京太郎(ついに、明日はインターハイ女子団体決勝戦)

京太郎(みんなには頑張ってほしいな、うん)

京太郎(雑用にも力が入るってもんだ……オレにはこれしかできないからね)

京太郎「しっかし、もうこんな時間か。補導されたらシャレにならんし、早く戻ろう」

京太郎「と、そのまえにコンビニ寄ってこうかな」


ウィーン

店員「エアロスミスー」

京太郎「なんか飲み物でも買お……ん?」

 「…………」ペラ

京太郎(あそこで立ち読みしてる人、どっかで見覚えが……)

京太郎(いや、気のせいか。こんなところに知り合いなんていないし)


「ねえ、あの人って……」

「なになに、どうしたの?」

「テレビかなんかで見たことある気がするんだけど、わかんない?」

「うーん……あ、もしかして、アレじゃない? ほら、」

京太郎(ん? 有名人でもいたのか? さすが東京だな)

「名前ちょっと忘れたけど、インターハイチャンピオンの……」

京太郎「え」


京太郎「咲のお姉さん?」

照「えっ?」ピクッ

「ほら、やっぱりそうじゃない?」

「ホント? ちょっと声かけてみる?」

京太郎(深く帽子かぶってるからわかりづらいけど、そうだ。宮永照だ)

照(バレた。でも、いま『咲』って……?)


「あのーすいません、もしかしてインハイチャンピオンの……」

照「え、えっと……ち、ちが、人違いです……」

照(ここで騒がれたり、SNSなんかに書かれたりしたら面倒。菫にも怒られる……)

照(というか、名前もよく知らないのに話かけてこないでほしい……)


チャリーン チャリーン

照「!?」

京太郎「おっと、小銭がー」

チャリーン チャリーン

京太郎「うわわー」

「あらら」

「大丈夫ですか?」

京太郎「ああ、すいません。どうも……」


「あれ、チャンピオンは?」

「どっか行っちゃった……ま、いっか。人違いっぽかったし」


―――――――――
――――――
―――


京太郎「ふぅ……けっこう恥ずかしかったな」

京太郎「結局なにも買わずに出てきちゃったし」

京太郎「でも、あそこで絡まれてトラブったりしたら大変だもんな」

京太郎「明日の試合に影響出ちゃ不味いし」


照「あの……」

京太郎「うおっ!?」ビクッ


照「あ、ごめんなさい」

京太郎「いえ、大丈夫です……なにかご用ですか?」

照「さっきは助けていただいて、ありがとうございました」ペッコリン

京太郎「そんな、オレはべつに……」


照「それと、聞きたい事があります」

京太郎「?」



ピッ ガゴン

照「はい、お茶でいい?」

京太郎「ありがとうございます」

照「キミ、清澄高校の生徒なんだ」

京太郎「はい」

照「1年……年下だったんだ」

京太郎「見えませんか?」

照「同世代の男子となんて話さないから……よくわからない」

京太郎「ああ、白糸台って女子校でしたっけ」

照「そう」

京太郎「そっかぁ」

照「うん」

京太郎「…………」

照「…………」


京太郎「テレビや雑誌で見るより、けっこう印象違いますね」

照「あれは営業用」

京太郎「へえ、有名人も大変ですね」

照「うん」

京太郎「…………」

照「…………」

京太郎(つ、続かねぇ……)


