ID:E5f79Jo0氏:今も昔も ~柊姉妹物語~

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これは柊姉妹がまだ小学生のころのお話し。 「怖いよ、お姉ちゃ~ん。」 「ちょっと、あんまりひっつかないでよ歩きにくいでしょ。」 お姉ちゃんと呼ばれるツリ目の少女とその腕にしっかりと掴まっているタレ目の少女。 その頃の二人はよく一緒に行動していた。今となってはいつも一緒というわけではなくなったが、それでも今も昔も変わらないことがある。それは・・・。 「やっぱり引き返そうよ、お姉ちゃん。」 「なに言ってんの、いまさら引き返せるわけないでしょ。」 「なんで肝試しになんか参加するの~。」 「自由参加なんだから別についてくることないでしょ、怖いの苦手なんだから。」 「そうだけど…。」 二人の会話から分かるように、いま柊姉妹は肝試しに参加している。小学校の夏休みキャンプのイベントなのだが、肝試しへの参加は自由。しかし、姉と一緒にいたかったタレ目の少女は「肝試しに参加する」という結果になってしまった。ちなみに、ペアを組む時、二人一組と言われた瞬間に一組目のペアが完成した。それはいうまでもなく、いま歩いている柊姉妹なのだが…。 「はぁ~」 おもわずため息をついてしまうツリ目の少女。腕にしっかりと掴まってガタガタと震えている妹を見ればため息の一つもつきたくなる。そんなに怖いならついてこなければいいのに、と思ってしまう。確かに肝試しはイベントの一つだが、参加していない子どもだっている。そのなかには妹の友だちもいたはずだ。それでも妹は姉である自分についてきている。そう考えると悪い気はしなかった。そんなことを考えながら歩いていると、 「わぁ~~~~~~~!!」 と、お化け(役の白い布をかぶった人)が脅かしてきた。 「わ!」 と、姉の方は少々ながら驚いた。しかし、 「うわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」 「「驚くか泣くかどっちかにしなさいって。」しようぜ。」 妹の声に姉とお化け(役の白い布をかぶった人)のツッコミがハモったのだった…。 「え~~~~~ん」 座りこんで泣き続けているタレ目の少女。 「いつまで泣いてんのよ。」 「俺、なんか悪いことしちゃったかな?」 白い布を取ったお化け役の男の子が言った。確かに脅かしたのは彼なのだが、それは肝試しとして脅かしただけで悪いことはしていない…はずである、たぶん。 「うぇ~~~~」 相変わらず泣き続けている妹。この様子ではテコでも動きそうにない。 「どうする?」 「しょうがないわね。」  ツリ目の少女は妹の前に立つと、背中を向けて座った。もちろん、それはおんぶのかっこうである。 「ほら、乗りなさいよ。」 「う~~~~~~~~~~~~」 「乗らないなら置いてくわよ。」 「やだ!」  そう言うと、タレ目の少女は姉の背中にしがみつくように乗った。 「ひぃく、ひぃく・・・」  まだ泣いてはいるが、先ほどまでではないようだ。そう感じたツリ目の少女は少し安心した。 「それじゃ、私たち先の方に行くから。」 「ああ、気を付けてな。」 「ありがとう。」  そう言うと、ツリ目の少女は歩いて行った。それを見送った少年はあることに気がついた。 (ん?お化け役の俺が気を付けて、なんて言っていいのか?) その後、ツリ目の少女は妹の泣き声を背中で聞きながら歩いていった。しかし、不思議なことにさっきの男の子以降、一度も驚かせてくる者はいなかった。時折茂みが動いていたがそれだけ。後で聞いた話だと、泣いている妹を背負ったツリ目の少女を脅かすのは少々気が引けたらしい。もし、彼らの中の誰かが脅かしていたら収拾のつかないことになっていたかもしれないので、彼らの考えは正しかったといえるだろう。 ふと、ツリ目の少女は妹の泣き声が聞こえなくなったことに気が付いた。 