「……さて」

家に遊びに来るや、いきなりポッキーを口にくわえた宮永咲。
瞼を閉じて、唇を突き出して催促してくる。
心なしか、頬も朱色に染まっていた。
見る限り、彼女がやろうとしていることは見当がつく。
ポッキーゲームだろう。
今日はポッキーの日だからな。
教室でもモテない男子がふざけあって、食べさせあっていた。
朝からあまりにも汚い光景に一部の女子からはドン引きされ、またある女子たちは嬉しい悲鳴を上げていたのは記憶に新しい。

だが、それがどうして今の状況につながるのか。
理由がわからない。
咲は人見知りで、恥ずかしがり屋さんだ。
そんな彼女が気心知る俺相手とはいえ、普段ならこんなことしないはず……。

「……咲。お前、まさか……」
「…………」
「風邪でもあるんじゃないか!?」
「元気だよ!」

どうやら、俺の予想は的外れだったらしい。
ぷりぷりと怒りながら、咲は口から落ちたポッキーをポリポリと食べた。
……リスが木の実をかじっているみたいで可愛いな。

「もうっ。京ちゃんは何にもわかってないんだから」
「ひどい言い草だな。咲のことならなんでもわかっているつもりなんだけど」
「そ、そういうのも禁止!」
「え、なんで?」
「だ、だって、いつも周りから奥さんなんて言われるし……。
 まだそういうのは早いと思うもん……」

そうか……。
咲も年ごろだもんな。
昔の俺の名前を呼びながら、後ろをついてきた彼女も成長しているんだ。
俺もいつまでも親目線で見ているのは、咲に失礼だよな。

「ごめんな、咲。次からは気を付ける」
「わ、わかればいいんだけどね」
「あ。でも、俺は咲がお嫁さんでも嫌じゃないぞ」
「もう! もう!」

ポカスカと胸を叩いてくる咲。
か弱い彼女の攻撃は全くもって痛くない。
むしろ、その行動をほほえましく思う。

「ごめんごめん。わかってるよ。からかわない。これでいいんだろ?」
「最初から素直に言うこと聞いてくれたらいいのに」
「俺はいつだって素直だぞ」
「……じゃあ、また初めからやるから。今度はちゃんと正直になってよね」

咲はそれだけ言うと、銀袋から新しいポッキーを取り出す。

「……ん」

振出しに戻った。
どうやら俺がとぼけていたのは、彼女にはバレバレだったらしい。
控えめな咲がこんな大胆な行動を取れる理由。
そんなのただ一つ。
恥ずかしさにも勝る、欲しいものがあるからだ。
そして、それは俺も欲する感情。
恋人からの愛情。
咲は恥ずかしがりだから、こうやって何かの力を借りないと、自分から気持ちを伝えられないのだ。
なら、恋人の俺がうまく汲んでやらないとな。

「……いただきます」

反対側を加える。
サクサクとポッキーがかじられる音だけが室内にこだまする。
チョコはとても甘かったけど。

「……えへへ。好きだよ、京ちゃん」

最後に口にした彼女の唇は、間違いなく世界で最も甘い味がした。

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最終更新:2018年04月30日 20:51