全国前

斬った手応えは確かだった。だが斬撃の感触がすぐ終わる。

メグの方は銃撃だった分だけ、手応えに気づきにくかったようだ。

脳天を撃ち抜いたと思ったら、弾丸で破裂したボールが自分のほうに飛んできたらしい。

感触が即座に失せたのも、私が斬ったモノがボールだったからか。

膝を落とし荒い息を吐く京太郎には、斬られた傷も撃たれた痕も見受けられない。

あの時を戦場として表現するならこんな感じだろう。

メグ「的確デス。ワタシの慌てっぷりまで容易に想像させられマスネ」

智葉「知識として知ってはいたが、あの土壇場でやられたんだからな。

   役満放銃より記憶に残る」

メグ「監督もそうデショウ。度々話題に出しマスヨ」

全国会場

部員達が京太郎への感情をほぼプラス側へ向けたのは、間違いなくあの時からだ。

2軍メンバーには勝ちきれるが、1軍には届かない雀力。

年相応にしても、女性らしい体つきに目を離せない異性への弱さ。

ほぼ文句なしといっていいマネージャー能力。

このあたりが混ざり合って賛否両論あった。

ネリー専属に近いような立ち位置も、それに拍車を掛けていたと言っていい。

しかしあの三家和でアイツは確かに生き残った。

3位として負けたとはいえ、メグに4位からの脱出を許さなかったのだ。

形はどうあれ1軍に勝った、と公言して良いだろう。

私らしくもなく誉めてやろうかと、片付け中に部室に一人戻った。

いつものようにネリーが膝に座っているのも忘れるぐらい、昂ぶった感情で。

あの時、ネリーが私に向けてきた視線の意味。

それが理解できないほど、子供ではないつもりだ。

ただ、それ以降でも京太郎は変わらなかった。

生活も、麻雀も、部員への接し方も。

受け手の女子たちが柔らかい態度になったことで困惑するほどに。

やがて地区大会で京太郎は個人3位。

全国は叶わず、しかしこの男に留守番を言いつける余裕は監督にない。

アレク「荷物持ちを始めとしてマネージャー仕事頼むわよ」

京太郎「マジですか!?」

らしくもないホントに驚いた声だった。

嬉しかったのか、冗談じゃないと嫌がったのか。どちらでも良い。

本気で断りはしないだろうし、ネリーが梃子でも連れてくる想像だって容易にできる。

留守居役の女子部員たちからは、ブーイングが殺到したが些細なことだ、うん。

臨海は私達1軍、監督、京太郎の7人が部費で会場入りとなる。

そんな中、白糸台の大軍勢を見て、

京太郎「アレが…白糸台…です、か?」

と疑問符まみれの声が漏れても仕方ないだろう。

智葉「相変わらずの民族大移動か、弘世も御苦労なことだ」

京太郎「弘世?ああ、向こうの部長さんでしたか」

智葉「そう、弘世菫。宮永ばかりが有名だが充分な実力者だ」

京太郎「流石にチャンプの横じゃ、誰でも霞んじゃいますよ。

    三箇牧の荒川さんとか部長レベルでやっと遜色ないってトコですか」

智葉「1位でなければ評価などされんよ」

京太郎「まあ確かに。しっかし何でまたあんな大所帯で?」

智葉「向こうには向こうの事情でもあるんだろう、弘世の愚痴には

   宮永が道に迷うから、なんて戯言じみたものもあったが」

京太郎「ああ、成程…」

智葉「?」

何故か納得したような京太郎の口調に、私は違和感を抱く。

それを解消するべく疑問をぶつけようとした瞬間、闘気を感じた。

アレク「お出ましみたいだね」

ネリー「ふーん、表紙飾る笑顔には似合わないなあ」

大勢の部員は示威や人払いも兼ねていたのか、姿を見せたチャンプの征く道は

随分と幅もあるようだ。

と思ったら急に宮永は立ち止まる。横にいた弘世がそれに気付き呼びかける。

それを気にするでもなく、止まったままの宮永は周囲に目を向ける。

何かを探すように。当然こちらも彼女の視界には入ったようだ。意味はないが。

しかし視線はこちら向きで止まる。遠目からもわかるくらい此方を凝視してきた。

私か? と思った横で京太郎が頭を下げている。宮永に向かってだ。

ハオ「京太郎、どうしたんです?」

メグ「アノ、宮永がこっちに来てマスヨ」

2人の声が重なる。それぞれの意味は分かるが理解が追いつかない。

弘世の引き止めの声を振り切って、いつの間にか宮永照がそこにいた。

そして京太郎をじっと見つめている。何故?

気のせいでもなく京太郎の緊張も感じ取れた。

空いていた彼の左手をネリーがぎゅっと握り、声をかける。

ネリー「キョウタロー?」

弾かれたようにネリーに視線を向け、軽く微笑む。

京太郎「ん、大丈夫」

そして宮永に向き直り

京太郎「お久しぶりです、照さん」

と声を出した。その意味を理解する前に

照「やっぱり京ちゃんだ」

宮永照が京太郎の近くにいた。


智葉視点でした
カンッ

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最終更新:2018年04月26日 22:29