私には好きな人がいる。
 だけど、そいつにも好きな子がいた。しかも、その女の子は私の友達だった。
 友人の中で最も可愛く、胸だって大きくて、料理もできれば性格も良い。女としての魅力において私は何一つ取っても勝てやしない。彼が好きになってしまうのも頷けた。

「諦められないの」

 一つの転機が訪れたのは中学校の進学先だった。
 彼女は阿知賀女子中等部へ、私とあいつは阿太峰中学校へと進んだのだ。学校を隔てるということは、一つの繋がり、コミュニティから離れることを意味している。
 私はこれをチャンスだと思った。

「分かってる、醜いって自分でも思う」

 努力した。
 彼を振り向かせようと女を磨き、髪型、服装、以前までの男の子っぽい態度から女の子らしくなろうと必死だった。
 そんな私の行動を嘲笑うかのように、あの子は美しく成長し、よりあいつの心を虜にしていく。
 本人たちは気づいていなかったけれど、互いの距離が少しずつ縮んでいくのが私には見えていた。

「狡いのよ」

 私の誘いを断ったのにあいつはあの子と二人で夏祭りに出掛けたのだ。私はそれを会場で目撃し、尾行した。
 空に打ち上がる花火、寄り添い会う二つの影、京太郎の告白と和の了承。

 あんまりじゃない。
 私は泣いた、世界を呪った。

「神様は私のことも見てくれていた」

 想いを通じあった二人の破局。
 お互いに相手が大好きなのにすれ違う。親の転勤に伴う転校が順風満帆な交際を許さない。
 所詮、子供の恋愛は環境に左右されて揺らいでしまうほど不安定なものだった。

「遠距離恋愛が出来る程、大人でもなく、愛も未成熟」

 二人が別れた。
 京太郎と和が別れたと知った。
 狂喜乱舞し、傍目からは狂ったと思われかねない程に私は笑い咽び泣いた。

「傷心の京太郎に付け込んだわ」

 どんなに慰めの言葉を掛けても、あいつは振り向いてくれなかった。私との距離は縮んでいるのに、彼は一途にも和への想いを捨てきれない。
 憎らしい、羨ましい、嫉妬せずにはいられない。

「真っ当な方法じゃあ、絶対に勝てないと理解したの」

 私は京太郎を手に入れるために、彼を罠に嵌めた。罪をでっち上げ、それを盾に脅迫した。

『憧、お前、どういうつもりだ?』

『あは、分からない? まあ、そうよねあんたは鈍いもん。私の気持ちにも気づかないし、振り向いてくれない酷い男』

 優しくて格好良い私の最愛。

『……俺は和が好きだ』

『知ってるわよ! だから、こんな手を使っているんじゃないッ!』

 外道に落ちても欲しかった。
 心は手に入らなくても、身体だけでも私のものにしたかった。

『ねえ、京太郎。ゲームをしましょう』

『ゲームだと?』

『私とあなたは交際を始めるの。期限は和と再会する時までで良いわ。その間に私があなたを振り向かせられたなら私の勝ち』

 下劣な手段を用いなければ私は彼の真摯な想いに割り込むことも出来ない。

『私が負けたら、強請のネタを渡すわ。それに私が京太郎を脅して付き合っていたんだって周りに説明する。勿論、あんたの愛しい和にもね』

『…………断るって言ったら?』

『身の破滅よ♪ 追い討ちで私は京太郎に酷いことをされたって遺書に書いて自殺もするから社会的に死亡確定ね♪』

『クソッタレが……』

 そうやって私と京太郎の賭けは始まった。

「世の中、思い通りにはいかない」

 私と京太郎は表向きは普通に付き合い始めた。
 しずや玄にはあまり良い顔されなかったけれど、大きな問題は何もなかった。
 予想外というものは必ずある。

「あの堅物の和と京太郎が既に一線を越えていたなんて計算外だった」

 別れなくてはいけないから、最後の思い出に初めてを捧げるとか、本当にムカツク。
 京太郎の童貞を盗られた。
 ファーストキスも、初めてのデートも、私の方が先に京太郎と出会ったのに、好きになったのも私の方が早かったのに、全部奪われた。

「上書きしてしまいたい」

 和との思い出よりも、私との行為。
 和よりも濃密で、激しく、淫らに、気持ち良く、狂いそうな程に愛しいから。

「絶対に私の方が京太郎を気持ち良くさせてあげられる。運動が苦手、元々病弱だったあの子には出来ないようなことだってしてあげる」

 だから、私を好きになって。
 可愛くなったよね。
 胸だって大きくなったのよ。
 勉強も、料理も、ファッションも、頑張ってるの。
 お願いだから----

「どうして、どうしてよ。何で京太郎は私を好きになってくれなかったの?」

 私の慟哭に親友は涙を流しながらも応えてくれた。

「憧は間違ってる」

 その瞳は私の罪を真っ正面から射ぬいてくる。

「憧は方法を間違えた」

「それじゃあ、私はどうすれば良かったって言うのよ、しず!?」

「卑怯な真似なんかしないで正面からぶつかるべきだった。そうすれば、何時か京太郎に憧の想いはきっと届いたよ」

 お前に何が分かる。
 山を駆け回り、馬鹿みたいに立ち回り、突拍子もないことを言い出したり、あんたに私の何が分かるの。

「あんたに、あんたになんか「分かるよ」……!?」

「私も京太郎のことが好きだったんだよ。ずっと見てた。和と別れて沈んでいた京太郎を立ち直らせたのは憧だ。京太郎には自覚はなかったかもしれないけれど、少しずつ憧に惹かれていたんだ」

「…………」

「だからこそ、私は憧が間違ったって指摘出来る」

「私は……私は……うわぁぁああああああ!」

 私は泣いた。
 親友にすがり付くように涙を零した。振りほどくことなく、しずは私を抱き締めてくれた。
 彼と彼女には一生許されないのかもしれない。それは死ぬよりも辛く、苦しいけれど自業自得な結末だ。
 それでも何時か、許されることを願って私は生きる。


カンッ!