐車場にクルマを停めて私たちはドアを開けます。立ち上がった瞬間に、そう君との距離が一気に離れてしまうのは残念です。昔はもっと近かったのに、と思うこともあります。 「でも、昔よりずっとお互いが“近く”なっただろ?」 「そうね、気持ちは近くなったと思うわ。でも、いつもいつもそう君を見上げてるから肩が凝るの」 「じゃあこうすればいい。そりゃっ!」 「きゃああっ!やめてぇぇっ!」 そう君は素早く私を抱きかかえ、するりと自分の肩の上に乗せてしまいました。彼氏に肩車される女なんて未だかつて見たことも聞いたこともありません。 それなのにそう君は、あっさりと私を肩車してしまったのです。 「ほら、降ろして!」 「いいじゃないか、階段のてっぺんまで運んでやるから」 「うう……周囲からの好奇の視線が怖いわ」 主に親子と間違えられている方向で。或いは年の離れた兄妹?これでも同い年のカップルですから。 そう君は仕方なく私を降ろし、それから写真を撮っています。 大学の頃から変わらす使っているそう君の一眼レフカメラ、ものすごく似合っているから不思議です。そう君はカメラを片手に私に言いました。 「かなた、ちょっとそこの階段に腰掛けてくれないか?」 「階段?」 「ああ。このアングルだとかなりいい写真が撮れそうなんだ」 わかった、と軽く返事をして、私は階段に座りました。そう君はカメラを縦に構えています。やや横から太陽が照りつけていますが、逆光にはならないみたいですね。 かしゃっ、と、さりげなくシャッターが降りました。そう君は「はい、チーズ」なんて言わずに、唐突にシャッターを切るんですよ。なんでも、身構えると表情が硬くなるからだそうで、素早く写真を取ってしまうのです。 「うまく撮れた?」 「ああ、多分な。もう1枚いくぞ、それっ!」 「ああちょっとまだ私座ってない!」 こんな具合です。小さな頃から私はそう君に振り回されっぱなしでした。でも不思議と、それが嫌じゃなかったんです!だからこそ一緒にいるんですけどね。 私たちは少し石段から外れ、ベンチでお弁当を広げました。保冷剤を入れてきたので傷みはないはずです。 そう君は終始美味しそうに私のお弁当を食べていました。この顔が見たかったから、高校の頃の私は朝早くからお弁当を作っていたんです。久しぶりにお弁当を作って、昔の気持ちも思い出せたようですね。その気持ちが今でも変わっていないことも、私は嬉しく感じました。 「でも、かなたの弁当は昔から変わらないな」 「進歩してないの?」 「そんな意味じゃないさ。昔から美味いのは変わらない、ってことだよ」 分かってますよ?そう君がそんな酷いこと言うわけないですから。ちょっと意地悪してみただけですよっ! 「ふふふ……そう言ってくれると作り甲斐があるわ」 「はは、俺は善良な消費者ってわけか」 「作り手にとっては最高のお客様よ」 「なるほど……ありがたい話だ」 「どういたしまして」 2人は笑い合います。最近はそう君が忙しかったから、こうやってのんびり笑う時間はあまりありませんでした。決してそう君は私に当たったりはしませんけど、それでも構ってくれないと私も退屈なんです。 お弁当を食べ終わると、私たちはまた石段を登ることにしました。  Ⅴ. 私たちが並んで石段を登ってゆくと(この石段がかなりハードでしたが)、古びた鳥居がありました。神社でしょうか。伊香保神社?へぇ……こんなところにも神社があるんですね。 参拝する前に神主さんにお話を聞くため社務所に立ち寄ると、神主さんらしきおじいさん――相当のご高齢なようです――が私たちに気付いて出て来てくれました。 「お2人さん……どこから来なすったんだい?」 「埼玉です。幸手の権現桜の近くから」 答えたのは私ではなくそう君です。 「ほう……あの辺りだと、鷹宮神社が近いのかな?」 「隣町になりますね。鷹宮はご存知なんですか?」 「ああ、あそこの先代とは長い付き合いじゃった。今はまだ若い娘婿が神社を背負っておる」 「はぁ……。ところで、こちらは安産の神様がいらっしゃると聞いてきたんですが」 いつの間に調べたんでしょうか?当時はまだ小説も原稿用紙で、パソコンも持っていなかったんですが……。 「そうじゃな、子宝と……最近は縁結びも増えておる」 「縁結びですか?」 私は思わず問い返しました。 「そうじゃ。若いカップルが来ることが割と多いのう。あんたらもそうじゃろ」 「ええ、そうですね」 そう言ってそう君は私の肩に手を添えました。 「なら、ここの大己貴命[おほなむち]に参拝して行きなさい」 「大己貴命……大国主命[おおくにぬしのみこと]ですか」 そう君がまた問います。 