成人式。
 大人として認められる通過儀礼。

「特別な日ではあるけれど、別に何かが変わるわけじゃないんだね……」

 鏡に映る着飾った艷姿。
 髪も伸び、少女から女性へと変貌した容姿はかつての面影を残しつつも綺麗になった。

「プロ生活が忙しくて地元に帰ってくることも殆どなかったっけ……皆とは別の道に進んだから久し振りに会うんだよね」

 華々しい功績を残し、高校卒業後はプロの道へ、国内に留まらず世界へと飛翔した。
 既に世界ランクは一桁台、世界タイトルへの初挑戦も間近に迫っている。

「元気にしていたのかな?」

 竹井久は大学へと進学し、かつては敵として戦った相手と同じチームに所属してインターカレッジで活躍していた。
 染谷まこは短大へと進学して春先からは実家の家業に就職し、幾人かのプロとも稀に出会える店としてルーフトップは繁盛している。
 片岡優希は高校卒業後プロになり、国内を活動拠点にプロリーグでは東場で無類の強さを見せている。
 原村和は国内最高学府へと現役合格し、司法試験の合格を目指して勉学に励んでいる。
 室橋裕子は大学生として青春を謳歌している最中だ。
 夢乃マホは春からプロの世界へと足を踏み入れる予定であり、変幻自在な打ち手として期待の大物ルーキーとして注目されている。

「京ちゃんは大学受験に失敗して一浪したんだよね……」

 一度目の失敗、二度目の奮起、まさかの合格。地元を離れ、一人大都会に住まう彼と多忙な彼女は既に一年近く会っていない。

「咲、そろそろ向かわないと遅れるよ。また迷子になるかもしれないし、急がないと」

「もう私だって今日から大人の仲間入りなんだから大丈夫だよ!」

 仲直りした姉に見送られ、咲は成人式の会場へと向かった。

 当然、必然。
 咲が約束の時間に間に合うはずもなし。

「はあ、相変わらず咲ちゃんはそそっかしいじぇ」

 高校一年の頃に見られた幼さなど消え去り、魅惑的な女性へとワープ進化した優希はやれやれと首を左右に振る。
 タコスはタコスからタコチャーへと突然変異してみせたのである。ペッタンから確かな膨らみを確認できるおもちへと至ったそれには阿知賀のおもちマイスターも喜ぶだろう。

「ははは、久し振りの地元だから道を度忘れしちゃって……」

「しっかりしないと駄目ですよ。危うく成人式に参加できなくなる所だったんですから」

 晴れ着に身を包んでも和は美人である。会場にいる数多の男の視線を独占する大輪の華。
 苦笑いを零しつつ、キョロキョロと咲は頭を振った。

「あれ? 京ちゃんは?」

「京太郎くんなら男性の友人たちともう会場に行きましたよ」

「咲ちゃんが遅いからな。式典が終わったら新成人を祝う立食会があるから、その時には会えるじぇ」

 恙無く成人式は終わった。
 調子に乗って酒を飲み暴れた北海道や大阪の若人も、滂沱の男泣きを見せる舎弟に困惑する東京のお嬢も、派手過ぎる衣装に浮いていた財閥令嬢もいない平和な祭典である。

「ふう、疲れた」

「本当だじぇ」

「二人は有名人ですからね」

 はしたなくも机にうつ伏す二人に和は背筋を伸ばして椅子に座りつつ投げ掛けた。
 地元の星、長野のスターであるプロ雀士の彼女たちには男女を問わずひっきりなしに人が訪れ続けたのだ。

「何で和ちゃんは元気なの?」

「私たちと同じように男の行列を捌いていたはずなのにな」

 東京での一人暮らし、昔から美少女として注目され続けた彼女にとって男の遇い方など慣れたものである。
 普段はマネージャーなどに守られていた咲と優希が及ぶはずもなし。

