京太郎「ごほっごほっ……!あー、喉いてー」

うぅ……このクソ熱い時期に風邪をひいちまうなんて、我ながら体調管理がなってないよなぁ
しかも部活中に体調崩した姿見せちまって、皆に相当心配かけた……
部長が珍しく焦ってたし、染谷先輩も神妙な表情でウチに連絡してくれた
早退することに決まった時は、咲も優希も一緒について看病するって騒いでたなぁ
……ただ、一人だけブレないお方がいらっしゃったけども

和『何をボサッとしてるんですか、他の誰かにうつしたりする前に早々に帰ってください。そして咲さんに優希も、落ち着いて卓に戻りましょう』

そう、和はあくまで部活や他の部員を優先で動いた
けどこれは仕方ないと思う、俺だって自分の風邪で誰かに迷惑かけたくはないし……それに和の麻雀とこの部活自体に対する思い入れは部長に負けないぐらい強いって知ってるし
……ちょっと言い方が突き放した感じだったのは悲しいけど、こんな事くらいじゃ泣かないぞ

京太郎「……まぁでも……女々しいかもしんないけど……寂しいなぁ……」

自室で一人、無駄にでかいベッドに横になってるとそんな感想もでちまう
とっくに両親に甘える時期なんて過ぎてるし、そんな恥ずかしい真似死んでもやりたくない
男の意地って奴だが、それとは逆に誰かにすがりたい(須賀だけに)って気持ちもあるんだ
ままならねぇな、男って奴は……
そんな変な悟りに入ってる所に、ノックの音が転がった

京太郎「誰にも会えない顔なのに、もうなんだよ?どちらさま?」

和「……BUMP OF CHICKENとは図々しいですね、失礼します」

京太郎「えっ」

驚く俺をよそに扉があっさり開かれて(鍵なんぞかけてないから当然だが)、現れたのはラフメイカー……じゃなくて意外にも和だった

京太郎「の、和……なんで?」

和「来てはいけなかったんですか?」

京太郎「い、いやいやいや!そんな事なーーーー」

和「黙ってください」

京太郎「アッハイ」

真顔で鋭い一言を浴びせられ、俺はすごすごと従った(情けない)
すると和は淡々自分が持ってきた荷物をまさぐりだす、一体なんだってんだろう?
そして出てきたのは冷えピタとか体温計とか諸々風邪の時必要な物品たち

和「……なんですか、その表情は」

京太郎「えっと……自惚れじゃなかったら……看病に、来てくれたってことなのか?」

和「そうですよ、不服ですか?」

京太郎「滅相もない!感謝感激雨アラレーーーー」

和「黙ってください」

京太郎「アッハイ」

嬉しい!あの和が俺の看病をしに来てくれたなんて!
そりゃ態度はブレないけど、そこはかとなく部室で会う時より空気柔らかい気がするし、僕満足!

……でもなぁ……

京太郎「……あの、さ……」

和「なんです?」

京太郎「なんで、看病に?風邪うつさないために早退したってのに、これだと和にうつす可能性だって……」

和「……咲さんと優希、あと部長もですかね。須賀君が帰ってから妙に落ちつきがない様子でした」

京太郎「あ、ああ……」

和「それから帰りに考えた末に真に遺憾ですが、須賀君がいないと部活全体のコンディションに影響が出ると結論づけました」

……つまり万が一風邪で俺がしばらく抜けたまんまだったら、部活に支障が出るから手伝ってやるのでさっさと治しやがれと言う事か?
筋は通ってるか……ちくしょう、ついに和がデレたって期待してたのに!ガッデム!
ま、まぁいいか……好意持ってる美少女に看病してもらえるなんておいしいイベントが起こったんだ、これ以上を望むなんてそれこそ図々しいな!

京太郎「そっかぁ、そりゃごめんな……皆の為にもすぐ治して、ちゃんと復帰しないとな」

和「……」

京太郎「……あれ、和?」

和「……なんでもありません、さっさと横になってください」

京太郎「えっ、お、おう」

俺が謝ったとたん一瞬フリーズした様に見えた和
しかしすぐいつもの空気に戻り俺の額に冷えピタを貼り付けると、荷物をあさるためそっぽを向いてしまった
なんだってんだ?

