4月○日

 高校生になったがその制服姿を見てくれる人は誰もいない。
 暇を持て余したので今日も長野駅前まで足を延ばした。

 そこで金髪のイケメンを見つけた。キラキラしてた。
 ラジオで聞いてはいたが、活発そうなイケメンって本当に輝くんだ。

5月○日

 以前見かけたイケメンをまた見かけた。
 まだ暑さも無いのに少し汗ばんでいた。
 たくさんの買い物袋を抱えているせいだろう。
 部活に充実しているのだろうか。

 大変そうだなと眺めていたら不意に私を見た気がした。
 確かに目が合ったのだから勘違いではないと思う。
 びっくりして逃げ出してしまったが、友達を作るチャンスだったんじゃないかとへこんだ。

 ……私も何かに打ち込んでみようか。
 昨日見つけた学内LANの麻雀部屋、やってみようかな。

5月×日

 今日すごいことがあった!
 突然薄い紫色の髪をした格好いい先輩が「君が欲しい」と言ってくれたのだ!
 こんな風に言われたのは初めてでとてもとても嬉しかった。
 私のことは結局見えなかったみたいだけどいい。
 麻雀部で頑張って、先輩に恩返ししようと思う!

6月○日

 以前見た金髪さんをまたまた見かけた。
 最近は駅前をうろつくことも減り、ずいぶん久しぶりだ。
 その金髪さんはまた大量の袋を担いでいた。
 少し表情が暗い、そんな気がする。
 まるでゆみ先輩と会う前の私のようで胸が痛んだ。

6月×日

 負けた。決勝までたどり着き、先輩のために頑張った成果が得られる、そう思ったのに。
 それでもゆみ先輩との絆が深まったなどと思ってしまった自分が嫌になる。

 そういえば、会場であの金髪を見た。
 清澄の人達の後ろを張りつけたような笑顔で歩いていた。
 私達は負けたのに、勝ったくせにどうしてあんな顔をするのだ。
 こちらに気付いてもくれなかった。前は見てくれたのに。どうして。
 ……ダメだ、今日はどうしても悪い方向に考えてしまう。ここまでにしよう。

7月○日

 最近ようやく頭が冷えてきたと思う。
 でもかえってあの人の表情が鮮明に浮かんでしまう。
 あれは、孤独の顔だ。

 いや、関係ない。明日はゆみ先輩とデートなのだ。
 つまらないことを考えて盛り下がってはせっかく付き合ってくれる先輩に申し訳ない。
 何を着て行こうかな。

7月×日

 デートは成功……だったと思う。
 服を選びあって映画を一緒に見て、カフェでお昼を食べ。
 夕方まで楽しく過ごせたはずだ。
 でもどうしてだろう。心が満たされないのは。

 気分を変えよう。
 なんでも月末に、あの龍門渕を含めた決勝4校で合同麻雀合宿をするらしい。
 清澄の性悪女と決めたのだとゆみ先輩が楽しそうに話してくれた。
 やはり麻雀に未練があるのだろうか。

7月△日

 むっちゃん先輩やかおりん先輩とも仲が深まった気はする。
 行き返りのワハハ先輩の運転はスリリングで、みんなの言うほど悪いものじゃなかったと思う。

 清澄、あの金髪さんは来ていなかった。
 イケメンが荷物を持ってきてすぐ帰って行った、という噂もあったが彼のことだろうか。

 どうしてだろう。彼が来て当たり前だと思っていたなんて。
 女子の集団の中に男子が呼ばれるわけがない、考えなくても分かることだ。
 一人ぼっちは辛い。もうあの頃には戻りたくなんかない。

8月○日

 清澄の応援もかねて先輩たちと卒業旅行にインハイ観戦に東京へ来た。
 服は夏らしい白ワンピ。
 定番ではあるが手抜きでもある。
 いいんだ。どうせゆみ先輩には見えないのだから。
 気合を入れて衣装を整えても意味がない。

8月×日

 金髪のあの人を見た。今度は連れてきてもらえたようだ。良かった。
 でも様子がおかしかった。
 夕日が差す街路でふらふらと歩いていて。
 表情も取り繕う気力すらないのか暗い。

 宿に戻るまでまだまだ時間はあった。
 だから無意識のうちに「大丈夫っすか?」と声をかけてしまった。聞こえるはずがないのに。

 でも違った。
 あの人は私をしっかり見据えて、目を細めるようにしてから何かを諦めたように笑って。
 「ああ、すみません。大丈夫、平気です」と言った。

 声をかけた私の方が心配されるという醜態を晒してしまったのが悔やまれる。
 「透き通った感じで綺麗だ」なんて。
 思わず泣いた。

 それを見た彼、須賀京太郎さんの慌てる様子はちょっと面白かった。
 互いの悩みを相談し合い、時間が過ぎるのを忘れた。
 私はまるで恋愛相談している感じで、
 慌ててそういう関係じゃない私は処女だなどと口走った気がするが気のせいであってほしい。

 とにかく、彼と連絡先の交換をした。

○月×


「おーい、モモー!」
「なんっすか、京さん?」

 聞こえてきた声に、懐かしい想い出をつづったノートを閉じる。
 あれから何年経ったか。今は愛しい彼が私を見てくれる。
 辛いこともあったけど、それが無ければこの幸せに辿りつけたかどうか。

「愛しい京さんは桃子に何の御用っすか?」

 真っ直ぐ見つめてくる彼の真正面から、勢いも気にせず飛びつく。
 本当に、幸せすぎる。


カンッ

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最終更新:2017年10月20日 00:47