※微エロ注意
あれは雨の日でした。
県予選を無事に突破し、インターハイへの出場を控えた一年の梅雨。
清澄の麻雀部がある部室は旧校舎の最上階、そこへ行くには新校舎から外を歩いて向かわなければなりません。
雨脚は微妙な強さの空模様。
「傘を差さなくてもなんとか行けそうですね……」
日直の仕事で何時もより遅くなっていたことから僅かな手間も面倒に思え、雨の中を駆けた。校舎間の距離は大きく離れていないので然程濡れることもないと考えたから。
私はあまり運動が得意ではありません。
幼い頃は病弱だったこともあり、今も体力のない、少しの全力疾走で息切れする弱い身体にちょっぴり情けなく感じてしまう。
部室に辿り着くには最上階まで階段を昇らないといけないのは常々億劫です。どうしてエレベーターがないのでしょうか。
険しい階段を昇りきり、息を整えながら大好きな部活の扉を開けた。
しかし、部室に居たのは清澄麻雀部唯一の男子部員須賀京太郎、彼の姿しか見当たりません。
「あれ? 須賀くんだけですか?」
「ああ、どうやら今日は皆来ないみたいだぞ。部長は生徒議会の活動とその後に野暮用があるらしい。染谷先輩は店の手伝い、咲は新刊を買うから本屋、優希はさっきまでいたんだけどもう帰ったよ」
「そうなんですか……」
もしかして連絡が回っていたのかと携帯を見てみれば、案の定、部長や先輩からメッセージが届いていました。
優希からも一緒に帰ろうと来ていたようですが、私が気づかなかったからか待ちきれずに一人で帰宅するとの追伸が既にありました。
咲さんは携帯を持っていませんから一報が来るはずもありません。
「和も帰ったら良いんじゃないか? パソコンは俺が使ってるし、一人じゃ麻雀も出来ないだろう」
そう言いながら彼はカチカチ、カタカタとマウスとキーボード鳴らしながらこちらを見ることなくパソコンを弄り続けます。
「須賀くんは帰らないんですか?」
「俺はこれがキリの良い所まで終わってからかな」
彼が何をしているのか私は気になり、そっと後ろから覗き込みました。
「牌譜の作成ですか?」
パソコンの画面には麻雀の動画が流れ、インストールされている麻雀ソフトが起動しています。
「おう、部長から頼まれたんだ」
夏のインターハイ、その対戦相手となるかもしれない選手たちの過去試合。それを可能な限り探して牌譜に起こしてと言われたそうです。
インターハイに出てくるのは清澄を除いて51の出場校。先鋒から大将の5人、計255人。
ネット上で既に纏められているのもあるでしょうが、今年度の予選での団体戦や個人戦だけではなく、去年や一昨年の分、それより昔のものもあるでしょう。
全てが牌譜に起こされているはずもありません。
それはどう考えても中々手間の掛かる作業です。
「俺に出来るのなんてこれ位だからな」
彼は何でもないことのように朗らかに笑いながらそう言いました。
繰り返されるクリック音とタッチ音。慣れを感じさせる迷いのない動きから既にたくさんの牌譜を作成しているのだと分かってしまう。
私は彼の作業を黙って見ていた。
須賀京太郎。
実は彼のことが苦手です。
多くの男性と同じように浴びせてくる不躾な視線、馴れ馴れしい言葉、麻雀への不真剣さ、一つ嫌な所が見つかれば連鎖するように様々な所が悪し様に見えてくる。
だから、私は彼のことがあまり好きじゃない。
親友の優希が親しくしているから表面上は問題ないように付き合っていますが、そうでなければ自分から話しかけることもない。
はっきり言えば嫌い。
そうだったはずなのに、彼を一瞬でも好ましいと思ってしまった。そう感じた自分に愕然とする。
自己矛盾的心の機微。
分からないから考え、答えが出ないから探し、求めるように時間も忘れて彼を見続けた。
「ふう、一丁上がりっと」
作業が一段落したのでしょう。
パソコンにはロゴマークが浮かび、シャットダウンへと移行していく。
コキコキと首を鳴らすように動かし、背筋を伸ばす。そして彼は振り返った。
「あれ? 和、まだ帰ってなかったのか。もう外暗くなってるな。雨もちょっと強いや、和みたいな可愛い女の子を一人で帰らせるのも怖いし一緒に帰ろうぜ」
ああ、嫌いだ。
そのちょっと軽薄な言葉。
やっぱり彼は好ましくないのだと思い直します。
「それじゃあお願いします」
「よっしゃあ! 戸締まりするから待っててくれ」
鍵を閉め、職員室に返却し帰路につく。
絶え間なく続く雨、風も出てきたからか横なぶりで傘を差していても少しずつ濡れてしまう。
私と彼はたわいない会話をしながら歩いた。
「和の家に着いちゃったか」
名残惜しそうにそう口にする。
「ええ、ありがとうございました」
本格的に降りだした強い雨。
私も彼も随分と濡れてしまっていた。
「それじゃ「あの……」」
