インハイ優勝に伴って清澄では、麻雀に自信のある男女が増えた。
途中入部のためゴタゴタはあったが、幸い予算は下りるらしい。
その機に乗じる形で俺は退部した。旅費の金欲しさにバイトを組んだのが理由だ。
染谷部長に慰留はされたけど、こちらから餞別も渡すことで押し切った。
その日から約2週間バイト漬け。バイト代欲しさもあったが、じっとしてると
退部の後ろめたさに耐えられそうもなかったのが大きい。
夏の晴れた空の下で肉体労働やってれば「はよ仕事終わらねえかな」の考えが
脳ミソの殆どを占める。我ながらいい加減なもんだ。
やがて夏が終わり、自然が秋の色になる頃、それなりの数字が通帳に記載され、
ケータイの電話帳も些か増えてきた。
咲からは一度謝られたが
「勝てたから照さんと仲直りできたんだろ。気にしてくれりゃ嬉しいけど
気に病んで勝負に負けちゃ意味ないぞ、つーか俺が困るわ」
と返すに留めた。話し続けていると気後れするからだ。
勝負なんだから勝ってこそだ。それを突き詰めたから清澄麻雀部の今がある。
白糸台から奪取した王座を守り続けなければならないのだから、それはそれで一苦労だろう。
部外者の俺が口出ししていい筈がない。俺には俺でバイトの苦労もあるし。
東京までの往復分通行費、向こうでの宿泊費、散策代、食事代等など。
使うことを考えれば、いくら稼いでも足りない。ネリーが伝染ったかな、これは。
と思ったらケータイが鳴った。ネリーからだ。
「失礼なコト考えてたでしょ!」
開口一番コレか、苦笑し返事をする。
「交通費安くするにはどうするかな、とは考えたぜ」
「ケチなこと言ってないでどーんと使いなよ。その方がネリーに早く会えるよ?」
人の金だからってまあ容赦ないねえ。会いたいけどさあ。
「とりあえず10月中旬でいいか?」
「ん、そだね。それぐらいなら予定空きそうだし」
時期はよし。休日の始発使うか、学校終わってすぐ電車乗って東京で前泊するか。
その辺も考えないとなあ。
缶
最終更新:2018年04月29日 21:43