「何だか疲れているみたいだな。俺は出直した方がいいか?」

 懐かしい声。
 機械越しとは違う生の肉声。

「京ちゃん?」

「おう、久しぶりだな咲」

 顔を上げれば幼馴染の彼がいた。
 男性としてより精悍になった顔、記憶の中よりも格好良く、輝いて見える彼に咲の胸に込み上げてくるものがある。

「随分と女性に囲まれていましたね」

「ふーん、どうせ犬のことだから鼻の下伸ばしてたんだろう? 犬が医学部に合格したから群がる雌猿に」

「お前らの方が凄かったからそう言われてもな」

 何時かの日、追憶の記憶。
 あの頃と変わらないやり取りを始める三人に自然と笑顔が生まれてくる。

「何を笑ってんだ?」

「懐かしくてね。高校卒業から二年も経つのに案外変わってないよね」

 咲はそう思う。
 色褪せない思い出はそのままに、延長されて今この時へと繋がっている。

「そうか? まあ、あんまり変わっていないって言うのは当たり前かもな」

「ええ、私たちのホームは同じ東京ですから割と頻繁に会ってますもんね。まあ、京太郎くんとは同じ学校でも学年や科が違うので毎日は会えていませんけど」

「私は東京に所属チームがあるからな。地元での試合時はのどちゃんたちを招待しているし、差し入れのタコスはありがたいじぇ」

 詳しくは知らなかった皆の近況、思い出話に会話は弾む。宴も酣を迎えても終わらない。

「さて、この後はどうする?」

「クラスメートと二次会に行くかですよね」

 咲と優希、京太郎と和、希望進路と学力から自ずと別れた最終学年のクラス。

「クラスの奴らとはもう話したしな、どっか行こうじぇ!」

 まだまだ喋り足りない、四人が四人とも思ったのだろう。誰も異を唱えず、優希の発起に従った。

「だからって何でうちなんじゃ?」

 祝日に人は賑わい、今日も繁盛するルーフトップ。
 そんな店を両親と切り盛りするまこは懐かしい面子に驚き、喜び、サービスを提供しつつ四人が囲む卓に顔を出す。

「私の家はもうこちらにありませんから」

 和の進学を機に原村家は再び引っ越した。東京に一人娘を残すことに難儀を示しつつも、恵は嘉帆の説得に折れ、新たな赴任地へと夫婦で赴いている。

「俺も自動卓は向こうに持ってっちゃいましたからね」

 わりとお金持ちな須賀家。
 高校一年時の誕生日プレゼントであった麻雀卓は京太郎の住むアパートに届けられている。

「あはは、うちの雀卓はガタがきていて……」

 幼少の頃から家にあった麻雀卓。
 理不尽に巻き上げられたお年玉の思い出なども詰まったものも遂に寿命を迎えてしまったのだ。

「私はプロになってから初めて自分の雀卓を買ったんだからこっちに置いてあるわけないじぇ!」

 高校時代、彼女が使ったタコス代があれば間違いなく自動卓の一つは買えたに違いない。

「まあ、うちとしてはお客さんじゃし問題ないんじゃが、晴れ着のままはちょっと場違いだと思うがのぉ」

 昨今は着物のレンタルサービスも充実している。しかし、清澄三人娘はお金があり、袖を通している衣裳は自前品である。

「咲と優希、後でサインと写真頼むからのぉ。わしは仕事に戻るがドリンクとか足りんくなったら呼んでくれ」

 商売人まこ。
 プロ雀士二人にお願いすることを忘れない。今日幾度目か、馴染みのここでも頼まれたことに咲と優希は苦笑い。

「散々負け続けた高校時代、今日は勝ち越してやるからな」

「ふん、犬が私に勝とうなんて生意気だじぇ、百年早いと教えてやるじょ!」

「プロになった優希と咲さんがどれだけ強くなっているのか楽しみです」

「麻雀って楽しいよね。ちょっと本気になるかな」

 満面の笑み。
 解き放たれる強者の威圧。
 世界の頂点へと飛翔せんとする覇王の気中りに和を除いた店内の総員に冷や汗が背中を伝う。
 重ねた功績、積んだ勝利の数、倒してきた強敵たちの上に君臨する盤上を支配する王の姿。