「すぅーすぅー…」 背中の妹を見るとかわいらしい寝息をたてていた。 そんなこんなでその後も驚かされることもなく、道に迷うこともなくゴールすることができた。肝試しとしてそれでは面白くないのだが、妹のことを考えるとそれで良かったのだろうと思う。と同時に、自身もほっとするのだった。 “パシャ” 「へ?」 そんな音がして振り返ると同じキャンプに参加している先輩が自分と妹を写真に撮っていた。 「いや~、あんまりかわいかったから写真に撮っちゃた(ハート)」 すると、ツリ目の少女は妹を背負ったまま無言で先輩の前に歩み寄った。そのときのあまりの迫力にその先輩を含めた全員が怖じ気付いていた。 「先輩!!」 「は、はい!」 「その写真、あとで焼き増しして私にもください!!」 「・・・はい?」 「で、これがその時の写真。」 居間で昔の小学校の夏休みキャンプの話を楽しく語り、妹を背負っている自分の写真を見せた。 「だ、だめ!!」 その写真を見た瞬間、あまりの恥ずかしさで姉から写真を奪い取ろうとしたが、軽くスルーされヘッドスライディングしてしまう。 一方、姉の方は嬉しそうに親に写真を渡していた。 「あら、きれいに撮れてるじゃない。」 「うむ。」  写真を受け取り、小学校時代の娘を見る母・みきと父・ただお。それをそのまま隣で同じく話を聞いていた娘二人に手渡した。 「あ、お姉ちゃんかわいい~。」 「へ~、まつり姉さんにもこうゆう時期があったのね。」  写真を手渡された四女・つかさと三女・かがみは、自分たちの知らない昔の姉たちの姿に見入っていた。 「ちょっと、かえしなさいよ。」  ここで、ヘッドスライディングしてしまった次女・まつりが、かがみから写真を奪い取った。鼻が少し赤くなっている。 「姉さん、なんでこんな写真持ってくるの、恥ずかしいじゃん。」 「かわいい昔のまつりの話をしたくてね。」 「わざわざそんな話する必要ないじゃん。」  恥ずかしがっているまつりに、からかうように話をする長女・いのり。 「他にもキャンプの時の写真あるわよ。これがみんなでカレーを食べた時の写真、こっちがトランプしてる時の写真、それでこの写真が肝試しのあった夜にトイレにいけなくておね「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」」 (おねしょしたのね。) (おねしょしたんだ。) (うんうん、そうだよねー。しちゃうよねー。私も中学生の時までホラー映画見た後トイレにいけなくてよくおねしょを・・・) (うむ。)  今度はしっかりと写真を奪い取ることができたが、どんな写真かは全員にわかってしまったようだ。まつりは顔を真っ赤にしている。鼻はもっと赤い。 「て、て言うか、なんでこんなに写真持ってるわけ?」 「あの時の先輩に私とまつりが写ってる写真を全部焼き増ししてもらったのよ。」 「い、いつの間にそんなことを…。」 「写真を焼き増ししてください、て言ったら“先輩、びっくりだ”とか言われちゃったけどね。」 「あれ?どっかで聞いたようなセリフ…。」 「どうしたの、お姉ちゃん?」 「ん?あ、いや、なんでもないわ。」 「でも、この時の肝試しは本当に大変だったのよ。日下部くんに脅かされてまつりはずっと泣き通しだったんだから。」 「お、覚えてないよ、そんなこと。」 「へぇ~、まつりお姉ちゃんって、昔は泣き虫だったんだ~。」 「いや、つかさ、あんた今、仲間がいて良かった、って思ったでしょ?」 「え!?そ、そんなことないよ~~~。」 「第一、つかさの泣き虫は今もでしょ。」 「どんだけ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」 「でも、このころのまつりは素直でかわいかったわ。今では全然素直じゃないけど。」 「私は成長したの。何もかも変わったの。昔の私とは違うんだからね。」 「そう?でもたまには甘えてくれてもいいんじゃない。