京太郎「今年も、ダメだった……」

高校2年生の初夏、またもや個人戦県予選で結果を残せなかった俺は清澄の皆の目を避けるように会場から駐車場に向かう階段に座り込んでいた
女子団体戦は意気が最大限に上がっており団体戦の身にすべてをかけた龍門渕が優勝、しかし個人戦では咲や和、優希といった同学年が揃って全国行きを決めていた

京太郎「俺、やっぱ才能ないのかな」

雀荘やネットで打つときはそこそこ勝てるようになっていた。和から初心者卒業のお墨付きも出た
だけど、普段の部活やこういった大会で勝てることはない
高校で始めたという加治木さんは堂々と咲たちと戦っていたのに、俺は手も足も出ないままだ

京太郎「はあ……」

もう辞めてしまおうか、なんてことすら考える。俺は輝くあいつらを見上げるばかりで手が届くこともないのなら

???「ねえ君、元気ないね、どうかした?」

急に響いた声に俺は顔をあげ、瞬間絶句した。
つばの広い帽子、体の線を隠すような服装、そしていかにも怪しげなサングラス……声からして女性のようだが、非常に怪しい

京太郎「なんでも、ないです。ちょっと黄昏てただけなんで」

階段に座ったままの俺の隣によいしょっとその女性は座り、サングラス越しにじっとこちらを見る

???「ああ、その制服、見たことあると思ったら清澄だ。お姉さんが何でも話聞くよ。
    ほら、ただの行きがかりのお節介だから、気を遣わずに話して話して」

なんだかお人よしっぽい、二度と会わないであろうその人に、俺は時間をかけてぽつりぽつりと事情を漏らしていった

京太郎「……だから、お荷物な俺は辞めた方がいいんじゃないかなって」
???「ねえ、君は麻雀楽しい?」
京太郎「え?」

???「なんだかプレッシャーや期待に応えようとばかりしてる気がする。それはきっと、君が真面目でいい子だからなんだろうけど。
    でも、勝とうって気持ちばかりで楽しむことを忘れたら、自分の力の半分も出せないよ?」

楽しんで、打つ。そういえばこの一年、そういった気持ちが薄れていってたような気がする。早く追いつかなきゃ、あいつらの隣に並ばなきゃってばかりで

???「よかったら、ここ来てみない? 私のやってる非公式の教室なんだけど
    打つ楽しさ、強くなる楽しさ、勝つ楽しさ、そういうの一緒に探していこう?」

渡された神と女性の隠れた顔を交互に見て、俺は思わず訊ねる

京太郎「どうして、初対面の俺にここまで……」

???「んー、職業病かな? それと、すこやんへの意趣返し?
    あと会うの初めてじゃないよ、須賀京太郎くん」

サングラスをとって悪戯っぽく笑うその顔は、いつもテレビの向こうにあったもので

はやり「すこやんに一度連れられてきたとき以来だね☆ まだちいちゃかったから、忘れちゃってるかな?」
京太郎「え、ええ?」

はやり「他の子には内緒だよ☆ 頑張る男の子へのちょっとしたお手伝い、させてくれる?」

それが、俺と国民的アイドルの下手くそな二人三脚の始まりで、諦めかけていた麻雀への道を取り戻す第一歩だった


カン

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最終更新:2018年04月28日 23:01