ガイト王

昔々、とても昔。
年老いた清澄国の王が死を迎えるばかりとなっていた。

金髪長身の心優しい一人息子の王子は「どうしたら父さんを救えるんだ?」と国一番の予言者に尋ねた。

「方法はたった一つだけある。それはガイト王の庭にある果実じゃ。しかし、この魔法の庭に入ることの出来た者は一人としておらぬ。お前にも恐らく無理であろう」

「庭にある果実を採ってくればいいんだな?ならば話は早い、その果実を手に入れるか、死すかだ!」

王子は声高く誓い、出発の準備を始めた。

王子は長いこと行って、雪を被った高い山さえ越えた。すると、カピバラが座り込んでせっせと何かをしている。見れば、彼はひび割れた大地を縫い合わせようとしているのだった。

王子は不思議に思ったが、一刻も早く父親に果実を届けたかったので老人に声をかけず先を急いだ。

王子は馬を鞭打ち、更に進んでいった。どんどんどんどん行くと、ミルクの川が流れ、庭にはぶどうや珍しい実の生っている国にたどり着いた。
王子は驚いて、(此処こそがガイト王の庭園というものに違いない)と思い、布袋に果実を一杯に詰め込むと、帰途についた。

予言者の元へ行き、これがその実か尋ねると予言者は残念そうに首を振った。

「若かりし頃、わしもその庭園まで行った。タバコの火が消えてしまわん内にな。ガイト王の庭はそこではない。かの庭に行くのはそうた易いことではないのじゃ。」
「良く聞くのじゃぞ、ガイト王の庭に行く素質がある者にはひび割れた大地を縫い合わせるカピバラが見えるそうじゃ、そのカピバラに声をかけるとガイト王の庭までの路を示してくれるそうじゃ。
「もし首尾よくカピバラを見つけ、実を手に入れたら話を聞かせておくれ。」

それを聞いた王子はすぐさまカピバラのいた場所に向かった。するとまだカピバラがひび割れた大地を縫い合わせていたので丁寧に挨拶した。

「汝に平安あれ カピバラよ、あなたの仕事が巧くいきますように!」
 するとカピバラは返した。
「汝にも平安あれ 若武者よ、どちらへ行くのかな?」

「私は老いた父のため、生命を癒すという果実を取りに、ガイト王の庭園を目指しているんだ」

「では、よくお聞き。わしが手を貸してやるから。この先、お前は数多くの国を通ることになるだろう――蜜の川が流れる国にたどり着くまでは。その川がガイト王の領地の境なのだ。」
「ガイト王自身は鉄の門のついた大きな城砦に住んでいる。いいかね、その門を先端に鉄釘の付いた棒で開けてから、両足を草でくるんで庭へ入り、実を木の棒で摘むのだ。でなければ、鉄の門と茂った草と木が声を上げて、お前はガイト王の刀で死ぬことになるだろうから」
「後、ガイト王の領民以外は知らないが、ガイト王は女王だ。この事は決して予言者に語ってはいけないよ。」

王子はカピバラに礼を言って先に進んだ。どんどんどんどん行ってミルクの川が流れる国を過ぎ、更にどんどんどんどん行ってバターの川の流れる国も過ぎて、鉄の門のついた大きな城砦が見えるまで果てなく進んでいった。

城砦に着くと、王子は先端に鉄釘にの付いた棒で鉄の門の端を突いた。門はゆっくりと開き、ぎぎぎー、と激しくきしんで声を上げた。
『鉄が重いぞ……、鉄が重いぞ……』
「それ以上何が重いと言うんだ? きしむんじゃない、私の眠りを妨さまたげるな」
夢うつつのガイト王の声が響いた。彼女は門と門がぶつかり合ったと思ったのだ。

王子は両足を草でくるみ、庭園に入った。
『草が匂うぅ、草が匂うぅ』
草は激しくざわめいた。
「草の他に何が匂うというんだ? ざわめくんじゃない、私を静かに眠らせてくれ」
ガイト王は腹を立てた。
王子が棒で果実を叩き落すと、木はざわついて言った。
『木がいるぞぉお……、木がいるぞぉお……』
「そんなに喚くな……枝を打ち合うのをやめろ。そうすれば何も居やしない」
袋が果実で一杯になると、王子は城砦の外に出ようとした。だが、ふっとあつかましいことを思いついた。

彼はガイト王の寝室に入り込むと、眠っているガイト王に三度キスし、その柔らかな頬をそっと噛んだ。

そして彼は帰途に就き、予言者に実を見せガイト王が女王である事とそれに付随する事以外の全てを語った。

すると予言者は嫌らしく笑い、王子を閉じ込め実を奪い、王宮に行き、実を献上しさも己の手柄であるかのように語り、更には王子が謀反を起こそうとしていたと偽の証言をしたのだった。
それを真に受けた王は予言者を養子にしてしまった。

さて、女王の方はどうなっただろう。彼女は目覚めてから魔法の鏡を覗き、自分の頬に歯型が付けられているのに気が付いて叫んだ。

「私の頬を噛んだのは誰だ!?」
魔法の鏡が答えた。
「清澄王の息子です、女王様。彼は老いた父を癒すために多くの国を越えてこの地にやってきて、鉄釘の付いた棒で門を開け、両足を草で覆って庭園に入り、木の棒で果実をもいで、女王様に三度キスした後、頬に歯形を残して行ったのです」

「ただちに軍隊の用意をせよ! その向こう見ずな男の顔が見てみたい」
女王は命じた。たちまちのうちに彼女の支配下の七つの組の軍隊が出発した。

しばらくの後、大軍は清澄の城の城壁近くに陣を張り、王のもとには「果実を盗んだ者を ただちに引き渡すように」とガイト王自らが出向いた。

予言者はガイト王をてっきり女中か何かだと勘違いして
「ガイト王を呼んでこい!」とガイト王自身に言った。

その瞬間予言者の身体と首は泣き別れとなっていた。

予言者が死んだので魔法で閉じ込められていた王子は自由の身になり王宮に急いで向かった。

そしてガイト王の前に行き、「俺が魔法の庭から果実をもぎました」と言った。

「話してみろ、どんな風にしたんだ?」と、女王は尋ねた。

「鉄釘の付いた棒で門を開け、両足を草で覆って庭園に入り、木の棒で果実をもぎました」
彼は出来事をそのまま語った。

「それで、どうして私に噛み付いたんだ? お前には仕返しをしなければならないな」
女王は叫ぶと、若者の頬に思いっ切り噛み付いた。

「これでおあいこだ。でもまだ足りない。もっと罰をせねば。もう一方の頬もよこせ」

充分に罰を与えると、女王は声高く言った。

「それでは私をお前の父のもとへ、祝福のために案内しろ」

王は果実を食べて若返ったが、まだ目は見えなかった。けれども、女王がその目に触れると光は甦った。

喜びのうちに王は華やかな婚礼の式を挙げさせた。王子にはまもなく子供たちが生まれた。父に良く似た男の子たちと、母に良く似た女の子たちが。

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最終更新:2018年04月29日 21:43