高校を卒業して私はプロの道へと進んだ
数多くのタイトルを獲得し私は麻雀界で不動の地位を得た。
しかし、その代償なのか私は今も一人だった。
別に友達がいない訳ではない、今までも和ちゃんや優希ちゃんとも連絡を取り合っている。
だが、彼女たちはもう結婚しそれぞれ子供もいる。
女性プロ麻雀は婚期を逃す…噂だと思っていたがまさか自分が当てはまるとは思いもよらなかった。

しかし、私にも想い人はいる。
京ちゃんは今何しているんだろう?
高校を卒業して京ちゃんは大学に進んだ。
卒業した最初の頃は連絡を取り合っていたがプロの仕事が忙しくなり連絡を取ることが少なくなってた
最後に会ったのは…いつだったろうか?
彼に会えないのに反して日に日に想いが強くなっていく・・・。

そんなある日、マネージャーがある企画の話を持ってきた。
生放送で私がかつて高校女子麻雀界を騒がせた人たちと対局するというものだった。
乗る気ではないがこれも仕事だと思い渋々承諾した。

対局当日…私は少し後悔していた。
今日対局する人は全員が結婚しているそうだ。番組の悪意を感じてしまうのは何故だろうか。
憂鬱な気持ちでいるその時であった

「咲ー!」

自分を呼ぶ声が聞こえた。振り向くとそこに金髪の綺麗な大人の女性がいた。
なんと言えばいいのだろう…幸せを感じ取れるというか…幸せがその人を綺麗にしたという人だった
どちら様?と言ってしまった。自分にこんな綺麗な女性の知り合いがいただろうか。

「もう元高校100年生を忘れたの?」
「あ、淡ちゃん?!」

私は驚きを隠せなかった。彼女が口にしていた言葉を聞くまで思いも付かなかったのだ。
本当に変わり過ぎてる。勿論良い意味でだ。
正直高校の時に比べてかなり印象が変わったのだ。
落ち着きを得た大人の女性になった。雰囲気から優しさと幸せが溢れてる感じだった。

思い出せば彼女が高校卒業後プロには行かずに大学進学すると聞いた時は周りが驚いた。
その後麻雀界では大星淡の名を聞くことはなかった。
そんな彼女が目の前にいることに私はまだ驚いたままだった。


どうしてここにいるの?と聞くと今日の番組に呼ばれたからだという。
あれ?今日対局する人は全員結婚してるんだよね?そうなると…

「ママー!」
小さな女の子が淡に抱き着いた。
「その子は?」
「私ね、今この娘の母親なの」

何度目の驚きだろうか、かつて自分と同じ麻雀界を騒がせた一人が母親になっていた。
驚きというよりも何かショックなものを感じた。
その時だった
「おーい!」
「あ、パパだ!」
男の人の声が淡ちゃんの娘の名前を呼ぶ声が聞こえる。
なんだろう、どこか懐かしい声が聴ける…。

そこにいたのは・・・。


「き、京ちゃん・・・?」
「お、咲!久し振りだな!」

そこにいたのは幼馴染の…ずっと想っていた須賀京太郎だった
嬉しさの気持ちが高まった。やっと会えた、ずっと会いたかった京ちゃんに!
近づいてくる京ちゃん。久し振りの再開に嬉しさに胸のドキドキが止まらない。
「京ちゃ」
…あれ?あの子、京ちゃんのことパパって言った。それで淡ちゃんのことをママって…

「こら、いくらママに会いたいからって急に走り出したら危ないだろう」
「ごめんなさい…」
「良いの、ママに会いたかったんだもね」

京ちゃんはその子と…淡ちゃんの隣にいた
「え?あれ?え?」
頭の中がパンクしそうだった。
あの子は京ちゃんのことをパパと言った。
あの子は淡ちゃんのことをママと言った。
そして、京ちゃんは二人の所に真っ直ぐ向かった。
導かれる答えは分かり切っていた。

「ふ、二人とも…もしかして…?」
聞いてはイケないと胸が信号を送るが口に出てしまった。

「ああ、俺たち結婚したんだ」
「今は須賀淡だよ」


何かにヒビが入る音がした。

二人は高校卒業後同じ大学に入ったこと。大学に入り少しして付き合いだしたこと。
大学卒業後結婚したこと。その後この娘が産まれたこと。淡が専業主婦として頑張っていること。

