「ったく…咲のやつ、まーたどっか行きやがったな」
須賀京太郎は、溜息を吐きつつ学校の外れへ向かっていた。
放課後になって、ふと目を離した隙に消えた幼なじみを探しているのだ。
─まるで猫みたいだな、あいつは。
そんなことを考えていると、木に寄りかる少女の姿が見えた。
今日日携帯さえ持っていない化石のような女子高生を、足だけで探すのは至難である。
が、そこは腐れ縁の幼なじみ。京太郎も、咲が行きそうな場所は既に頭に入れてあった。
「ここに居たか、咲。探す手間が省けて済んだよ」
宮永咲は、京太郎の声に応えなかった。彼女は、微睡みに沈んで目を覚まさない。
─しかし、こんなところで寝やがって…高校生にもなって、無防備にも程があるだろ。
そう呆れつつも苦笑しながら、彼は幼なじみの寝顔を覗き込んだ。
涎を垂らして船をこぐ咲の姿は、年頃の少女にあるまじき滑稽さであろう。
それにしても、マイペースに姿を消し、あまつさえ陽だまりで昼寝を決め込むとは─。
「…ホントに猫みたいな奴だよ、お前は」
人見知りで、勝手気ままで、そのくせ臆病で、なのに京太郎にだけは強気に振る舞う。
「アホ面浮かべて色気もねーし、体もサッパリ成長しないときた」
だがそれでも─京太郎はそんな咲が好きだった。それが、どんな感情なのかはまだ分からないけれど。
「…ほら!起きろ咲!帰るぞ!」
「ひぇぁ!?ぅひ…きょ、京ちゃん!いきなり大声出さないでよっ!」
飛び起きた咲が、涙目で京太郎に怒鳴る。彼以外では見られない、彼だけが知っている咲の表情。
「お前こそ、下校時間になってから勝手に消えやがって。おまけに涎まで垂らして寝てやがる」
「んなぁ…っ?!こ、これは気になる本が終盤だったから読んでから帰ろうと思ったら暖かくてつい…!」
京太郎の差し出したハンカチをひったくり、真っ赤な顔で口元を拭う咲は、まるで子どものよう。
だがそれは、京太郎が愛したありのままの彼女の、そしてこの上ない魅力的な姿だった。
「ま、咲の恥ずかしい姿なんて見慣れてるから気にしねーよ。さ、帰りましょうかお姫様」
「私が恥ずかしいのっ!!もう…京ちゃんったらいつも私をからかって!」
そう言いつつ、咲は京太郎の差し伸べた手を拒もうとはしない。
子どものように言い合って、そして笑い合うふたりの笑顔は、太陽に照らされて輝いていた。
完
最終更新:2018年04月29日 23:06