「そうじゃな……確かそうだったかな」 私たちはとりあえず、お祈りしてくることにしました。 2人並んで手を合わせ、そう君は何かを呟いたようです。私たちの縁結びでしょうか。子宝を願うのはまだ気が早いように思いますが……。 「何をお祈りしたの?」 「ははは……まだ秘密だ」 「そう君ズルいよ」 「お前だって俺と同じじゃないのか?」 「うーん、そう君が変なことお願いしてなかったらね」 「手厳しいなァ……」 石段を下りながら私たちは談笑します。誰かお土産を買って行かなくちゃならない人はいなかったでしょうか? 「出版社のほうと、お隣さんは要るわよね?」 「ああ、あとクルマ貸してくれた友達に買って行ってやってもいいか?」 「そうね。お礼の菓子折り代わりにどうかしら」 「なるほど、いっぺんに済んでラクだな」 「べ、別にそんな意味で言ったつもりじゃないよ!」 「……そんな慌てて弁解しなくてもいいだろ?顔真っ赤だぞ?」 「もう!そう君のバカ!」 私は思いっ切りそう君の頭を小突こうとしました。 しかし……。 「かなた……ひょっとして」 ――届かないのか? ――もうッ!うるさーい!!  Ⅵ. お土産は5人分。伊香保名物、温泉まんじゅうです。伊香保温泉と言えばコレですよね? 2人は駐車場に乗り、そう君は慣れない手つきでキーを回します。私たちは榛名山をドライブすることにしました。 交通量の少ない山道を走りながらそう君は言います。 「ここも秋になると紅葉が綺麗なんだってさ」 「前に榛名まで来たことあるの?」 「いや、写真を見せてもらっただけだけどな」 「群馬に友達なんていた?」 「出版社に前橋出身の人がいるんだ。旅行の時の写真を見せてもらったのさ」 じゃあなんでこんな真夏に連れてきたのよ?私のささやかな、しかし最大の疑問の答えは、まだ私には分かりませんでした。 「でも、ずいぶんと曲がりくねってるわね」 「だよなぁ……どうりで好きこのんで来る人もいないわけだ」 10分ほど走った辺りでまた駐車場が見え、そう君はそこにクルマを停めました。 そして私たちはクルマを降り、湖畔へと歩いてゆきました。 湖畔にはベンチ。そう君は私に、座ろう、と提案します。私はその左側に、そう君は右隣に座りました。湖の向こうからは、真っ赤な夕日が私たちを照らしています。 「ふぅ……かなた、体調悪くないか?」 「大丈夫。ずっと元気だから」 「そうか。無理せずにいつでも言ってくれよ?」 「了解しましたっ」私は元気なことをアピールするために、少しだけ威勢良く答えました。 「そりゃあ結構だッ!」 夕日に向かって、そう君が右手の小石を投げると、小石は湖面を4回跳ねて湖底へと沈んでゆきました。 「そういえば、ゆきんとこのゆいちゃん、今いくつだった?」 「確かもうすぐ3歳になるんじゃなかった?」 「もう3歳か……何となく先越された感じだな」 「うーん、ゆきちゃんは結婚早かったから」 「ああ、分かってはいるけどさ」 「そう君は悔しいの?」 「まあ、悔しくないって言ったら嘘になるな」 「そう……それはそう君自身にも原因はあるんじゃないかしら?」 「性格か?」 「性格もそうだし、その趣味も」 「趣味?」 「そう。昔からずっと漫画とか好きだったじゃない?ほんとに、いつの間にこんな風になっちゃったんだろ」 呆れざるを得ませんでした。幼稚園くらいの頃は、さすがに今みたいなゲームに手を出したりはしていなかったみたいですが、中学くらいからかな?そう君が少しずつ変わったのは。 「それはな、かなた」 そう君は静かに口を開きました。 「お前が振り向いてくれないから、俺はこんな風になっちまったんだよ」 「え?」 私は思わず、素っ頓狂な声をあげてしまいました。ふだんの私なら、「私のせいなの!?」なんて、言い返すことだって出来たんですが。 「こんな言い方も何だけどさ」 そう君は続けます。 「俺は曲がりなりにも小説書いてるから、もっと凝ったことを言おうかとも思った。でも結局、伝えたいことはすごく簡単なことだったんだ。ひとつの思いだけが言いたかったのさ」 ――――俺と結婚してくれ! え?こんなところでプロポーズ? そう君はじっと私の目を見つめて返事を待っています。私は答えなくてはなりません。答えはどうだって? 決まってるじゃないですか! ――――私も、そう君と結婚したい。 いつの間にかそう君は、左手に小さな箱を持っていました。そして私に言います。 ありがとう。それならこれ、もらってくれるよな? 小箱の中身は指輪でした。夕日がまぶしいので分からなかったんですが、小箱の正体は指輪のケースだったのです。 