あの夏、インターハイも終わり、季節は移ろい紅葉の時。
 和の友人と親しくなったことを切っ掛けに始めた新たな趣味、山岳登山。深く高き山の空気、大自然の雄大さに魅了され、部活のない週末は山を踏破する日々。

「はあ、慣れてきたから油断したな」

 毎年、数回は山での遭難事故について報道されているのに気を抜いた自分が恨めしい。
 山の天気は気紛れだ。
 調子に乗って上級者コースを選び取った罰なのか、日頃の行いが悪いのか、お天道様を怒らせたかと愚痴が零れる。

「滑り落ちて全身痛いけど動けない程じゃないし、生きているだけ儲けものか」

 転落した時に気を失った。
 随分と転がったのか此処が何処なのかさっぱり分からない。

「遭難時は救助が来るまで動くなとは聞くけれど、動かないと凍えちまう」

 全身泥塗れ、雨に濡れて冷えきった擦り傷だらけの身体。頑丈なリュックも石にでも引っ掛けたのか無惨に破れて中身は殆どない。
 人類の叡知、科学の結晶たるスマートフォンは画面が破砕しうんともすんとも応えない始末。

「ははは……」

 万事休すかと思わなくもない。

「まだ死にたくねえな……雨風を凌げる場所を探すか……」

 雨で視界も悪い中、俺は山を歩く。
 時折、ぬかるんだ土に足を取られ、ジクジクと痛む傷に動きが鈍り、それでも進んだ。
 大きな木を発見し、窪みに身を預けて雨風を耐える。夜の帳が下り、寒くてガクガク震えながら極度の疲労と緊張からいつしか瞼が下がった。

「くっ、……生きてるな……」

 ガチガチに体が固い。
 まともな体勢で寝ておらず、寒さで冷えきっているからだろう。下手したら目覚めることはなかったかもしれない。
 そう考えると薄ら寒い感覚だ。

「どうするか……」

 昨日の雨の影響か、山は濃霧に包まれているようだ。
 食料もポケットに入っていたチョコバーのみ、水すらない。まあ、雨水があるから脱水症状になることはないだろう。
 何時、救助が来るのかは分からない。

「霧が晴れるまで待つしかないか」

 そう思った。
 しかし、そうはしなかった。
 白霧の彼方から音が聞こえる。
 もしかしたら助けが来たのかもしれない。不安に苛まれ、擦りきれていた体に活力が甦る。
 俺は助けを求める声を発しながら、霧の中へと踏み出したのだ。

 足元さえ見えない。
 真っ白な世界をどれだけ歩いたのだろうか。
 負傷と疲労から自身が感じているよりも長い距離は進んでいなかったと思う。

「鳥井?」

 風の影響か、再び降りだした雨のためか。
 霧が薄れ、音のする方向に遠目だが人工物を発見した。

「山の中に? もしかして人里が近いのか?」

 近づいてみれば間違いなくそれは神社に構えられているはずの鳥井だった。
 ただ、色は褪せ、一部は砕け、蔦が絡み付いた姿には経年を感じざるを負えない。
 よくよく見れば、足下には堆積した土や苔で埋もれているが石畳の残骸らしきものがある。

「音はまだ聞こえるな……誰かいるのかもしれない……こんな所に人がいるのか? まさか、お化けとか? ははは、否、そんなオカルトあり得ないか」

 不安を押し殺し、古びた道を進んだ。
 腐葉土が積もり、半ば坂と為りかけている階段を昇った。
 いつの間にか音は消え、深々と降り注ぐ天の恵みが奏でる調べしか聞こえなくなる。

「人?」

 坂の上には古の境内と思しき広場があり、奥には草臥れてボロボロなお堂が見えた。
 俺のいる場所とお堂の丁度中間地点にそれはいた。

 紅白の巫女服。
 雨に濡れて透ける肌。
 黒い髪を二つに結んだおさげの少女。

 俺は彼女が誰なのか知っていた。
 夏のインターハイで見かけ、素晴らしいものをおもちだからとチェックしていた一人だから。

「神代小蒔?」

 確信しつつも信じられない。
 夢か現か、どうしてこんな所にいるのか、溢れる疑問を確認するように口から零れたか細い声。それが聞こえたのか、彼女は振り返りこちらを見た。

 瞳に光はない。
 その笑みは極上なれど妖艶な色があった。
 張りついた服が飾り、はっきりと見える身体の線は男の欲望をどうしようもなく駆り立てる。
 淫靡と無垢、神秘的に混在する雰囲気に魅入ったのか、俺は金縛りにあったように動けなかった。