和「……食欲は、ありますか?」

京太郎「ん?あー、実は帰ってからなんも食べてないから結構空きっ腹かも」

和「そうですか、なら無駄にならずに済みそうですね」

そう言って和が取り出したのはタッパ、蓋を開けると中には美味しそうな玉子がゆが入っていた
思わず唾を飲み込む、昔は母親の料理が世界一なんて思ってたけど……今この瞬間は目の前の料理が最高のごちそうに見える
それは腹が減ってるからってだけじゃなくて、言わずもがな和が(部活の為とは言え)俺に作ってくれた料理だからだ

京太郎「……月並みの感想にしか聞こえんかもしれんけど、マジうまそう……いや絶対うまい」

和「……感想は求めてませんけど、まぁどうぞ」

俺の語彙力のなさに呆れたのか、ため息を吐きつつもスプーンをかゆに滑り込ませてくれる和
いよいよ和のかゆが俺の手に……と思ったら、そうはならなかった
なんと和は滑り込ませたスプーンでそのままかゆを掬い、俺の口元まで持ってきたのだ

京太郎「……和?」

和「はい?」

京太郎「い、良いのか?」

和「どうぞ、手が疲れますから早くしてください」

京太郎「す、すまん?」

まさかのアーンだと!?
どういう事だ、こんなデリケートな事をこなすなんてもしかしてガチでデレたのか!?
……なーんてな!ああ見えて和は結構純粋な所があるのは知ってる
だからおそらく昔自分の看病してくれた母親のやり方を参考にしてるだけに過ぎず、他意などない!これだな!
危うく空気に飲まれる所だったが、俺は油断などしない!
ただこの絶好のチャンスを逃すのは男じゃない、俺は躊躇わず和のアーンを味わった

……そして、その味は!

京太郎「う、うめぇ……!うめぇよ……こんなかゆ、食ったことねぇ……!」

和「…………大げさじゃありませんか?」

京太郎「そんな事ねぇよ……今、俺最高に幸せだよ……!」

和「…………そうですか」

感動に打ち震える俺を哀れで見てられないからか、俯いて淡々とスプーンを運んでくる和
そうだよなぁ、情けねぇよな……でも本当にうめぇんだ!
もう何も怖くない!

~十数分後~

京太郎「……うぅん……」

和「……眠たいんですか?」

京太郎「ん、ああ……腹満たしたからかなぁ……?」

和「そうですか、では早く寝てください。須賀君が寝たのを確認してから帰りますので」

幸せなアーンタイムから、睡魔の襲撃
無論、かゆで腹が満たされたのも原因だとは思うが……一番は和のおかげで寂しい気持ちがなくなり安心できたからだろう
しかし悲しいかな、眠ってしまうと和とさよならバイバイして夢に旅立たなきゃいけない
ほんとにこの世はままならないぜ

京太郎「分かった……和……」

和「なんでしょう?」

京太郎「ありがとな……実は俺こう見えて一人で不安だったんだ……だから、和が来てくれた時……スッゲー嬉しかった」

和「……」

京太郎「例え、それが部活の為だったとしても……俺は幸せ、だったよ……」

和「ーーーーそう、ですか……」

どんどん眠気が強くなり、意識が微睡んでいく
でも感謝を出来る限り伝えたいから頑張る

京太郎「だから、さ……俺、お前への恩に、報いれるよう頑張る……」

和「……はい」

京太郎「これ、から部活……色々大、変だろうけど……皆、一丸になれ、るようにさ……」

和「……はい」

うぅん……流石に限、界……さ、最後に力を……振絞れ俺……!

京太郎「……和、と……一緒に……いたいか、ら……!」

和「ーーーーッ!」

あ、もう無理

……私はダメな女です
出来る限り早く皆を遠ざけたのは、看病にかこつけて貴方を独り占めしたいから……なんて恥ずかしい事言えないからどんどん嘘で塗り固めていく
そもそも普段からも素直に彼への好意を表せないから、つい冷たく突き放した言動ばかりとってしまいますし
なのに……そんな私に優しく笑いかけてくれる須賀君

和「……寝たん、ですか?」

京太郎「……スゥ……スゥ……」

寝息を立てる彼がとても愛しい
本当なら眠たくて、辛くて、早く寝たかったでしょうに……私に感謝を伝えようと必死に頑張ってくれた
……須賀君は幸せって言ってましたけど、私の方こそずっと幸せでしたよ
私が来た時半信半疑でも喜んでくれた、手料理を美味しいと言ってくれた
そして……私と一緒にいたいと、言ってくれた

和「……私も、ですよ。須賀君と一緒にいたいって、思ってます」

普段からこれくらい素直になれれば良いのにって、本気で思います
そうなれば、その……両想いに、なれるんでしょうか?

和「本当にこの世はままなりませんね」

ゆっくりと眠る彼へと歩みより、ベッドへ腰かける
汗で濡れた頬をタオルで拭うと、ゆっくりと顔を近づける

和「……大好きですよ、須賀君」

決して彼が起きないように……そっと囁くような告白と共に、愛しい頬に口づけた

カンッ!