ボクが恋をしてると自覚しだしたのはごく最近のこと。
元々小学生の時のことを引きずっていたし、透華に拾われてからは期待に応えることばかり考えていた。
だから、恋心なんてものは縁がなかった。

最初に彼に興味を持ったのは満月の衣を相手に飛びながら、それでも平然と再戦を要求した時。
ボクは今でも家族であるはずの衣に、満月の夜だけは挑みたくない。いまだにトラウマに近い。
なのに彼は笑みさえ浮かべて打ち続け、負けるたびにどうすればもっと良くなるのか気軽に聞くのだ。

そういった姿にまず衣が懐き、透華も表面は澄ましながらも来訪を楽しみにしていた。
だから、その時胸がちくっとしたのは透華に興味を持ってもらってるのが気に食わないのだと思い込んだ。

からかうように純くんが『国広くんはいっつもあいつを見てるよな』なんて言ってきて、ボクは『透華に変なことしないか心配だからね』って返したっけ。
実際その通り、その時は思い込んでた。

彼の訪問に合わせて服を弄ったりして、赤い顔でちょっと困ったようにこっちをチラチラ見る彼を楽しんでみたり。
純くんに好評だった手製タコスを一緒に食べながら捨て牌の選択を教えたり。
そんななんでもない時間を重ねるうちに、ボクは透華のことを考える時間よりも彼のことを考える時間が増えていって。

彼の友人関係に探りを入れてみて女性の数の多さに呆れたり、恋人がいないと聞いて胸をなでおろして。
で、遅まきながら自分に問いかけたんだ。『なんで今安心したの?』って。

まあそれからは、大変だった。今までの服装を見られてきたことに照れと嬉しさが混じり、リップグロスなんか買っちゃってつけてみたり。
メイド服と普段着に近い恰好と、皆が来てるような服のどれが一番いいのか悩んだり。
衣や透華の好意は友人に対してのものか、それともボクと同じなのかなんて勘ぐって挙動が変になったり。

そんな感じで、ボクの頭の中は彼のことでいっぱいになっていった。
胸がどきどきして、このままじゃいやだなんて焦って、衝動のままに電話で呼び出してみて。

ボクはこれから、彼に告白する。この胸の内を、遅い初恋を。
正直断られたときのことを考えると怖くて仕方がない。でも、何もしないままに遠くに行ってしまう方がもっと怖いから――

ああ、月に照らされて短い金髪の男の子が近づいてくる。
いつもの人好きのする笑顔と、何で呼び出されたのか全く分かってないのんきそうな態度で。

言おう、言わなきゃ。今を逃したら絶対言いそびれたまま距離をつめれない。だから、すごく怖いけど。

一「ボクは、君のことが――」

その次の日から、ボクの頬のシールは三日月に戻った。衣の全力のトラウマより強い、最高の思い出ができたから。
月を見るたびに思い出す。勇気を出したあの時のときめきを。


カン

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最終更新:2018年04月29日 23:05