「む~~!!」
「だから、なかったって!」
「嘘やけん!」

何が何やら、訳が分からない。
それが扉を開けた煌の最初の感想であった。
インターハイの会場である東京、そこのホテルの一室。
そこで後輩の二人が、何やら睨み合っているのだ。

普段であれば、年が近い同士で仲が良い二人。
良くじゃれ合いとも言える喧嘩をするものであったが、今回ばかりは少し様子が違った。
二人の間にある空気は、険悪そのもの。
本気の喧嘩のようだ。

「やーやー、お二人とも……何をそんなに」
「朱里の奴がっ!」
「京太郎がっ!」

先輩という事もあり、場を収めようと口を出す。
出せば、二人は互いに合い手を指差し『あちらが悪い』と煌に訴える。

「がるるるる」
「やるか、この……や。まじで噛むのはヤメロ!?」
「どーどー……話を聞くので何があったか、最初から教えてください」

犬のように唸り、涙目で噛む朱里。
そんな彼女に京太郎は、怒りから困惑へと変わる。
これだけで、二人の上下関係がよく分かり、煌は内心で溜息をついた。

「実は――」

さしもの京太郎も朱里に泣かれると弱い。
こうなっては、京太郎は形無しとなり、助けを求め煌に何があったのかを教えていく。

「あつかー……」
「あっつ……これなら、新道寺の方がましだ」

ことの始まりは、少し前。
応援と補欠でやってきた二人は、一室で東京の暑さにぐったりと横たわる。
新道寺のような暑さではない。
コンクリートジャングルと呼ばれる東京の照り返しに二人は、やられてしまったのだ。

「あー……ミーティングまで時間あるよな?」
「ん、あっけん」
「なら……コンビニでアイスでも買ってくるわ。何か欲しい物あるか?」
「あい! あいが欲しか!」

隣で寝転ぶ朱里の頭を軽く撫で、京太郎が聞く。
その京太郎に対して、朱里は目を輝かせた。

「あれって……どれだよ」
「カキ氷!」
「分かった」

朱里の言葉に苦笑しつつも、欲しいのであればしょうがないと京太郎は腰を上げ外に出る。
ここまでは、良かったのだ……ここまでは、問題はこの後にあった。

:
:
:

「ほい、カキ氷」
「ありがー……とう?」

言われた通りにカキ氷を買ってきて朱里に渡すと、お礼を言いつつ不思議そうに首を傾げた。

「どうした?」
「袋氷じゃなかね」
「袋……何それ?」

不思議そうに食べる朱里に聞いて見れば、今度は京太郎が首を傾げる番だ。
カキ氷と言えば、お椀のなどの器の上に削った氷を山のように積み上げ、その上からシロップを掛け食べる物。
袋に入ったカキ氷など、聞いたこともなかった。

「まじで言いよーと!?」
「まじもまじ……そんなのあるのか?」
「や! 竹下製菓の『袋氷』! ストロベリー!!」
「……知らないな」

朱里は京太郎の言葉に信じられないと驚き、訴えるように叫ぶ。
必死になられるも京太郎自身は、そんなの見たこともない。
首を傾げる京太郎、本当にあるのだと叫ぶ朱里。
二人の会話は次第に熱を帯、喧嘩へと発展していった。

「って感じですね。買い言葉に売り言葉……何時の間にかこんな事に」
「なるほど」
「有名やもん……ぐすっ。絶対売っとーとよ」

もはや、泣き出しぐすぐすと腕を噛み続ける朱里に京太郎は煌に助けを求める。

「……はぁ」
「そういうことでしたか、何と言うか……去年を思い出すというか」
「去年ですか?」

助けを求めれば、煌はそんな事を言って部屋の一角にある冷蔵庫へと向かい開けて中身を出す。

「これですよね」
「あっ……」
「あった!」

二人に振り返った煌の手には、袋に入ったカキ氷があった。
しっかりと真ん中には『氷』と書かれておりパッケージも良く見るカキ氷の物だ。

「こいがよかよ。味が均等でよか」
「機嫌直りやがった。それにしても……本当にあるのか」
「ありますよ? まぁ、売ってるのは九州方面だけですけど」
「え゛……まじですか、花田先輩」

煌に渡された物を早速とばかりに朱里が食べようとするも煌の言葉にショックを受けた。

「いやー……去年、姫子も同じように騒いだらしく」
「あー……」
「他のメーカーも?」
「ないですね!」
「ガーン!」

煌が胸を張って言えば、よよよと朱里がベッドに倒れこむ。

「そのための準備ですか」
「はい、食べたいと言う子が多いですからね。こうして備蓄をしてるそうです」
「なるほど」
「ということで、友清さんの備蓄分の管理お願いしますね」
「え゛、俺が?」
「他の人だと我慢出来ず……」

驚く京太郎に去年あった出来事を教え煌は嘆く。
しっかりと用意したはずが、何故か直ぐになくなる袋氷、阿鼻叫喚の部員達、まさに地獄であった。
ということで、管理は先生かもしくは九州以外の人の管理となったのだ。

「京太郎! 京太郎! 練乳ば直に入れっとよかよ」
「はいはい……花田先輩、ありがとうございました」
「いえいえ」

そんな話をしていれば、先ほどのショックは何処へやら、自分の隣を叩き、呼ぶ朱里に苦笑し京太郎はお礼を言って去っていく。
仲の良い二人を見て、煌もまたほっとするのであった。
主に一人分の管理が減った事に――。

カンッ!

「……博多風じゃ駄目か?」
「認めん!」

後日、別の意味でまた喧嘩する二人の姿が見られ煌がまた借り出されるのは別の話。
更にカンッ!