とある休日の出来事――


京太郎「え? 今日って阿知賀女子の人たちが来るんですか!?」

久「そうよ、そのために集まったんじゃない」

咲「京ちゃん、話聞いてなかったの?」


 今日は私たち清澄高校麻雀部にお客さんがやってきます
 それも私の旧友がいる阿知賀女子学院の麻雀部

 インターハイで一度会ったものの、ゆっくり話す機会に恵まれず
 結局、インターハイが終わってからこうして会うことになったのです

 名目上、交流試合ということになっていますが……ふふ、穏乃達に会うのが楽しみです

 ですが……


京太郎「あのー…………」

久「なに、須賀くん」

京太郎「いや、その……」


 阿知賀のみんなが来ると聞いてから、どうも須賀くんがソワソワし始めました

 そういえば玄さんや、そのお姉さんはなかなか須賀くん好みの体型をしていましたね……

 ハッキリ言って異性をいやらしい目で見ている須賀くんは嫌いなのですが……
 今日は私も上機嫌ですから、少しぐらい大目に見ましょうか

 なんて思っていた矢先――


京太郎「―――俺って、いない方が良いんじゃないですかね?」


 予想を大幅に外れる発言が飛び出しました

久「ちょっと、なによいきなり……」

京太郎「いや……ほら、俺なんかが居ても仕方がないっていうか……」

京太郎「麻雀も弱いですし、ガールズトークに水を差すのもどうかと思うんですよ」

京太郎「ならいっそ、はじめから居ない方が良くないっすか?」


 …………なるほど、もっともな意見ですね


まこ「その言い分もわかるがな、京太郎」

まこ「お前さんだって麻雀部の一員なんじゃ。客が来るのに帰るなんて失礼じゃろ?」


 これももっともな意見


咲「今日来る阿知賀の人たちって和ちゃんが奈良にいた時のお友達っていうし、京ちゃんも会っていきなよ」

京太郎「いや……でもな……」

久「和はどう思う?」


 っと、どうしてここで私に振るんですか……

 そんなことを言われてもどう答えればいいか……

 第一、須賀くんの意見を尊重して帰らせたら私が須賀くんと阿知賀のみんなを会わせたくないみたいじゃないですか

 逆に会ってくださいと言えば、帰りたがってる須賀くんには迷惑でしょう

 どちらを選ぶとしてもマイナス要素がついてくる選択……ひどいです、部長…………


京太郎「なっ、和? 俺、別に居なくていーだろ? な? な?」


 …………でもここまで帰りたがられると少しイラッとしますね

 そんなに私の友達に会いたくないんですか、須賀くんは…………

 そうですね、そんなのこっちから願い下げです


和「それじゃあ須賀くんは帰ってください」

京太郎「よっし! じゃ、俺帰りますんで、あとよろしくお願いしゃっす!」 ギィ バタン

優希「ほ、ホントに帰っちゃったじぇ……」

まこ「和、お前さんも正直なやっちゃなぁ?」


 ほら、こういうこと言われるんですよやっぱり

 別に普段から須賀くんを嫌っている覚えはないのですが……どうしてですかね


和「須賀くんの意思を尊重しただけです。他意はありません」

久「どっちにしろ、和らしいわね~」


 どっちにしろってなんですか、誰のせいでこうなったと……

 相変わらずな先輩達の物言いに、うんざりしつつも
 これがあと少しで半分になるのかと思うと、ちょっとだけ寂しいですね……

 そんなことを考えながら麻雀卓備え付けのイスに腰を下ろそうとしたその時

pipipipipipi.....!!

 突然私の携帯に連絡が入りました


優希「のどちゃんのケータイの着信音だじぇ!」

まこ「まーなんというか……シンプルじゃのう」

和「ほっといてください!」


 私だって着信音くらい拘ってます!

 ちゃんと電話とメールで音変えてますし…………今のはメールの方ですね

 カパッと携帯を開くとそこには一枚の写真―――
 写っているのは見覚えのある人間、というかさっきまで会っていた人物


From:赤土先生

これ清澄の麻雀部員?