そう君の大きな手が、子供のような私の手に触れます。私のことを好きでいてくれる人がいるという実感だけで、私は頬を赤らめてしまいました。 指輪が入らない?まさか。 指はすごく細いんですから。 いや、ちょっとはめ慣れてなかっただけみたいです。 こうして、そう君は私にプロポーズしてくれたのでした。  Ⅶ.epilogue その後のことを、少しだけお話しましょう。 そう君は少し席を外して、公衆電話の方へ行ってしまいました。あとで分かったのですが、クルマを借りていた友達のところに電話していたようです。 結局どちらともなくクルマに乗った私たちは、春日部のそう君の友達のお家へ立ち寄りました。そう君としては、そこから電車に乗って帰るつもりらしかったんですが、お友達はご厚意で私たちを幸手まで送り届けてくれました。 私は疲れのあまり、後部座席でそう君にもたれかかって眠ってしまったんですが、幸手のアパートで私を起こした時のそう君の顔は今でも忘れられません。薄暗かったのでよく見えませんでしたが、すごく優しい顔をしていたのです。今まで見たことがないほどに。 3日後に私たちは籍を入れました。8月19日。私の誕生日が次の日で、そう君の誕生日がさらにその次の日。 こなたを身ごもったのは、それから4年後の話になります。子宝に恵まれるのが少し遅かったので私は――それ以上にそう君が心配したんですが、何とか子供はできました。 それからのことは皆さんご存知だと思います。私の人生は決して長くはなかった。けれど、そう君と過ごした5年間――いえ、30年の月日は、本当に幸せだったと自信を持って言えます。短い間ではあったけれど、そう君の妻として在ることが出来た。それが私の一番の誇りなんです。 私がいなくなったからといって、そう君がすぐに再婚するなんて思いませんでしたが、私のことを引きずり続けることも決して良くないと私は知っていました。 しかしそう君は、男手ひとつでこなたを育て上げてくれました。私が望んだ普通とはちょっとだけ違うけれど。 今日はプロポーズから25年の記念日。 2年ぶりにまたこの家に帰ってきました。“向こう”でもお盆は帰省ラッシュでしたから……わざと日程を遅らせて来たんです。 相変わらずそう君とこなたは楽しそうに遊んでいます。こなたはもう20歳なんですね。 「………だから、榛名山とハチロクには、かなたとの思い出があるんだよ」 「へぇ……まさか榛名湖でプロポーズしたなんてねぇ。お父さんらしいようならしくないような。しかもハチロクだなんて」 「まあ、もう25年も前の話だけどな」 「25年かぁ……お、ゆーちゃんお疲れさま」 「あ、お姉ちゃん、何の話してたの?」 「そうそう、今お父さんの若い頃の「ああー、何でもないよ。気にすることじゃないから。お茶そこにあるからね」 「???(何なんだろう、変なの……) じゃあ、頂きますね?」 お茶で一服するゆたかちゃん。この子ももう受験生です。高校3年生の夏なんですね。 私の方が1日だけ年上なんです。見た目はそう見えないかもしれませんが。 「そういえば、明後日お父さん誕生日だったっけ?」 「ああ。その前にかなたの誕生日があるけどな」 「2人とも、今年で何歳?」 「確か今年で……50!?嘘だろ?俺もう五十路[いそじ]なのか!?」 「お父さん落ち着いて」 これはさすがに落ち着けないと思います。私ももう明日が誕生日ですから……私も50歳ですか!?なかなか精神的に応えるものがあります。いくらもう年を取らないと言えども50だなんて! でも、こうやって人は変わってゆくんだと思います。私は一足先にそう君やこなたとは別れてしまったけど、人はみな順々に老いてゆくのです。 最近はそれもいいと考えられるようになりました。私たち人間は永遠ではありません。しかし、だからこそ毎日を幸せに生きることができるし、喜びも悲しみも受け入れられると、そう思えるんです。 皆さんにはまだ時間があります。でもそれは無限じゃない。私たち人間が与えられた時間なんてあっという間なんです。 でも、そのあっという間だけでも、私は幸せだった。だから私は皆さんにお願いしたいんです。 あなたは、誰かに愛されてますか? そして、誰かを愛してますか? 私は、人は必ず誰かに愛されてると思えるんです。私もまた、そう君とこなたを、心から愛していますから。 そう君とこなたが、とてもとても好きですから。 Fin. with a respect for Noriyuki Makihara 『ズル休み』

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