私の家と彼の家は近所ではなく、同じ方向にあるわけでもなく、すごく遠回りだ。
たとえあまり好きじゃない相手だとしても、わざわざ私のために善意で行動してくれた人をこのまま何もせずに帰す気にはならなかった。
「雨宿りしていきませんか? このまま帰ったら風邪を引いてしまいますよ」
「大丈夫だって、それに和のお父さんに何か言われたら怖いし帰るよ」
義理は果たした。
彼はそれでも帰ると口にしたのだから気にする必要はない。それなのに余計なことを口走ったのはどうしてなのでしょうか。
自分自身がよく分からない。
「父なら、今日はいません。東京に出張中ですから」
「へ?」
熱いシャワーを浴びた。
芯からポカポカと温まったけれども今日の自分は変だ。風邪でしょうか。
「お風呂ありがとう」
「気にしないで下さい。服のサイズは問題ないみたいですね」
父と彼の背格好はほぼ同じだ。
もっとも高校一年生、遅生まれと言うことを考慮すれば彼の方が上回る可能性は少なくないだろう。
「夕飯作ってしまったので食べていってください」
「おお、和の手料理が食べられるとか最高だぜ」
美味しい、美味しいと言われると嬉しく感じてしまう。
私が料理を作る生活に慣れたのか、初めの頃と違って最近では父がそんな言葉を掛けてくれたことはない。
それに仕事の忙しさから時間が合わず、一人で先に食事を済ませてしまうことも多いのだ。
誰かと一緒に、褒められながら食べるのは悪くない。
「服が乾くまで何をしますか?」
「うーん、和ってゲームとか持ってるのか?」
「テレビゲームはないですね。元々あまりしなかったので母が東京に持ってっちゃいましたから」
考えてみると娯楽と言うものは家にはテレビにパソコンと麻雀卓しかない。
「もしよろしければ、須賀くんの麻雀を指導しますよ」
「良いのか?」
「はい、県予選で負けたとき随分と悔しがっていましたよね」
「じゃあ、お願いするよ」
四月の半ばから始まり、今は六月。
麻雀歴二ヶ月未満、彼なりに努力をしたのだと分かってしまう。役は完璧、点数計算は優希よりも正確だった。
「どうかな?」
「思っていたよりも打てるようになってますね。ですが……」
打ち筋が私の目からは不格好です。
牌効率を無視した待ち、不可解な鳴き、不必要に槓する癖、他にも色々と混ざった無茶苦茶で変な打ち方になっている。
全く、そんなオカルトなんてありえないにも関わらず、彼は偶々のそれを意図的に目指して打っている節があるのが見て分かる。
「……ちょっと酷いですね」
「え?」
これはしっかりと指導すべきなのかもしれません。
思えば咲さんが麻雀部に入ってからインターハイの団体戦出場に必要な人数が集まったことで部長は燃え出し、私も父との約束から熱意の全てが全国での優勝に傾いていた。
染谷先輩は元々店の手伝いも多く、部活への参加は不規則でしたね。それに優希と咲さんは感覚的で指導者に向いていない。
なるほど、初心者である彼への教導がおざなりになっていたのは疑いようもありません。
「徹底的に矯正しましょう」
「はあ、疲れた……」
「つい熱が入っちゃいましたね……」
時計の針が遅い時間を示している。
下手をすれば補導の対象になりかねない。そんな時刻になっていた。
「雨は止んでないみたいだな」
「そうですね。もう、いっそのこと泊まっていきますか?」
軽い冗談のつもりで口にした。
気づけば背中に柔らかい触感が広がり、天井から眩い光が顔に差す。私の上に彼が乗っていた。
「あんなこと言うなよ。真に受けて押し倒しちまったじゃねえか……」
ギラギラと欲深い獣の眼が私を射抜く。
「嫌なら言ってくれ、直ぐに退くから」
嫌だと口にすれば本当に止めてくれるのか。信じらない。
大柄な男性、本気の獣欲、浴びせられる視線の鋭さ、期待の籠った瞳、私は怖かった。怖くて何も言えなかった。
「和」
私の名前を呼び、彼は唇を重ねてきた。唇と唇の触れ合いは本や映像と違って酷く生々しい。吐息は熱く、呼吸の音がよく聞こえる。
ああ、気持ちが悪い。
ファーストキスだったのに、初めては好きな人としたかった。
「好きだ和、ずっと……一目見たときから……」
彼は自らの赤心を露にする。
私の返事を待つことなく、恐怖で固まって答えられないことを受け入れてくれているのだと、両想いなのだと勘違いしていた。
荒々しい動き。
不慣れだと分かる拙いキス、強引に割り込まれた舌、身体を無造作に弄る手。
硬く、ゴツゴツとした力強いそれが私を蹂躙する。
胸元を開けられ、まるで赤ん坊のように吸い付かれ、舐め回されて汚れていく。
弄られ、生理現象で大きくなってしまった先端を見て、私が感じているのだと思い違いしたのか調子に乗って動きが激しくなっていく。
