◎都内のとあるバー

カラン…カラン…

店員「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」

咲「あ、いえ。連れが先に来ていると思うんですが…」

店員「お待ち合わせですね。承っております。どうぞ、奥へお進みください」

咲「ありがとうございます」


京太郎「…ふぅ」

咲「京ちゃん?」

京太郎「うぉ!?」

咲「うわっ!?何!?こっちが驚くよ!」

京太郎「…一人か?」キョロキョロ

咲「え?うん、一人だけど。…なんで?」

京太郎「いや…まさか咲が一人で待ち合わせ場所に来れるとは思わなくてさ」

咲「京ちゃんが呼び出したんでしょ?もぉ…座るよ」ガタン

京太郎「ああスマン。…その…まあ何だ。元気だったか?」

咲「まあ変わりないけど…あ、すみませんロング・アイランド・アイスティーお願いします。テレビで中継とか見てるでしょ?」 

京太郎「最近テレビとか見なくてさ。…っていうかそれってそこそこキツイやつだろ。大丈夫か?」

咲「慣・れ・た・の。大体京ちゃんだってお酒ほとんど飲めないじゃない」

京太郎「俺は自分の限界を弁えてるからな」キリッ

咲「…へぇ」

京太郎「あ」(マズった…)

咲「“限界を弁えて”いらっしゃる!へぇ!須賀さんはお酒を飲んで我を忘れるなんてことは無いと!」

京太郎「あの…咲さん?」(咲が俺を名字で呼ぶときは“私は怒ってます”のサイン…!)

咲「そうでしょうねぇ!初めてお酒を飲んだ日に“あんな失敗”しちゃったんですものねぇ!」ゴクゴク

京太郎「その件につきましては誠に、深く、心の底より反省しております…」

咲「反省?ふぅん…須賀さんは何を反省していらっしゃると?」

京太郎「………たことです」ボソボソ

咲「聞こえません」ゴクゴク

京太郎「…った勢い…無理や…ったことです」ボソボソ

咲「聞・こ・え・ま・せ・ん!」

京太郎「ゴメンナサイ。モウシワケアリマセン。モウユルシテクダサイ」(白目)

咲「あれは忘れもしない私たちが大学生の頃、ドラフトで私のプロ入りが決まった翌日だったね」グビグビ

京太郎「…」

咲「京ちゃんが私のアパートにお酒持って押しかけて来て、既に半分酔ってる状態で『咲の就職祝いだ!』とか言って上がり込んで」

京太郎「う」グサ

咲「『咲も今日くらいは無礼講!無礼講!』とかいって私にお酒を勧めて」グビグビ

京太郎「う」グサ

咲「それで私もけっこう酔っちゃったあたりで『ちょっと飲み過ぎた…』とか言い始めて」

京太郎「う」グサ

咲「しょうがないからベッドに連れて行ってあげたら『咲ぃ…お前カワイイしいい匂いするなぁ』とか言ってきて」

京太郎「う」グサ

咲「その後ベッドに押し倒されてからの記憶は無いんだけど、朝目覚めたら明らかに“致しちゃった”跡が…」

京太郎「ゴフッ…あ、あの…咲さん?」

咲「何かしら京ちゃん?」ゴクゴク

京太郎「そ、それについてはホントに済まなかったと思ってる…何度謝っても許されることじゃないことも分かってる…
    で、でもな、それ以上言われるとホント心が痛いんだ…!」

咲「お酒に酔った勢いでどこかの幼馴染に初体験を奪われた私は心もアソコも痛かったんだけど?」

京太郎「ハイ…」

咲「京ちゃんが全部遠慮なく中に出してくれちゃったから、せめてシャワーだけでも浴びたかったのに、
  私を抱き枕みたいにしっかり抱きかかえたまま熟睡してて起きないから動けないし」

京太郎「モウシワケゴザイマセン」

咲「まあ安全日だったから良かったけど。その後卒業したらすぐに長野に帰っちゃってさ!」

京太郎「それは…牌のおねえさんじゃないけど女子プロってファンからアイドル的な側面で見られることもあるから…
    俺が近くにいて万が一咲のキャリアに迷惑が掛かったら…って思うと」

