塩のように大事
昔々ある村に、一つの集会場がありました。その集会場は、主に五人の乙女と一人の青年が使っていて、その青年の名を京太郎と言いました。
ある時、青年が集会場の扉を開けようとしていると、中から五人の乙女が青年の話をしているので、青年は中に入らず聞き耳を立てる事にしました。
「須賀くんは甘えられる存在で、父親のように大事かしらね。」
青年は気分を良くし、もっと甘えて貰えるよう頑張ろうと思いました。
「そうじゃのう、わしにとっては甘やかしたくなる存在で、息子のように大事じゃな。」
青年は嬉しく思い、恩に報いれるよう努力をしようと思いました。
「犬は使える存在で、タコスのように大事だじぇ!」
青年は苦笑いをしながらも、この乙女にとって最大級の賛辞だなと思いました。
「私にとって須賀くんは心許せる存在で、親友のように大事ですね。」
青年はもう一歩先の関係になれたらなと思いました。
そして幼馴染の乙女の番になり、青年は少し期待してワクワクしながら更に耳を澄ませましたが、幼馴染の乙女から出た言葉は青年を非常に落胆させました。
「京ちゃんは空気のような存在で、塩のように大事かな。」
青年は怒りのあまり集会場に顔を出さずそのまま家に帰り、憤慨しながら青年の両親にこの事を話しました。
すると青年の両親も「私達にとってもお前は空気のような存在で、塩のように大事だよ。」と言いました。
すると青年はいよいよ頭にきて家出をし、遥々都まで出て行ってしまいました。
青年は散々道に迷い、やがて2つ年上の幼馴染の乙女と再会しました。
お互いに再会を喜び合った後、しばらくして乙女は何故こんなところに青年がいるのかと尋ねました。
そこで青年は事の顛末を一から十まで包み隠さず語りました。
すると乙女はしばらく考えた後、青年を自分の家に招き入れ料理を振る舞いました。
しかしその料理は一粒も塩を使っておらず、酷く味っ気の無い物でした。
すると青年は納得のいった顔をしてこう言いました。「なるほど、塩抜きのご馳走と言うのは、どんなに素材が上等でも味気が無いな、咲や両親はそういう事を言いたかったのだな。」
青年が咲と両親に対し申し訳ない気持ちになっていると、乙女は次に菓子を振る舞いました。
ところがその菓子は砂糖を一粒も使っておらず、とても食べれたものではありませんでした。
青年が怪訝な顔をしていると乙女は、「私にとって京ちゃんは空気のような存在で、砂糖のように大事だよ。」と言い青年に接吻しました。
若者たちの青い衝動を抑えるものなどこの世に1つも無いのでお互いに精魂尽き果てるまで愛し合いました。
事が済むと、青年は「順序が逆になってしまったけれど…」と申し訳無さそうに乙女に求婚し、乙女もそれを二つ返事で了承しました。
青年は乙女と共に故郷に帰り心配していた人々に謝罪しながら、2つ年上の幼馴染の塩のように大事で、空気のように必要で、何よりも愛おしいかみさんを貰った事を報告してまわりました。
こうして、青年にとって幼馴染の乙女も塩のように大事な存在になりました。
最終更新:2018年04月28日 23:08