季節外れのインフルエンザ、私の身体はバタンキュー、頭痛が痛い状態だったんだじぇ。
 お陰様で一週間も学校を休むことになって、マミーはタコスを食べさせてくれないし最悪だった。

「だけど、優希ちゃんは大復活! ってわけで快気記念にタコスを奢らしてやるじょ、犬」

「強請かよ! まあ、良いけどさ」

「優希、あんまり須賀くんに迷惑をかけちゃいけませんよ」

「のどちゃんがそう言うなら、多少は勘弁してやるか」

 私はどことなく違和感を感じていた。
 何がと聞かれても困るのだけれど、先週までとは雰囲気が少し違うようなそんな気がした。

「さてと、タコスついでに何か必要なものがあったら買ってきますけどリクエストありますか?」

「そこにあるリストの買ってきてね」

 部長は相変わらず、京太郎を使いっぱしりにしている。染谷先輩は苦笑を浮かべつつ一歩引いている。
 咲ちゃんは京太郎にくっつく私をちょっと不満気に見ていて、のどちゃんは私が度を過ぎないように嗜める。
 普段と変わらないはずなのに、何に違和を覚えたのだろうか。久しぶりともあって私の感覚がおかしいのかもしれない。

 学食でタコスが売られているから私は清澄に決めたんだ。

「ああ、タコス旨いじぇ」

「そりゃ良かったな」

「京太郎の作ってくれるのも恋しいな」

「へいへい、また作ってやるよ」

 一週間振りに食べるタコス、同じく一週間振りに行う京太郎とのやり取り、どちらも私を幸せな気分にしてくれる。
 やっぱり、私は京太郎のことが好きなのだと改めて実感した。
 だからこそ、気づいた。好きな相手のことだから分かることもある。

「なあ、京太郎」

「ん?」

「お前、何か悩んでいるんじゃないのか? 上の空というか、心ここにあらずって感じがするんだけど……」

 私に見透かされるとは思ってもいなかったのか、ギョッとした顔をした。そして、取り澄ますような態度を取った。

「気のせいだ」

 そんなはずがない。
 心配しているのに、悩んでいることを察したのに、それを打ち明けてくれないことに苛つきと深い悲しみを感じてしまった。
 頼りにならない、信用していない。そんな風に私は思われているのかもしれないと考えてしまったから。

「何だ、私の気のせいか。全く心配して損したじぇ、罰として犬はもっと私にタコスを貢ぐんだじょ!」

 明確に拒絶されることが怖くて、踏み込めないチキンな私に失望する。だから、京太郎は私を頼ってくれないのかもしれない。
 日常通り、売り言葉に買い言葉、誤魔化すように私たちは競演する。

 今日も一日が終わる。

「さあ、部活の時間は終了よ。あなたたちも今の対局が終わったら帰ってね。それじゃあ、お先に」

 部長はそう告げて帰っていった。
 染谷先輩は家の手伝いがあるから既に帰宅済みだ。

「畜生、また最下位か」

「ふはは、犬がご主人様に勝とうなんて百年早いじょ! それじゃあ、負けた罰で後片付けヨロシクな。のどちゃん、咲ちゃん帰ろうじぇ」

「うん、それじゃあまたね京ちゃん」

「すみません、私はちょっと用事があるので優希とは一緒に帰れません」

 残念ではあるけれど、そう言われては仕方がない。私と咲ちゃんの二人だけが揃って下校の途についたのだ。
 夏が過ぎて秋深まり、日が沈むのが早くなったと思う。一週間も自宅に引き込もっていたから余計にそう感じるのかもしれない。

「ほう、この一週間でそんなことがあったのか」

「うん、そうだよ」

「それにしても、明日抜き打ちで数学の小テストがあるって本当か?」

「私たちの組ではあったからね。優希ちゃんのクラスでも間違いなくあると思うよ」

 休み明け早々にテストなんて勘弁して欲しい。そう思いつつ、どんな感じの問題だったのか私は咲ちゃんから聞き出していた。

「て、提出物!?」

「そうだよ、貰ってないの?」

 思い出してみれば、確かにそんなものを受け取り、仕上げようとした記憶がある。それをどうしたのだったか、そう、部室でやろうと鞄から出して--

「ヤバイじぇ! 机に置きっぱにしてるじょ、咲ちゃんごめん咲に帰ってって!」

「えっ、あっ、待ってよ優希ちゃ……」

 咲ちゃんが何かを言っていた気がしたが、私は気にすることなく大慌てで駆けていった。
 色々忘れたりするなんて病み上がりで本調子じゃないのだと言い訳しながら道を急いだ。

 麻雀部のある旧校舎は古い。
 少し暗い中を一人で歩いていると不気味に思えてくる。のどちゃんなら泣いちゃうかもしれないなと思いながら、最上階の部室へと歩を進めた。

「ん?」

 部屋の近くまで辿り着いたとき、おかしなことに気づいた。部室の中は真っ暗なのに、音がしているのだ。
 京太郎やのどちゃんが明かりのない中にいるとは思えない。
 だから、押し殺したような、苦しんでいるような、それは不気味なものであり、背中にゾクリとした恐怖が這いずり回る。

(お、オバケ? そ、そんなはずがないじょ、SOA、SOAだじぇ)

 旧校舎というシチュエーションが恐怖を増長させる。それでも、中にあるものが私には必要であり、なけなしの勇気を集めて心を奮い立たせた。
 そして、おそるおそる扉に隙間を作り、中を確認した。

(なっ!?)

 反射的に声が漏れそうになり、私は慌てて口を押さえた。沸き起こる衝動を呑み込み、食い入るように覗き見る。

(京太郎、のどちゃん……)

 部室に備えられたベッドの上で裸体を晒し、親友が想い人の上で踊っている。
 あの真面目な彼女が淫らに腰を振り、嬌声を漏らしているのだ。信じられなかった。

 私の胸に去来する感情は複雑だ。
 相反し、二律背反する想いが幾つも弾ける。だから、私は動くことができず、二人の行為をただただ見続ける。

(京太郎、京太郎、京太郎ぉ……ぁんっ……んぁぅ)

 背徳的な夢で見ているような現実感のなさに私の中の理性が壊れ、本能が疼く。
 自然と濡れてしまった秘所に手を伸ばし、たまにしていたように自然と指が動き出す。
 身体の火照りを指で慰めながら、心は渇き濁り汚れていく。目の前の情景にのめり込み過ぎて私は気づかなかった。

「ああ、知っちゃったんだね、優希ちゃん」

 突然聞こえた真後ろからの声、不意打ちに体が硬直する。

「う~ん、色んなタイプの子がいた方が京ちゃんも喜んでくれるかな?」

 その音色はおぞましく、その瞳は品定めするように私を計っていた。恐怖で心が冷えていき、熱に浮かされ見えていなかったものが見えてしまう。
 蕩けたのどちゃんの下にいる京太郎の顔は、快楽を感じていながらも堪えるような苦悶の相を浮かべていた。
 ああ、あいつの悩みはこれだったのだと直感する。そして、元凶は目の前の友達だと勘が告げていた。

「ねえ、優希ちゃん--」

 濁りきった目をした咲ちゃんの驚くべき提案を受け、私は愚かな選択を選んでしまった。
 ああ、ほの暗い欲望の熱が私を侵し病む--


カンッ!