春「...ずるい」

 姫様はずるい。

 高貴な家柄、行く先で出会う人に愛される魅力、そして....

小蒔「はぁ...///京太郎様...」

京太郎「こ、小蒔さん...そんなにくっつかないで下さいよ」 

小蒔「うう、京太郎様ぁ...どうしてそのようなことをおっしゃるのですか?」

京太郎「可愛い女の子に身体を密着させられて緊張しない男がいますか!」

小蒔「嬉しい。私が京太郎様にそのように想われているなんて...」

京太郎「さ、俺の方に体寄せて下さい。※温石と比べると心許ないけど」

京太郎「家に帰るまで、貴女から離れたりしませんから」

小蒔「京太郎様の女誑し。ずっと私だけ見ていて下さいね?約束ですよ」

 私のほしいものを簡単に、なんの苦労もなく手に入れる。

 二人の逢瀬を影ながら見守る私は、何も出来ずにただ歯ぎしりをしながら

そのアツアツで初々しい恋の囀りを聞き続けるしかない。

春(ヤダ...京太郎...行かないでよ)

 今、彼の隣にいるのが自分なら、もし自分が小蒔のように愛してやまない

大好きな人をずっと引き留めておけるだけの何かを持ってさえいれば、こんな

みじめな横恋慕なんかしなくていいのに...

霞「春ちゃん。どうしたの...」

春「霞さん、私」 

 石戸霞。姫様に最も近く、けれども決して姫様のようになれない人。

 その人の見つめる視線の先にも、彼の姿だけが写されていた。

春「霞さん。悔しくないの?」

 雪華舞う夜、中睦まじく家路につく二人の背中を見ながら私は問うた。

霞「どうしてそんな事を聞くのかしら?」

春「だって私も霞さんも京太郎が好きなのに...家のせいで...」

霞「そうねぇ...私も、貴女が考えたのと同じ事で何度も悩んだわ」

 三月に母校を卒業した後、霞は家のしきたりに則って顔も見た事のない

婚約者と結婚式を挙げ、そのまま春達の元を去り、霧島神宮から出て行く。

 小蒔と姉妹同然に過ごした霞は、小蒔の影響を誰よりも強く受けている。

 立ち居振る舞いや優しさ、そして好きな男の好みまで...。

 だからこそ、春は痛い程霞の気持ちを理解できた。

霞「二つの幸せを天秤にかけて、それでもその傾きは変わらなかった...」

霞「いっそ惚れ薬を使って京太郎を寝取ろうと思った事もあったわね...」

春「なら、なら!そうすれば良かった!」

春「貴女が想っていたことを実行に移せば、私だってこんな惨めな思い...」

 懐かしそうに、そう嘯く霞の頬に伝う涙が春の逆鱗に触れた。

 どんなことがあっても、この先自分達は京太郎と結ばれる事なんてない。

 しかし、春の予想を超えた所に霞の傷は在った。

霞「でもねぇ。私」

霞「ふられちゃったのよ...京太郎に」

 先を行く二人の行き先を煌々と照らした月光は雲に隠れ

霞「ねぇ?春ちゃんには分かる?」

 取り残された二人の背を吹雪が押す。

霞「誰よりも長く一緒に居て、姉妹のように育ったのに」

霞「私の方が貴女や姫様よりも遙かに京太郎を幸せにできる」

 爛々と赤く妖しくギラつき始めた石戸の天倪の背からは、ゆらゆらと、

まるで蜃気楼の如く悪しき者達が吹き出す瘴気として霞の全身をゆっくりと

確実に覆っていく。

霞「過信ではなくそれだけの頭と地位と力を持っているにもかかわらず...」

霞「京太郎はあの子を選んだ。俺はあの子を幸せにしたいんだって...」

 神に仕える巫女にあるまじき憎悪と情念。

 その燃えさかるような悪魔の如き視線は、今まで過ごしてきた大切な

仲間達に向けて良いようなものではない。

 霞は最早小蒔の事を敵と認識していた。

霞「だから、邪魔しないでね?春ちゃん」

霞「私、これからはもう見境なくなるから...」 

 そう言い残し、霞は何も見なかったようにその場から去って行った。

 吹きすさぶ雪の嵐のなか、少女は一人取り残される。

 大切な人の幸せを取るか、それとも自分の幸せを取るか。

 どちらにせよ、霞達がいなくなってしまえば全ては終わってしまう。 

春「私は...」

 残された時間はあと僅か、果たして少女はどこへ行くのか?

 続く?