「へ……誕生日?」
「はぁ……この子は」

何時ものようにジャージを着て部屋でごろごろとしていれば、母親に健夜は飽きられた。
飽きられたといってもダラダラと過ごしていた事を飽きられたのではない。
人気のある元世界ランカーの健夜は、一線を退いても人気者だ。
仕事もあちら此方に移動したり、ラジオに出たり、麻雀教室を手伝ったりと忙しい。
それゆえに家でだらしなくしていても呆れも怒りもしないのだ。
しかし、今回の事ばかりは呆れた。

「京太郎君にお誕生日にプレゼント貰ったでしょ」
「うん、ジャージだったけど……」
「そろそろ京太郎君の誕生日だし、お返しぐらい考えなさい」

親戚の子、それも誕生日にプレゼントをわざわざ贈ってくれた子の誕生日を忘れてたのには呆れたのだ。
健夜は、母親から言われその事を思い出し、今着ている贈り物であるジャージを見る。
誕生日にジャージと落胆したものの着てみれば過ごしやすく、今では殆どジャージを着ていた。

「そっか……何かお返ししないと」
「そうしなさい」
「んー……」

布団から起き上がるとそのまま健夜は頭を捻る。
唸り、天井を見て、腕を組んで首を傾げて考えた。

「ねぇ、お母さん」
「何よ」
「男の子に渡す物って何がいいの?」

考えた結果、男の子にする贈り物を考えた事すらなかった事が分かった。
今まで麻雀だけに人生を捧げてきたのだ。
年下、中学生男子の喜びそうな物など分かるわけもない。

「何がいいかしらね」
「えっと……確か京太郎君って何か部活やってたよね?」
「そうねー。確か……何かボールを投げる奴とか?」
「ドッチボール?」
「多分……?」

健夜が聞くも、母親のほうも首を傾げ答える。
サッカーとかならいざ知らず、京太郎が行なっているのはハンドボールだ。
高校生ならまだしも、中学生からやるにはまだまだマイナーの領域の運動。
二人が分からなくてもしょうがなかった。

「……運動場?」
「それ維持するの京太郎君側よ?」

取り合えず、思いついたことを言うも母親に却下される。
普通に考えたら贈り物になんて出来ない規模なのだが、腐っても世界二位に上り詰めた健夜。
個人的な資産であれば、それなりに持っているのだ。

「ボールは……持ってるだろうしなー」
「んー……そうだ。確かペットを欲しがってるとか京太郎君のお母さんが前に」
「ペットかー……何だろ。犬かな?」

運動=犬と言う形式が健夜の頭の中で繋がる。

「犬って言っても、朝も夕方も散歩必須だしねー?」
「あー……部活で疲れてるかな」
「あまり手間が掛からないような。癒されるような子がいいんじゃないかしら?」
「そっかー……」

母親はそれだけ言うと、家事に戻るのか部屋を出て行く。
残された健夜と言えば、もう一度布団に横になり携帯を取り出す。
困ったときのネットである。

「何がいいかなー……。猫、はむすたー……ねずみ苦手なんだよね」

ポチポチと探していれば様々な動物が出てくる。

「……男の子だし大きな動物がいいよね? あっ……この子いいかも」

そんな単調的な思考で探っていけば、一つの動物に行き当たった。
癒されて、大きくて、大人しくて……そんな動物を見つけたのだ。




「てな感じで、お誕生日に贈ったことが……」
「……すこやんはもうちょっと、麻雀以外にも目を向けようね」

ファミレスで健夜と食事をしていた恒子は、頬を引き攣られる。
暇つぶしに聞いた話であったが、まさかこんな話が出てくるとは思わなかったのだ。

「うん、買ってから温水プールとか必要って分かって大変だった」
「だろうねー」
「京太郎君のご両親に謝って、しょうがないから温水プールの為に工事してー庭を広げる為に余ってる土地買って」
「……わーぉ」
「寿命までのー……」

住む世界が違うと恒子は思いつつも友人の話を聞いていくのであった。

カンッ!

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最終更新:2017年10月20日 00:56