昔みたいに私の膝の上に乗って“お姉ちゃん、だ~い好き”っ言ってさ。」 「そんなことしないって。」 「ほら、いらっしゃい。」 いのりは座っている自分の足を叩きながら言った。まつりの顔が先ほどよりもさらに赤くなる。鼻はそれよりももっと赤い。 「え?・・・いや・・・その・・・・えっと・・・・・・・・・・・・・あ!そ、そろそろお風呂沸いたころじゃない?私、先に入るね。」 まつりは光速の速さで居間から出て行った。某アメフトの21番選手のゴーストが見えたような気がした。 (逃げたわね。) (逃げたな。) (うんうん、そうだよねー。逃げちゃうよねー。私もこなちゃんにからかわれてる時どうやって逃げようか考えちゃって・・・) (うむ。)  その夜、いのりは眠りにつこうとしていた。明日も会社があるので夜更かしするわけにはいかない、そんなことを考えていると、 “コンコン” 「だれ?」 「私。」 「まつり?どうしたの?」  まつりは戸を開けて部屋に入ってきた。片手に枕を持ち、小さな猫の模様がたくさん描かれている寝巻きを着ている。どことなくかわいらしい感じだ。どっちが?まつりも寝巻きも両方共だ。ちなみに鼻にはバンソーコーを貼っている。 「こんな夜中に私の部屋になにかよう?」 「えっと・・・・・その・・・・・・・・・」  枕を持って来ている時点でなにがしたいのか、だいたいの想像はつくが一応聞いておく。 「あの・・・姉さんさ、さっき“たまには甘えてもいいんじゃない”って言ってたじゃん?だから、その・・・・・・今晩、一緒に寝てくれない?」  100パーセント、想像通りだった。 「いいわよ、いらっしゃい。」  まつりは顔を赤くしながらも姉と一緒に布団の中へ入っていった。さすがに成人女性が二人も同じ布団に入ると少々狭いようだ。 「まつりもけっこう、甘えっ子よね。つかさのこと笑えないんじゃない?」 「そのへんは血筋なんじゃない?かがみも寂しがり屋だし。」 「そうね、私も人のこと言えないし。」 「へ?」 「なんでもないわ。」  いのりはそう言うと、まつりの頭を自分の胸のところに抱き寄せた。 「ね、姉さん!?」 「なに?」 「いくらなんでもこれは恥ずかしいから。」 「いいじゃない、こうやってひさしぶりに一緒に寝るんだから。」  始めは恥ずかしがっていたまつりだが、だんだんと心地よい気分になっていた。 「姉さんのにおい・・・。」 「ん?」 「なんか、少し安心する・・・。」 「そう?」 「姉さん。」 「なに?」 「私、姉さんのこと、好きだよ。」 「え?」 「あ、べつに変な意味じゃなくて、姉妹としてね。」 「そうね、わたしも同じよ。」 「姉さん、好きだよ・・・。」 「私もよ、まつり・・・。」  そう言うと、二人は夢の中に落ちていった。  その夜、二人は同じ夢を見た。昔の夢を。  いのりは眠りにつこうとしていた。昨日までのキャンプの疲れもあったし、まだ幼いがかみとつかさがいるのであまり夜中まで起きているわけにはいかない、そんなことを考えていると、誰かが戸を開ける音がした。誰かと思って見ると、なにやら不安そうな顔をしたまつりが部屋に入ってきた。小さな猫の模様がたくさん描かれているパジャマを着ている。どことなくかわいらしい感じだ。どっちが?まつりもパジャマも両方共だ。 「どうしたの、まつり?」 「お姉ちゃん、今晩一緒に寝てくれない?」 「怖いの?」 「・・・・・・・・・・・・うん。」 「だったら、お母さんの所に行けばいいんじゃない?」 「だって、お母さん、かがみとつかさの相手ばっかりで私のことかまってくれないんだもん。」 「まあ、かがみもつかさもまだ子どもだしね。いいわ、一緒に寝てあげる。」 「ありがとう、お姉ちゃん。枕、持ってくるね。」  一緒に寝てくれるとわかると、顔が明るくなり、枕を取りに部屋を出て行った。 (素直な子。)  いのりはそんなことを考えるのだった。 「お姉ちゃんと一緒に寝るの初めてだね。」 「そういえばそうね。」 「えへへ。」 