 …………須賀くんでした


晴絵「こんにちはー。今日はお世話になります」

久「部長の竹井久です。こちらこそよろしくお願いします」

京太郎「ハァ……」 グテー

和「なんで捕まってるんですか……」

京太郎「いや、なんか校舎出たところで捕まっちゃって……」


 ちょうどやってきた阿知賀のみんなと鉢合わせてなんだかんだで連れてこられたと……

 結局こうなるなら残ってもらったほうが良かったじゃないですか、もう……

 まぁ、須賀くんからの評価が下がらなかっただけいいでしょう
 ……そんな評価を気にする必要はないんですが


穏乃「のどかっ!」 ダキッ

和「わっ」

穏乃「元気だった!?」

和「え、ええ……」


 穏乃ほどではないですけどね


憧「こらしず! みんなが戸惑ってるでしょ!」

玄「和ちゃん久しぶりだね~」

咲「よ、よろしくお願いします」 ペッコリン

まこ「そんな畏まらんでもいいじゃろ。お互いまったく知らん仲でもあるまいしの」

灼「そうですね。今日はよろしく」 ニコッ

咲「は、はい!」


宥「この部屋、寒い……」 プルプル

久「窓の近くは日が射してるからあったかいわよ。というかこの時期じゃまだ暑いぐらいね」

宥「で、でもせっかくだからみんなとお話したいな……」

久「ふふ、そういえば阿知賀もあなただけ3年生なのよね。ここは同じ3年同士仲良くしましょ」


穏乃「なに食べてんのそれ?」 モノホシゲ

優希「タコスだじぇ!」

憧「うわ、両手に持ってる。そんなに好きなの?」

優希「タコスは至高の食いもんだじぇ! お近づきの印にちょっとだけかじらせてやろう!」

憧「微妙にケチだ……」


 清澄のみんなも阿知賀のみんなとすぐに仲良くなれたみたいです

 少し安心しました…………おや?

和「部長、赤土先生はどちらに?」

久「ああ、さっき須賀くん連れてバルコニー行ったわよ」

和「え? なぜ赤土先生が……」

久「ふふふ、教育者としてお説教だって」

宥「お説教? なんで?」

久「今から阿知賀の人たちが来るって言うのに、一人だけ帰ろうとしたからじゃないかしら」

宥「……? 私達の迎えに出てくれたんじゃ……」


 なるほど、赤土先生以外のみんなには誤魔化していたわけですか


久「んー、もしそうならたいしたもんね」

宥「…………??」

宥「あっ……彼、一人だけ男の子だから……赤土先生、私達に気を使ってくれたのかも……」


 その須賀くんこそ気を使って帰ろうとしてたんですけどね……

 すこしかわいそうな気がしますが……


穏乃「のどかー! せっかくだから麻雀しよ! 麻雀!」

和「あっ、はい、今行きます」


 せっかくだから、というか名目上は交流試合をしにやってきたはずなんですけどね

 まぁ、“せっかく”ではありますし、ここは思う存分穏乃達と遊ぶことにしましょう

 赤土先生には悪いですけど、須賀くんのことはまかせます


和「ロン、1000です」

穏乃「ふわ、逃げられたー!」 ハァァァ~~

優希「ぐむむ……南場でいきなり跳満放銃したのが痛かったじぇ……」

憧「うーん、もう少しだったんだけどな」


 なんとか一位で逃げ切れましたけど、やっぱり阿知賀も全国に行っただけのことはある……

 なかなか手強かったですよ……穏乃、憧


咲「次は私が入ってもいいかな?」

玄「わたしも入る!」

灼「それじゃもう一つの阿知賀枠は私が……」

穏乃「えっ! 私も宮永さんと打ちたい!」

憧「しず!」

穏乃「う、うぅ~」

咲「あはは……」

和「……染谷先輩、ここ入ります?」

まこ「んぉ? おぉ、悪いのう」


 さっきから入りたそうな顔してましたので……

 たぶん気を使って私にみんなと打たせようとでも思ってたんでしょうけど

憧「あ、そーだ。ねぇ、和。和はこっち来てなんか良い話あった?」

和「良い話……というと?」

憧「ほら、彼氏とか作ったかなーって」

和「はっ……!?」


 な、な、な、な、何を突然……!?


