――清澄高校 麻雀部部室



京太郎「やっぱり、厳しいかもしれないですね」

まこ「そうじゃのう。抜けた穴は大きいけぇ」

ムロ「え……なんですか? なんか不穏な感じしてますけど」

優希「おう、ムロ」

京太郎「来年の麻雀部のありかたについて、話をしてたんだけどな」


ムロ「なんでしょう? 一応、来年ここに入るんで気になるんですけど」

京太郎「ああ、実は……」

和「来年のメンバー、このままでは正直キツいかもしれないという話を……」

ムロ「う……」

咲「あの、なにもムロちゃんが気にする事じゃないよ?」

ムロ「確かに、竹井先輩が居なくなると色々と大変だと思います」


ムロ「あ、べつに先輩方が頼りないとか、そういう事ではないですよ?」

京太郎「わかってるって」

ムロ「でもやっぱり、竹井先輩ほどの戦力が抜けるのは相当な痛手ですよね」

まこ「……ん?」


ムロ「私なんかが穴埋めできるなんて思いませんけど、でも、たくさん練習して一生懸命……」

京太郎「あ、あー、ちょっと待って。ムロ、ちょっと勘違いしてるかも」

ムロ「え……? 勘違い?」

和「はい」

まこ「まぁ、そっちもそっちで課題ではあるがのう」

ムロ「団体戦とかの話ではなく? じゃあ、なにを……」

京太郎「ああ、それは……」


京太郎「清澄高校麻雀部のボケとツッコミのバランス問題についてだ」

ムロ「はあ?」


ムロ「ボ、ボケ……と、ツッコミ?」

京太郎「そうだ」

まこ「人には2種類おる。ボケとツッコミじゃ」

京太郎「元部長がいなくなったいま、清澄高校麻雀部は深刻なボケ不足に悩まされている」

ムロ「あー、竹井先輩ボケなんですか」

まこ「久がおらんくなって、いまは優希がその役目を一身に受けちょる」

優希「いやー、ツライじぇツライじぇ」


ムロ「正直わけがわからないんですけど」

京太郎「まぁ、そうだろうな。でも、これにはワケがあるんだ」

ムロ「ちゃんとした理由があるとは思えませんが、聞きましょう」

京太郎「ことの始まりは元部長だ」


まこ「あいつはイベントとかドッキリを仕掛けるのが大好きでのう」

優希「よくいろんなことを思いついてたじぇ」

咲「染谷先輩のお店でバイトしたのも、今ではいい思い出だよ」

和「それもすべて、麻雀部の空気を良くするためだったんです」

ムロ「わかります。竹井先輩って、そういうところ気を使ってくれますもんね」


まこ「じゃが、そんな毎日できんわな」

優希「さすがにネタ切れになるじぇ」

和「そこで竹井先輩は、もっと日常的に楽しくコミュニケーションをとれないか、と考えたんです」

京太郎「それで出たアイデアが……」


ムロ「ボケとツッコミ、ですか」

京太郎「そういうことだな」

ムロ「経緯はわかりましたけど、なんか逆に面倒な気がするんですけど……」

咲「でも、それで助かってるところもあるんだよ」

ムロ「え?」


咲「私、よくドジやらかしちゃって周りに迷惑かけちゃう事が多いの……」

京太郎「いまに始まった事じゃないけどな。むかしからどっか抜けてんだよな」

ムロ(……似たようなタイプか)

