それはインターハイ団体戦の決勝が終わった次の日。
誰一人個人戦に出ていないにもかかわらず「和も出てるし見ていってもいいよね」などという軽い気持ちで阿知賀は滞在を伸ばしていた。
だが当然ながら知人が試合に出てない時は暇であり、彼女ら――高鴨穏乃・新子憧・松実玄の三人は街にくり出した。
「どうせなら有名なラーメン店に行こう」などとムードメーカーが言い出し、少し離れていたので電車に乗ったはいいのだが――

玄「あわわわ、なんでこんなにいっぱいなの~?」
憧「東京の電車舐めてた……満員電車がこんなにひどいなんて」
穏乃「あははは、すっごい人だねー。うぎゅー」

目を回す者、人の熱気にげっそりする者、明るく笑うも押しつぶされかける者。誰もが都会の洗礼を受けていた。
更にそこに重なるように電車の減速。三人はまた潰されると思い覚悟に目を閉じ――しかしその瞬間は来なかった。

疑問に薄く目を見開くと、そこには寄り添う三人を守るように両手をドアに押し付けた金髪の男子高校生がいたりなんかして。

穏乃「あれ? これ和と同じ学校の制服の……」

京太郎「ん? ああ、どこかで見たと思ったら阿知賀の先鋒・中堅・大将だっけ」

無意識だったらしく、男は手によるガードを緩めないまま視線を下げて三人に合わせる。

憧「ふ、ふきゅっ、壁ドン!?」
玄「あわわ、ごめんなさいですのだ。憧ちゃん男子になれてなくて」

変な声を上げるオシャレ少女に、ぺこぺこと頭を下げる清楚系おもち大好き少女。

京太郎「わ、わりい。つい癖で……知らない男にこんなのやだよな。とっさで気が回んなくて」
憧「う、ううん、か感謝はしてるからっ。ちょっとびっくりしただけでっ」
京太郎「そ、そか? いやだったら気にせずそう言ってくれても」

お互いに顔色をうかがう見た目だけはリア充男女に阿知賀を引っ張るムードメーカーが声をかける。

穏乃「憧は照れてるだけなので。えっと、須賀くん、ですよね? 癖ってなんですか?」

何気に初対面には丁寧なポニテ少女がかばいつつも疑問を呈すそれに対して男はどこか遠くを見るような眼をして。

京太郎「あー、うちはすーぐ人ごみに流される奴とか、痴漢されかねないのがいるからな。なんつーか習性に近いっていうか」
玄「ほうほう。そうして和ちゃんのおもちを守っていると。分かりますのだ」
京太郎「わ、分かるのか……いやいいけど」

なぜか変な部分で共感する見た目は大和撫子な残念娘に気圧されながらも、今度は加速の車体の揺れから女子三人を守り続ける。

穏乃「確か須賀さん、でしたよね。そちらはどうしてこの電車に?」
京太郎「お、出場もできてない男子の名前まで覚えてるのか、すげえな。ちょっと行きたいラーメン屋があってさ。〇〇っていうんだけど」

穏乃「いやー、憧が『共学、部活内恋愛……』とか前ぶつぶつ言ってて」
憧「ちょ、シズ余計なこと言わないで!」
玄「ほほう、奇遇ですのだ。私たちも同じ店に向かっているのです」
京太郎「お、マジで? だったら店までエスコートするぜ。もちろんそっちが嫌じゃなかったらだけど」

とある文学少女に発揮されるお姫様扱いスキルを無自覚に発動させる普段は三枚目の金髪男子。

穏乃「どうせだったら相席で、和の話とか聞きたいですし! 憧、いい?」
憧「う、うん。まあ悪い気はしないし」
玄「ふわわ、お願いしますのだっ!」

下心なし、照れながらどもる、少しテンパりながらも前に出る、三者三様の反応を受けて。

京太郎「んじゃまあ、お相伴いただきますか。短い間だけどよろしくな、お姫様」

ちょっと冗談めかした対幼馴染用の言葉は、まだ知り合って間もない少女たちに耐性があるわけもなく、顔を赤くさせたのであった。
なお、ラーメン屋で某ラーメン好きに付き合わされた臨海女子と遭遇するのはまた別の話。


カン

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最終更新:2018年04月30日 20:54