ID:mBaKusY0氏:噂の彼女

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「ジュース買ってきてー」 はいはい。 「何よコレ。めちゃくちゃ身体に悪そうな色じゃない!」 あきら様の好きな青色ですよ。 「ふざけないでよ。買い直し。ほら、さっさと行ってきてよね」 はいはい……。 / 「白石さんの彼女って、どんな人なんですか?」 あきら様は時々おかしな事を言う。 僕に彼女はいないって、わかってるでしょうに。 それなのに「彼女いるんでしょ?ね?ね?」って訊いてくる。 何なの? サドなの? もちろん周囲の仕事仲間にも話し声は聞こえていて、誤解は着々と広まっている。 おかげで「白石君。最近、ひーちゃんとは上手くいってる?」などと声をかけてくるスタッフまでいた。 すみませんが、それは架空の人物ですよ。K山さん。 / 「このゲーム何回やってもクリアできないからさー、あんたやってみてよ」 バイト帰りに呼び出され、僕はあきら様の家に行った。 家に着いてからようやく聞かされた理由は、そんなつまらないものだった。 疲れているのだから帰りたいけれど、そんな事をすれば間違いなくあきら様は怒るだろう。 僕は心の中で溜息を吐きながら、彼女の家族に挨拶をして家にあがる。 中学生のあきら様は家族と一緒に暮らしている。 だから問題は無いのかも知れないけれど……単語だけを抜き出してみるとアヤシイ感じがするのだ。 中学生、部屋で二人きり、家族公認、男に跨る少女。 「あきら様。セーブ箇所を間違えた事は謝ります」 だから、マウントポジションで殴るのはやめて頂けないでしょうか? / あきら様から借りた、というか借りさせられたゲームが進まない。 消してしまった部分まで物語を進めなければいけないのだが、二十時間やってもたどり着けない。 イベントを何度も見られるように保存をしていたようなのだが、それはだいぶ後半にあるらしい。 僕はそれから更に十五時間を費やして、あきら様が進めていた所まで来た。 感無量だ。 最初から通してゲームを遊んだおかげもあって、ストーリーにも共感できる。 ふむふむ、最後のボスを倒して一段落してからのデートイベントか。 折角だからここだけネーム設定を変更して、僕らの名前を入れてみようじゃないか。 あきら『べ、べつに、あんたに楽しんでもらいたかったわけじゃないわよ』 ……うーん、微妙だ。あきら様にツンデレは似合わないのかな。 / ラジオ番組の収録後、僕はあきら様に「今日も可愛いですね」と言ってみた。 「知ってるわよ」 彼女の返事はその一言だけ。 照れて顔を赤らめるわけでもなく、真顔で答えられてしまった。 なんだこれ? / 今日はM岸さんから新しい噂について教えられた。 僕が付き合っている女の子は、犯罪になってしまう程に年下らしい。 というか、既に逮捕されてしまうような事をした後らしい。 違うんですよ。噂とか、全部嘘ですから。 樹海に行く前に渡されたお守りは『安産祈願』でしたけど、関係ないですから。 / あきら様が不機嫌だった。 「酒」 お酒は二十歳になってからですよ。 「タバコ」 煙草も二十歳になってから。 「指輪」 それは十六歳まで待ってください。 「いや、いらないけど……。っていうかさ。そもそも買うお金あるの?」 ないですよ。 「あんた、一生結婚できそうにないわね」 そこは似てますよね。僕たち。 / 花見をしながらの暴露大会。 一番手は僕、二番手も僕、三番手も僕。以下、繰り返し。 そろそろネタも尽きたので、嘘の話をするしかなくなる。 えっとですね、もう卒業しちゃったから会うこともないんだけど、好きな人がいたんですよ。 「高校に?」 ええ。柊さんって言う、一緒にいるだけで毎日が楽しくなりそうな女の子でした。 「あんたは女の子に幻想を抱いてたりするから、きっとそれも『なりそう』ってだけよ」 そうかもしれませんね。 「うん。きっとそうよ」 はい。じゃあ、次の話を。いま言ったたことは全て作り話です。 / 春になって、また一つの噂が流れた。 K山さんによると、どうやら僕は結婚したらしい。 架空の恋人が「まだ小・中学生」だという設定は、いつ消えたんだろう? 噂の発生源はわかっているけれど、訊いてみるべきなのかは悩む。 考えながらあきら様を見つめていたせいで、視線に気づいた彼女からボールペンを投げられた。 / 占いAの結果、意中の人に告白をすると良いでしょう。必ずうまくいきます。 占いBの結果、恋愛運は絶好調。告白をする最大のチャンス。 占いCの結果、プロポーズをすると良いでしょう。 ……さすが、あきら様から借りた雑誌。参考にできる結果が一つもない。 / 「あんた、私の下僕よね?」 違いますよ。あきら様。様を付けて呼んでいるからって、ひどい誤解です。 「何でも命令を聞く?」 聞き流します。叶えません。 「お願い。じゃあ、一個だけだから」 まあ、それくらいなら……。 「よし、じゃあ願い事を百個に増やす」 ああ、なるほど。いつもこうやって僕が負けていますね。 / またもやラジオ収録後。今度は更に唐突に。 「今日は一段と美しいですね。あきら様」 「知ってる」 即答。 また負けた。 何に負けたのかすら、わからないけれど。 / バレンタイン。 お金を借りて、それを貴金属の類に変換してあきら様に返却した。 そのはずなのに、借金は少しも消えていない。 とても、理不尽な話。 終わり

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