「京太郎さん今日は何が食べたいですか?」

 天真爛漫、穢れを知らない無垢なる笑みを浮かべて献立のリクエストについて少女は聞いた。

「何でも良いよ、小蒔ちゃんの作ってくれるものはどれも美味しいからさ」

 少年の回答に少しだけ困った表情を作る。"何でも"と言うのは少々面倒なのだ。

「お魚、お肉、それともお野菜、どれを主体にしましょうか、うーん迷っちゃいますね……」

「店で品物を見てから決めれば良いんじゃないか?」

「はい、そうしましょうか」

 仕度を済ませ、二人は色褪せたアパートを後にした。
 仲良く手を繋ぎ歩いていく。
 自然と人の目が引き寄せられるのは彼女の持つ力故か、仲睦まじい美男美女のカップルに対する羨望か。
 視線を気にすることなく歩みは進む。
 日常の一コンマ、些細な風景。
 だからこそ、深く感じ入る時がある。

「幸せです」

 はにかみながら漏れた言葉に絡んだ指がぎゅっと握り応えた。

「何時までもこうしていたいな」

「はい」

 小さな世界。
 互いがあるだけで満たされている。
 それだけで良いのだ、愛さえあれば他はいらない。

「そろそろ、此処を発たないとダメなんだろうな」

 霧島の姫。
 神の代と為り得る少女には許されない。
 愛する人と生きることさえ儘ならない。

「東西南北、次はどっちに行こうか?」

「うーん、南東が良い気がします」

 出会い、知り合い、触れ合い、想い合って二人は逃げた。許されざる恋路を貫くためには家は邪魔だった。
 祝福されぬ愛故に。
 己の天を知ったが為に。

「海の向こうか、悪くないな」

「京太郎さんと一緒なら大丈夫です」

 連理の逃避行は続いていく。


カンッ!

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2017年10月12日 23:23