「まつり?」  まつりは笑いながらいのりに抱きついた。頬をいのりの胸のあたりで摺り寄せている。 「なにやってるの、まつり?」 「こうすると、お姉ちゃんがずっと一緒にいてくれるような気がしてすごく安心するな、と思って。」 「そう・・・。」 「お姉ちゃん、いいにおい。」 「ありがと。」 「ねえ、お姉ちゃん。」 「なに?」 「もし、大きくなってもこうやって一緒に寝てくれる?」 「もちろん、いいわよ。」 「ありがとう。お姉ちゃん、だ~い好き。」 「私もよ、まつり。」 その頃の二人はよく一緒に行動していた。今となってはいつも一緒というわけではなくなったが、それでも今も昔も変わらないことがある。それはお互いのことが好きだ、ということだ。  翌日。 「わ~~~~、遅刻する~~~~~。」 「姉さん、なんで目覚ましセットしとかなかったの~~~~。」 「まつりだって気が付かなかったじゃな~~~~い。」 「どうしよ~~~~、今日は一時限目から講義なのに~~~~~~~~~~。」 「お姉ちゃんたちがお寝坊するなんてめずらしいね。」 「そうね、でもそういうこともあるんじゃない。」  寝坊してあわてている姉たちを見ながら、つかさとかがみはそんな会話をしていた。そこにみきがやってきて、 「まあ、しかたないんじゃない?昨日は二人ともぐっすり寝てたみたいだし。」 「「?」」 「うむ。」  笑いながらそんな意味深はことを言う母にクエスチョンマークを出すかがみとつかさ。 「私の定期、定期はどこ~~~~~~~。」 「ノート、こないだ買ったノートがな~~~~~~~~~い。」 「あ!?」 「え!?」 “ゴン!!!”  二人がおでこをぶつける音が柊家中に響き渡った。  その後、おでこに(+まつりは鼻にも)バンソーコーを付けた二人はみごと遅刻しましたとさ。チャンチャン。 「「チャンチャン、じゃな~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!」」
これは柊姉妹がまだ小学生のころのお話し。 「怖いよ、お姉ちゃ~ん。」 「ちょっと、あんまりひっつかないでよ歩きにくいでしょ。」 お姉ちゃんと呼ばれるツリ目の少女とその腕にしっかりと掴まっているタレ目の少女。 その頃の二人はよく一緒に行動していた。今となってはいつも一緒というわけではなくなったが、それでも今も昔も変わらないことがある。それは・・・。 「やっぱり引き返そうよ、お姉ちゃん。」 「なに言ってんの、いまさら引き返せるわけないでしょ。」 「なんで肝試しになんか参加するの~。」 「自由参加なんだから別についてくることないでしょ、怖いの苦手なんだから。」 「そうだけど…。」 二人の会話から分かるように、いま柊姉妹は肝試しに参加している。小学校の夏休みキャンプのイベントなのだが、肝試しへの参加は自由。しかし、姉と一緒にいたかったタレ目の少女は「肝試しに参加する」という結果になってしまった。ちなみに、ペアを組む時、二人一組と言われた瞬間に一組目のペアが完成した。それはいうまでもなく、いま歩いている柊姉妹なのだが…。 「はぁ~」 おもわずため息をついてしまうツリ目の少女。腕にしっかりと掴まってガタガタと震えている妹を見ればため息の一つもつきたくなる。そんなに怖いならついてこなければいいのに、と思ってしまう。確かに肝試しはイベントの一つだが、参加していない子どもだっている。そのなかには妹の友だちもいたはずだ。それでも妹は姉である自分についてきている。そう考えると悪い気はしなかった。そんなことを考えながら歩いていると、 「わぁ~~~~~~~!!」 と、お化け(役の白い布をかぶった人)が脅かしてきた。 「わ!」 と、姉の方は少々ながら驚いた。しかし、 「うわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」 「「驚くか泣くかどっちかにしなさいって。」しようぜ。」 