――昨夜、俺は幼い頃の夢を見た

 あれは十年ぐらい前の事だっただろうか

 俺がまだ『泣きむし京ちゃん』なんて呼ばれていた頃で、

 そしてその『泣きむし京ちゃん』が居なくなった日の事。


 その日、俺は親の慰安旅行?社員旅行?まあ、そんなもんに同行していた。

 場所は…覚えてない。ただ、長野に負けないぐらいの田舎だったと思う。

 旅行のコンセプトは、旅館でのんびりくつろぐってなもんだった。

 俺はその時、後悔していたと思う。

 そんなコンセプトの旅行で、子供が楽しめる訳はないのだから。

 これなら駄々をこねて旅行になんてついて来ないで、

 近所のガキ共と遊んでいたほうが百倍マシだっただろうと。

 その日は、大人達は皆で麻雀大会をしていた。

 麻雀のルールなんて知らなかった俺は、ただひたすら退屈で、

 父の所に行っては、

 「この鳥さん何?」とか

 「この赤いのなんて読むの?」とか質問したりして、

 あげく

 「あっちに行ってなさい!」なんて怒られたりして…。

 今にして思えば怒られて当然なのだが、子供にそんな事は分かるはずもなく、

 部屋の隅っこに座って、めそめそ泣いてみたりして。

 こんなことなら、外でアリの行列でも眺めていたほうがマシだろうと、

 立ち上がって部屋を出ようとしたその時、俺は見てしまったのだ。

 当時の俺とさして変わらないであろう年頃の女の子が、

 大人達に混じって麻雀をしているという、なんともシュールな光景を…。

 異彩を放つその姿を目の当たりにして、俺はその子に釘付けになってしまった。

 ややあって、その子は卓から離れ、

 「お昼だし、もう帰らなくっちゃ!」なんて言って外へ出て行った。

 その後、俺がどうしたかって?

 勿論、追いかけたさ。


――結論として、その子とは友達になれた。

 だけど、その子の名前は覚えていない。

 と言うか、当時の俺には覚えられなかったんだと思う。

 じゃあ、何て呼んでたかって?

 それははっきり覚えてる。

 『うさぎちゃん』




~11年前~

京太郎(うわー、大きいお家だなー)

京太郎(あのおねーちゃん、お金持ちのお嬢様なのかなあ?)ワクワク



???「おばあちゃん、ただいまー!」

おばあちゃん「お帰り灼、お昼ご飯できてるよ」

灼「うん、手洗ってくるね」

おばあちゃん「おや、その子は友達かい?」

灼「えっ?」

京太郎「…」ジー

京太郎「…」サッ ←とりあえず隠れてみた

灼「ええっ?君、ついてきちゃったの?」

おばあちゃん「どうしたんだい?」

灼「この子、たぶん、松実さん家のお客さんの子」

おばあちゃん「あれまあ大変」

灼「どうしよう」

京太郎「…」ジー

灼「君、一人で帰れる?」

京太郎「…」フルフル

灼「じゃあ、私が連れて行ってあげる」

京太郎「…」

灼「ほら、行こ?」グイッ

京太郎「あ…」




~外~

京太郎「…」トボトボ

灼「どうしたの?早く帰らないと、きっと心配してるよ?」

京太郎「してない…」

灼「えっ?」

京太郎「おとーさん、麻雀ばっかでかまってくれないもん…」

灼「で、でも帰らないと…」

京太郎「やだ…」

京太郎「あそこにいてもツマんないもん…」グスッ

京太郎「うわああああん!」

灼(ど、どうしよう)オロオロ

灼「泣かないで~」ナデナデ

京太郎「うっうっ…」グスグス

灼「じゃあ、おねーちゃんと遊ぼうか」

京太郎「いーの…?」グスグス

灼「うーん…、おばあちゃんに聞いてからね!」




灼「自己紹介しないとね!私、さぎもりあらた」

京太郎「ありゃちゃちゃん」

灼「あらた」

京太郎「ありゃたん」

灼「…」

京太郎「…」

灼「さぎもりあらた」

京太郎「さぎちゃん」

灼「なんか悪い人みたいだからそれはヤだな…」

京太郎「さきちゃん」

灼「それはのちのちややこしい事になるからダメ!絶対!」

京太郎「???」

灼「…」

京太郎「うさぎちゃん」

灼「うーん…」

灼(一番マシかな…)

京太郎「うさぎちゃん!」

灼「うん、もうそれでいいや…」

京太郎「ぼくは」

灼「じゃあ、君はアリスちゃんね!」

京太郎「えっ?」

灼「うさぎさんを追いかけてきた、金色の髪の可愛い子」

灼「だからアリスちゃん!」

京太郎「ちがうよーぼくは」

灼「行こ、アリスちゃん!」

京太郎「ぼく男の子なのに…」

灼「えへへ、おあいこだよっ!」






     うさぎちゃんとアリスくん

 ~ Kyotaro in Magical Mahjong Wonderland ~




 ※注・タイトル詐欺です。不思議の国のアリスっぽい要素は全くありません!




灼「おばあちゃん、ただいまー!」

おばあちゃん「あら、もう行ってきたのかい?」

灼「ううん、えっと…」

京太郎「…」ヒョコ

おばあちゃん「あれまあ」

灼「一緒に遊びたいって」

京太郎「…」コクコク

灼「一人で退屈なんだって。クロちゃん達も、今日は居ないし…」

おばあちゃん「うーん…」

灼「だめ…?」

おばあちゃん「しょうがないねえ…」ハァ

灼「え、それじゃあ」

おばあちゃん「いいよ、松実さんの所には連絡しておくから」

灼・京太郎「やったー!」

おばあちゃん「それじゃあ、ご飯もう一人分出来るまで、ちょっとまってなさいね」

灼・京太郎「はーい!」




灼「じゃあお昼出来るまで、ボウリングのやり方教えてあげるね」

京太郎「えー…こんなに重いボールを投げるの…?」

灼「大丈夫だよ!転がすだけだから」

京太郎「ふむむ…」

灼「じゃあ、投げてみてー」

京太郎「はーい」グオッ

灼(意外にちからつよい…)

ドン!…ゴロゴロゴロ…

灼「あーちょっと斜めに曲がっちゃっ」

ギャルルルル…ギャリギャリギャリ…

ギョパッ!


     "!?"


京太郎「あー戻ってきちゃった」

灼「えっ、どうやるのそれ…」


……

灼「えっと、力が入りすぎなのかな…」

京太郎「ふむむ…」

灼「じゃあ、まず、胸の前に構えてー」

京太郎「こうかな」

灼「手を前に出してー」

京太郎「はーい」

灼「そしたら、肩の力抜いてブラーンって」

京太郎「ブラーン」

灼「手が勝手に後ろに行って、また前に来た時に、一番低い所で手を放す」ゴトン

京太郎「手を放す」ゴトン

ゴロゴロゴロゴロ…ギョパッ!カコーン


     "!?"


京太郎「やった!三つも倒れた!」

灼「や、やったね…」

京太郎「えへへ!」ドヤァ

灼(なんで真ん中に当たって三本…)

「ゴハン デキタヨー」

灼・京太郎「はーい!」




おばあちゃん「そういえば、お名前きいてなかったね。なんて言うんだい?」

京太郎「きょ」

灼「アリスちゃん!」

おばあちゃん「えっ」

京太郎「…」

おばあちゃん「女の子だったのかい?」

京太郎「男の子…」

おばあちゃん「あらそう…」

おばあちゃん(女の子みたいな名前だねえ)


つづく