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 私が次の授業の教科書を取り出していたところ、 「お姉ちゃん」  と呼びかける声がした。  私のことをそう呼ぶのは、双子の妹以外にいるはずもない。 「なに?」 「ええっと……世界史の教科書貸してほしいんだけど……家に忘れてきちゃったみたいで。えへへ……」 「教科書ぐらい、きちんと確認してきないさいよ」  といいつつ、世界史の教科書を取り出して、手渡した。  世界史の黒井先生はいい先生だけど、教科書を忘れたら、廊下に立たされるかもしれない。 「ありがとう、お姉ちゃん」  そういって、自分のクラスに戻っていった。  まったくそそっかしいんだから。  4時間目の英語の授業が終わり、昼休み。  妹のクラスに行き、妹や友達と一緒にお弁当を食べる。  おまえは自分のクラスに友達はいないのか、って?  まあ、いることはいるけど、こっちの友達の方が付き合いが深いというかなんというか。 「へぇ、ゆきちゃん、すごーい」 「いえいえ、そんな……」 「フラグたったね」 「ゲームじゃないっつーの」  会話は弾むけど、ボケが一人に天然ボケが二人だから、私がもっぱらツッコミ役。この配役は納得いかないわよね。私の負担を分担してくれる人は誰かいないのかしら。  それでも楽しいのは確かで、たわいのない話をしているうちに、昼休みはあっという間に終わってしまう。  午後の授業が終わり、みんなで途中まで一緒に帰る。  友達と別れてから、二人で電車に乗る。  揺られているうちに、妹は寝ちゃった。  夜は早いし、朝も遅いし、おまけに電車でも寝て、ちょっと寝すぎのような気がするんだけど。  降りる駅が近づいても、まだ起きる気配はない。 「おい、起きろ」  おでこを突っつく。 「はっ! やっさいもっさいか!?」  意味不明のセリフとともにあたりをキョロキョロと見回す妹……。  もはや、突っ込む気にもなれん。  いったい何の夢を見ていたのやら。  家に帰り、自分の部屋でくつろぐ。  ああ、そうだ。明日の準備をしておかないと。  時間割を確認して、教科書をカバンに入れる。  部屋のドアが開く音に顔を上げると、妹が教科書とノートを抱きかかえて立っていた。 「お姉ちゃん、明日までの宿題、教えてほしいんだけど……」  明日までの宿題をすっかり忘れていたらしい。 「分からないところは教えてあげるから、自分でやんなさいよ」 「うん」  テーブルに教科書とノートを広げて宿題開始。  結局、ほとんどの問題を教えることになった。  この子、こんなんでよく陵桜に入れたわね……。  そうこうしているうちに、お母さんがやってきた。 「晩ごはんできたよ」 「「はーい」」  食卓を三人で囲む。 「お父さんは?」  私が訊くと、お母さんが、 「今日はお仕事なの。番組の収録で明日まで帰ってこれないって」 「そう」  よくあることだったから、それ以上深くは追及しない。  ごはんを食べながら、今日あったこととかを話したりする。 「それでね、ゆきちゃんがね」  こういうときは、妹はおしゃべりだ。  それはいいけど、ごはんも食べないと冷めちゃうぞ。  ピンポーン。  玄関のインターフォンが鳴った。 「はーい」  お母さんが、玄関に走っていく。  こんな時間に誰だろう? 「あっ、お姉さん。いらっしゃい」 「おっす、つかさ。久しぶり」  来客は、お母さんのお姉さんにあたるかがみおばさんだった。 「久しぶりだね。近くでお仕事だったの?」 「相手の弁護士とちょっと交渉をね。この近くだったから、帰りに寄ってみたわけ」  おばさんは、弁護士をしている。 「せっかくだから、晩ごはん食べてってよ」 「いや、それは悪いから、すぐ帰るわよ」 「今日はみのるさんもいないから、気にしないでいいよ」  お母さんは、そういって台所に向かった。  ちなみに、みのるっていうのは、お父さんの名前。 「そういうことなら、ごちそうになってくわ」  食卓を囲んで、お母さんとおばさんは、お互いに最近のこととか共通の友人のこととかについて話していた。  本当に仲のいい二人で、私と妹もあんなふうになれたいいなぁ、って思う。  おばさんの仕事の話は、私も興味津々だった。  自分の腕だけで生きている人って、すごくかっこよくて憧れるところがあったから。  話が弾んだ夕食の時間もやがて終わった。 「ごちそうさま」  席を立ったおばさんに、私は思わず呼びかけた。 「おばさんは、もう帰っちゃうんですか?」 「そう思ってたけど。長居しても悪いし」 「これから、勉強教えていただけませんか?」 「私からもお願い」  お母さんが両手を合わせて、 「私、難しいこと分からなくて……」 「高校で習ったことぐらい覚えておきなさいよね」  おばさんは、お母さんに対して呆れたような顔をしたけど、 「分かったわよ。ごちそうになったお礼もしないとね」 「ありがとうございます」  妹は宿題の続きについて、私は教科書の今後の単元の予習について、おばさんから教えてもらった。  妹は、宿題が終わったあと、私とおばさんのやり取りをしばらく眺めていたけど、いつの間にか寝てしまった。  それから1時間ほどで、私の予習も一区切りついた。 「ありがとうございました」 「礼には及ばないわよ。それにしても、随分と勉強熱心ね」 「私、がんばって、おばさんみたいになりたいんです」 「勉強熱心なのはいいことだけど、私のマネばかりしちゃ駄目よ」 「?」  私が疑問符を浮かべてると、 「いい歳して一人身の寂しいおばさんになっちゃうから」 「……」  おばさんは、独身だった。旦那さんはいない。 「なんてね。まあ、私みたいになっちゃうとは限らないけど、この仕事はそういうところもあるってこと」 「あ、あの……おばさんは、そのう……男の人と付き合ったこととかないんですか?」  今から考えたら随分と失礼なことを訊いちゃったと思うけど、おばさんはあっさり答えてくれた。 「あるわよ、何人かはね。でも、全部駄目だった。私っていろいろと考えすぎちゃうのよね。考えすぎちゃって失敗しちゃったってのばっかり。恋愛は、あなたのお母さんみたいに自然体の方がうまくいくんじゃないかしら」 「そういうものですか?」  お母さんについては、正直尊敬できるところがあまりなかっただけに、おばさんの言葉は意外だった。 「誰にだって見習うべきところはあるものよ。あっ、でも、まつりおばさんだけは駄目よ。あれは反面教師にしかならないから」  うわっ、辛辣。  まあ、私も内心では同意だけど……。 「はぁ……」 「じゃあ、そろそろ帰るわね」  私は、寝てる妹を起こした。 「あと五分だけ、ホントに~」  完全に寝惚けてる。 「ほんと、つかさにそっくりね」  おばさんは苦笑した。 「すみません」 「人それぞれ、マイペースでいいんじゃない?」  お母さんと私と寝ぼけた妹で、おばさんを見送る。 「今日はありがとう、お姉さん」 「たいしたことしてないわよ。つかさのごはんも相変わらず美味しかったし、お相子よ」 「うん。あと、お正月ぐらいは実家に帰ってきてほしいな。お父さんもお母さんも寂しがってたよ。いのり姉さんもまつり姉さんも」 「そういえば、なんだかんだいって一年以上帰ってないわね。ごめん、ごめん。今度の正月は考えとくわ」  そういって、おばさんは去っていった。  その後姿は、やっぱりかっこよかった。

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