京太郎と末原さんは同級生設定です。なので京太郎も三年生で麻雀強くなってます。


「ほら、はやく……京太郎」
 俺は今、戦いを強いられている。
 理性と本能の戦い。
 夏休みも折り返しを過ぎ、俺と恭子はホテルの一室にいた。
 いや、恭子だけじゃない。上重さんや由子、愛宕姉妹と同じ麻雀部の面々がそろって俺たちの様子を眺めている。
「……こっちまで恥ずかしくなるやろ……早くしぃや……」
 あっ、やっぱり恥ずかしかったのか!
 いつもとは違う、この間の対宮永モードの恭子。
 例え小さくても、間違いなくそこに胸はあるのだ。一度抱き着いてしまえば病みつきになることだろう。
 恭子さん、腰とか細いし抱き心地よさそうだし……。
 ベッドに座った恭子は固まった表情で、躊躇する俺を不思議に思いながら手を広げて待ってくれている。
 そもそもどうしてこんなことになったのか。
 簡単に説明すると全国大会中、張り詰めた空気のままでも辛いからと息抜きに罰ゲームありの麻雀を打つことになった。

 これでも俺も全国大会個人戦出場選手。
 仲のいい面子に呼ばれて、卓を囲むことになったのだが……見事に負けた。
 勝者は洋榎で、最下位の俺に罰ゲームを与えることになった。
そして今日はハグの日。
 あいつは面白がって俺と恭子で遊ぶことにしたわけだ。
「……京太郎!」
「お、おう!」
「覚悟キメて抱きつけ! じゃないと……私は悶え死ぬ……!」
 涙目。赤面。悔し気な表情。
 見事な三点セットをそろえて、それでも健気に罰ゲームをこなそうとする恭子。
 ……これ以上は精神衛生上よろしくない。
 俺もさっさと楽になろう。それでにやついている洋榎を殴ろう。
 そう決意して俺は彼女の胸元へ飛び込んだ。

「……や、やわらか……」
「しゃ、喋んな!? 変な感じするから!」
 迎えてくれる確かなふくらみ。
 顔は狭間に押し付けられ、楽園と誘う。
 甘い匂い。鼻孔をくすぐり、胸いっぱいを幸せで満たしていく。
 ……あっ、今の変態っぽい。
「も、もうええやろ!? いつまで抱き着いてんねん、京太郎!」
「……はっ、す、すまん!」
 俺は慌てて彼女から離れて、立ち上がる。
 恭子は顔どころか全身を真っ赤にさせて、息を上がらせていた。
 かく言う俺も彼女に負けないくらい体温が上昇していたが。
 深呼吸をして、呼吸を整えると恭子は下から見上げる形でにらんでくる。
「……なんか言うことあるんちゃうか?」
「……わ、悪い?」
「ちゃうやろが、アホ! 感想や、感想!あそこまでやったんやから何かあるやろ、普通は!」
「大変すばらしかったです! ありがとうございました!」
 五体投地。
 全力での心の叫びに納得したのか、それから恭子の要求や罵倒はない。

 恐る恐る、顔を上げる。
 すると、恭子は笑みを抑えるように口元を手で抑え、目を俺からそらしていた。
 だが、視界に俺を認めると本当に、本当にかすかな声を漏らす。
「……よかったぁ」
 垣間見せる安堵の表情。ほころぶ笑顔。
 ……あ、やばい。
 もう一回抱きしめたい。抱きしめたくなってきた。
 不意に魅せられた乙女の部分に心が激しく揺さぶられる。
 雄たけびを上げる本能は理性を突き破る。
 今度は二人きりのところで土下座でもして頼んでみよう。
 そんなことを考えながら俺は笑い転げている洋榎の頭にこぶしを振り下ろした。

カンッ!

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最終更新:2018年04月29日 21:45