 蹂躙始まる--

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「いひゃい、いひゃいよきょうひゃんっ!」

「うるせぇ、やり過ぎじゃこのポンコツ!」

 頬を引っ張られ、涙目の咲。
 抗議の言葉を無視して懲罰は続けられる。

「不思議でしたね。皆さんどうしてあんなに蒼白な顔になっていたんでしょうか?」

 阿鼻叫喚、トラウマを生む麻雀。
 一人を除いてボロボロとなる店内、一打一打、捲られる王牌、泣きじゃくる子供も出る始末。

「のどちゃんって大物だな。咲ちゃん出禁とかある意味凄いじょ。魔王伝説に新たな一頁が綴られたな」

「俺は生きた心地がしなかったぞ」

 まこに追い出された一行は三次会を京太郎の家にて開いていた。

「もう、ほっぺが痛いよ。絶対赤くなってるよ……私は悪くないもん! あれ位はプロ雀士なら誰だって出来るよ!」

 京太郎と優希は顔を見合せ、一人は首を振り、互いにため息一つ。

「プロ雀士をバケモノ集団にしないで欲しいじぇ」

「優希ちゃんの裏切り者!」

 賑やかに穏やかな時間が流れていた。京太郎の両親秘蔵のお酒が持ち込まれるまでは……。

「京ひゃん、京ひゃん、寂しいから大学卒業したらちゅいてきてよぉ……アラフォーは嫌だよぉ……」

「京太郎好き、大好き♪ 一生私にタコスを食べさせて欲しいじょ♪」

「京太郎くん、入籍は何時にしますか? 子供の名前はどうします? ~中略~……ううっ、子供たちも大きくなってこの家に二人きりですねあなた……」

 回る廻る、アルコール。
 よい酔い奴隷はクラクラぐるり。

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「痛たたたっぁ……」

 連続する鈍い痛み、嘔吐感。
 完全なる二日酔いの朝である。

「あれ? ここは? 寒っ!!」

 真冬に室内とはいえ服の一枚も着ていないのだから当然である。自身の姿に血の気も失せ、咲は完全に目を覚ました。

「嘘ぉ……あっ、えっ、あははは……」

 散らかった部屋。
 脱ぎ捨てられた晴れ着、下着。
 下腹部に残る違和感、股間にはほんのりと赤黒い破瓜の名残。思い出されていく昨夜の記憶。

「どうしよう?」

 男一人に女三人。
 喪われた四人の純潔。
 乱痴気騒ぎの4Pによる初体験。

「あははは……」

 咲は力なく笑うしかなかった。
 一ヶ月後、訪れてくれない生理。
 一発必中、三人とも孕ませてしまった京太郎は頭を抱えた。針の筵の親族会議、生む気しかない清澄三人娘。
 日本の法律は重婚を認めていない。
 夫一人に妻三人、歪で幸せな家庭が育まれていく。金銭面に困ることなくとも有名人の懐妊、ゴシップに沸くメディア。戦う弁護士お義父さん。
 妻たちの休学、休業の傍ら、早く一人前になろうともがく京太郎。主夫を勧める咲と優希に卒業を優先するべきと案じる和。
 初孫に小躍りする四人の親。ゴタゴタながらも楽しい日々が続いていく。

「私は幸せだよ京ちゃん」

「「私たちも」」

「俺もだよ」

 成人式での禍も福へと転ずることもあるのかもしれない。

カンッ!






-オマケ-

界「孫は可愛いな」

愛「そうね、良いわよね」

照「…………」

界「そう言えば照には良い相手いないのか?」

愛「あなたも二十代半ば、お付き合いしている男性がいたら紹介しなさい」

照「…………」ギリッ

界愛「「はっはっは」」

照(裏切ったな咲ぃぃッ!)

 麻雀界に渾然と輝く一ツ星。
 紅い髪の大魔王。
 前人未到の領域へ、怒りと悲しみを背負いしアラサープロ雀士宮永照至る。


カンッ!