咲「それが自分ですごくイヤだったんだけど、ツッコミをいれてくれるようになってから変わったの」


咲「注意されたり叱られたりすると空気が悪くなっちゃうけど、ツッコミなら和やかな雰囲気になるんだ」

ムロ「もともと、漫才とかお笑いのやりとりですからね」

京太郎「つまりは、失敗のフォローとかコミュニケーションを円滑にするためのツッコミってわけ」

ムロ「うわー、なんか納得しちゃいました」


まこ「ほんで、最初の話にもどるが」

ムロ「ボケ不足でしたっけ?」

京太郎「べつに積極的にボケなくてもいいけど、やっぱあったほうが楽しいじゃん」


優希「そこで問題になるのが『キャラ』だじぇ」

ムロ「キャラ?」

京太郎「たとえば、普段まったく冗談を言わないような真面目な人がいたとしてさ」チラ

和「こっち見ながら言わないでください」

京太郎「その人が『ニチジョウチャハンジ』って言葉を使ってたんだ」

ムロ「え、チャハンジ? サハンジじゃないんですか?」

京太郎「俺も最初そう思ったんだけど俺もそんなに詳しくないから、そういう読み方もあるのか、くらいに思ってたんだ」

咲「それで私が、もしかしてサハンジじゃない? って諭すように言ったんだけど……」


京太郎「どうやら本人はボケのつもりで言ってたらしい」

ムロ「ええー!?」


ムロ「わかんないですよー!」

京太郎「だよなー!」

まこ「その本人、あんましユーモアの匂いのせん人間じゃけぇのう」

優希「ふつうに間違っちゃったのかと思うじぇ」

和「…………」プルプル


京太郎「それで、無理にボケたりするのは」

咲「やめようって話になったんだよ」

ムロ「はあ」

まこ「そういう意味で、ボケれる人間が少のうなっちょる」

優希「ムロは完全にツッコミタイプだからなぁ」

ムロ「そう、なんでしょうか?」

和「中学のころはマホちゃんがいましたし、なおさらそう思えますね」

ムロ「いやアレは、そんなつもりはないんですけど」


優希「スキあらばなんにでも、どこにでもツッコむし」

ムロ「そんな、人をプリウスみたいに……」

京太郎「いや……ちょい待ってくれ」

咲「どうしたの? 京ちゃん」

京太郎「ムロがそこまで言うんだったら、ボケさせてみたらどうだ?」


ムロ「べつになにも言ってないですけど」

まこ「そうじゃのう。まだなんもしとらんうちから決めるんは、早急かもしれん」

優希「でも、もしまた大火傷を負うようなことがあったら……」

京太郎「そう言うな。和も悪気は無かったんだ」


和「くっ……」プルプル

咲「え、えーと……ドンマイ?」

ムロ「でも、いきなりボケろって……無茶振りにもほどがありますよ」

優希「そう構えなくも普通にしてればいいじぇ。自分のタイミングで放り込めばいいから」

ムロ「はあ……そうですか」


和「さて、気分を切り替えて部活を再開しましょう」

まこ「じゃな。メンツはどうする?」

ムロ「先輩方どうぞ。私、お茶淹れてきます」

優希「お願いするじぇ~」


――――
――

京太郎「ムロ、そこに人数分のカップ出しといて」

ムロ「はい」

京太郎「茶葉よし、と。あとはお湯が沸くのを待つだけか」

ムロ「そうですね。ところで、ちょっと疑問なんですけど」

京太郎「なに?」


ムロ「どうして須賀先輩がお茶淹れてるんですか?」

京太郎「え、なんで? もしかしてお邪魔だった?」

ムロ「いえいえ、そんなつもりじゃないですよ。けど……こういうのは下級生に任せてもいいんじゃないですか?」

京太郎「ああ、そういう事。んー、べつにいいんじゃねぇの? 手の空いてる人がやればさ」

ムロ「そういうものですか」

京太郎「もともと人数が少なくてやれる人がやってたから、あんまり先輩後輩とか関係ないかな」


京太郎「高遠原はそうだったのか? マホがお茶淹れてたり」

ムロ「そんな事させませんよ、危なっかしい!」

京太郎「ですよねー。そのあたり清澄だからって、べつに変わんないと思うぞ」

ムロ「そうですか」

京太郎「俺も、あんまり先輩風とか吹かせたくないしさ」

ムロ「ああ、見ててそんな感じしますもんね」


京太郎「……威厳が無い、と?」

ムロ「ち、違いますって! 偉ぶらないというか、気さくというかフレンドリーというか」


京太郎「ならよかった。ムロも、そんなにかしこまらなくていいぞ?」

ムロ「誤解が解けてなによりです……っていうか、欲しいんですか?」

京太郎「なにが?」

ムロ「ですから、威厳みたいなの」

京太郎「そりゃあ、男の子ですから。憧れられたりしたいよ」

ムロ「ふーん……あ」


ムロ「威厳が無いとか言っちゃイゲンよぉ~。なんちゃって」

京太郎「…………」


――――
――

京太郎「いま、清澄高校麻雀部は深刻なボケ不足に悩まされている」

まこ「ほんじゃあ引き続き、来年も頼むわ」

優希「かしこま! よしみんな、あの夕陽に向かって走るんだ!」

咲「もう優希ちゃんってば、今日は朝から大雨警報だよー」


「「あっはっはっはっはっはっ」」


ムロ「うぅ…………」ズーン

和「ドンマイです」ポンポン



カン

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最終更新:2018年04月30日 20:52