色々な話を聞いたが何一つ頭の中に入ってこなかった。
アナウンスがなった。

「じゃあな、咲」
話したいことが一杯あるのに何を言えばいいか解らない。

「ママ、頑張ってね!」
「うん、ママ勝つからね」
「応援してるからな、淡」
「ありがとう、あなた」
幸せそうな・・・いや、幸せな家庭を見て言うことを止めてしてしまった

二人は応援席へと去っていく
ふぅーと深呼吸をし淡は振り向いた。
「負けないからね、咲!」
その表情は何の曇りもなく娘や夫の応援に応えようという母として妻としての顔だった

マネージャーが呼びに来るまで私はポツンと一人で座ったままだった。
負けないからね…?なんで勝とうとするの?淡ちゃん、今物凄く幸せそうじゃない?
京ちゃんと結婚して子供も居て…他に何を望むの?

私の隣には誰もいない…。あんな風に応援してくれる人がいない。
私には麻雀しかないんだ…。そう、麻雀しか残ってない私に…なんでかとうとする・・・?

ははははっ、ここまで負けるもんかって思うのは初めてかな・・・
負けない…!絶対に・・・!
何か外れた咲。その姿を見て呼びに来たマネージャーは震えた。
そして、後悔するすることになる。この仕事を引き受けるべきではなかったと…。

試合は終わった。
圧倒的点差による咲の圧勝によって…。
会場は静まり返っていた。あまりの宮永咲プロの圧倒的な力に誰もが驚愕した。
咲は京太郎を探していた。
色々と話がしたい。今まで頑張ったこととかあったことを沢山。
勝利によってどこかスッキリした咲は足早に京太郎を探した。
角を曲がったところに京太郎はいた。

「きょ・・・」
言葉が出なかった。


「ごめんね…二人が応援してくれたのに勝てなかった…ごめんね…」
「いいさ、淡は頑張ったんだろう?だからもう泣くな…」
「ママ泣かないで!」
泣く淡を優しく抱きしめて宥める京太郎と母に寄り添う子供の姿だった

咲は気付いた。
京ちゃんはもう自分を見てくれない…。もう守るべき存在が別に出来ていたことを…
そして、あの対局がただの八つ当たりでしかないことを…。

様々な後悔が咲の中に浮かび上がってくる。
どうしてもっと京ちゃんと連絡を取らなかったんだろ?
どうして積極的に京ちゃんに会いに行こうとしなかったんだろう?
どうして京ちゃんと同じ大学に行かなかったんだろう?
どうして京ちゃんは私のことを思ってくれているって思ったんだろう?

そしてなによりどうして自分の気持ちを伝えなかったんだろう・・・

それに気付いた時咲は淡を見た。

そうか、淡ちゃんは自分の気持ちをちゃんと京ちゃんに伝えたから今の幸せを手に入れたんだ。
伝えなかっただけの自分が淡ちゃんを恨むとか時点で私は最低なんだね…。

咲は静かにその場を去った。去り際に「ごめんなさい」と呟いて…

その後咲はプロとして活躍し続けた。
色々と周りの目もあったが支えてくれる人達もいた。

その中に淡の存在もあった。
あれからもう一度会う機会があり、あの時のことを謝った。
淡は冗談交じりであの時の咲は怖かったといったがすぐに微笑みこういった
「咲も色々大変だろうけどさ、困ったときは相談してね
 私も京太郎も咲の味方だから!」
その言葉に咲は泣き崩れた。そして、何度もありがとうと言い続けた。

それから数年アラサーになりかけていた咲は純白のウエディングドレスを着ていた。
相手はあれからも支え続けてくれたマネージャーだった。
咲は自分の思いをしっかり伝えた。もう後悔しないために…。

結婚式の時呼んだ友人たちの中に須賀家族もいた。
夫婦は咲の結婚を心から祝福した。
「咲、綺麗だね!」
「本当、おめでとな」
「ありがとう、淡ちゃん京ちゃん」


カン!