「ちょっ…!?お母さん、何を─?!」

「しーっ…和、静かにして。京ちゃんが起きちゃうでしょ」

原村和は、自宅の居間に入った矢先に声を上げそうになった。

母の膝を枕に、恋人が寝息を立てていればそれも仕方ないだろう。

「…何がどうなれば、京太郎君と母さんがこんなことになるんですか!?」

「あなたが家に呼んだのに帰ってこないから、待ってる間にちょっとね」

原村嘉帆は、小声で怒鳴る娘に悪戯っぽく笑いかけた。

しかしそれでいながら、少年を見つめる眼差しは優しい母親そのもの。

「…そうですか。では私が膝枕を代わりましょう、さあ」

「えー?でも京ちゃん、動かしたら起きちゃうわよ」

「お母さんに膝枕されてるのを見るよりはマシです…!!」

だがこの絵面は、和の乙女心にとっては許容し難いものだった。

無理もない。若々しく美しい母が、自分よりも近い場所で想い人と触れ合っているのだ。

例え母と彼氏にやましいところが無くても、それはそれであろう。

─しかも京太郎君の寝顔なんて、私だって見たことないのに…!!

「もー…仕方ないわね、ほら」

ひとしきり娘をからかって気が済んだのだろう。嘉帆が和と膝枕を交代してやる。

「今度は起きてる時に耳掃除でもしてあげなさい、喜ぶわよ?」

「言われなくても。私、彼には何でもしてあげるつもりですから」

おかしそうに笑う嘉帆と、つんと顔を背ける和のことなど知りもせず。

須賀京太郎は、柔らかな感触に包まれながら、束の間の微睡みに身を委ねるのだった。

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最終更新:2018年04月29日 23:15