穏乃「たしかに和はモテそうだよね」

和「も、モテませんし、彼氏もいません!」

憧「ふーーーん?」 ニヤニヤ

和「憧っ!」

優希「のどちゃんは男より麻雀だじぇ!」

憧「あちゃー、麻雀が恋人か」


 あ、あちゃーってなんですか……

 第一、麻雀が好きで中学も阿太中を選んだ憧がそれを言うんですか!


久「なになに? 面白そうな話をしてるじゃない」

和「ぶ、部長」


 また面倒なことになりそうな予感がしてきました……

久「第一回! 清澄&阿知賀、恋バナ激白大会ー!」 パチパチー

憧「イェーーーイ! ノってるかーー!」


 ノってる人、もちろん二人のみ……


穏乃「なんだろうこのノリは」

宥「こ、恋バナとかないよぉ~~」

和「というか第一回ってなんですか!」

久「もちろん、機会があれば第二回も開催予定よ」


 あってたまりますか、そんな機会……


優希「じゃあまずは主催者の部長からだじぇ」

久「へっ!? わたし……!?」


 …………もしかして部長


和「そういう経験ないんですか」

久「ば、バカなこと言わないでよ! あるから!」

久「まー、私レベルになるといっぱいラブレターとかも貰ってるわ」


 果てしなくウソくさいですが聞き流しましょうか……


宥「それじゃあ久ちゃん彼氏とかいたんだ」

久「んー、全部断ったからそういうのはないわね。くだらない男ばっかりでさー」 ケラケラ

和「くだらない男しか告白してこなかったんですね」

久「ちょっ……!?」

優希「ははは! 言えてるじょ!」

久「こ、コラーーーーー!!」


 とりあえずこれで少しは溜飲を下げられました

 ……ちょっと意地悪でしたけど、部長ならいいでしょう


久「じゃ、じゃあ次は和よ!」

和「私はそのような経験はありませんので……」

穏乃「告白されたりとかしたこともないの? ちょっと意外かも……」


 高遠原時代にそういうことはありましたが……言う必要もないです


優希「そうでもないじょ! 中学の時はのどちゃんにたくさんの男が擦り寄ってきてたじぇ!」

和「ゆ、ゆーき!」

憧「でも浮いた話がないってことは……和のおめがねに適う男はいなかったってことか」

久「へーww 和もくだらない男ばかり引き寄せてたのねwww」


 むっ ここぞとばかりに反撃してくるとは……
 大人気ないですよ部長……!


和「くっ……じゃあ次は憧です!」

憧「あたし? あたしはいたよ、彼氏」

全員「「「「 !? 」」」」

憧「中2~3の頃にね」

穏乃「は、初耳だよ憧!!」

憧「あー……しずに誘われた時はもう別れてたし、知らないのも無理ないよね」

和「ど、どうして別れたんですか?」

憧「そりゃもう、麻雀よ!」

憧「3年の時のインターミドル、集中したいからって遊んでられなくなったのよ」

宥「ふあぁ~、憧ちゃんらしいねぇ」


 たしかに憧は小学生の頃からしっかりしていましたね……

 遊ぶ時は遊んで、いざとなったら誰よりも真面目に…………利口です


憧「フフフ、この中じゃあたしが一歩リードって感じ?」

久「ぐぬぬ……」

優希「くやしいじぇ」

憧「じゃ、次は宥姉ね」

宥「ひぇ!?」

宥「な、なにもないよ~~。私、中高阿知賀だし……」

久「阿知賀は女子校だったわね。それじゃ浮いた話もないかー」

宥「それじゃあ次は穏乃ちゃん」

穏乃「う、わたしの番かぁ」


 考えてみれば阿知賀メンバーの中で憧以外は中高共に女子校なのでは……?