彼のエスカレートする興奮が見てとれる。何時も盗み見ていた彼にとってわたしの胸は特別なのだろう。
遂に上半身から下半身へと食指が伸ばされた。
ショーツの上から、その中へ、何時しか剥ぎ取られ、乱れた息を吹き掛けられながらマジマジと見られた。
「スゲエ、これが和の……こんだけ濡れているなら……良いよな和……」
裸になり、グロテスクで卑猥な形をした男性器が見えた。あんなの入るわけがない。
昔、家族で温泉旅行に行った時に見てしまった父のものとは比べられない程に大きかった。
先端が押し当てられる。
滑るように何度か動き、照準を合わせてくる。そして入ってきた。
「和、和の中、気持ち良すぎ……」
痛い。
痛い。
痛い。
それでも私は声を出せない。
怖くて、逆らえばどうなるのか怖くて、歯を噛み締めるように耐えた。
「っ、動いてください……」
早く終わって欲しかった。
だから、彼が望むような声を漏らし、演じる。
彼は動き始めた。
自分勝手に、独り善がりに、私を使って自慰をする。
「和、和、俺もう……」
「外にっ……」
私の中から異物が消えた。
血に濡れ、肥大して跳ね動くそれが大きく脈打ち、白濁の液が私の身体を穢す。
「終わりですか……」
漸く解放された。
早くお風呂に入りたい。
何もかも忘れて眠ってしまいたかった。
「……ごめん、和」
どういう意味だろうか。
彼を見て、私は信じたくなかった。
知識として男性は一度出してしまえば暫くの間は使い物にならなくなると聞いていた。
それなのに、それはまるで変わらずに存在する。
「我慢できない、ごめんな」
覆い被さってくる。
私は逆らうことなど出来るはずもない。悪夢は終わらない。
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もう、あの日から何度身体を重ねただろうか。
嫌いだった男に犯される毎日だ。
「ああ、京太郎くんっ……」
人と言うのは不思議なもので慣れてしまう生き物らしい。
あれだけ痛くて、気持ち悪くて、どうしようもなかったのに、今は気持ち良いと感じてしまっている。
私も彼も、拙かった動きは消え、噛み合うように身体が合わさる。きっと相性が良いのだろう。
もう、彼との行為がない未来を考えられない。
それ程までに私は堕とされてしまった。
「もっと、もっとしてくださいっ……」
媚びるように私は今日もおねだりを----
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「……何、読んでるんですか?」
和は可愛い顔を真っ赤にさせて俺を睨む。怒っているようだけれど、羞恥の色の方が強い。
「和、この日記の俺みたいなのが良かったの?」
そう、あれは和の妄想日記。
高校生時代に書かれたドエロな産物だ。
「うっ……勝手に見ておいて……」
「それにしても、あの雨の日か。俺は普通に和を送って帰ったよな。本当はこんな風になりたかったんだ」
「ううっ……」
ニヤニヤが止まらない。
暫くは弄る材料に困りそうにないな。
「なんなら、日記の色んな内容を再現して爛れた日々でも過ごすか? 時間ならあるしな」
「…………」
大学生の俺たちには余裕がある。
同棲を始めたから都合もつきやすい。
「京太郎くんがしたいなら……」
本当は自分がしたいのだろう。
妄想を、夢を現実にするのは滾る。俺と同じように彼女もきっとそうなのだろう。
けれど、彼女は頑固でプライドも高いから自分がそうしたいとは口に出来ない。そんな所も可愛いんだけどな。
「ああ、俺がしたいから付き合ってくれよ和」
「はい、京太郎くん」
全く、その嬉し過ぎて蕩けるような笑みを見せられては勝てそうにないな。
カンッ!
エイプリルフール風に嘘の妄想日記ネタ
やっぱりのどっちはかなりのムツリだと思う
久『須賀くん、こんなこと言って信じてもらえないと思うけどあなたが好きなの
構ってほしくていつもちょっかい出してごめんなさい』
優希『京太郎、言わんでも分かるだろうけど好きだじぇ。
顔合わせたら素直になれないから手紙で書いといた』
和『須賀くん、あなたのことは正直最初軽薄な人だと思っていましたが、日が経つにつれ違うとわかりました
よろしければお付き合いを……などと言うのは自分勝手でしょうか?』
咲『京ちゃん、いい加減ただの幼馴染から卒業してもいいと思うんだ
だから、早く一緒に暮らそう。うん、それがいいと思うな』
京太郎「――――エイプリルフールにわざわざ俺がモテないことを弄ってくるなんて、嫌いだコノヤロー!」
まこ「あ、走り去って行きおった。
まあ『本気にとられればラッキー、無理でも嘘ってことで取り繕える』なんて退路を用意しといたらこうなるわな」
その他全員(ずーん)
カン
最終更新:2017年10月13日 00:15