酒には魔性が宿る。
 古より人を魅了し、呑み込んできた。
 修羅の国、咎州、朝廷に従わぬ隼人が居たという鹿児島の地で酒と言えば芋である。

「器が空ですね、どうぞ京太郎さん」

 美人の酌、おもち少女の手酌をどうして京太郎が断れるか、否、断れるはずがない。

「美味しいですね、小蒔さん」

「ええ、これは飲みやすい代物でして私も大好きなんですよ」

 仰ぎ飲む。
 減れば注がれ、飲めば空に、空は満ちてはそいやっさっさぁ、そいやっさっさぁ。

(小蒔さん、強すぎだろう……)

 身体が火照るように熱い。
 視界がぐらぐらしているのか、頭が揺らいでいるのかも判然としない。しかし、彼の瞳が映す少女ははっきりしている。

(他の皆もどんだけ飲んでるんだ!?)

 小蒔の顔には僅かな朱さえ色差さず、霞たち六女仙もグイグイ飲み続けている。ペースは落ちない、むしろより早くなっていく。

「ふふ、はいどうぞ」

 名家神代、霧島の地を古来から治めている。

「はぃ、いただきゅますぅ」

 良き土地が良き酒を生む。
 酒が人を育み、豪傑の酒豪を作る。
 宴の席に、祭りの度に、支配者である彼女たちの先祖は馬鹿みたいに飲んで来た。

「ささ、もう一杯」

 上に立つものが下々の者に負けては面子が立たない。今よりも昔、それは遥かに重大なものであったのだ。
 飲み、時には倒れ、弱きは死に絶え、強きもののみへと淘汰される。熟成された血脈は怪物を生んだ。

「あれ? 京太郎さん大丈夫ですか?」

「…………」

「霞ちゃん! 京太郎さんが……」

 怪物の饗宴に人が混ざってはならない。彼らは同じ人に見えても、住む世界が違うのだから。

「あらあら、仕方ないわね」

「京、弱」

「そうですよね」

「そう言ってやるななのですよー、はるる、湧」

「困りましたね。予定だと酔っ払った勢いで彼に姫様と褥を伴にしてもらうはずだったんですが……」

「霞姉さん、どうしますか?」

「そうね--」

「--うっ、頭が痛い」

 昨晩、しこたまお酒を飲んでいたことは覚えている。しかし、最後はどうしたのか、いつ寝てしまったのか全く覚えていなかった。
 二日酔いで頭の働きが悪くなっている。
 だから、京太郎は直ぐには気づかなかった。

「あれ、俺、服着てないな」

 そして、ふと隣を見た。
 すやすやと眠る一人の女の子がいた。気持ち良さそうに幸せな夢を見ているのか口元が弛んでいる。

「えっ?」

 血の気が引いていく。
 布団をぺらりと捲ってみれば、一糸纏わぬ産まれたままの姿だと確認できてしまった。
 昨夜、何があったのか覚えていない。
 裸の男女が一つの布団で眠っている。

「はっははは……」

 乾いた笑いが自然と漏れた。
 その声に反応したのか、身動ぎを彼女はし始める。そして、ぱちりとお目々が開く。

「……おはようございます、京太郎さん」

「お、おはよう、小蒔さん」

 昨日、何があったのかを京太郎は小蒔に問い質したくて仕方なかった。
 しかし、何も覚えていないのだ。
 あんまりではないかと逡巡し、踏み留まる。

「えへへ、夜は(お酒の席が)楽しかったですね」

「そ、そうなんですか」

「また、(宴会を)しましょうね」

 状況が物語る。
 京太郎は自然と勘違いするのも不思議ではない。

(ふふふ、あの様子だと思惑通りね)

 全て、霞の掌の上であった。


カンッ!