 それじゃあ穏乃の話にも期待できませんね……

 ……いや、別に期待とか、楽しんでいるわけではないんですが……


憧「しずはそんな話ないでしょ」

穏乃「あ、あるっちゃあるかなー……なんて」

優希「部長みたいに見栄張らなくてもいいんだじぇ?」

久「み、み、み、見栄とかっ、は、張ってないし!?」


 やっぱり見栄張ってたんですか

穏乃「う、ウソじゃないよ? 小学生の頃にさ……」

穏乃「あぁなんか恥ずかしいなもう!///」

優希「からかって悪かったじぇ、真面目に聞くから」

穏乃「うん……」


 穏乃の話はこうでした

 小学生の頃、私が転校してくるよりも、阿知賀こども麻雀倶楽部ができるよりも前のこと

 穏乃には一緒に山で遊ぶ男の子の友達がいたそうです

 遊ぶ時はいつも二人きりでとても仲が良かったとか……

 小学生の頃は異性と遊ぶと友達から色々言われたりする年頃ですから、二人きりになるのは当然だったのでしょう

 しかしある日、男の子が穏乃に対して恋愛的なアプローチを仕掛けてきて……

 そういう意識が無かった穏乃は男の子と距離を取ってしまった、ということです


穏乃「距離をとったっていうか……もう拒絶だね。あいつの顔を見るとほんっと恥ずかしくってたまらなくて……」

穏乃「“もう一緒に遊ばない!”とか言っちゃって……馬鹿だよねホント」

穏乃「今思い返すと……私もあいつのこと好きだったんだなーって。たぶん、これが私の初恋……」


 穏乃らしい……というより、小学生らしい不器用な接し方で、実らなかった恋の話ですが――

 今まで中味のない話をしてきた私たちは、いつの間にか穏乃の話に聞き入っていました


久「ふ……負けたわ」

憧「そうね……しず、あなたがナンバーワンよ」

穏乃「えっ? え、え?」

宥「穏乃ちゃん以外のお話は、恋バナって言えるものじゃなかったもんね」

和「ええ、穏乃の優勝ですね」

穏乃「優勝……? えーと……やったーーー!!」

久「よくやった!」 パチパチ

憧「感動した!」 パチパチ

優希「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇーーーーい!!」

全員「!?」

優希「私だけまだ恋バナ披露してないじぇ!!」

久「タコスが恋人でしょ? はい終わり」

優希「コラコラコラ~~~~っ!!」

憧「しかし……小学生時代にあたしの知らない男友達がいたとは……」

穏乃「憧も知ってると思うけど。ほら、5年生になるぐらいの頃に転校しちゃった……」

憧「あー、そんなのいたっけ?」

和「それなら私は知りようがないですね……」


 穏乃が好きだった男の子、一目見たかった気もします

 楽しい時間はあっという間に過ぎていきました

 それから麻雀の終わった咲さん達や戻ってきた赤土先生も交えてみんなでお話をしました

 …………今日は本当に楽しかったです

 やっぱり友達は多いほうが楽しい……またこういう機会があるといいですね……


ガチャ

京太郎「あ、和。……阿知賀の人たちはもう帰ったのか?」

和「ええ、今さっき帰りました」

京太郎「そっか……。じゃあ俺も帰ろうかな」

和「はい、今日はすみません。気を使ってくれて……」

京太郎「いや……気にしてねーって。こっちこそごめんな、気ぃ使わせて」

和「…………?」


 ふと、須賀くんが遠い目をしているような気がしましたが――――


久「須賀く~ん、赤土さんのお説教はどうだったのよ?」

京太郎「はははっ、お説教というより途中から俺の悩み相談になってましたよ」

咲「へぇ~京ちゃんでも悩み事とかあるんだ」

京太郎「なんだと~!? こらっ、咲~!」

咲「きゃ~! 京ちゃんが迫ってくる~!」


 ―――すぐにいつもの須賀くんに戻りました

 いったい何故彼はあんな目をしていたんでしょうか……?


 …………まぁ、私が気にすることでもありませんね



おわり