妹の声に姉とお化け(役の白い布をかぶった人)のツッコミがハモったのだった…。 「え~~~~~ん」 座りこんで泣き続けているタレ目の少女。 「いつまで泣いてんのよ。」 「俺、なんか悪いことしちゃったかな?」 白い布を取ったお化け役の男の子が言った。確かに脅かしたのは彼なのだが、それは肝試しとして脅かしただけで悪いことはしていない…はずである、たぶん。 「うぇ~~~~」 相変わらず泣き続けている妹。この様子ではテコでも動きそうにない。 「どうする?」 「しょうがないわね。」  ツリ目の少女は妹の前に立つと、背中を向けて座った。もちろん、それはおんぶのかっこうである。 「ほら、乗りなさいよ。」 「う~~~~~~~~~~~~」 「乗らないなら置いてくわよ。」 「やだ!」  そう言うと、タレ目の少女は姉の背中にしがみつくように乗った。 「ひぃく、ひぃく・・・」  まだ泣いてはいるが、先ほどまでではないようだ。そう感じたツリ目の少女は少し安心した。 「それじゃ、私たち先の方に行くから。」 「ああ、気を付けてな。」 「ありがとう。」  そう言うと、ツリ目の少女は歩いて行った。それを見送った少年はあることに気がついた。 (ん?お化け役の俺が気を付けて、なんて言っていいのか?) その後、ツリ目の少女は妹の泣き声を背中で聞きながら歩いていった。しかし、不思議なことにさっきの男の子以降、一度も驚かせてくる者はいなかった。時折茂みが動いていたがそれだけ。後で聞いた話だと、泣いている妹を背負ったツリ目の少女を脅かすのは少々気が引けたらしい。もし、彼らの中の誰かが脅かしていたら収拾のつかないことになっていたかもしれないので、彼らの考えは正しかったといえるだろう。 ふと、ツリ目の少女は妹の泣き声が聞こえなくなったことに気が付いた。 「すぅーすぅー…」 背中の妹を見るとかわいらしい寝息をたてていた。 そんなこんなでその後も驚かされることもなく、道に迷うこともなくゴールすることができた。肝試しとしてそれでは面白くないのだが、妹のことを考えるとそれで良かったのだろうと思う。と同時に、自身もほっとするのだった。 “パシャ” 「へ?」 そんな音がして振り返ると同じキャンプに参加している先輩が自分と妹を写真に撮っていた。 「いや~、あんまりかわいかったから写真に撮っちゃた(ハート)」 すると、ツリ目の少女は妹を背負ったまま無言で先輩の前に歩み寄った。そのときのあまりの迫力にその先輩を含めた全員が怖じ気付いていた。 「先輩!!」 「は、はい!」 「その写真、あとで焼き増しして私にもください!!」 「・・・はい?」 「で、これがその時の写真。」 居間で昔の小学校の夏休みキャンプの話を楽しく語り、妹を背負っている自分の写真を見せた。 「だ、だめ!!」 その写真を見た瞬間、あまりの恥ずかしさで姉から写真を奪い取ろうとしたが、軽くスルーされヘッドスライディングしてしまう。 一方、姉の方は嬉しそうに親に写真を渡していた。 「あら、きれいに撮れてるじゃない。」 「うむ。」  写真を受け取り、小学校時代の娘を見る母・みきと父・ただお。それをそのまま隣で同じく話を聞いていた娘二人に手渡した。 「あ、お姉ちゃんかわいい~。」 「へ~、まつり姉さんにもこうゆう時期があったのね。」  写真を手渡された四女・つかさと三女・かがみは、自分たちの知らない昔の姉たちの姿に見入っていた。 「ちょっと、かえしなさいよ。」  ここで、ヘッドスライディングしてしまった次女・まつりが、かがみから写真を奪い取った。鼻が少し赤くなっている。 「姉さん、なんでこんな写真持ってくるの、恥ずかしいじゃん。」 「かわいい昔のまつりの話をしたくてね。」 「わざわざそんな話する必要ないじゃん。」  恥ずかしがっているまつりに、からかうように話をする長女・いのり。 「他にもキャンプの時の写真あるわよ。