嘉帆「やぁやぁ良く来てくれたね。和の彼氏君」 

 付き合った彼女の家にお邪魔したら、玄関で彼女そっくりの人に出会った。

京太郎「和。この人親戚か?」

和「違います。この人は私の親戚じゃなくてお母さんですよ」

京太郎「ええっ?!」

 ニヤニヤと冷やかすように笑うその様は、彼女の父とは正反対だった。

嘉帆「そう。何を隠そうこの私が君の彼女の母親、原村嘉帆なのだ!」 

 真面目でお堅い父親と娘に比べて、随分とフレンドリーでノリが良い。

和「む、須賀君。今何か失礼なこと考えてませんでしたか?」

京太郎「いや。和の髪の毛はこの人譲りだったんだなって思ってた」

嘉帆「驚くのはまだ早いぞ。実はこれ地毛なんだ、染めてないの」

京太郎「地毛だったんだ...」

和「お母さん。益体もない話はもう良いでしょう」 

嘉帆「ああん。和ったらそっけないなぁ~。ま、いっか」

 ルンルン気分で足取りも軽やかに和のお母さんはそのまま居間へ向かった。

京太郎「なぁ和。お母さんって確か検事さんしてるんだよな」

和「ええ。東京で仕事してて忙しい筈なんですけど...」

 和と一緒に原村邸の居間に入ると、そこには和のお父さんもいた。

恵「む、君は和の...」

京太郎「こんにちは、原村さん。須賀です」

京太郎「娘さんとはその...とても仲良くさせていただいています」

恵「そうか。和は世間知らずな所があるから是非仲良くしてやってくれ」

恵「それと、娘を傷物にしたら問答無用で刑務所に送ってやる」

嘉帆「和にハメたつもりがハメられちゃわないようにね~」

和「ぶっ!」

恵「ゲホッゲホッ!お前...娘とその友達の前で、よくも...そんな」

 切り分けたケーキを持ってきた嘉帆さんの爆弾発言にタイミング良く

和と恵さんは父娘揃ってコーヒーに咽せていた。

嘉帆「いや~ムッツリスケベの旦那と娘をからかうのは楽しいね~」

和「だ、誰がムッツリスケベですか!」

恵「そうだ。節操や分別もなく盛るのは全くもって頂けない」

和・恵「そう思(いません)わないか!!須賀君」

嘉帆「ビビッときたら、フォーリンラブが普通よね?彼氏君」

京太郎「えっと、それはもうお父さんのおっしゃるとおりです。はい」

嘉帆「なんだよ~。男ならもっとアグレッシブにいけよ~」

恵「...でも、こうして家族の誕生日に全員が揃うのは悪くない物だ」

恵「誕生日、おめでとう。嘉帆」

和「おめでとうございます。お母さん」

 蝋燭を吹き消す母と妻に祝いの言葉をかけた父と娘はそのままそっと

母親の身体に抱きついた。

嘉帆「嬉しいねぇ。なんだかんだ言って私も君達が大好きだよ」

嘉帆「さて、そろそろ離れて貰おうか。プレゼントも気になるしね」

和「お母さん。これ、私からの贈り物です」

嘉帆「おお!小さいガラスケースに入ってるのは?オルゴールかぁ...」

嘉帆「うんうん。ありがとう和」

嘉帆「で、恵君は一体何を送ってくれるのかな?」

恵「聖書と十字架だ。少しは自分の心を清めたまえ」

嘉帆「本気で言ってるの?それ」

恵「冗談だ...。私からは新しい車と指輪を贈らせて貰う」

嘉帆「おお...これは私もちゃんとお返しせねば」

嘉帆「いやぁ...本当にありがとう。二人とも大好きだよ」

 二人らしい贈り物を受け取った嘉帆さんは、涙をぬぐっていた。

嘉帆「四十路に入ると涙もろくなっていけないね」

嘉帆「須賀、京太郎君だっけ?」

京太郎「はい」

嘉帆「和のことどう思ってんの?」

京太郎「かけがえのない存在、ですかね」

京太郎「非の打ち所がなさそうに見えるけど、結構ドジな所もあるし」

京太郎「お父様に似たのか、どこか頭が固いところもあります」

京太郎「でも一緒にいると楽しいし、これからも一緒にいたいです」

嘉帆「そっか。和、いい彼氏に恵まれたね。大切にしなよ」

和「はいっ」

恵「認めざるを得ない。か...」

 最後にそう呟いた恵さんは嘉帆さんの手を引いて、そのまま居間から静かに

出て行った。明日の昼まで帰ってこないから、という嘉帆さんの声に俺達は

ようやく我に返った。

和「あ、あの...須賀君」

和「私からもいいですか?」

和「私は、その...お世辞にも世渡りが上手いとは言えないし」

和「不器用で迷惑をかける方が多いかも知れません」

和「でも、咲さんや優希にあなたを渡したくないんです」

和「だから...」

 決意に満ちた眼差しを俺に向けながら、和はあえて目を瞑った。

 その意味するところは、つまり...

