竹井久、その精魂は悪待ち。故にヤクザの情婦となったのは彼女にとって後悔ではなかった
その男が成功すると信じたから、暴力にも耐えた。相手はよりやばい橋を渡っているのだからと。

そしてそのヤクザが最後に頼ったのが己の情婦が得意である麻雀であったのは、さして不思議でもない。
ただ誤算があったのは、一つの再会。

久「そんな……どうしてこんなところに、須賀くん……」

京太郎「部長、いえ竹井久さん、積もる話は卓の上で」

知っていたはずの顔に浮かぶ笑みは、彼女が見たことがないほど温かみがなく

京太郎「ロン」
久「っ」

彼女は、明らかに狙い撃ちをされていた

ヤクザ「久、ワレェ!」

久「ごめんなさい、ごめんなさい!」

京太郎「そう騒がないでくださいよ、その人の打ち方は傍で見ていたんですから、ね?」

久「須賀くん、どうして、こんなひどい」

京太郎「敵なんだから当たり前でしょう? でもあれですね、人に従う部長ってのは違和感がありますね。
    ああそうだ、こうしましょう。最下位の人は死ぬということで」

ヤクザ「てめえ、なに言っとるんじゃ!」

京太郎「余興ですよ余興。その代わり、生き残った方は見逃すということで。楽しいでしょう?」

額にして5億分の負け分、その金額は人によっては命と等価。だからこそ

ヤクザ「絶対じゃぞ?」

久「ちょ、ちょっと、あなた!?」

ヤクザ「負けとるんはお前のせいじゃろっ! 自分の命で支払わんかい!」

彼女は選んだはずの相手に突き放され、オーラスを迎える。

ヤクザ「くそ、当たれるもんなら当たってみいっ!」

久(上がれるけど、ダメ、この点数じゃ私は最下位のまま……高めなら)

京太郎「俺は上がりますよ、ロン2000」

ヤクザ「はんっ、順位も変わらん上がりか、久、お前知り合いにも見放されたの、だが俺は生きてる!」

京太郎「部長? ダブロンは、ありですよ」

酷薄だった浮かんだのは、かつて見たような温かさ。それに背を押されるように彼女は

久「ろ、ロン! 9600!」

ヤクザ「久! キサン!」

久「あ、あなたが悪いのよ! あんな条件受けるからっ!」

裏切りによって立場を逆転されたヤクザは、いくら騒いでも黒服に無理やりに連れていかれる。
その背を見もせず、彼女はかつての後輩に小さく問いかける。

久「ね、ねえ、もしあの時私が裏切らなかったら……それに、あんな得にもならない条件」

京太郎「破滅してこそギャンブル、そう思いませんか、部長?」

その答えと冷たい笑みに、自分が知る後輩はもういないのだと、彼女は結論を出した。

――――
数時間後、家に帰りついた京太郎はいつものように扉を開ける。

京太郎「ただい、わっぷっ」

咲「京ちゃん、お帰り!」

京太郎「飛びついてくるのやめろよ。これ、買ってきたお前の夕飯な」

咲「うん、ありがとう」

ハムスターのようにモグモグと口に詰める幼馴染を見て、数瞬の躊躇を経て京太郎は問う

京太郎「外は、やっぱりダメか?」

咲「う、うん、ごめんね。こ、怖くて」

ただでさえ人見知りな彼女はプロの世界で取材のプレッシャーを受け続け、職なしの引きこもりへと悪化していた。

京太郎「別に責めてないからいいよ。お前の生涯分ぐらい、稼いでくるからさ」

咲「きょ、京ちゃぁん。大好き……」

その為に京太郎が何をやっているかなど、咲は想像もしない。


カン

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最終更新:2018年04月30日 20:49