 光と音の炸裂。
 目を焼くような眩い煌めきに視界が白く染まり、耳鳴りに音を奪われた。
 焼け焦げた臭いをまず感じ、次いで視界がぼやけながらも回復する。耳はまだ遠い。

「雷か!」

 近くに落ちたのだ。
 直ぐ側、俺は無事だが彼女はどうだろうか。

「なっ!?」

 驚愕の光景がそこにあった。

 屹立する少女。
 彼女を囲うようにプスプスと白煙が上る黒く焼け焦げた地面。
 その様子から彼女に落雷は直撃したのだと推測出来る。しかし、彼女の服には焦げの一つとてない。
 異様、本当に奇妙で不可解な現実が目の前にあった。

 天は轟き、稲光が迸る。

 鳴り響く霹靂により止まっていた時が動き出したのか、眠り子のようにクラクラと彼女が揺れ動く。
 このままじゃあ地面に倒れてしまうと思い、駆け抜け、慌てて身体を支えた。
 聞こえてくるのは規則正しい寝息の音と脈打つ心音。

「あはははっはっは」

 雷の影響などなく単純に眠っているだけのようだ。
 図太い、剛胆、大物の器。
 遭難したことも含め、なんだか全部がちっぽけに思えて馬鹿みたいに笑えてしまった。

「笑っている場合じゃないか」

 雷雨はますます勢いを増し、風は暴威を振るう。
 この状況でも起きない神代さんを横抱きにし、嵐のような雨風から逃れるためにおんぼろなお堂の中に踏み込んだ。

「見た目通りに中も酷いな」

 雨漏りする天井。
 腐って穴の空いた床。
 風に煽られ不協和音を奏でる壁。

「まあ、外にいるよりはましだし、今日まで壊れずに残っているんだから大丈夫……だよな?」

 はくちゅんっと可愛らしい嚔の音が響く。
 視線を下に向ければぱっちり開いた目と合った。

「さ、寒いです……」

 ブルブルと震える少女。
 雨に濡れた衣服はピッチリと肌に張りつき、下着を着ていないのか大きなおもちや淡いピンクの先端まではっきり見える。
 水も滴るとは言うけれども、美少女の濡れそぼった姿とはエロスに満ち溢れている。俺は思わずにも生唾を飲み込んだ。

「あなたは神代小蒔さんであってますよね?」

「は、はい私は神代小蒔ですよ。えっと、すみません。あなたはどちら様でしたでしょうか? 私、忘れちゃったみたいでごめんなさい」

「いえ、あなたに会ったことはありますけど、すれ違ったくらいですからほぼ初対面ですよ」

「そうなんですか?」

「はい、俺は清澄高校の麻雀部員で須賀京太郎です」

 清澄と聞いて記憶の中で合致するものがあったのか神代さんは納得したように頷いた。

「あの須賀様、下ろして貰っても良いですか?」

「す、すみません」

 女の子って言うのは男と違ってこんなに柔らかいのだろうか。正直に言って名残惜しかったけれど、俺は神代さんを床に下ろした。

「そう言えばここは何処なんでしょうか? 霞ちゃんたちは何処に行ったんでしょうか?」

「さあ? 俺は長野の山で遭難しているので詳しい場所は分からないですね。それに他の永水の方たちは見掛けてないですよ」

「え? 長野なんですか? 私は霧島にいたはずなのに……」

 オカルトか。
 和ならSOA、SOAって言うんだろうな。目の前に雷に撃たれても無傷だった少女がいるのだから俺はもう信じざるを負えないけど。
 オカルトを考え始めれば此処が長野か霧島、それともそれ以外の場所なのかも検討がつかない。

「神代さんはこんな状況でもあんまり不安そうには見えないですね」

「はい、きっと霞ちゃんたちが見つけてくれますから」

 仲間を信頼しているのか。
 羨ましいと思ってしまったのは、俺には危機的状況を打開してくれるような頼れる人がいないからだろう。
 咲じゃあミイラ取りがミイラになるのが目に見えるし、和はオカルトなら頼りにならない。優希たちや友人の誠でも無理だ。
 唯一、ハギヨシさんならどうにかなりそうな気もするけれど、あの人は執事だから龍門渕さんの許可がない限り動かない。ちょっと悲しいな。

「それに私一人ではなく須賀様もいらっしゃいますから」

 少し沈みそうになった心は彼女の言葉で浮上する。ニコニコと笑う美少女にそんなことを言われたら勘違いしてしまいそうだ。
 そしてまた一度、可愛い嚔の音が響いた。

「寒いですね……」

 秋雨に打たれて体が冷えている。
 俺も彼女もびしょ濡れだった。
 水気をたっぷり含んだ服は体温を奪い去る。

「あんまりジロジロ見られると恥ずかしいです……」

「す、すみませんあんまりにも綺麗だからつい……」

 濡れた服を乾かすためにも脱がなければならない。
 俺も彼女も替えの服など持っているはずもなく、ましてや神代さんは何故か下着は下のものしか履いていなかった。
 和風美少女のスッポンポン。
 ドストライクな大きなおもちから目を離せなかったんだ。

