彼女にとって俺は特別だけど特別じゃない。

「京さんどうしたっすか?」

 人は求められたい。
 必要とされたい。

「いや、何でお前はまた俺の部屋にいるんだ?」

「京さんに目覚めの熱いベーゼをしに来ただけっすよ」

 えへへと照れたように笑っている。
 第三者の立場から見れば、可愛い美少女がはにかんでいる姿に胸が高鳴るかもしれない。
 俺も心臓がドキドキしている。
 背筋には冷たい汗を感じる。

「要らねえよ」

「もうケチっすね」

 東横桃子はヤンデレストーカーだ。
 今日も誰の断りもなく無断で我が家に侵入し、誰にも気づかれることなく俺の部屋に訪れた。
 彼女自身の特性を活かしたスニーキング活動に戦々恐々と震えてしまう。

「じゃあ私と一緒に朝シャンを浴びるっす。京さんの逞しい身体を隅々まで洗わせてください」

 強調するように両手でたわわに実った胸を持ち上げて媚びを売る。欲望を刺激されないこともないが、それを上回る恐怖と警戒の鐘が頭の中で鳴り響く。

「ハウスだ」

「……ううぅ、京さんのイケズ。瑞々しい美少女女子高生に求められて応えないとか枯れてるんっすか?」

「自分で言うなよなぁ」

 俺はどこで道を間違えたのだろう。

 このヤンストと出逢ったのは中学の頃に遡る。
 あれは幼馴染の咲が電車を乗り間違えて長野県北部にまで行ってしまい、迷子の迎えに赴いたときだった。
 迷った時は下手に動かなければ良いのにあいつが方々をさ迷ってくれたおかげで中々発見出来ず、俺は目撃情報を聞き込みながら捜索していた。
 その時、公園で一人寂しくブランコを漕いでいたこの少女を見つけたのだ。
 ごく普通に話しかけたところ、酷く驚かれたことを覚えている。まあ、本人の体質を理解している今ならその反応も分かってしまうけどな。
 彼女は咲を探すことを手伝ってくれた。同い年と言うこともあって連絡先もつい交換してしまった。
 傍目からでは美少女、当時から俺好みの大きな胸をおもちだったのだ。下心も湧いてしまうのも仕方ない。

「覗くなよ」

「ええー、見るだけなら減るもんじゃないし良いじゃないっすか」

 とは言え、殆ど知らない人をいきなり好きになるはずもない。だから、普通の友達感覚で俺はこいつに話しをよく振ったのだ。
 ぼっち、友達皆無、親でさえ困っていたステルスな少女。
 人恋しく思っていた。
 寂しがり屋。

「おい、俺の服とか漁るなよ」

「ちっ……京さんの匂いに包まれたいだけなのに……」

 僅かな間に友情を通り越え、恋慕よりも深く、愛情よりも狂おしい、気づけば立派なヤンデレストーカーが生まれていた。
 北と南。
 随分と距離があるのに週末には必ず遊びに来た中学時代。
 わざわざ親元を離れて寮暮らしを選んでまで同じ高校に通っている現在。
 背後を振り返れば高確率でいるのだ。
 好きと言われても、体を求められても、どんな感情より恐怖が先走る。

「はあ……」

 俺はあいつの求めを躱し続ける。
 きっと桃子は誰でも良かった。
 自分を必要としてくれる人、求めてくれる人、付き合ってくれる人、見える人。
 偶然、俺が最初に彼女を見つけた。
 だから、彼女は刷り込まれた赤子のように俺を求める。
 多分、この憶測は当たっている。

「嫌いじゃないさ……どちらかと言えば好きではあるんだろうな……」

 そうじゃなければ、おもち教徒の俺でも裸足で逃げ出しただろう。
 だからこそ、俺もガキと言うか、青臭いと言うか、そんな風だからこそ俺は桃子の想いに応えたくない。
 年々過激になるあいつの行動を見ていると近い将来、俺は襲われるかもしれない。
 その未来にゾクリとする。

「京さん、入っちゃダメっすか? 桃子のxxxはびちょびちょっすよ。ねえ、ダメっすか?」

 風呂場の外から荒い呼吸音が聞こえてくる。


カンッ!