その日、私は高校入学祝として新しく買ったばかりの服に身を包み
 雨上がりの春のうららかな陽気の下を歩いていました

和(綺麗な桜並木ですね……うん?)ポトッ

 小さな衝撃に桜へと向けていた視線を胸元に落とすと、そこには

和「ひぃっ、け、毛虫!?」

 時季外れの災難。慌てて叩き落とそうとしましたが
 大きな胸のせいかあるいは可愛らしさを演出する波打つ生地のせいか。
 ようやっと解放されたときには私の息は上がり。
 安堵ゆえの油断。
 近くにあった並木に無造作に背を預けてしまったのです。
 一瞬、音が消えたように感じました。そして。

和「ひっ、いやああああああ!!!」

 蝉時雨なら風流でしょう。しかし毛虫雨(物理)など悪夢でしかありません。
 ゆっくりと流れる時間の中、胸元に2,3の衝撃。続くように見上げた顔に――

「うわっ、なんでこんな……。傘持っててラッキーだった」

 閉じることすらできなかった目を、声の方に向けるとそこには
 ビニール傘を持った濃い金髪で背の高い男の人がいました。
 驚きとともに胸に嫌な感覚。

和「ひゃっ!?」

「え? あ、ごめん!」

和「違います! ひっ! む、胸っ」

 そう。あろうことか男性が防ぐ前に落ちた毛虫が服の隙間から侵入し
 ブラジャーをしていない胸を這いまわっていたのです。

和「とってくださいぃっ!」

「は? ちょ、マジで?」

 今思えばなんとはしたないことを口走ったのか。
 以外に幼さを残した男性が呆気に取られるのも当然です。
 しかしそれも一呼吸ほどのこと。
 やけにキリッとした真面目な表情になると、むんずと私の胸を鷲掴みにしてきました。

 痛い。そう声にも出ていたのでしょう。
 一瞬固まった男の子はごめんと謝り、しかし胸を掴むことはやめず。
 それどころか下から掬うように持ち上げ。
 ついには服の隙間から指を差し入れ撫でるように。

 私にはもう、胸を走る感覚が毛虫の這うものか彼の指かも分かりませんでした。
 やわやわと揉まれたような気もしますし、敏感な先端を抓まれたような気もします。

 そうしてどれだけの時間が経ったのか。
 彼は矯めつ眇めつ眺め、確認するように胸の全てをするりと撫で。
 毛虫は全て取り払われたことが確認されました。
 満足そうに一つ頷いた彼は、一転顔を青ざめさせ。

「そ、それじゃ俺はこれで! 失礼しました~~~!」

 呆然とする私を置いて取るものもとりあえず走りだし……いえ、逃げていきました。
 ハッと気を取り直し慌てて木の下から離れ、そこに傘が残されていることに気付きました。

和「須賀……京太郎くん、ですか」

 傘の柄にあった名前。
 端から見れば痴漢とその被害者かもしれません。でも。
 不思議と心は暖かく。災難と運命に同時にあったような。
 傘を拾い、微かな笑みを携えて私は家に帰りました。
 今度あえたら返そう。
 それが実現するのはすぐのことだと、らしくなく確信してたんです――

                                                              カンッ

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最終更新:2018年05月02日 20:50