ホストにとって客同士の鉢合わせというものはできるだけ避けたいものだ。
まあ基本は、でしかないが。やり手ともなればむしろわざとブッキングさせ競わせることもある。

これは一月に数度しか来れない憧の卓に俺がついていた時だった。扉をおずおずと開けて、一人の女性が現れた。
ポニーテールを解き、少し大人びたワンピースを着て落ち着かなさそうにスタッフに聞く

穏乃「あの、京さん今日いますか?」

緊張をはらんだその声は本人が意図したものより大きく、触れていた憧の方がピクリと跳ねた

憧「……シズ、何であんたがここにいるの?」

少し不機嫌な声色に気が付かず、訪れた女はむしろ嬉しそうに駆け寄る。

穏乃「憧、久しぶり! あれ? 憧も京さんと一緒なの?」
憧「私は京の姫だけど、ていうか質問に答えてよ」

穏乃「ごめんごめん。支店の進出しようかって話があってさ、こっちにちょっと出てるんだ。それで、えーっと、姫って何?」

お気楽で楽しさしか含んでいない言葉に、憧はため息を一つつき、座るように促した。

憧「あんた何も知らないのね、姫ってのは客のこと。この場合は本指名した相手ってこと。
  私は京に専属でついてもらってる、ここまではOK?」
穏乃「専属とかあるんだ、私も京さんがいい」
憧「あんた最初の時説明されなかったの? まあ、指名する姫が多いだけ京は給料上がるから好きにしたら
  で、基本はあんたみたいに突然来るんじゃなくて予約しとくの。じゃないとその時ちゃんと空いてるかわかんないでしょ」

ふんふん、と頷く穏乃。俺も思ったように喧嘩にはならずに、むしろ丁寧に教えていく憧の姿に感心する。
部下とかに対してもこんな感じで面倒見いいのだろう、憧は。

憧「ホスト側も時間調整とかあるしね。その辺金に物言わせてぶっちぎってくる奴もいるけど、私のような細客はそういうの無理」
穏乃「ほそきゃく? 憧は確かに痩せてるけど」

憧「うっさい。細客ってのは金をあんまり還元できない姫のことよ。逆にたくさん落とす客は太客」
穏乃「つまり高いものを頼めばいいんだね。うわ、すっごい高! これ100万とかするのあるじゃん!」

憧「それぐらい平気で払うやつもいるのよ。人によっては1000万近くとかね。京は私みたいな細客相手でも大事にしてくれるけど、そういうのは珍しいの」

何というか、意外だ。憧はよく外で会おう的なことを言ってくるから、あんまり考えてないのかと思っていたが。

憧「まあ、簡単に説明するとこんなとこ……って、あんた何取り出してんのよ!?」
穏乃「え? 支店のために用意してたお金だけど」

京太郎「待て待て穏乃、それはまずい、今すぐしまえ」

俺も流石に隣で聞いておられず、鞄の中に戻すように言う。

憧「あんた何考えてるの!? それ横領よ。京じゃなきゃ普通に使わせてあんた破滅してたわよっ」
穏乃「え、でも京さんのためになるなら……」

なんてこった、穏乃のやつこういう世界に慣れてないせいでブレーキのかけ所が分からなくて完全にぶっ飛んでやがる。
これ、他のホストにつかまってたらマジで風呂行きコースだぞ、絶対連れて来ちゃいけない客筆頭じゃないか。

憧「……いい、分かった。シズ、あんたには細客なりの立ち回り方をしっかり教え込むわ。覚悟しなさい」
京太郎「穏乃、悪いことは言わないから憧の言うことを聞いとけ。俺はお前を破滅させたいわけじゃないからな」

そうして、憧の少ない楽しみの時間は俺と憧によるホスト講座へとなぜか形を変えた。


『ホスト京』 初心者の陥る罠、穏乃&憧編  カン