京太郎「それで、聞きたいことって?」

照「それは、あの……」

京太郎「もしかして、咲のことですか?」

照「…………」コクン


京太郎「あいつは、お姉さんと仲直りするために頑張ってますよ」

照「うん。でも……」

照「咲、麻雀にいい思いしてないはずなのに、どうして……」

京太郎「それは、オレが誘ったんです。麻雀部に」

照「そうなの?」

京太郎「ウチの麻雀部人数すくないんで、メンツ揃わない時もあってそれで」

照「咲から入部してきたんじゃないんだ」

京太郎「最初は、あんまり乗り気じゃなかったです」


照「やっぱり……」

京太郎「なんか、色々とあったみたいですね」

照「私のせい……咲が麻雀キライになったのは」

京太郎「家族麻雀で、お年玉賭けてたんでしたっけ? そりゃあギスギスしちゃいますよ」

照「でも、結局は私のワガママのせい」

京太郎「そんなに自分を責めなくても……」


照「私は、姉だから」

京太郎「それはいわゆる『お姉ちゃんなんだからしっかりしないと』的な?」

照「うん。でも私は、良い姉にはなれなかった。最初からそうじゃなかった」

京太郎「最初からって?」


照「さっき、キミは私に印象が違うって言った」

照「それは正しい。今の、この暗い性格が私の本質」

照「でも、妹の前では『いいお姉ちゃん』を振る舞ってた」

照「物心がついた頃には、すでにそうだったと思う」

京太郎「いまは違うんですか? それはどうして……」

照「咲の麻雀が強くなるにつれて、だんだん取り繕う余裕がなくなっていった」

京太郎「下の妹が自分より上に行って、焦っちゃったんですね」

照「いま思えば、ちゃんと認めてあげればよかったんだ。強くなったね、偉いねって……」

京太郎「なかなか素直にはなれないものですよ。子供の時なんてなおさら」


照「それでもなんとか、良い姉でいようとしたけど」

照「上手いやり方なんて知らなくて、咲にキツく当たるだけしかできなくて」

照「そして、わざとプラマイゼロされてると知った時……私は限界だった」

京太郎「あー……」


照「そこに東京行きが重なって、ずっと咲とは疎遠なまま……」

京太郎「でも一度、咲が会いに行ったって言ってましたけど」

照「私なんかに、そこまでしてもらう権利なんてない」

京太郎「えっ」


照「咲が麻雀キライになったのも、プラマイゼロなんて打ち方を覚えてしまったのも、全て私のせい」

照「なのに咲は、わざわざ東京に一人で来てくれた」

照「しかも悪いのは自分だと思ってる。きっと、私が何を言っても自分を責めてしまう」

照「そうなった原因は私なのに……」


京太郎「そこで、なにか話さなかったんですか?」

照「…………」フルフル

京太郎「じゃあ……今なら話せますか?」

照「無理」

照「いまさら、どんな顔して会えばいいかわからない」

照「なんて言ったらいいのかも……」

京太郎「そっか……咲と同じですね」

照「咲と?」


京太郎「あいつも、人と喋ったりするのは苦手なんです」

照「うん。知ってる」

京太郎「だけど、どうしてもお姉さんに伝えたい事があるんです」

照「うん……知ってる」

京太郎「それであいつは、自分の得意なことでお姉さんと話そうとしています」

照「それが、麻雀? だから咲はインターハイに……?」


京太郎「さて、そろそろ戻りましょう。これ以上は明日に響きますよ」

照「あ……ごめん。こんな時間まで付き合ってもらって」

京太郎「いえ、お話できて楽しかったです」

照「私も、いろいろ話せてスッキリした。ありがとう」


京太郎「途中まで送りますよ。またファンに囲まれたら大変でしょう?」

照「そうだね。お言葉に甘えようかな」


―――――――――
――――――
―――


照「ここまででいい」

京太郎「それじゃあ、おやすみなさい。明日は頑張ってくださいね。もちろん負ける気は無いですけど」

照「それはこっちもだよ。今日はありがとう。おやすみなさい」

照「ふぅ……」

照(男の子とこんなにたくさん喋ったのって、なにげに初めてな気がする)

照(それも、夜遅くに2人きりで。一緒にお茶を飲んだりもして……あれ?)

照(……これって、もしかして)


菫「照、まだ起きてたのか」

照「菫こそ」

菫「その格好……外出してたのか。こんな時間に出歩くものじゃない、明日は決勝戦だぞ」

照「ごめん」

菫「どこ行ってたんだ、またお菓子か?」


照「ちょっとデートしてきた」

菫「……はぁ?」


菫「デ……な、なに言ってるんだ?」

照「男の子とお喋りしたりお茶飲んだりしてた。これってデートでしょ?」

菫「え、あ、あぁ……そう、だな?」

照「じゃあ私、シャワー浴びて寝るから。菫も早く寝なよ」

菫「あ、ああ……」


菫「……え?」


菫「ええええええええっ!?」



インターハイ終了後


和「お姉さんと仲直りできてよかったですね、咲さん」

咲「うん!」

淡「よかったねテルー!」

照「うん。心配かけてごめんね」

京太郎「何はともあれ一件落着。すべて世は事も無し」


照「あ、須賀君」

咲「え? お姉ちゃん、京ちゃんと知り合いなの?」

照「うん。ちょっとね」

菫「ま、まさか……」


菫「そいつが、このあいだのデートの相手なのか!?」

咲「え……」


優希「ど、どういうことだじぇ? 京太郎と咲ちゃんのお姉ちゃんが、デ、デート!?」

京太郎「いやそれは……」

照「違うの?」

京太郎「うーん。言われてみれば、そういう風にもとれるかな?」

咲「ふぅん……」ジト

和「さ、咲さん?」

久「やれやれ、仲直りはもうすこし時間がかかりそうね」


カン