「そ、そうですか……その失礼します……」

 冷たい隙間風が屋内に吹いてくる。
 火種としてライターはあるけれど、燃やす燃料となるものを今は入手することもできない。
 だから、仕方無いんだ。
 少しでも熱を逃がさないために身を寄せ合うのは当然だろう。恥ずかしがって風邪を引いたら意味がない。

「「…………」」

 後ろから抱くように体格の大きな俺が彼女を包み込む。
 腕にとても柔らかい感触が当たる。
 むにゅりと形を変えるそれはおもちなのだろう。

「あっ……!」

 神代さんから少し驚いたような小さな声が漏れた。
 後ろから見える彼女の顔がほんのりと赤く染まっているのは見間違いではない。
 きっとそれに気づかれたのだ。

「「…………」」

 互いに緊張から会話はない。
 こんな状態で何を話せば良いのかなんて分かりゃあしない。無駄に力が入り強張っているのが俺には分かり、彼女にも伝わっているに違いない。
 触れ合う肌から伝わる熱。
 互いの呼吸と風雨の音色、荒れ狂う心臓の鼓動だけが場を満たす。
 そして、沈黙に音をあげたのは神代さんだった。

「……お尻に当たっている固いものは、その、男性器なのでしょうか?」

 だからってそれを話題にするのは如何かと思いますよお姫さま。

「この状況なのにすみません」

 俺は童貞だ。
 好みの女性と裸で抱き合っているような状況で起たないはずがないだろう。むしろ、何も反応しなかったら失礼じゃないか。

「い、いえ……ドキドキするから仕方ありませんよね……男性とこんな風に抱き合った経験がなくて私もちょっと興奮していますし……」

 心臓が熱い。
 まだまだ寒いはずなのに、妙な火照りが疼いてしまう。

「俺だって、女の子とこんな風になったことなんてないですよ……」

 長い沈黙があった。
 お互いを異性として意識してしまい、経験不足からどうすれば良いのかも分からない。
 芯から疼く熱と興奮をもて余す、そんな静寂の時間だった。

 嵐は止まない。

「触っても良いですか?」

 好奇心と興奮に背を押されたのか、常ならぬ状況に流されたのか、清楚な雰囲気の淫らとは正反対な大和撫子の口から大胆な発言が飛び出した。
 俺の回答を待つことなく、伸びた手が下着越しにゆっくりと這う。

「くっ……」

「固い、それに大きい……」

 自分の手とは異なり、自由に動かせない他人の手がもたらす心地は強い興奮を巻き起こす。
 それは快楽に直結しない観察するようなゆったりとした動きだった。

「神代さん……」

 むくむくと起き上がる性衝動。
 俺だって女の子の身体に興味津々なんだ。だから、手が自然に伸びた。
 憧れの大きなおもち、その柔らかさと暖かい人肌の熱に凄まじい興奮を覚える。何時までも触っていたい、そう思わせる魔性の力がおもちにはある。
 そしてもう片方の手は彼女の下腹部に迫り、白いスベスベの下着の上をなぞった。クロッチ部分は染み出した粘りのある液で汚れていた。

「はあはぁ、須賀様ぁ……」

「神代さんっ……」

 互いの指がお互いの気持ち良い所を探るように動く。より強いそれを求め、高まる性感と興奮に煽られ下着の中、直接触れ合う。
 熱くて卑猥でどうしようもないほど疼いている。俺の凸と彼女の凹はピッタリ重なり合うための形をしている。

「んっんぅ、ぁあっ、凄い、凄い、こんなの私知りません……ああっぁ、あっ……あぁ……」

 彼女は到った。
 赤く、潤み、淫靡な瞳は物語る。
 火照りは止まず、情欲の焔が燃え上がる。もっと欲しい、もっと、もっと、知りたいと言っている。
 互いに惹かれ合うままに、口唇が重なりあった。

「須賀様ぁ……はあはあ……」

「京太郎って呼んでくれ、小蒔さん……」

「はぁい、京太郎様ぁ」

 銀の糸が引く。
 出し入れし合う舌が口内を擦れば擦るほど、解け合うような気持ち良さが溢れてくる。
 もっと先を、果ての果てを、欲していた。

 嵐は止まない。
 救助は来ない。
 俺と彼女の睦は深まるばかり。


カンッ!

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最終更新:2017年10月12日 23:24