カツカツと革靴の音を鳴らし、ビシッとスーツに身をまとった彼女は厳しい表情で間合いを詰め、冷たい目で俺を見て告げる

和「この人でお願いします」

その一声で、俺は2日続けて高校時代の友人に指名されることが決まってしまったのである。

和の容姿は目を引く。スタイルも抜群であってない数年で急激に大人びて、スーツという戦闘服をまとったその姿はできる女にしか見えない。

和「いかがわしい店に勤めているというのは本当だったんですね、すがく……」
京太郎「ご指名いただきましたKYOでございます、お姫様。どうぞおかけください」

本名を口にしようとした彼女の唇に指先を当て、手を取って微笑みかけてエスコートする。
言いたいことを察したのか、彼女はため息をついて俺に勧められるがままにソファに座った。
そのままメニュー表を見ることもなく、彼女は口にする。

和「ドンペリで」

ダメだ、これ和絶対分かってない! クラブでは「とりあえずドンペリ」とかいう話を真に受けてきちゃった初心者だよ。
注文を取り消すことはできない。特に相応の値段のものの提案を取り下げて安いコースを進めるのは客の顔に泥を塗るのと同じ。
俺がこの注文を取り消すのはご法度であり、そんなことをすれば俺はホストとして完全に信用を失うこと間違いなし。
な、ならばせめて、被害を最小限に抑えるために……

京太郎「ドンペリ白2004、入ります!」

ドンペリとしか指定されていないので一番安い白で押し通す!
と言っても顔を潰さないため直近の当たり年の2004年、これなら原価は1万5千をどうにか切る。

年代指定で分かっているお客を無理やりに演出する、ホストとして慣れてしまった自分が悲しい。
なお、このコースでもシャンパンタワーである。流石にスタッフ全員でのスタンディングオベーションこそないが、乾杯とお礼が飛び交うのは変わらない。

目の前で繰り広げられるショーに、未体験の和は目をぱちくりする。そして勧められるままお酒を口にし……10数分後

和「私、頑張ってるのに、全然認めてくれなくて……お父さんは早く結婚しろってお見合い写真を持ってくるばかり。
  私はせっかく資格を取ったのに、そのことを褒めてくれたりなんか、全然……」

和は泣き上戸でした。

京太郎「お前が頑張ってるのは俺が一番わかってるよ。いつも努力家だもんな、和ってお姫様は。
    努力してるのにそれを他人に見せたりしない。だから誤解されやすいけど、そういうお前が好きなんだ」

和「わ、分かってくれるんですか? す、すがく……」

また不用意に本名を漏らそうとしたので、唇に指を添わせて顔を間近で覗き込み

京太郎「KYOだよ。名前で呼んでくれないか、俺だけのお姫様」
和「~~っ! は、はい、京さん……」(ポワーン

ふー、セーフ、セーフ。プライベートバレはマジでまずいからな。どうにかして和を無事返さないと……
30分後

和「ま、また来ますね、そ、その、京さんっ」(カアッ

いや来ちゃダメだろ和! 最初いかがわしいとかすごく否定的だったじゃないか、何がどうなってるんだよ!?
内心では激しく動揺しつつ、指先に口づけをして「また貴女に会えるのを楽しみにしてます」と反射的に帰してしまう俺、ホストに染まっちゃったなあ。


『ホストKYO』 陥落の女弁護士編  カン