和「答えを下さい。京太郎君」

京太郎「ずっとずっと大好きだった。これからも大好きだ」 

 震えるその身体を抱きしめながら、俺は和の唇を奪った。

 喘ぎ、陶然と互いを受け入れながら、二人の間にある赤い鎖をより強く

強固なものへと変えていく。

和「京...太...郎...君。京太郎..君!」

京太郎「和...和ッ!」

嘉帆「いやぁ若いって良いねぇ。永久保存版だよ」

恵「くっ、なぜ私がこんなことをせねばならんのだ!」

嘉帆「もしもあの子達の子が道に迷った時...」

嘉帆「このビデオを見せてあげれば、少しは気が晴れるでしょ?」

嘉帆「ああ。自分は父と母が愛し合って出来たんだなって」

恵「言っていることに正当性が含まれているのが本当に腹だたしいよ」

 想いが通じ合ったことに感極まった二人は歓喜の涙を流す。

 これから先、二人はきっと上手くやっていくだろう。

 外に出て行く振りをして、娘と将来の息子を欺いた二人は物陰から

カメラを回しながら、遠くない未来に増える新しい家族のことに

想いを馳せるのだった。おしまい








嘉帆「ええと、アルバムはこのへんにしまってたはず……あ、あったあった」

京太郎「すみません、お義母さんに手伝わせちゃって」

嘉帆「いいのいいの。かわいい娘の結婚式なんだもの。でも、なんで私達の古い写真がいるの?」

京太郎「新郎新婦の紹介ビデオで使うっていうんですよ。生い立ちとかで、両親の紹介も入るみたいで」

嘉帆「そうなんだ、じゃあ残ってるので一番若いときのをセレクトしなくちゃ」


京太郎「今でもめちゃくちゃ若く見えますよ、ホントに。ええと、検事時代より遡ってはNGですからね」

嘉帆「なーんだ……なら、この卒業アルバムは」

京太郎「また別の機会に。今はしまっといてください」

嘉帆「ちぇー……ん?」

ペラッ

嘉帆「あら、なつかしい!」

京太郎「どれどれ? これって、和が生まれたときの? お義父さんも一緒に写ってますね」


京太郎(お義父さんもあんまり今と変わってないな……)

嘉帆「そうそう。仕事柄、産むタイミングが難しくてね、いろいろ苦労したわ」

嘉帆「それに、ちいさい頃の和は身体が弱くてね。よく仕事場と病院を行ったり来たりしてたものよ」

京太郎「へぇ……そうだったんですか」

嘉帆「でも、そこで同じく入院してた人達に麻雀を教えてもらって、今じゃプロだなんて」

京太郎「わかんないもんですねぇ」

嘉帆「まったくだわ……あ、これは和が生まれる前のね。この写真いいんじゃないかしら?」

京太郎「いいのありましたか……って、若っ!?」


京太郎「お義父さんめちゃくちゃ若い!? え、これ何年前ですか?」

嘉帆「んー、私達が結婚してすぐだと思うだから、さっきの写真の1~2年前くらいかしら」


京太郎「肌のツヤもいいし、シワも無い……なにより髪が黒々としている、まるで別人だ……」

嘉帆「そうだ、この機会だから教えとくけど」

嘉帆「私と和って、けっこう体質が似てるのよね。化粧品も同じブランドのだし」

京太郎「は、はぁ」


嘉帆「だから、和と京太郎君が子供を授かろうと思ったら、すっごく苦労すると思う

京太郎「え?」


嘉帆「そういう体質なのよ。できにくいというか」

京太郎「は、はぁ……え?」

嘉帆「だから、京太郎君もがんばってね」

京太郎「そ、それじゃあ、お義父さんは……」

嘉帆「うん。がんばったの」

京太郎「それで、ああなったと……」

嘉帆「なったの」

京太郎「ええ……」


嘉帆「でも京太郎君だったらもともと金髪だし、あんまり目立たないかもね。あはは!」

京太郎「目立ちますよ!?」


嘉帆「いやぁ、はやく孫の顔が見たいわ」

京太郎「……が、がんばります」



カン

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最終更新:2017年10月12日 21:23