ジャンプ時の滞空時間というものがある。長いに越したことはない。

この国でメジャーなサッカーやバスケットなら評価されやすいだろう。

空中でのプレイなら、陸上よりは邪魔を受けにくい。

邪魔する側が「妨害しにくい」と感じるからだ。

ハンドボールだって同じことが言える。

滞空時間が長ければ、ジャンプに前後しての構えからシュートを撃つまでが

フェイントの一種となり得る。

キーパーからすれば、来ると感じた次の瞬間ではなく、

撃たれないことに疑問を感じた瞬間にボールが飛んで来るから。

麻雀で言うなら山越しだろうか。2軍や3軍の娘に聞くと、時折京太郎にそれを喰らうらしい。

喋る表情は1軍と同じく「男の子」を意識しているものだった。

基礎をしっかりするタイプだから、フランスでプレイするにしても大丈夫だ。

評価されないのは最初だけ。やがて認めざるを得なくなるのは私達が実証済み。

母に伝えるのはいつにしようか。




全国前

明華「あの打牌で、テンパイは維持していたんですか!?」

ネリー「そーだよー。ホントに諦めないよね、キョウタローは。

    だからカッコいいんだけどさー」

味は確かでも少々値は張るのがこの店。幸せそうに奢ったワッフルを食べながら

ネリーは喋る。普段寄らない店だけど、情報料と今回は割り切った。

得た内容は、支払いを十分に上回るものだ。

3軍にも京太郎、ネリーと同じクラスの部員はいるが、聞ける量は限られる。

ましてあの三家和を現場で見たのは、私達1軍だけ。

彼を見ていたネリーに聞くしか手は浮かばなかった。

ネリー「あ、ハオ達には言わないでね。上手くやれれば、また奢って貰えそうだし」

明華「はい、言いませんよ」

さて、そのハオ達に彼本人は入っているのだろうか。

明華「ということを聞きまして」

京太郎「あんの守銭奴、どうしてくれよう…」

空を仰ぐ彼。呆れ混じりの優しい苦笑。

ネリーはいつも、同じ教室でこれを見ているのだろうか。

ハオのようにクラスが違うだけではない。

私と彼とは学年も違う。メグよりは年齢が近いというだけだ。

智葉は2つ違いでも同じ日本人である。正直意識せずにはいられない。

京太郎「ああ、すんません。別にどうってことはないんです。

    精々自分を曲げたくなかったぐらいで」

明華「自分を、ですか?」

京太郎「そうです。自分語りなんですが、俺中学時代

    ハンドボールやってましてね」

明華「ハンドボールを?本当ですか?」

京太郎「ええ。追いつめられて動けない、パス回しにくいときも

    割りと強引に攻めていって。その名残、といいますか」

明華「強引にシュートにまで持ち込んだ?」

京太郎「はい。ジャンプ力、というよりジャンプ時間が

    他のメンバーより長かったんです。上手く決められました」

明華「その…見せてもらっても構いませんか?」

快諾した彼と共に移動する。

ソフトボール部が練習試合で出ているらしく、そこのネットを借りることにした。

京太郎「ボールしまい忘れか?こっちは助かったがマズイだろうに」

苦笑混じりにボールをつかむ。と思ったら跳んだ彼がネットに向けボールを投げる。

確かに浮いていた。既存のジャンプシュートのイメージより長く掛かった。

京太郎「やっぱ短くなったか。ジャンプトレはしてないしなあ」

下りた彼が呟く。ネットから距離を取る。

京太郎「次。助走ありで行きますね」

私が軽く頷くと、彼が走り出す。跳んだ。

テレビのスローモーションを見ている気分だった。投げる、いや撃つ。

無意識に拍手をしていた。

明華「素敵の一言に尽きますよ」

京太郎「光栄です、俺も久々のシュートフォームとジャンプでした。

    トレーニングはしてるんですが」

明華「え?じゃあ京太郎君がハンドしてたこと、誰も知らないんですか?」

京太郎「ネリーには喋りましたが、見せてはいませんよ。

    するキッカケもなかったんで」

明華「うふふ。じゃあ二人だけの秘密ですね。ネリーにも喋っちゃだめですよ?」

京太郎「わかりました。雀先輩との秘密なら」

明華「…ハオに色仕掛けされてもですよ?」

京太郎「うがっ…ど、努力します…」

心配だ。でもそれでいい。まずは一歩踏み出せた。

もしかしたら他の皆も同様かもしれない。

私より一歩前にいて、今私が追いついただけなのかもしれない。

それでも私は私の道を歩く。向かい風に吹かれたってへこたれない。

私が私自身の追い風になってみせるから。

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最終更新:2018年04月26日 22:32