これがみんなでカレーを食べた時の写真、こっちがトランプしてる時の写真、それでこの写真が肝試しのあった夜にトイレにいけなくておね「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」」 (おねしょしたのね。) (おねしょしたんだ。) (うんうん、そうだよねー。しちゃうよねー。私も中学生の時までホラー映画見た後トイレにいけなくてよくおねしょを・・・) (うむ。)  今度はしっかりと写真を奪い取ることができたが、どんな写真かは全員にわかってしまったようだ。まつりは顔を真っ赤にしている。鼻はもっと赤い。 「て、て言うか、なんでこんなに写真持ってるわけ?」 「あの時の先輩に私とまつりが写ってる写真を全部焼き増ししてもらったのよ。」 「い、いつの間にそんなことを…。」 「写真を焼き増ししてください、て言ったら“先輩、びっくりだ”とか言われちゃったけどね。」 「あれ?どっかで聞いたようなセリフ…。」 「どうしたの、お姉ちゃん?」 「ん?あ、いや、なんでもないわ。」 「でも、この時の肝試しは本当に大変だったのよ。日下部くんに脅かされてまつりはずっと泣き通しだったんだから。」 「お、覚えてないよ、そんなこと。」 「へぇ~、まつりお姉ちゃんって、昔は泣き虫だったんだ~。」 「いや、つかさ、あんた今、仲間がいて良かった、って思ったでしょ?」 「え!?そ、そんなことないよ~~~。」 「第一、つかさの泣き虫は今もでしょ。」 「どんだけ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」 「でも、このころのまつりは素直でかわいかったわ。今では全然素直じゃないけど。」 「私は成長したの。何もかも変わったの。昔の私とは違うんだからね。」 「そう?でもたまには甘えてくれてもいいんじゃない。昔みたいに私の膝の上に乗って“お姉ちゃん、だ~い好き”っ言ってさ。」 「そんなことしないって。」 「ほら、いらっしゃい。」 いのりは座っている自分の足を叩きながら言った。まつりの顔が先ほどよりもさらに赤くなる。鼻はそれよりももっと赤い。 「え?・・・いや・・・その・・・・えっと・・・・・・・・・・・・・あ!そ、そろそろお風呂沸いたころじゃない?私、先に入るね。」 まつりは光速の速さで居間から出て行った。某アメフトの21番選手のゴーストが見えたような気がした。 (逃げたわね。) (逃げたな。) (うんうん、そうだよねー。逃げちゃうよねー。私もこなちゃんにからかわれてる時どうやって逃げようか考えちゃって・・・) (うむ。)  その夜、いのりは眠りにつこうとしていた。明日も会社があるので夜更かしするわけにはいかない、そんなことを考えていると、 “コンコン” 「だれ?」 「私。」 「まつり?どうしたの?」  まつりは戸を開けて部屋に入ってきた。片手に枕を持ち、小さな猫の模様がたくさん描かれている寝巻きを着ている。どことなくかわいらしい感じだ。どっちが?まつりも寝巻きも両方共だ。ちなみに鼻にはバンソーコーを貼っている。 「こんな夜中に私の部屋になにかよう?」 「えっと・・・・・その・・・・・・・・・」  枕を持って来ている時点でなにがしたいのか、だいたいの想像はつくが一応聞いておく。 「あの・・・姉さんさ、さっき“たまには甘えてもいいんじゃない”って言ってたじゃん?だから、その・・・・・・今晩、一緒に寝てくれない?」  100パーセント、想像通りだった。 「いいわよ、いらっしゃい。」  まつりは顔を赤くしながらも姉と一緒に布団の中へ入っていった。さすがに成人女性が二人も同じ布団に入ると少々狭いようだ。 「まつりもけっこう、甘えっ子よね。つかさのこと笑えないんじゃない?」 「そのへんは血筋なんじゃない?かがみも寂しがり屋だし。」 「そうね、私も人のこと言えないし。」 「へ?」 「なんでもないわ。」  いのりはそう言うと、まつりの頭を自分の胸のところに抱き寄せた。 「ね、姉さん!?」 「なに?」 