「ん……?」
それに気付いたのは、たまたまだ。
千里山のレギュラーメンバーが集まり楽しんだクリスマスパーティー。
その会場となった京太郎の部屋で他の人達がそれぞれ寝ている。
布団を抱き枕のようにして寝ている竜華、夢の中でもデータを取ってるか不敵な笑みを浮かべる浩子
更には更に、大の字で大きく寝ているセーラにその足で頭を蹴飛ばされている泉……一人足りなかった。
たまたま起きて、辺りを見渡しそれに気付いた京太郎。
トイレにでも立ったたかと思いつつも、己もまた台所へと喉を潤す為に移動する。
「あれ?」
台所へと移動して、そこでようやく気付き、暫くその人を見つめる。
微動だにせず空を見上げる最後の一人を京太郎は見つけた。
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「……」
「何かありましたか?」
「なーんも、クリスマスの夜だってのに雪すら降らんわ」
「ははは、今年は暖かいですからね」
真夜中のベランダに立っていた怜へと京太郎は声を掛けた。
掛けられた怜は、驚きもせず、空を見上げ続ける。
「これどうぞ」
「おー、ありがとな」
そんな彼女の隣に立ち、京太郎は先ほど作ったココアを怜へと渡す。
暖冬とはいえ、冬は冬。
しかも真夜中のベランダだ……思った以上に寒かった。
「美味いなー」
怜は嬉しそうにココアを口にし、それを京太郎は横目で見守る。
「それにしても、何で空を?」
「……んー、噛み締めてたんよ」
「噛み締めてた?」
「そそ、この日常をなー」
そう言って、からからと怜は笑う。
しかし、そんな笑いに京太郎は乗ることが出来なかった。
「ははは……うん、私な。体弱いし、学校も休みがちやった」
「病院から通うこと多かったですしね」
笑わない京太郎を見て、怜も察したのだろう。
笑いを引っ込め、ココアを飲みつつも、また空を見上げる。
「こうやって友達と大騒ぎして、普通の日常を送れることが嬉しくてなー」
「……」
「今日は特に特別や。だから……少しでも浸っていたいなとな」
「……はぁ」
「わっとっと?」
少々苦笑しつつも笑う怜。
そんな彼女を見て、聞いて、京太郎は力を抜くように溜息を吐く。
そして、そのまま扉を開けると怜を優しく引っ張り、床に座り込み後ろから抱きしめる。
どのぐらい居たのだろうか、抱きしめた怜の体は冷たかった。
「怜先輩にとって、日常が大事なのは知っています。けど……これで体を壊したら意味ないでしょう」
「……せやな。それにしても大胆やね。京くんも」
後ろから抱きしめてくる京太郎に怜は、にひひと楽しげに笑った。
「……反省してまーす」
「まったく」
からかっても真面目な表情を変えない京太郎に、怜は視線を逸らし謝罪する。
あまり反省の色のない怜に京太郎はまたもや溜息を吐いた。
「ぬくぬくや」
「先輩は、逆に冷たいです」
「はっはっは、気付いてなかったけど、結構外に居たからなー」
「……」
「……」
会話は、そこで途切れた。
互いに空を見上げ、吐いた息が白くなり消えていく。
熱い日常、それもこの息のように冷たくなり、いずれ消えていくのかと怜は思う。
もちろん口にはしない、すれば京太郎が怒るだろうと知っているからだ。
「……来年も集まりましょう」
「! ……無理やろ。私と竜華は大学……セーラはプロ入り、集まる時間なんて」
「あります。絶対あります。何があろうと、絶対集めますし、集まります」
そんな事をぼんやりと考えていれば、京太郎の腕に力が少しだけ篭り、そんな事を口にされた。
勿論、現実的に見れば集まることは難しいだろう。
しかし、京太郎は空を強い意志で見つめ、そのように言い切った。
「……そっか。続くんやね」
「ずっと、ずっと続きますよ」
「ははは……それは、ちょっと……やかましいかもな」
怜は、未来に思いを馳せる。
本当になるか分かりはしない、怜の力でも見えないほど遠い未来の話。
確証なんてない、あるわけない。
しかし、それでもその未来を考えるだけで心が暖かくなった。
「そうですね。きっと、やかましいですね」
「うん……うんっ!」
京太郎の同意に怜は、力強く頷いた。
「と……そろそろ寝ません?」
「駄目やー。もうちょっと、もうちょっとこのままでなー」
「えー……寒くなってきたんですけど」
「ええやん、クリスマスプレゼントの代わりや」
「はは……分かりました。それなら、満足するまで」
寝ようと提案すれば、怜が頬を膨らませて拗ねる。
それを見て京太郎は、楽しげに笑う。
確かな日常、これからも続く日常がそこにはあった。
カンッ!
セーラ「寒いわ、ボケ!」
京太郎「おふっ!?」
怜「あぁ、京くんが枕の餌食に! 私もやるー!」
竜華「へっくし」
泉「何か、頭痛いんですけど!?」
浩子「……流石に寝ません?」
その後、窓を開けっ放しでいたので起こったセーラを筆頭に枕投げ大会が始まったとか。
最後にカンッ!
最終更新:2017年06月03日 20:40