咲「言い訳不要!こんなちんちくりんをそんな目で見るファン人なんかい・ま・せ・ん!」グビグビ

京太郎「誰もそんなこと言ってないだろ…咲は今も昔も十分カワイイよ。」

咲「ま、まあ!こ、こんな体形でも興奮しちゃう悪趣味な須賀さんは言うことが違いますね!」

京太郎「あ、ありがとうございます?ってかさっきから飲みすぎなんじゃないか?顔真っ赤だぞ?」

咲「…ねぇ京ちゃん」

京太郎「ん?」

咲「もしも…もしもだよ?私が『気にしてないよ』って言ったらどうする?」

京太郎「え!?」

咲「最後まで聞く!…清澄にいた頃に、私たちの好きな男の人のタイプの話をしたの覚えてる?」

京太郎「ああ、覚えてるぞ。」

咲「じゃあ私の好きなタイプは覚えてる?」

京太郎「『麻雀が強い人』…だったよな?」

咲「そう!そこだよ!」

京太郎「どこだ?」

咲「だからさ、発想の転換だよ!」

京太郎「…と、言うと?」

咲「要するに、あの夜のことが私の中でいい思い出だったら京ちゃんのことを責める理由はないと思うんだよね」

京太郎「はぁ…」

咲「つまり京ちゃんが麻雀強くなるでしょ?そしたら私の好みのタイプになるわけでしょ?お酒が入ってたことは仕方ないけど…
  それでも自分が好きな人に抱かれたんだったら、それはいい思い出でしょ?」

京太郎「無茶苦茶な理屈だなぁ」

咲「チームの勧誘の話、聞いてるよ。どうせ私に会いたいっていったのも、自分がプロの世界でやっていけるかどうか、私の意見を聞きたかったからでしょ?」

京太郎「…バレてたか」

咲「残念だけど、今の京ちゃんじゃ私のタイプとは言えないなぁ」

京太郎「…まぁそうだよな」

咲「でもね?今回の話が上手くいって京ちゃんがプロになれたら…」

京太郎「俺を好きになってくれるって?」

咲「………あ~あ!何かホントに飲み過ぎちゃったなぁ!」

京太郎「ちょっ…」

咲「大きい試合も控えてるし、私は帰るね」

京太郎「あ…ああ。わざわざすまなかったな」

咲「…ねぇ京ちゃん」

京太郎「何ださk…」

咲「んっ」チュッ

京太郎「え?…ええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?」

咲「うるさい!お店に迷惑でしょ!」

京太郎「だって…だってお前…今キ」

咲「じゃあまたね」

ガチャ…カラン…カラン

京太郎「え?え?今の何?むしろこれって夢?」

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ねぇ京ちゃん

あの日の朝さ…京ちゃんが起きたとき、腕の中の女の子は泣いてた?
私が今まで、あの夜のことで京ちゃんを揶揄うことはあっても本気で怒ったりしたことあった?

私は知ってるよ
「咲は麻雀が強い奴がタイプだから」って高校時代から勉強し始めて、ちょうどあの日に実業団からオファーが来てたこと
「受けてもらえなかったら、咲に捧げるはずだった人生を麻雀に捧げりゃいいだけの話」って婚約指輪まで用意してたこと
ホントに京ちゃんは私のことが大好きなんだねぇ

私だって女の子なんだよ?あの夜ことを本気で後悔してたら二度と京ちゃんとは合わないし、少なくとも一緒にお酒なんか飲まないよ
知ってる?ロング・アイランド・アイスティーってね?いわゆる“レディーキラー”なんだよ?
女の子がそんなお酒を男の人の目の前で何杯も飲んでるだよ?

さっきさ、『麻雀が強くなったら俺を好きになってくれるか?』って聞いたよね
自分は巨乳な子がタイプなのに私を好きになったクセに…鈍感極まりないよね

分かってる。メンドクサイ女だよね
素直に『順番は逆になっちゃったかもだけど、嬉しかったよ』って言えたらいいのに
京ちゃんからあの日をやり直してくれることを期待して待ってるだけ
でもね?私もそろそろ我慢の限界なんだよ?
だからさっきのヒントで気づけなかったら…そのときは…


「今度は私が京ちゃんを襲っちゃうかもね」


カン!

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最終更新:2018年05月02日 20:49