「いくらなんでもこれは恥ずかしいから。」 「いいじゃない、こうやってひさしぶりに一緒に寝るんだから。」  始めは恥ずかしがっていたまつりだが、だんだんと心地よい気分になっていた。 「姉さんのにおい・・・。」 「ん?」 「なんか、少し安心する・・・。」 「そう?」 「姉さん。」 「なに?」 「私、姉さんのこと、好きだよ。」 「え?」 「あ、べつに変な意味じゃなくて、姉妹としてね。」 「そうね、わたしも同じよ。」 「姉さん、好きだよ・・・。」 「私もよ、まつり・・・。」  そう言うと、二人は夢の中に落ちていった。  その夜、二人は同じ夢を見た。昔の夢を。  いのりは眠りにつこうとしていた。昨日までのキャンプの疲れもあったし、まだ幼いがかみとつかさがいるのであまり夜中まで起きているわけにはいかない、そんなことを考えていると、誰かが戸を開ける音がした。誰かと思って見ると、なにやら不安そうな顔をしたまつりが部屋に入ってきた。小さな猫の模様がたくさん描かれているパジャマを着ている。どことなくかわいらしい感じだ。どっちが?まつりもパジャマも両方共だ。 「どうしたの、まつり?」 「お姉ちゃん、今晩一緒に寝てくれない?」 「怖いの?」 「・・・・・・・・・・・・うん。」 「だったら、お母さんの所に行けばいいんじゃない?」 「だって、お母さん、かがみとつかさの相手ばっかりで私のことかまってくれないんだもん。」 「まあ、かがみもつかさもまだ子どもだしね。いいわ、一緒に寝てあげる。」 「ありがとう、お姉ちゃん。枕、持ってくるね。」  一緒に寝てくれるとわかると、顔が明るくなり、枕を取りに部屋を出て行った。 (素直な子。)  いのりはそんなことを考えるのだった。 「お姉ちゃんと一緒に寝るの初めてだね。」 「そういえばそうね。」 「えへへ。」 「まつり?」  まつりは笑いながらいのりに抱きついた。頬をいのりの胸のあたりで摺り寄せている。 「なにやってるの、まつり?」 「こうすると、お姉ちゃんがずっと一緒にいてくれるような気がしてすごく安心するな、と思って。」 「そう・・・。」 「お姉ちゃん、いいにおい。」 「ありがと。」 「ねえ、お姉ちゃん。」 「なに?」 「もし、大きくなってもこうやって一緒に寝てくれる?」 「もちろん、いいわよ。」 「ありがとう。お姉ちゃん、だ~い好き。」 「私もよ、まつり。」 その頃の二人はよく一緒に行動していた。今となってはいつも一緒というわけではなくなったが、それでも今も昔も変わらないことがある。それはお互いのことが好きだ、ということだ。  翌日。 「わ~~~~、遅刻する~~~~~。」 「姉さん、なんで目覚ましセットしとかなかったの~~~~。」 「まつりだって気が付かなかったじゃな~~~~い。」 「どうしよ~~~~、今日は一時限目から講義なのに~~~~~~~~~~。」 「お姉ちゃんたちがお寝坊するなんてめずらしいね。」 「そうね、でもそういうこともあるんじゃない。」  寝坊してあわてている姉たちを見ながら、つかさとかがみはそんな会話をしていた。そこにみきがやってきて、 「まあ、しかたないんじゃない?昨日は二人ともぐっすり寝てたみたいだし。」 「「?」」 「うむ。」  笑いながらそんな意味深なことを言う母にクエスチョンマークを出すかがみとつかさ。 「私の定期、定期はどこ~~~~~~~。」 「ノート、こないだ買ったノートがな~~~~~~~~~い。」 「あ!?」 「え!?」 “ゴン!!!”  二人がおでこをぶつける音が柊家中に響き渡った。  その後、おでこに(+まつりは鼻にも)バンソーコーを付けた二人はみごと遅刻しましたとさ。チャンチャン。 「「チャンチャン、じゃな~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!」」

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