東京 歌舞伎町

ホスト達「いらっしゃいませ~!ようこそ、ホストクラブBLITZへ!」

 華やかなネオンと大阪とは一味違ったイケメン達が自分を迎える。

 一歩踏み入れただけで早くも住む世界が違うのだと思い知らされた。

ホスト「お客様、こちらへ」

竜華「あっ、はーい」

 黒く染めた長い髪を後ろに束ねたホストがいつもと同じ手続きを始める。

ホスト「お嬢様は今回誰をご指名なさりますか?」

竜華「えーっと、京太郎君で」

ホスト「はい。京太郎ですね。かしこまりました」

ホスト「ですが、ただ今京太郎は他のデスクに入っています」

ホスト「お時間が少し掛かりますが、それでもよろしいですか?」

竜華「かまわへんで」

ホスト「かしこまりました。はーい!お嬢様一名ごあんなーい」

ホスト達「ごあんなーーーーーい!」

そこかしこで弾ける笑顔と声と声のカクテル。

 テーブルの一つ一つでシャンパンのように弾ける笑い声。

竜華(なにやってんやろな、別に彼氏でもない男のために...)

竜華(って、一ヶ月前なら思ってたんやけどな)

 真面目にお堅く生きていた自分と親友二人にホスト遊びを教えた後輩は

その後大阪に戻って手軽に金を稼げるキャバ嬢になってしまった。

 幸いなことに親友達はその一回きりでホスト遊びに見切りをつけて

日の当たる世界へと戻ることが出来た。

 そして不幸なことに、親友と違って自分は『戻り損ねて』しまった。

 男に免疫のない自分が一番悪いのは理解している。

 だけど、それでも自分の目の前でシャンパンタワーにとびきり派手な

演出で何100万円もする高価なお酒をどばーっと注がれるのを見せられて

果たして理性を保つことが出来る女が何人いるだろう?

 巧みな話術で自分の心の中にある大切な思い出を吐き出させると同時に、

お金も吐き出させることに快感を覚えさせる手管に籠絡されない女が

ここに一体何人いるというのだろうか?

竜華(はっ、ウチもそこらでサカってる女と同じって訳かい) 

 貯金残高はもう1000万を切っている。

 契約金とかで一時期は3000万円もあったあの大金が半年で半分だ。

いや、月の給料も含めるともう2000万は軽くホスト遊びで飛んでいった。

 もう週に一回のペースで京太郎の顔を見なければ麻雀が打てないほど

竜華は重度のホスト依存症になっていた。

京太郎「おまたせ、竜華ちゃん」

竜華「わぁ~来てくれたんやね~京太郎。大好きや!」

 そして、今日も彼女は愛する男に金を貢ぐ。

 先程まで考えていた大切なことがいっぺんに頭の中から吹き飛ぶ。

 どうすれば京太郎に喜んでもらえるか?どうすれば一分でも長く

京太郎を自分の側に留めておけるのか? 

 好きになった人には情熱一直線の清水谷竜華にとって、疑似恋愛は

不倶戴天の仇敵だった。なぜなら引き際が全然分からないからだ。

 キャバクラとは違い、ホストクラブは女性のリードを持つのが

殆どホストであり、たちの悪いことに課金すれば課金するほど

王子様は『お姫様』にやさしくする。

竜華「あっ、京太郎は今日なにか飲みたいものあるん?」

京太郎「ん~。今日はワインって気分かな?」

竜華「じゃあこれ頼も?シャトー・ディケムってやつ」

京太郎「おっ、あんまり俺も飲んだことないんだ~。このワイン」

竜華「じゃあ...すいませーん!」

ホスト「はい。どうされましたか?」

竜華「シャトー・ディケムの一番古い奴一本持ってきて~」

 この店でもかなり値の張る貴腐ワインのヴィンテージを竜華が

頼んだことで周囲の席から驚愕と共に歓声が飛ぶ。

京太郎「いつもありがとね、竜華ちゃん」

京太郎「俺さ、結婚するなら竜華ちゃんみたいな娘と結婚したいな」

竜華「けけけ、結っ婚ぉん!?」

京太郎「そ、一途な女の子が俺のタイプって前話したよね?」

 25になっても性交渉のない残念美人の竜華にとって結婚という言葉は

まさに禁じ手の殺し文句。

 しかし、奇妙なことに営業努力の上で京太郎も客の女性との性交渉は

あるにもかかわらず一番の上客の竜華には一切手を出していない。

竜華「い、いやぁ~。そ、そんな急に言われても」

京太郎「...ずっと、前から考えてた」

竜華「へっ?」

京太郎「おっ、来た来た」

 50万を超える貴腐ワインが二人の座るテーブルの前に置かれた。

竜華「な、なぁ?京太郎。さっきの結婚って...アレ、じょうだ...」

京太郎「さぁ?」

竜華「さぁ?ってなんやねん!お姉さんからかうとマジで怒るで?!」

京太郎「そんなに怒らないでよ、竜華ちゃん」

 京太郎の飛ばす軽い冗談に竜華がややオーバーな形で答える。

 これが彼と彼女の『似せ恋』の形。

 お金を払う以上、京太郎は竜華に相応の夢を見せる義務が生じる。

 竜華はそれを受け取って、この一時を全力で楽しむ。

 恋愛とは似て非なるたった二人だけの稚拙な三文劇が今宵も幕を開けた。

京太郎「それじゃあ、竜華ちゃんの笑顔に」

竜華「うん。京太郎の笑顔に乾杯!」

 小気味よく鳴らされた二人のグラスが開幕のベルを務め、時が来るまで立ち止まる。

竜華「それでな、この前の試合なんやけど...」

京太郎「あの局だったら最初からこうすれば...」

 時は流れれど、想いは止まらず。

 果たして二人の想いはどこで交わるのか?

 それとも、別の場所へと逸れてゆくのか?

京太郎「いや、そんなことはどうでもいいか」

竜華「へっ?」

 どこまで行っても不純な純愛しか生み出さないホストでも、たまには 

真実の愛に目覚めるというのは流石に上手くいきすぎているかも知れない。

 それでも、彼が手を差し出すというのなら...

京太郎「竜華、今日店が終わったら俺に付き合ってくれ」

京太郎「大事な話がある。逃げるなよ?」

竜華「うん...///」

 その手を取ってこれから一緒に歩くのも悪くはない終わりかも知れない。 

 カン